表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
102/144

99話

「............ん」

 自分でも驚くほどにパッチリと目が覚める。なんか体の節々が痛いなあ......。

「いてて......って、あれ」

 体を起こすと、自分が捕まっていることに気が付く。といっても特別何かを推理したわけではない。明らかに檻と思われる場所に閉じ込められているからだ。

「どこ、ここ」

 思わず呟きながら、たいして広くない檻の中をうろうろと歩き回る。えーっと、何がどうなったんだっけ? ゆっくり考えないと。

「っつ」

 思わず顔をしかめて頭を抑える。何か考えようとすると、それを止めるように頭が痛くなる。この状態でも思い出せることを思い出さないと......あれ、こういうときって何から考えればいいんだ?

「おーい、そろそろ起きてくれ......って、起きてんじゃん」

 コツコツと足音を立てながらやってきたのは、......あれ、誰だっけ?

 ずいぶんと細身だけれど、高い身長。目元までかかるほどの長く白い前髪の隙間から、ダルそうな目元がちらちらと覗く。 

「えっと、どちら様でしょうか」

「あー、そっか。俺のことは知らないよなあ。まあ名前なんてどうでもいいじゃん」

「いや、どうでもいいってことはない......。あれ、ってことは僕と君は知り合いじゃなかった感じ?」

「......はあ?」

 あれ、友達同士でもいきなり名前を聞かれたらどうでもいいってなるのかな? いや、なるのかも。結構失礼なことしちゃったかもしれない。

「あ、っと、ごめん。ちょっと今記憶がこんがらがってて「はあ、全く。柳瀬だよ『柳瀬博仁やなせひろひと』」

「へ?」

「名前だよ。まあ確かに仲良くはなかったからね。知り合いレベルさ。バイオメカニクスで一緒だから1,2回くらいしか話してないよ」

「あー、だから名前が......って、人の名前忘れるのにだからも何もないか。ごめんね?」

「別にいいよ。ところで、なんでそんなところにいるんだ?」

 僕を指さしながら首をかしげる柳瀬くん。そこで改めて自分の環境を思い出す。そうそう、閉じ込められているんだった。

「いや、それがよくわからなくてさ。......ん? ていうか柳瀬くんはなんでここに。っていうか、ここにいるっていうことは......あれ? あれ?」

 頭がこんがらがってきた。柳瀬君は敵? でも敵ってなんの話? うぅん?

「まあ落ち着いてくれよ」

 柳瀬くんが肩をすくめながら話を始めてくれる。

「俺は教授から紹介されたバイトで、あたりの土地調査をしていたのさ。そしたら見たことない場所があったから入ってみたら、上木、お前に出会ったってわけ」

「ふむふむ、なるほど。ちなみに今の時間とかわかる?」

「えーっと......18時。さすがに外も暗くなってきてた。っていうか、スマホは?」

 柳瀬君がスマホで時間を確認してくれる。僕も先ほどから来ている服のポケットとかを確認しているんだけれど......

「.......ダメだ、財布もスマホも盗られちゃってるみたい」

「結構やばい状況っぽいな。警察呼んでくるぜ......って、上木、お前そこから出られないのか?」

「へ? どうやって?」

「は? ほら、の............隙間から?」

「いやいや、無茶言わないでよ」

 だいぶ考え込んでから口を開く柳瀬君。彼なりに僕を和ませようとしてくれたのかもしれない。

「まあいいや。ひとまず警察をーーー『起きたようだね』

 柳瀬君に人を呼んできてもらおうと口を開くと、僕の背後から声がする。振り返ると、にやりと笑っている初老の男性がスクリーンに映し出される。もちろん、状況から推察するに。

