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能力者か無能力者か  作者: 紅茶(牛乳味)
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97話

 さて、まずは冷静になれ。頬を軽く叩いて気合を入れなおす。ここで戦闘狂になるのでは『こちらの人格』になった意味がない。冷静に、対処するのだ。

 奴は俺の能力を知っていて、俺は男の能力を知らない。まずは立場をイーブンにしないと。

 今のところ目立っているのは男の身体能力。離れた場所から俺たちの傍まで跳んできたことといい、俺を片手で投げ飛ばしたことといい、とてつもない力があることは間違いない。

 ということは、胡桃のように『自分の筋力を向上させる』能力だろうか。一応言っておくと、自分と全く同じ能力を持っている人間は何人かいたりいなかったりする。なので、能力が被っているということはあり得ない話ではない。

 そんな可能性も考えながら、リングからひょいと降りる。いろいろ考えてみても、まずは殴り合ってみるしかねえか。

「来いよ」

 人差し指をクイと曲げて男を煽る。挑発に乗ったわけではないだろう、もとよりそのつもりだったといわんばかりに、男が足腰にグッと力を籠めたのがわかる。

「期待を裏切るな、よ!」

 グン、と一瞬で距離を詰めてくる男。速い!

「っふ!」

 が、対応できないわけじゃない。距離を詰めてきた男の顔に向かって拳をふるう。

「おっと!」

 男も対応するのは難しくないようだ、拳が当たらない距離でピタッと止まり、拳が勢いを失ってから攻撃を仕掛けてくる。

「ぐ!」

 伸ばし切った拳の根本、手首を男につかまれて、そのままグッと引き寄せられる。そして視界の端には俺の手首を掴んでいないほうの手が握り拳を作る様子が見えた。

「吹っ飛ばしてやるよ!」

 ぐおんと手首を男のほうへ持っていかれる。それと同時にこちらへ襲い掛かってくる男の拳。

 ーーーガツン!

 間違いなく衝突は避けられない、そんな当たり前の事実を証明するように部屋に衝撃音が響く。

「おめえ、狂ってるぜ......!」

 ぐらりと後ろによろめく男がこめかみを抑えながらにやりと笑う。

「さんきゅ」

 男が手首を持っていく力を利用して、男の拳が届くよりも早く頭突きを繰り出したところ、うまく命中した。

 ただ、気になるところがある。

「やられっぱなしじゃ終われねえな!」

 違和感を抱えながらも、時間は待ってくれない。男が俺の顔めがけて鋭いジャブを繰り出してくる。馬鹿正直に食らうつもりはない。スッと顔を横に動かし反撃しようとした瞬間、

「ぐお!」

 俺の顔に衝撃が来る。すぐに一歩後退して状況を確認しようとする、が、男はそれを許さない。

「おらあ!」

 俺の横っ腹に向けて蹴りを繰り出してくる。くそ、攻撃までが早すぎる。避けられない!

「っぐう!」

 正直、骨が折れていてもおかしくないほどの衝撃だ。体を硬化させているにも関わらず内側にまで振動が響くような攻撃。

 ただ、桁外れに強いわけじゃねえ。なんていうか、人間の限界みたいな力だ。

「......ん?」

 人間の、限界? 自分の言葉が頭の中を駆け巡る。何か掴んだ気がするぞ。

 が、そこまで悠長に考え事をさせてくれる相手ではない。俺にぶつけた足をすぐに戻し、拳を叩き込んでくる。

「あったまってきたぜ!」

 当然避ける動作をする。ただ、先ほどのように反撃を前提とした動きではなく、大きく後ろに飛びのく。これで追ってくるのは難しいはず。

 なのだが。

「逃がすかよ!」

 拳を一旦解いて、自分の間合いまで詰めてくる男。俺を追うまでの判断が早すぎる。言ってしまえば、人間そのものの力である反射神経が良すぎる。

 ただ、今回はその反射神経のおかげで俺へ追撃することはできないだろう。俺はこの隙にゆっくりと態勢を整える。

「ずいぶん余裕だ、なーーー!」

 俺へと向かってきていた男が突然その場から離れる。そして素早くあたりの状況を確認している。

「驚いたか? 俺の能力だ」

 俺が先ほどまでいた場所を指さす。そこにはひび割れたコンクリートがある。俺の能力で俺がいた周辺の地面を脆くしておいたのだ。誰かが上を通れば思わずひび割れてしまうほどに。

