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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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8話

「なんだか、蔵介って変だよね」

「ねー。なんか、変な感じ」

「悪い奴じゃなさそうだけど」

「いい奴でもなさそうだよね」

「あ、そういえば昨日、ほかの中学校との交流会で誰か探していたみたいだよ?」

「知り合いでも探してたんじゃない?」




「白川さん、これ食べる? 美味しいよ!」

「白川ちゃん、LAINのID交換しよう!」

 翌日。大会が行われる体育館の観客席では雪音の周りに男女問わず人が集まっていた。それは仲良くなろうとしているのは間違いないけど、なんだか媚びているように見える。自分の味方になってもらって、権力を得ようとしているような。まあ、僕は頭がよくないから真意なんてわからないけど。

「それでは、一回戦目。上木君と工藤君は早速下に行ってくれるかな?」

 準備が終わったらしい清木教授がやってきてそう告げる。そのあとに僕に耳打ちをしてくる。

「いいかい? 君は全力で戦うんだ。人間っていうのは、追い込まれた時に本当の姿が現れる。俺はこれを信じているから」

「はあ」

 なんだかやる気になれない。まあ、やるだけやるけど。

 下に降りると、工藤君が待っていた。

「やあ、お待たせ」

「......君が、上木か」

 工藤君は眼鏡をかけた好青年という印象だ。しかし、僕を認識した途端、その爽やかな表情を崩した。

「悪いけれど、俺は君とは仲良くなれない」

「別に仲良くなるためのイベントじゃないでしょ、これは」

 嘘です。みんな雪音にばかり仲良くしようとしているけれど、名目は『親睦会』だ。勿論、僕と正、清木教授と立花学長だけは『僕の能力を開花させるためのモノ』って知ってるけれど。まあそうは言っても、このイベントの優先順位は『僕ら』にとっては雪音より強い能力者を都合よく見つけることが第一。第二が僕の能力の見定めであることは確かだけど、当然皆との親睦を深めることも大きな目的だ。そして事情を知らない他の人にとってはお互いの能力を知り、褒め合い、高め合う、非常に素晴らしいイベント。まさに、『親睦会』なはずだ。僕は自ら窮地に立たなくてはいけないので、仲良くなるためのイベントじゃないと言ったけど。きっと工藤君は否定してくれるだろう。

「分かっているじゃないか」

 君、本当に分かっている?

「ところで、優勝者には何が渡されるのか知っているかい?」

「図書券1万円分でしょ」

「そう。それと、白川さんと闘う権利」

「正直、滅茶苦茶ほしい」

「ほう、案外分かる人みたいだね」

「ということは、工藤君も?」

「ああ、勿論」

「それじゃあ、欲しいものは」

「奪い合おうか、上木」

 奇妙だけど、僕と工藤君の間に『なにか』が生まれた気がした。

 僕らの会話が終わったタイミングで、アリーナから立花学長がマイクで僕らに声をかける。

「それでは、両者、準備は良いですね?」

 その『なにか』は友情と呼ぶにはあまりに曖昧な物だ。しかも、欲しいものをお互いに奪い合う。本能的で、知性を感じられない行動。

「「はい」」

 それでも。その『なにか』は、奪い合おうとする『無能力者』の僕と『能力者』の工藤君を、繋いだ気がした。

「それではーー」

 僕と工藤君がにらみ合う。体育館内も静まり返り、雪音にアプローチしていた人たちもこちらに注目しきっているのを横目で確認する。

「始め!!」

ーーー三十秒後。

「試合終了! 勝者、工藤海斗くどうかいと!」

無能ゴミが能力者(俺)に刃向かわないでくれ」

親指を地面に向けて振り下ろす工藤君。地面に倒れている僕は一言。

「......図書券1万円分、欲しかった」

「あ、君が欲しかったのそっちか」

 工藤君は素で呆れていた。


「お疲れ様、上木君」

「清木教授」

 僕は少し痛む体をいたわりながら、清木教授と話し始める。

「どうだった?」

 どうだった、というのは僕の能力に気が付けたかどうか、ということだろう。

「いや、全くですよ。というか、『あれ』じゃあ追い詰められることなんてないですよ」

『あれ』というのは、このトーナメントのルールのこと。戦いの場には教授が立ち会う。一人は、医療系の能力を持っている教授。といっても、アニメや漫画のように、直接的に治癒ができるわけではなく、医学の知識と適切な判断を助ける能力の両方を持っている教授が立ち会うのだ。さらに、選手が暴走したときに止めることができるような能力者も何人か見張っている。ようするに、追い込まれるような状況、『僕が危険な状態』にはならないと頭で理解してしまっているのだ。もちろん清木教授の案は悪くないものだと思うけれど、追い込まれるというシチュエーションでは決してない。

「まあ、そうだろうね。ただ、俺が今用意できるシチュエーションはこれくらいなんだよね」

「お気持ちは嬉しいんですけどね。というか、僕の能力が分かっても大した能力じゃないことは分かっているんですし、そこまで執着しなくてもいいんじゃないですか?」

「いやいや、意外といい能力かもしれないよ? っていう建前と、能力者じゃないのに能力者と一緒に生活することによる負担を考えた結果だよ。田中教授が君に話をしていると思うけれど、能力者というのは大抵、無能力者に傷つけられたことがあるのさ。俺だって例外じゃなく、ね」

 そう話す清木教授の表情が一瞬曇る。ずうっとニコニコしている人だと思っていたけれど、しっかりと経験を積んできている人なんだな......いや、当たり前のことなんだけれど、実際にそれを意識させられると、言葉の重みが変わってくる。

 そんなことを考えている僕の雰囲気が気遣うものに見えてしまったのだろうか、清木教授が声音を明るくして話す。

1回戦敗退。

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