「あなたが僕を誘拐したんですね!」

「ああ、そうだ」

 僕の問いかけに対して特に言い訳をせず肯定する男。

「一体何が目的なんですか!」

『もちろん、君の『能力』さ』

「能力......。つまり僕の『二重人格』のほうに用があるんですね」

 僕の能力は清木教授の親戚である清木天馬さんに暴かれたらしい。その能力が、『二重人格』。

 そうズバリと言い当てると、男は少し驚いたように目を見開いてから、改めてにやりと笑う。

『......そうかそうか、やはり記憶がないのか。だから二重人格ではない君は知らない、と』

 これで話がつながった。この人は二重人格のほうが持っている何かの『記憶』が欲しいのだろう。

「こうしちゃいられない、すぐに逃げ出さないと......!」

 でもどうやって? さすがに『二重人格』の能力では鉄格子を壊すことはできない。かといってここでじっとしていても、僕が目覚めたことでやってくる敵の仲間が僕を尋問してくる。

「とりあえず、柳瀬君。君はすぐにでもここから脱出するんだ! それと警察とか自衛隊とか国家権力をーーー「それじゃあ脱出マジックだな、上木」

 柳瀬君に助けを呼んでもらおうと振り返ると、出入り不可能なはずの牢屋の中にせっかくの高身長をダメにするような猫背と白髪頭が特徴的な男が入り込んでいた。

「き、君も能力者だったんだ!」

「話はあとだ。あばよ、『高戸』さん」

 僕の腕を引きながら、スクリーンに映っている男にひらひらと手を振る柳瀬君。ちらりとスクリーンを見ると、スクリーンは何も映さない黒い画面になっていた。

 

「さて、それじゃあ逃げるとするか」

「う、うん」

 柳瀬君の能力によって牢屋から逃げ出すことができた僕。今僕と柳瀬君は薄暗い通路を走っている。もちろん、ここから脱出するためだ。

 それにしても、

「柳瀬君も能力者だったんだね」

「ああ。一応同じ寮で寝泊まりしているぜ。まああんまり日中は寮にいないからな。本当に寝るときだけ利用する感じだ」

「へえー。それじゃあ僕があんまり見たことがないのも納得だよ」

 柳瀬君の能力は『触れたところと触れたところを繋ぐ穴を作る』というものだった。

 牢屋の外の地面に触れてから鉄格子に触れる。すると、鉄格子と柳瀬君が触れた地面に穴ができた。鉄格子の穴からは天井が、地面の穴からは牢屋の中の風景が見えた。そして鉄格子の穴に飛び込んだところ、牢屋の外に抜け出せた......という感じだ。

「これなら簡単に脱出できそうだけど......さすがに触れた場所の保存とかはできないよね?」

「ああ。能力を使ってから触れた2か所をつなぐものだからな。一度能力を使ったら同じ場所だろうと、触れなおさなくちゃいけない」

「ふうむ。意外と脱出は難しいのかも。まあいいや、こんな場所さっさと抜け出しちゃおう」

 そこそこ広い場所みたいで、走っている間にいくつかの分かれ道と扉を選んできている。出口へ案内してくれる柳瀬君がいなかったら相当時間がかかっていただろう。

 そんなことを考えながらも走り続けると、階段が現れる。よかった、出口だ。

「何もなくてよかった。さあ、脱出をーー『おっと、上木君。ちょっと待ってもらおうか』

 フオン、と階段の横についていたモニターが先ほどと同じ男を映しだす。確か、柳瀬君が『高戸』とか呼んでやつだ。

「なにさ。悪いけど、話なら手短にお願いね」

 最初は素性がわからなかったけど、僕を誘拐した悪者に敬語を使う必要はない。棘を隠さず、モニター越しに高戸と向き合う。

『クックック。別に脱出するのを止めてもらおうというわけではない』

「じゃあ話しかけないでよ」

『君の忘れ物について一応忠告をしておこうと思ってね』

「スルーしたな」

「ね。で、忘れ物っていうと......財布とケータイかな。もちろん惜しいけど、命のほうが惜しいからね。高戸さん、その二つは警察のお世話になってから返してくれればいいよ」

