クリスマス前夜の贈り物
「しょうちゃーん!!!」
大学構内、大声で自分の名を呼ぶのは彼くらいしかいない。
「なぁに、こうちゃん。どうしたの」
「子猫と子犬拾った!!!!!」
「病院いくわよ!!!!!」
彼はいつも、皆に何かしらを運んでくるようだ。
それからというもの、デザイン科の有名人の一人、一回生の布川幸平は、二回生の親友でイケメンオネェさんである宮城翔斗と共に最寄りで都合がよかった動物病院に駆け込んだ。
そこで下された判断はというと「なんでこんなに元気なの」。自分がおかれた状況もよくわかっていない、仲の良いアホの仔の毛玉たち(以下、褒め言葉とする)は、ころころと無邪気にたわむれている。
結局「取り敢えず任せるから、かえって決めなさい。入院?いいよ、ムダムダ!」と言われ、保健として栄養剤を少しもらった。
物語は、二人が大学に戻ってから本格化する──!
「で、連れて帰ってきたと」
神妙な顔をしたこの人、帝悟先輩──四回生。この人も数々の賞を総ナメする有名人の一人で、年甲斐もなく幸平と争っている──は、煙草を急いで携帯灰皿にねじ込んだ。
「どーすんの。ここに連れてきても飼えないんだから」
「飼い主募集ですよー!誰かいるじゃないですか」
「決めつけ早いよ」
そこへ、同じ時間帯の講義を終えたのだろう二、三回生が続々と集まってきた。
「え、なに?ぬこ?いっぬもいるじゃん!」
「なんだその独特の呼び方」
「こーへーが拾ったの?強運だなぁー」
「まって超元気。すごーい人なつっこーい!」
「拾い主に似たんだな」
静かだった談話スペースはいっきに賑やかになった。幸平と毛玉達は等しくもみくちゃにされる。
ぴょこぴょこしていた毛玉達が疲れておとなしくなり、ついでに幸平の頭のもみくちゃも落ち着いた頃、がらっとドアが開いた。
こんにちはー、と澄んだ声で挨拶するその人は、翔斗と同じ二回生の法学科の優等生。名前を木立大和という。夏、文化祭で幸平のモデルをしたことでデザイン科民と仲良くなって以来、よく入り浸っているのだ。
その挨拶に、やっほー、とか、おひさーなど、親しげな返しが飛び交う。彼女が愛されている証拠だろう。
大和は挨拶ついでに何人かと話している
と
「え」
と呟いて、肩の荷物を落としてしまう。よく一緒にいる翔斗ですらも、見たことがないくらい大和は驚いているようで。毛玉たちが原因だと察した皆は身構え、各紙にかかるが、大和のもう一言に手足を止められた。
「めっっっちゃかわいい・・・・・・」
キラキラと瞳を輝かせ、毛玉をにじり寄る大和に皆は一斉にこう思ったという。
『まじかよ』
因みに「超可愛いな」と、狙う声も少々。
◇ ◇ ◇
というわけで、大和は「どうしたのこれ!」「幸平くん天才」とひとしきり騒いだ後、(デザイン科の民は温かく見守っていた)現在もふもふと動き回る毛玉達を堪能している。
何か考えこんでいたような翔斗は、腕を組みながらはっと何かに気づき、口を開いた。
「しばらくの面倒は大丈夫そうね。手のかかる犬が増えたんじゃないかと思って心配したわ」
そして、翔斗は横目で幸平をちらりと見た。察した皆はまたもや沸く。仲が良いことだ。
揶揄された本人は皆の反応から数秒遅れて気づき、見えない尾と犬耳を下げた。そして「いいえてみょう」と、くらーく呟くわかりやすい反応に、またしても場は明るさを増す。幸平の役割は大きいのだ。
そこで帝悟は、雰囲気を遮るように「お前ら制作進んでんのか」と一喝。流石名のある人というべきか、しばらく場はざわついていたが、次の授業に向かう者や作業を始める者のおかげでだいぶ落ちついた。
「大和さん、そんな感じだけど養ってあげられない?」
「私も例外なく貧乏学生なのよ。アレルギー持ちの親元離れたし、欲しいとは思ってたんだけど、そりゃバイト代だけじゃ足りないのよね」
