捨てられた令嬢
アレンゼル王国。
長い歴史を持つ大国だった。
その国は女神様の加護のより寛容と慈悲を重んじていた。
王族は民の為に尽くせとの教えを守り続けている。
歴代の王は忠実にその教えを守り信仰心を大切にされていた。
四大公爵家の下に王族に連なる名門貴族が存在した。
この国は現在家柄重視の保守派と身分は問わず実力派の革新派に分かれていた。
多くの貴族は保守派になるが身分が低い貴族は革新派だったが身分差別が未だに激しく実力があっても出世できないのがこの国の現状だった。
貴族が生き残る為にはより良い家柄に嫁ぐのが暗黙の了解だった。
「カテリーナを望まれているそうよ」
「はい?」
伯爵令嬢アレーシャ・プライムは耳を疑った。
「聞こえませんでしたか?先方がお前よりも見目麗しい私の娘を望んだのです」
扇を広げ不敵に微笑む伯爵夫人。
父の後妻に入った義母は蔑むような目でアレーシャを見据える。
「美貌も、気品もすべてがカテリーナに劣るお前には女性としての魅力すらない」
元は身分が低い男爵令嬢だった義母。
我が子だけを可愛がり前妻に瓜二つのアレーシャを毛嫌いし邸では離れに追いやるようになった。
父は仕事人間だったのでアレーシャは孤独だった。
「嫁にも行けないお前はこの家の疫病神…財産のある貴族の妾になって役に立ちなさい」
義母の冷酷な言葉にアレーシャは絶望を抱くことはなかった。
幼い頃からずっと耐え続けていたアレーシャは泣くことさえしなかった。
去り際に。
カテリーナは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
それでも耐えなくてはいけなかった。
相手は侯爵家である以上受け入れなくてはいけない。
「聞きました?侯爵家の婚約話?」
「姉君ではなくカテリーナ様を望んだそうよ」
「でも、姉君は灰かぶり姫ですもの」
クスクス笑う宮廷内の御令嬢。
邸にも宮廷内でもアレーシャの居場所はなかった。
太陽のように輝く妹とは違い姉は月。
冷たい夜に一人だった。