『いや、財布には大した金額は入ってなかったぞ。高校生よりも金がないんじゃないかってくらいだった』

「で、電子マネー派なんだよ」

『ケータイの中もみたが、478円分しか入ってなかったな』

「うるさいなあ! 財布の中の牛丼割引券、捨てないでよ!?」

「いつまでどうでもいい話をしているんだ......おい、高戸。俺たちは脱出するぜ。」

 呆れながら足を階段に向ける柳瀬君。僕もそれに続こうとすると、高戸が口を開く。

『おいおい、『サーカス』の団員はせっかちだな」

「......まあこっちもそっちを知ってるからな。お互い様か」

『そういうことだ。ところで上木君。君はモノ以外に忘れているものはないかな? 例えば、お友達とか』

「? 何をーーー」

 それを言われた瞬間、頭にある人物が浮かぶ。茶髪のショートカット。体格は決して恵まれていないながらも自信に満ち溢れている能力者ーーーいや、超能力者。

「まさか、隼斗もここにいるの?」

『ご明察。記憶を失っても、友達のことは忘れないか。まあ彼を取り戻したかったらゆっくり探したまえ。では』

 勝手に言いたいことだけ言い残して、モニターから高戸が消える。

 ほんの数秒だけ、柳瀬君との間に沈黙が訪れる。......ま、考えてもしょうがないよね。

「はあ、仕方ないか。ごめん柳瀬君、ちょっと行ってくる」

「......本気か?」

「まあ100%罠だろうけど、さ」

 僕は頭をポリポリと掻きながら話す。

「ただでさえ『超能力者』なのにさ、誰も助けに来なかったら可哀そうだもんね。まあ僕が助けに行ってもなにもできないかもだけどさ」

「......そうか。しようがない奴だ」

 言いながら柳瀬君が近くの壁に手を触れるすると、穴が現れる。その先の景色はーーー

「僕がいた捕まっていた部屋......って、柳瀬君」

「ああ。何かあるかもしれないと思ってな。一応能力を使っておいた。一緒に行ってやろうか?」

「ん、気持ちはありがたいけど、僕一人で行ってくるよ。柳瀬君は助けを呼んできてほしい」

「オーケーだ。じゃ、気を付けて行って来いよ」

「はいはーい」

 ひょうひょうとした態度で柳瀬君が作ってくれた穴の中へ飛び込む。その先には僕が捕まっていた牢屋と、先ほど駆け抜けていった通路があった。

 ちらりと僕が出てきた穴に目を向けると、柳瀬君がこちらにサムズアップをする姿。それにサムズアップを返すと、穴が消える。彼は彼でうまく助けを呼んでくれるだろう。

 もちろん、柳瀬君と一緒に助けを呼んでからやってくればいいのかもしれない。でも、その間に隼斗がどうなるかわからない。別の施設に逃げ出すかも。

 ただ、僕が動ける状態でこの施設にいれば、戦力を集中させておくはずだ。隼斗が連れ出されてしまっていたとしても、情報は得られるはず。

「ただ、返り討ちに遭う可能性もあるよなあ」

 ただ二重人格があるだけの能力者。戦闘向きの能力ではないのかもしれない。さらに敵の狙いは僕の二重人格が持っている情報。捕まることはとんでもないリスクを生んでしまう。

 でも。ただ二重人格があるだけの能力者だけど。リスクがある人間だけどさ。

「でもまあ。言っちゃったもんね」

 意を決して歩き出しながら、呟く。

「ちょっとは頑張ってやるよ」




「なんとか俺一人は脱出できたが、あいつ一人で大丈夫なわけねえよな。どうすっか」


「ったく、せっかく蔵介と遊びに行こうと思ったのに、あいつ講義終わってからどこ行きやがったんだ? 連絡がつながらねえ」


「すぐにでも清木教授に連絡してやりたいが、連絡先も知らねえし。能力者のことを考えると大学に連絡を入れるのも微妙だ。まあ大学に連絡を入れてから清木教授を呼び出してもらうか。......。って、ああ、『コレ』があった。ボタンを押すだけでいいんだっけか」


「まあしゃあねえ、カラオケでも行くか。あーっと、近くのカラオケのクーポンは......って、何だこりゃ。またずいぶん懐かしい......」


「まさか自分が配っていた『防犯ブザー』で助けてもらえるなんて思わなかっただろうな。さあ、早く来てくれよ」


「SOS、か。まあ暇だし、そこそこ近いし、『防人』としてちょっと顔出してみるか。なおさら蔵介がいないのが悔やまれるがな」


自分の道具で助けてもらえちゃいますね。情けは人のためならず?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