重なり合う言葉
愛馬で走り王都を出る。
森を抜けたその先は王都を遠くから一望できる絶景。
「海が見えます」
「ここからの景色が一番だ」
馬からアレーシャを降ろそうとするも足場が不安でそのまま落ちそうになる。
「きゃあ!」
「おっと」
馬から落ちるアレーシャを抱きとめる。
「申し訳ありません!」
「いや、このままで」
「このまま!」
それはお姫様抱っこをしたままと言うことになる。
かなり恥ずかしいのでやめて欲しいと訴えるがレオンハルトは聞いてくれなかった。
「暴れると落ちるぞ?」
「レオンハルト様は私をからかっておいでですね」
「落とす気は無いが…少しは」
(やっぱり!)
少しずつ砕けた口調になるレオンハルトはこっちが素であることに気づく。
逃げたくても強く抱きしめられているので動けず、恥ずかしくなり目を合わせないようしていると海が見える。
「水面があんなに輝いて」
「綺麗だろ…国境を越えた南の方角がアーノルドだ。北がベルチアだ」
「この海の先が」
決して行くことができない遠い地。
それでもここから見ることができた。
本の中で知っているだけでなく、この場所から見ることができただけで十分だった。
「この目で見に行こう」
「え?」
何を言っているのかと思った。
「必ず行こう。俺が連れて行ってあげるさ」
「無理です…そんな」
行けるならば行きたい。
王都を出て遠くに行きたいが、身分が邪魔をして行けない。
婚約が白紙になっても伯爵令嬢であり。
自由に生きることを義母が許すはずもないと思っていた。
何よりアレーシャが心配しているのは義母にあの場所を壊されることが嫌だった。
「無理は人が決めることだ。ただ待っているだけじゃ願いは叶わない…手を伸ばさないと」
待っているだけではダメ。
その言葉が胸に突き刺さった。
身動きが取れないアレーシャは動くことができなかった。
「私は…」
「俺が必ず籠の中から出す。必ず迎えに行く」
「レオンハルト様?」
意志の強そうな瞳で言い放った言葉に驚く。
『待ってて…必ず迎えに行くから』
初恋の男の子に別れ際に言われた言葉と同じだった。
『俺が大きくなったら君を迎えに行くから…だから待ってて』
大切な約束だった。