気まぐれ○○の異世界転移
はーい、やっと異世界行きます!
ここは10階建てのマンション。
その窓のないエレベーターの中で上鍛冶 銀は一番ボタンが押しやすい場所に立っていた。
異世界に行く条件に合った十階建てのマンションをネットで、必死に探しやっとのことで見つけだすことができた。
これから俺が試すのはネットで書かれていたエレベーターを使って異世界に行く方法である。
信憑性は薄いが賭けてみる価値はあると思った。
「ええと、まず何をするんだっけ?」
そう呟くと俺はポケットからスマホを取り出し、その方法が書いてあるサイトでやり方を確認し、次の操作を行った。
まずエレベーターに乗ったまま、四階、二階、六階、二階、十階の順に移動する。
次に十階に着いたら、そのまま五階を押す。
確か、ここで若い女の人が入って来るんだよなと心の中で呟いた。そしてエレベーターが五階に着き、扉が開いた後入ってきたのはーー
金髪碧眼の小柄な少女だった。
その白いワンピースを着た少女の、さらさらしてそうな髪は、ふくらはぎまで伸びていた。また、露出している肌はすべすべしてそうでとても甘い匂いがした。
ヨーロッパにいそうなとてもかわいらしい女の子だった。
予想よりも『若い女の人』が若かったせいで自分の方法が合っているのか少し気になったが、慌てるほどでもなかった。
この方法ではこの少女に話しかけても話してもいけないらしい。
それはこの少女が人間じゃないからと書いてあった。
別に人間でなくたってこちらに有害だとは限らないと思うのだが。まあ、触らぬ神に祟りなしとも言うし、話しかけなければ人畜無害なのだろう。別にそこまで気にすることでもない。この子がロリっ娘だろうが人外娘だろうが俺には関係ないことだ。
俺は次の項目に書いてある『一階を押す』を実行としようとした。
「あなたが異世界訪問者ですか?」
と不意に声が聞こえた。
おいおい、そっちが話しかけるのは反則だろ
と内心毒づく。
さあて、どうしたものか?これは応答した方がいいのか?
まあ、いいや。無視してればいいだろと思い、俺は無視してスマホを眺めている間にも「あのう、もしもーし。聞こえてますか?あれ?おかしいですね。これ日本語ですよね」と少女の声が聞こえてくる。
すると少女は決定的な言葉を言った。
「困りましたね〜答えてくれないと間違えて送ってしまうかもしれないので、確認を取らないと送ることが出来ないのですけどーー
「はい」
俺は彼女が言い終わる前に振り向き即答し、そこから自分が犯してしまった過ちに気付いた。
言ってしまった。
俺はここで死ぬのか。短い人生だったな。さすがに相手が人外娘だからって今時人間食うとかそんなベタな展開はありえないだろうが、タブーに触れたのだ、ただではすまんだろ。
そのようなことを考え、上鍛冶は覚悟を決めた。
「はい、そうですか。それではその機械に書いてある次の項目を行なってください。ボタンを押したら異世界についての説明を行います」
と笑顔で返してきた。
ただ意外と安易な解答が返ってきただけで、何もして来なかった。
それを聞いた俺はびっくりさせやがってと、吐き捨てるようなため息をし、少女の指示の通り、一階のボタンを押した。
「それでは。これから異世界への案内について説明させていただきます」
と言い、少女は軽くお辞儀をした。
「なあ、その前に一つ質問いいか? 」
と怪訝な表情をしながら問いかける。
「どうぞ」
と丁寧に笑顔で返して来た。
「あんた何者? とりあえずこの項目に人間じゃないってあるから。お前人外なんだろ? 」
これは多分、タブーなんだろうな、と思ったが、 何かと気になったので、なんか言いたくなった。
しかし、「はっは! 私の正体を知ったものは生かしては置けません! 覚悟しなさい! 」とかいうベタな展開にはならなかった。
「ふふ、よくぞ聞いてくれました! 私は天上に住み!神に仕え!数多の能力を使うもの! そう私は天使なのです!」
とガニ股になり両手を脇腹につけた自称天使はさっきよりも大きな声でそう話した。
こうしたオーバーな紹介に俺が思った初版の感想はこうだ。
なんだ? こいつ。
俺自分がした適当な質問に対して全力でオーバーでめんどくさくうざい紹介に無反応無関心であった。
「へー天使? 名前は?」
「名前? ええと私の名前は天使さんと呼んでください!」
「へーわかった。んじゃ説明お願いします」
