嘲笑い
風邪気味だったアレーシャは冷たい水を被ってしまいさらに悪化した。
休むわけにはいかずフラフラになりながら出仕する。
いつも通りのはずだったが、身近な人間が見ればすぐわかるもので。
「アレーシャ、どうしたんだ」
「ルーファス様。何か?」
「何かではない!顔色が悪いではないか!体調が良くないのではないか」
腕を掴むといつもは冷たい手が燃えるように熱かった。
「やはり熱があったのだな。誰か氷を持て!」
「はっ!」
ルーファスは直ぐに側近に氷を持ってこさせる。
「お兄様、どうなさったの?」
「アレーシャの体調が悪い」
「え?ちょっと失礼します」
普段はドレスの裾を乱し髪を翻すことがないサーシャが無作法なことをした。
「服が濡れているわ…急いで乾かしたのではなくて?」
「えっ…いえ、雨に」
「昨日からずっと晴れですわ。朝から雫一つとして落ちていませんのよ!」
「腕を見せろ」
「殿下!」
女性の服をめくる行為は紳士としてはしてはならいことだと従者は止めるが…
「痣だらけではないか!」
「まさかあの人達に」
今まで我慢していた。
他所の家庭のことであるならば口出ししてはいけないと思っていたが、そろそろ限界だった。
これ以上黙って見ていられなかったがそこに現れたのは。
「何ですの騒々しい」
現れたのは豪華に着飾り化粧をしたカテリーナだった。
「王女様と王太子様ごきげんよう」
「ああ」
「ええごきげんよう」
眉をしかめながらも挨拶をする。
王族として常に冷静であれと教えられて来たからだ。
「お姉様、無礼にも程がありますわよ。そんな醜態を晒すなんて」
膝をつきぬれタオルを渡されている姿を見て扇で口元を隠し不敵に微笑む。
「体調管理もろくにできないようでは侍女失格ですわ。それにそんな汚らしいお顔で宮廷に出仕するなんて…プライム家に泥を塗るおつもりですか」
「なっ!」
黙っていることをいいことに言いたい放題言う。
「万一舞踏会でそのようなおふるまいをされては伯爵家は恥をかきますわ。不肖の姉がご無礼を」
さも姉の失態を詫びて優秀な妹であることを売り込む姿に怒りのボルテージが上がって行く。
(やめろサーシャ!)
(何故?今すぐこの馬鹿をミンチにしてやりたいですわ)
(する価値もない)
母親同然にしたっているアレーシャを散々苛めて罵倒するカテリーナには嫌悪感以外はない。
ルーファスも姉同然に慕っているので同じ気持ちだがここで反論しても無駄だ。
「彼女の体調があまり良くないようで。普段から無理に働いているんだ」
「まぁ…気が緩み過ぎですわ。そのうえ王太子様のお手を煩わせるなんて」
ワザと大きな声で言うカテリーナ。
通りかかった令嬢も聞いて陰口を言う始末だ。
「王太子様のお手を煩わせたですって?」
「本当にどうしてあんな方が…」
「教育係を変えるべきよね」
状況は悪化の一途をたどる。
完全に見せ者扱いになっていたところに最悪な人物が現れる。
「どうしたのですカテリーナ」
「お母様、お姉様が王女様と王太子様に粗相を」
「なんですって?まったくどこまで恥知らずなのかしら。侍女としても女性としても出来損ないなんて。どうしてお前など生まれて来たのかしら」
公衆の面前でアレーシャを咎める。
令嬢はクスクス笑い令息も蔑んだ目を向けている。
「王女様、恐れながら侍女をお選びになるべきかと。教育係として相応しくありませんわ」
「本当に何をやってもダメな姉ね?母親に似て」
これまで耐え忍んでいたが、母のことまで言われ耐え切れなくなる。
(私の事だけならいい…でも!)
最愛の母のことまで言われては耐え切れないと思ったその時。
「何事だ」
凛とした声が響いた。