吟遊詩人 死を悟る
村を追放になり
選定の儀式を受けた時の格好のまま
俺は村を囲っている
囲いの外へと放り出された
村の門が閉まる直前
リリシアと勇哉がキスをするのが目に入ってしまう
自然と涙が零れた
村の外はあたり一面が森に囲まれている
ここから違う村、町へ行くのにも
この森を通らなければならない
俺は途方もないこの森を進むことを決めた
「はぁ………………」
何度目か分からないため息を吐く
ここはどこだろう…
鬱蒼とした森の中をひたすら歩き続ける
この先に何があるかなど分からない
ただ、逃げるかのように歩き続けた
「ここ何処だよ…
腹減った…喉乾いた…」
今日、何度目か分からない恨み言をつぶやく
ガサッ
すぐそこの茂みから物音がした
焦りながらも短剣を手にする
心臓の音が鳴り響く
周りに聞こえるほどの
レベルで鳴り響いている
一歩一歩慎重に音を立てないように歩き様子を伺う
ピチャ
足元を見ると大量の血
茂みの奥まで血の跡が続いている
そこには血溜まりがあった
その血溜まりの中心には
鹿らしき生き物を喰らうゴブリンの群れが居る
「」
唖然としてしまう
ゴブリンたちのその一体、やつを見てしまったからだ
通常のゴブリンより大きく色は黒々としている…明らかに変異種とも呼べる個体がそこにいた
ビクッとして
足を後ろに運ぶと
枝を踏んでしまう
パキッ
ゴブリンの群れがこちらを向いた
ニタニタと嗤う顔がこちらに近づいてくる
俺は全速力で逃げた
この深々とした森をどこに進んでいるのかも分からない森の中を走った
後ろからは足音が近づく
「あっ!?!?」
地面が近づく、スローモーションのように
俺は転んでしまったのだ
前を向くと5メートル先に崖が見えた
後ろを振り向くとニタニタ嗤う
ゴブリンの群れがいた
もう終わりだと死を告に来たのだと
直感的に感じた
ゴブリンの変異種が前に出てきて
俺に向けて棍棒を振り上げてくる
ーーもう、ダメだーー
ゴンッ
強烈な痛みとともに視界が揺れた、ゴブリンの嗤い声が遠のいていく…
意識が途切れる寸前、誰かの声が聞こえた気がした