と俺は抑揚ない声色でありながらもどこか少し煽っていたような気がするけど、まあ、あまり気にしなかった。
彼女が天使かどうかなんて正直そこまで気になるわけでもなく、なんか言ってみたかったみたいなだけで聞いただけだ。問題は異世界に行けるどうかである。
「あのう…」
すると天使さんは物足りない様子で話しかけてきた。
「ん? 何?」
「驚くとか無いんですか? ほら、私天使ですよ! あなたたち人間が憧れている聖人君子のあの天使ですよ!もっと反応が欲しいですね!」
「いや、興味無い」
俺は即答。ていうか早く異世界の説明しろよ。
「あ、そうですか…」
と気力が抜けたような顔でそう言い、
「はあ、なんでしたっけ?説明でしたっけ? 」
とさっきのやる気はとうに消え失せ、もうなんか訛り口調の不良みたいになっているが俺はあまり気にしなかった。
「ええ、あなたはこれからパラレルワールドの一つに行っていただきます」
口調が元に戻っているが気にしないものとする。
「パラレルワールド? 」
俺は怪訝に思う。
異世界とパラレルワールドはどうにも結びつかない。
「そうなんですよ、異世界とはパラレルワールドの一種なんですよ。 例えばあなたたちが夢見るファンタジー系の世界だってこの世界との関係性が遠いというだけであれも世界というな一つの可能性を秘めている。 それに今の科学では5次元空間というものもーーー
「あのさ…」
「はい、なんでしょう? 」
「うんちくとかそういうのいいから早く進めてくんね? 」
うんちくは興味がねえし、そもそも今の説明のどこに異世界と関係するところがあったんですかね。
は・や・く・て・ん・せ・いさせろや。
「は、はい、わかりました」
天使さんは顔を引きつり強張らせ、もう爆発寸前だがなんとか手前で耐えていた。
「あのさ、パラレルワールドっていくつもあるんだよな? だったら異世界転移する世界ってランダムとかになの? 」
「まあ、そうですね、ランダムですかね」
ええ、まじか、ランダムか。まあ、この世界からいなくなれるならなんでもいいや。
と思うと天使さんは
「まあ、安心してください。あなたの行く世界はもう決まってるんで」
と付け加えた。
「?」
どういうことだ。その発言は?
さっきランダムと言ったはずなのに、あなたの行く世界はもう決まってるんでと言われた。意味不明である。
まあ、他の世界に行けるだし何でもいいや。
「あとはパラレルワールドなので、あなたと同じような人間がいるかもしれませんね」
「へー、俺になんか悪影響とかあるんの?」
「悪影響ですか? そうですね〜特にありませんね、他に質問はありますか?」
「いえ、無いです」
「そうですか、それでは説明を終了します」
少女はそう言いまた軽くお辞儀をした。
そんな説明が終わると同時にエレベーターが一階に着き、そのまま上がっていく。
この部屋が徐々に白く染められているのがわかった。
ああ、これで異世界に行くんだな、この世界ともお別れだなあとこれから他の世界に行くことを実感していた。
これから異世界に行ったらどんな生活が待ってるだろうとりあえず美少女と冒険がしたいな。
あ、あとチート能力で無双したいーーん? ちょっと待てよ。
「あのう、すみません」
「何ですか、まだ質問でも?」
「はい、あのバシップとか異世界特典とかないんですか?」
異世界転生といったらチート能力だろう。これが無くては始まらない。
「え?」
「へ?」
両者はそう言い、顔を見合わせる。
「え、欲しいですか?」
「へ? は、はい欲しいですよ」
と言って反応する。すると天使さんはニヤリと笑い、
「え〜どうしましょう、さっきの反応が気に入らなかったんであげたくないですね。せめて、土下座しながら『先ほどの無礼をお許しください熾天使様』と言ってくれたらいいですよ〜」
と甚だしいほど上から目線で言ってきた。
うざいなこの天使。ていうかさっきのことそんなに気にしてたのか。まあ、俺にプライドなんて無いしいいや。
俺はゆっくりと左足から膝をつける。そして、正座になり、頭を下げ、
「先ほどの無礼をお許しください熾天使様」
棒読みかもしれないと思いながら言い、天使の反応が気になり上を向く。天使はとても朗らかな笑顔していて、その表情でこう言った。
「でも嫌です☆」
「てめえ!」
その瞬間全てが白に染まった。
それから異世界に行くまでの記憶は覚えていない。
次回ーーー幸せの街ーーー