白仮面の一味
少しあの男から距離を遠ざけたあと少年に話しかけられた。
「大丈夫かい? 」
とフードを被った少年(少女かもしれない)はフードを外しながら声をかけた。
「あ…ありがとう」
その少年は髪の毛は赤黒い色をしているが、紫色の部分もあり、それが何重にも重なって一本の毛になっていた。顔は優しそうな顔をしていて、頰に筆で黒く縦長に塗られたような化粧をしていた。
なんかアフリカの多民族がつけそうな装飾だった。
彼は笑顔ではなかった。
それを見て俺は安堵できた。そんなの当たり前のことのはずなのに、やっとまともな人に会えたんだという気持ちでいっぱいだった。
「ふ〜ん、君はこの街の状況をきちんと把握しているようだね」
少年は俺の顔を興味深く見ていた。
「どうだい? この街は」
「どうだいって急に言われても…」
俺はしばし考える。ここに起きたことを、出来事を、惨状を。
「ここにいる人はみんな笑顔で自分の日々に文句も言わずに働いている。嘆いてたり、悲しんだりもせずに、むしろ毎日を懸命に生きようと前を向いている」
俺には絶対に出来ないことだ。受験に失敗したぐらいで異世界転生した俺にはなおさら。だからこそ俺はほんの少しだけ憧れを抱いた。あんな風に真っ直ぐに生きられた、後悔せずに生きれたらどんなにいいだろうと。
嘆きもせず、悲しみもせず、そうして死んでいったら幸せだろうなと。
「それでいてこの街は狂っている…」
確かにそんな風に生きられたら幸せだろうな。何も知らず赤ん坊のまま、純粋で悪を知らないまま死ねるのだから。
憎しみや嫉妬、 罪悪感に嫌悪。こんな感情を知らずに死ねるなんて最高だ。
しかし、それはもう人の生き方じゃない。
人のことを簡単に信じて騙されて、何も無かったように済ましてまた騙され使い回され、笑顔のまま死んでいく。
それはもう人間などではなく、それはもう道具に過ぎない。
ただ消耗品だ。
「いいね、 君」
少年は俺に小さな手の平を見せた。
「君、うちに来ないか? 」
「え、うちってどこに? 」
「え、まあ、その」
少年は気恥ずかしそうに頭をかいた。
「まあ、僕たち盗賊をやってるんだ、人は多い方がいいし、この状況をきちんと把握できてる笑顔じゃない人なら歓迎するさ」
突如の歓迎に俺は驚いていた。
それもそのはず、異世界に来てまさか盗賊団にお声がかかるとは誰が想像できよう?
彼らの目的は未知数だが、今の俺に衣食住が足りないのは見ての通り。
故に俺はその誘いを受けようと「うん、いいぜ」と言おうとしたが、
「ちょっと待ちなさい」
後ろのローマが少年の首根っこを掴み、ローマの方に引っ張った。
彼女の特徴は長髪の銀髪で顔の左側は銀髪に覆い被さっている。
「何するんだいっ! 話の途中なのにっ!」
ローマの手をはたくと彼女の顔を睨んだ。
「あんたね、 使えるかも分からないのに、誘ってどうすんの? もうこれ以上、うちは非戦闘要員は受け付けてないのよ?」
それに関して何も考えてなかったリータ君の目はローマの目を見ておらず、泳いでいた。
「え、まあ、ダメだったらアロマさんに記憶を消してもらって適当な村に置いとけばいいじゃん 」
ローマは顔を押さえ、ため息をつく。
へ? 記憶を消す?
俺は嫌な予感をしていた。
「あんたね…あれ、だいぶ非人道的よ、夜中に叫び声がしてたの聞こえなかったの? 」
非人道的っ?! 叫び声?!
俺の危険信号アラートが鳴り始めた。
「ええ、まあ、ほら一週間の軟禁だし、問題ないよ 」
「バーカっ! あれは軟禁とは言わないの、監禁よ、暗い部屋の中閉じ込めて、椅子に括り付けてガッチリ固定するあたりのどこが軟禁よっ! 」
それを聞いた瞬間上鍛冶は本能で察した。
こいつらに連れて行かれたら殺される…
俺は向く方向を180度転換、猛スピードで走った。途中、アルタが俺を掴もうと手を出し、何かを叫んだ気がしたが俺は気にせず走って行った。