ヨミの真価 英雄の唄
「どうやら、君は普通の『吟遊詩人』とは
違うみたいなんだよ」
「普通とは、違う……?」
「そう、一般的に『吟遊詩人』は歌や演奏に秀でていて武器よってはバフの効果や
デバフの効果がつけられるんだ
だが、君のそのスキル、《言霊》は言わば、
言葉を具現化する力を持っているのさ
例えば、君が炎のことを思い浮かべて 炎 という単語を口に出すとそこに炎が現れる
だが、水を思い浮かべながら
炎 という単語を口に出しても何も起こらない
そういったスキルなんだ《言霊》は
そして、君のスキルと
『吟遊詩人』という職業
これらが上手く組み合えば
さらなる力が手に入るだろう
君はその力を手に入れるための
覚悟はあるかい?」
魔王様は俺の目をしっかりと見てくる
俺はその目に応えるように頷いた
「そうか、そうか、ならば君には
《言霊》の発現ともう一つ
ある本を探してもらいたい
魔王城にある図書館、
そこの中から君の直感でいい一冊の本を持ってきてもらいたいのだ
付き添いには…クルル!
頼めるか?」
「…りょーかい
任せといて……」
「よし! ならば今から向かってもらおう
私たちはここで待っている
クルル頼んだぞ」
「………ん、こっち………」
クルルさんに連れられ
魔王城の図書館に行く
「……図書館は、
その人にあった本を示す……
……私は、ここの本の管理人……
君にはどんなめぐり合わせがあるのかな……
楽しみ……」
クルルさんから図書館の説明を受けながら
廊下を歩く
「……ん、着いた……」
「ここですか、」
図書館には
本が浮いていたり
そこかしこに本があった
「どうやって
自分にあった本を見つけるんですか?」
「……図書館の真ん中、
そこにいると本が来る……」
本が来る………?
言葉の意味がよく分からないまま
俺は図書館の真ん中に立った
すると、一冊の本が目の前に現れる
「……ん、それがあなたの本………」
これが俺の本……
「……魔王様のとこ、戻る……」
クルルさんがそう言うので
魔王様の元へと戻る
「おぉ! クルル! ヨミ! 戻ったか!
本は見つかったか?」
「はい、これです」
魔王様に本を手渡す
クルルさんも気になって本を覗いている
「ふむ、英雄の唄?
それがこの本の題名か…
中は………ん?開かないな……
ヨミ、これを開けてみてくれるか?」
魔王様が本を差し出してくる
俺は本を手に取り
頁をめくった
直後頭の中に数々の情報が入ってくる
「うっ、あっ、がァァ」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
俺は痛みとともに気絶してしまった
「んッ、」
「おぉ 起きたようだな」
「魔王様………」
「大丈夫か?
ヨミ、お前は本を開いた途端
苦しみ出して気絶したんだ」
どうやら
俺は気絶してしまったらしく
1時間ほど意識がなかったらしい
「それで、起きたばかりですまんが
何があったか聞かせてもらえるかな?」
俺は魔王様に本を開いた途端見えた光景のすべてを話した
「ふむ、竜の血に赤く染った目、
輝かしい剣、神聖な盾、12の命に、
空を駆ける男か、
まだあるようだが強く印象に残っているのはこの6つか
ヨミよ、すまんが
もう一度あの本を見てくれるか?」
少し怖いけど
何か手掛かりがあるかもしれないと
本をクルルさんから受け取り
開いた
「あれ? 痛みが来ない……」
「ふむ、見えた光景は最初に開いたあの時のみか……
それで、その本には何が書いてある?」
「唄、みたいです
それも色々な英雄と呼ばれた人達の」
魔王様が少し考えるそぶりを見せ
「一つ唄ってみてくれんか?」
と提案してきた
分かりました
と答え1頁目を唄う
『其れは 優しき英雄
邪竜を斬り伏せ その血を浴び
自身の力を強めた強者
人々に嫌われながらも戦い続けた英雄
其の身が邪竜となろうとも
優しき魂は此処に』
唄い終わると
自分の身体が熱くなっていく
心臓が脈打ち、血が回り、
思考が加速していくーーー
世界が変わる……
目の前に大柄な男性が現れる
彼の手には大剣
彼の鎧は血に濡れていた
「我が名はジーグフリート!
英雄の唄を継ぎし者よ
この名と魂、貴方に預けよう!」
そう言い切ると
俺の中に入ってくる
彼の体が消え去ると
元の世界に引き戻されていく
目の前には驚いた顔の魔王様がいた