大和そう言いながら、右手に猫じゃらしで子猫を、左手で子犬とじゃれている。実に器用だ。既に熟練技なのは何でだろう。幸平は純粋にそう思った。
「じゃあ俺が預かるか」
「えー煙草先輩が!?」
女学生の一人が叫んだ。それもそうだ。煙草先輩の名の通り、毛玉たちが来るまで吸っていたような人だ。聞いた時にいなかったらそれは大体一服している。
というわけで、ブーイングが飛ぶのも当然だろう。
「そうそう。ヤニ止めてから言ってくださいよ」
既に口うるさい先輩よりも愛らしい毛玉たちに情が移っている人たちだ。当然のように加勢している。
「いや、俺家ではちゃんとベランダだから」
「ふくりゅうえーーーん!!」
「わかった。やめる。外出るわ」
「てか、ちょっと止めてみたらどうです?早死にしたら僕ら笑いものにしますよ」
「だーっお前らイジるの好きな!!わかった!禁煙、挑戦させていただきます!!」
わぁい、と場は完成に溢れる。「続くといいっすね」という先輩思いな声もあれば「先輩と動物似合わねー」と少し揶揄するような声もある。愛されている。部屋はほわりと温まる。約一名、煙草とゴミ箱の間で葛藤している人を除いて。結局帝悟は、最後の一本を吸いに出ようとする。そこを、幸平が呼び止めた。
「そもそも、先輩動物そんなに好きなんですか?俺、拾い主として嫌いな人には渡せませんよー」
「あぁ。俺実家にけっこう色んな動物いるんだよ。猫からヤギまで。任せとけって」
「いいなぁ今度招待してください!安心して任せますから!」
お前それはおこがましいぞ、と笑いながら帝悟は出て行った。
自分のあだ名が動物園先輩になろうとしていることも知らずに。
◇ ◇ ◇
じりじりと幸せな時間は流れているが―一人、特別幸せそうにしているが、実は彼女、大事な試験中でありここで駄弁っている場合でも戯れている場合でもないのだ。優等生は孤独である。というわけなので
「先輩なんで連れてきてないんですかー!!!」
「お前は試験あるだろ!そっちに集中しなさいや!」
「癒やしを!私に癒やしをくださいよ!試験のために!」
「デザートはラストに取っておくもんだろう!」
けち・・・とぼやきながらも離れる気はないようで、ソファに腰かけ、教材を出し始める。
それを見て、帝悟はったくと言いつつもスマホを取り出してスクロールする。ほらよ、と大和に差し出した画面には、いっぱいにめちゃくちゃなアングルの毛玉達が映っていて。
ぱぁっと、大和の不機嫌の枯れ葉には火が灯る。
「こんな宝箱あるなら早く言ってくださいよ!」
「返しなさい。わかっただろ?送ってやるから勉強してなさい」
それを見て、幸平は「お母さんだ・・・」と呟いた。
その後理不尽にもはたかれた幸平は「完膚なきまでにたたきのめしてやります」とコメントしていた。
◇ ◇ ◇
帝悟先輩のお母さんいじりが落ち着いた頃、大和の忙しなかった試験も終わり、休みに向けての割かしゆったりとした時間が訪れる。
因みに幸平は真冬に向けてまたも新スタイルコートを編み出しており、鋭意制作中だ。ミシンの音がリズムよく耳に入り、それもまた心地よい。
「あれ、私の試験で抜けてたんですけど、先輩こそ大丈夫なんですか、就活」
「俺オファー来る側だから平気~。大分選別して、どちらにしようかな状態なのよ」
「うわ出ましたね才能マン」
その呟きに便乗し、同じく落ち着いた何人からもとやかく言われるが、帝悟は苦い顔をして言う。
「まぁ、お前らはともかく」
「少なくとも大和ちゃんはブーメランってことを自覚した方がいいわね!」
お久しぶりでーす、と翔斗は手を振った。
「しょーちゃんっ!久しぶりじゃん、どったの!」
