きっかけ
今の季節は春。
桜の花びらが降りしきる満天の桜がその季節を知らせ、鶯がその知らせを祝福している。
春とは、基本的にあらゆる文学作品において明るい描写で描かれることが多い。
まあ、当然だろう。新しい門出を祝う季節であり、新しい出会いをするような季節だ。そう、このように門出や出会いといった「始まり」を意味する言葉が多いのだ。
しかし、知っているだろうか? 「始まり」には「終わり」があるということを。
つまり、この春というとても明るい季節でさえ、対極である闇の部分が存在する。
例えば、この季節には風邪をひきやすく、自律神経の乱れによりうつ病にもなりやすい。
何よりも年間自殺率が最も高いのは春だ。
え、お前さっきから何が言いたいだって?
んじゃ、単刀直入に言うと…
満天の桜が並び、新しい制服を着た若人たちが通るような道を、俺のような黒の綿製のズボンに灰色のパーカーを着て、そのパーカーのポケットに手を突っ込んでいる闇の住人が通っても何も問題がないということだ。
いや、だって、さっきの闇の部分も春の風物詩って言うなら俺だってそうだ。受験に失敗してこの世界に愛想が尽きたから他の世界に転生しようとしている人間。
うん、問題ない問題ない、全然問題ない。
あれ、でも何故だろう。周りからの目線が妙にするな。特に若人たちからの目線がゴミを見る目なんですが。あ、ヒソヒソ話をしてるやつもいるな。おい、指を刺すな、指を!
まあ、こんな屁理屈を心の中で呟いても、周りの人間が納得するわけではないことぐらいわかっているが、俺はそんな屁理屈を言いながらこの道を通らないと気が持たない。俺だって好きでこんな場違いな場所を歩いているわけじゃない。ここを通らないと目的地である10階建てマンションにつけないのだ。
ネットで書いてあった異世界に行く方法にはそのマンションがどうしても必要なのだ。
え、なんでささっと死なないんだって?
お前ら、勘違いするなよ。俺は別に死にたいわけじゃない。異世界に行きたいのだ。確かに死ねば、この世界から居なくなることは出来るが、異世界に行けるかはわからない。もし俺が自殺して神とやらが「異世界? そんなもんないよ」って言ったらどうする? もう絶対に天国か地獄に行かなければならないではないか。
そんなのは絶対に嫌だ。俺は異世界に行って美少女と異世界ライフを過ごすんだ!
そんなことを考えてるうちに上鍛冶 銀は目的地に着いていた。
次回! ーーー気まぐれ○○の異世界転生ーーー