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拝啓 【削除済み】さま(1)

 気がつくと見知らぬ駅にいた。


 チカチカと瞬く蛍光灯、錆びついた壁際の腰かけ椅子、汚れの所為かはたまた別の何かの所為か読めない駅名。ガランと広いその場所は、どこをとっても私の最寄り駅周辺の駅ではなかった。

 確かに降りるべき駅の名を聞いて、慌てて降りたはずなのに。確かに私は直前までウトウトしていて、寝ぼけまなこで駅に転がり出た。でも、だからといってよく耳に馴染んだ駅の名前を聞き間違えるはずはないし、そんなことしたらもう通学中の車内で眠れなくなる。………帰れたら、の話だけど。なんて常では浮かばない考えが浮かんできてしまうほど、私はこの人一人いない見慣れぬ駅に心をやられてしまっていた。

 そう言えば、降りる前の車内、電車から飛び出してから出発するまでに横目に入った電車にも、人なんかいなかった気がする。あれ、これってもしかして有名な、


――――キサラギ駅――――


 そんな単語が思い浮かんで、私は(かぶり)を振った。

 動かずにウジウジしているからそんな暗い考えが頭をもたげるんだ。土曜日の夕方とはいえ、駅がちょっと空になる時間帯だってある、はず。あってほしい、あってくれないと私が困る。


 私はせかせかと足を動かした。とにかく改札と地上にでる階段を見つけなくては。

 見知らぬ駅を、通学カバンを抱きかかえて廻る。

 こんなことなら、土曜の補講受業なんて休んでしまえばよかった。寄り道してもっと遅い電車に乗ればよかった。ううん、電車で眠らなければ…………

 そんなことを考えながら足を動かす。かなり歩いたはずなのに人は見当たらず、どころか周りの景色も前と変わっていない気がする。こんなに階段が見つからないなんて事、あるのだろうか。

 普通ではありえない状況に、いよいよキサラギ駅が現実味を帯びてくる。神話生物って、動き回った方が遭遇しやすいんだっけ?さっきの場所に戻った方が、いっその事動かない方がいい?


「もうどうしたらいいの……」


そんな弱気な声が漏れた時だった。


「君は、」


 男性にしては高めの、凛とした声が響いて、私は思わず振り返った。

 そこには見慣れない制服姿の男の人が立っていた。

 いきなり人が現れた驚きに目が丸くなる。次いで、弱音が聞かれてたかもしれない事へ思い至って、顔がカッと熱くなった。全然、無人駅なんかじゃないじゃない。ちょっと人に会えなかったからって、なんでベソを掻きそうになっていたのだろう。

 一人百面相をしている私を、未だ彼は無表情で見つめている。気を取り直し、目じりにたまりかけていた涙を拭いつつ、私は彼を見返した。

 ブレザー服を着ている、ということは、私と同じく高校生なのだろうか。でも、灰色がかったクリーム色のブレザーに紺のパンツ、水色のシャツにくすんだピンクのネクタイ、なんて制服の学校は、この近隣では少なくとも私は知らない。私の使う電車はいろんな学生が使う路線だから、一通りは見慣れているはずなのに。それにこんなにお洒落な制服、一度見たら忘れそうにもない。ということは、修学旅行か何かでこちらに来たのだろうか。それとも制服を改造したのか、はたまたコスプレ?女の人が若返りたいのか学生時代の制服を着るというのは聞いたことがあるが、男性でも学生服を着たくなる時があるのだろうか。何にしろ、暗めの青とクリーム色、差し色のピンクで靴まで揃えられたその姿は、とてもかっこよかった。黒っぽい青の髪の毛にくすみピンクのクロスされたヘアピンを見つけて、細部までお洒落な人だと思った。


「君は、」


 無表情のまま、彼は再び私に声をかけた。五メートルもない距離から発せられるその声は、周りが無音なのもあって、どころか不思議な響きがした。


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