「そうか、こうちゃんは知らないのね。私この時期バレエの方の公演があるのよ。良い稼ぎにもなったわ。どうしよっかな~。ちびたち引き取ろっかな~」
「大丈夫?それ手にある頃の余裕じゃない」
ほんとそれ、と周りの皆も同感している。毛玉達を引き取りたい、という声もだ。
そして、この日は翔斗の「大和ちゃん、年賀状送るから住所教えてー」という一言から住所の送り合い合戦が始まり、人もだんだん増えて賑やかになり、日は暮れていった。
◇ ◇ ◇
楽しい時の方が早く流れるのは理不尽だとは思わないか。というわけで、早速時はクリスマスイヴである。例の如く仲の良いデザイン科の民は集まれる人でパーティをすることになっている。当然のように大和も呼ばれており、皆が集まった頃、翔斗が口を開く。
「パーティしにいく・・・といいたいところだけど、大和ちゃんに、ちょっとしたプレゼントがあるのよ。ちょっと来てもらえる?」
不思議そうに小首をかしげながら、大和はついていく。その後ろから、十人ほどぞろぞろと付いてくる。
門を出て少し歩くと、地味な色合いの軽に帝悟先輩が乗っていた。せんぱいありがとーと、翔斗が言い、大和をエスコートする。その様子はは完璧で、美男美女(怒られそうだが)ということで、とても様になっている。
「とりあえず私ら四人はこっち乗るから、皆もう少し待ってて。迎え呼んでるから」
また後でなーという声に手を振り、大和が車に乗ると、遮光カーテンを掛けられてしまった。助手席に乗った幸平の姿も見えない。何があるのかとどきどきしていると、ものの十分もかからず車は停止する。
車から降りると、そこは自分のアパートで。何がなんだかわからないでいると、「ごめんなさい、ストーカーっぽいことしちゃった。部屋覗いてみてくれる?」と幸平が言った。まぁ、別に幸平くんなら大丈夫なんだけどと呟き、ハテナマークが飛び交う中、ドアを開ける。すると、鞠くらいの影がどっと飛び出してきた。瞬きする間に、大和の足下には冬毛でもっふりとした子犬と子猫がすり寄ってきた。
あれ。えっと。どういうことだ、これは。
やはりまだ、うまく現状が受け止められない。そんな状態の大和に、翔斗が歩み寄る。
「驚いた?ここの大家さん、実は私のおばさんなのよ。前から意見出てたらしいし、色々言いくるめてペット可にしてやったわ」
「えっと、奥に見えるグッズ類は・・・?」
「皆が、そういうことならって寄付してくれた!帝悟先輩ももちろんね。あ、そう!金銭面なんだけどね!俺の父さん!オフの日に俺と行けば診察料なし!」
その調子じゃ、しばらく要らなさそうだけどね。と、幸平は笑った。
何それ、と大和は俯いて呟いた。
皆はぐっと緊張に身を固める。
ばっと、大和は顔を上げる。
「・・・ありがとうっ!「
すがすがしい、冬に似合わない笑顔を見せた。
返せるのかな、これだけの幸せを。
皆は笑っている。
少しずつになるけど、私のペースで、この子達と一緒に
ふわりと、粉雪が舞い落ちてきた。初めてみるそれに、じゃれついている。
雪はまるで、希望と幸せの象徴のようで。
「それじゃ、サプライズも成功したことですし、行きますか!」
「あれ、結局どこでやるの?」
大和は二匹を抱え上げ、さっと幸平が準備したキャリーケースにつめる。
「俺のとこ。親は旅行に出したから安心しな。ペット達がうるせーけど、幸平がどうしてもっつて聞かなくてな。そいつらも楽しめるだろ」
「先輩がおーけーでよかったよー。大和さん、行こ!」
幸平は笑顔で、翔斗にあんたの車じゃないでしょ、と叱られていて。とても楽しそうで。
大和は心から幸せを感じていた。
もっと楽しくなるだろう。これからが本番なのに、いったいどうすればいいのか。
本当に仲がいいな、と二匹と二人の友人を見つめ、まぁいいか、と笑った。




