お誘い
大公殿下の帰還を祝うべく宮廷は大忙しだった。
その上、噂になっている舞踏会でお妃選びをするのだから浮足立つ者は多い。
次の王位継承者はまだ確定していない。
有力なのは第一子の王太子殿下、ルーファスである。しかし王太子殿下とは言えまだ王位に確実に立てるわけではない。
ルーファスはまだ幼く成人に至っていないのが理由の一つだ。
「大公殿下が次の王になるなら、今のうちに手を打つべきでは?」
「そうだな、今度の舞踏会でなんとしても我が娘を妃…いや、この際妾でもかまわん」
ひそひそ囁く貴族にアレーシャはげんなりする。
「無礼な」
ぼそっと言い放つ。
「ぷっ!」
背後から笑い声が聞こえる。
「レオンハルト様?」
「失礼…つい」
笑いをこらえているレオンハルトに気まずそうにする。
「聞いていらしたのですか」
「ええ、しっかりと。いいものを見せていただきましたよ」
中々意地の悪いことを言うなと思いながらこれ以上は口に出さない。
口は災いの元とは良く言ったもので、後々厄介なことになると知っていたからである。
「貴方は本当に賢い女性ですね。無駄なことは言わない」
「申し訳ありません。つまらない女で」
顔が引きつりそうになるが精いっぱい笑顔を浮かべる。
「ですが、そんな貴方も素敵です」
「あの…レオンハルト様。女性に愛を囁きたいのでしたら他の方に」
何故この男は宮廷の美い令嬢に愛を囁かないのか。
「所構わず女性を追いかけると思われていたなんて心外ですね」
(だったら何故ですか!)
内なるアレーシャが突込みを入れる。
令嬢の嗜みとしていかなる時も声をあげずに笑顔を浮かべる。
どんな時も笑顔で対応が鉄則。
母に渡された教本、『淑女の聖書』に載っていた言葉だ。
「私はこう見えて人を見る目はあると自負しております」
「はっ…はぁ」
「ですから貴女に声をかけているのです。私は貴女と親しくなりたい」
だからどうしてそういう答えになるのか解らなかった。
「不満げですね」
「いえ…」
「隠さなくて結構ですよ。怒っているわけではありませんから」
にこやかなレオンハルトだが底知れないと察する。
「では私はこれで」
失礼しますと言おうとしたが‥‥
「よろしければこれからお茶でもいかがでしょう?」
「はい?」
「オパールというお店なんですか。」
断ろうとしたが迷いが生じた。
苦難の末に結果は‥‥
「ご一緒させていただきます」
かなり早かった。