「へ、こうして時間を稼ぐ策に逃げたってことは......ビビってるってところか?」

「やっすい挑発だな。お前の能力と違って俺は自制できるんだよ」

「ーーーっ。......ほお、お前、俺の能力に気が付いたのか?」

 リング上から俺の元まで跳んできた。俺の首を掴んで、片手で投げ飛ばした。奴の攻撃は骨にまで響くような痛みだった。まさに、人間の限界の力と言えるだろう。

 戦いが始まって早い段階で俺が喰らわせた頭突きは男の顔面ではなくこめかみに命中した。ぎりぎりで男が顔をそむけたのだ。男のジャブを躱した俺にすぐに拳を叩き込むことができたのも、俺が一歩後退すると同時に蹴りを繰り出したのも、全部俺の行動にとんでもない速さで反応して合わせてきたのだ。

 以上のことを考えると、男の能力は

「『人間の力を限界まで引き上げる能力』ーーーだろ?」

「......正「それともう一つ」

 正解だということはわかりきっている。それに関連してもう一つ確認しておかなくちゃいけないことがある。

「お前の能力、他のやつにも使えるだろ?」

「まあ隠す必要もねえしな。そうだ」

「で、『人間の力』っていうのには『能力』も含まれてる、だな?」

「......クク、何を言いてえか分かったぜ」

 男が肩を震わせながら、未だ地面に倒れている隼人を指さす。

「そうさ! 隼人坊ちゃんが苦しんでるのは俺の能力だ! 俺の能力は自分以外に他人の力を引き出すこともできるが、どうにも代償があるみてえでな。それが、今の隼人坊ちゃんの状態だ。無理やり体の眠っている力を引き出すわけだ、痛みだけで済めばラッキー。下手をすれば......おっと、これ以上は言えねえな」

 おどけた様子で両手をひらひらと動かす男。完全におちょくっているな。

「で、一応聞いておくが、途中でやめることはできるのか?」

「さあな。俺は試したことはねえ。そもそも、これは隼人坊ちゃんのためなんだぜ?」

 男は両手を広げながら話を続ける。

「人間の最強の力は何だと思うか。おっと、筋力とかの話じゃねえぜ? もう一段階上の話だ」

「......」

 俺は話を聞きながら地面に手をつく。

「それの回答は人それぞれ持っているだろう。『経験』、『無意識』......間違いじゃねえだろう。ただ、俺は『本能』だと結論付けたのさ!」

 そして改めてコンクリート製の棒を作り出し、軽く素振りする。

「人間もしょせん動物、獣なんだよ! 獣本来の姿に戻ることが最強への道だ! そして九条の坊ちゃんを最強の『超能力者』に「おっけーおっけ。話は終わりだな」

 ぐっと棒を握る力を強めながら口を開く。

「ちなみに、お前は能力を途中でやめることができるかわからないと言っていたが。能力は『糸』でできている。要は『糸』が超常現象を起こしているわけだ。その『糸』が消える条件はいくつかあるが、確実なのはそいつの意識がなくなったとき。『糸』はなくなって、超常現象は収まるってことだ」

「何が言いてえ?」

 察しがわりいな......。俺は棒の先端を男に向けながら宣言する。

「お前の意識、吹き飛ばさせてもらうぜ」

まるで予告ホームラン。


※投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。このお話で、2022年の投稿は最後になります。

 環境の変化で頻繁に体調を崩していること。執筆ペースが遅くなったこと。ほかの作品にあまり手が付けられていないこと。いろいろと語りたいことはありますが、暗い話だけするのは気が引けますので、手短にまとめさせていただきます。

 投稿頻度が落ちた中でも見捨てずに読みに来てくださりありがとうございます。来年もできる限り頑張って執筆していきますので、何卒よろしくお願いいたします。




 ちなみに、次のお話が第3部の中間地点になる予定です。

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