二 わたしはどこぞの王女様
降りてみましょうか。と、彼は言った。
列車はいつの間にか止まっていた。どちらでも良い気がした。どちらでも良いのなら降りてみよう。そう思った。うん、わたしは案外好奇心が強いのかもしれない。
列車から降り立つと、列車は無くなっていた。
わたしはお城のお姫様となっていた。ひらひらなドレスで着飾って玉座に腰掛けて、舞踏会を眺めていた。セーラー服はどこへ行ったやら。
斜に彼が控えていた。ごてごて装飾された服は、長身のせいか堂に入っていた。やはり柔らかな笑みを浮かべている。
舞踏会場からひとりの男がこちらへ向かってきて、わたしの前に膝をついた。
長々と求婚の言葉を述べられた。途中で飽きてしまったのでわたしは突っぱねた。
別の男が短い求婚の言葉を述べた。心動かなかったのでわたしは突っぱねた。
別の男が感情を込めて求婚の言葉を述べた。苛ついたのでわたしは突っぱねた。
別の男が淡々と求婚の言葉を述べた。淡々とわたしは突っぱねた。
次々わたしを求める声を全て蹴飛ばす。百人は断り続けたろうか。
お気に召されませんか。と、彼は聞く。
分からない。と、わたしは答える。
では、踊ってみてはいかがでしょうか。と、彼は言う。
踊って何かが変わるだろうか? 疑問だったが、とりあえず従う。適当な男の手を取った。
流れるように踊った。心地よい音楽。心地よいリズム。心地よいダンス。なるほど、相手の男は魅力的だ。顔は整っていて、頼りがいがあって、話によると他国の王子様らしい。万人が憧れる、立派な立派なお金持ちだ。
会場の誰もがわたしたちを羨んだ。悔しいけれどお似合いね。そんな声が聞こえた。溜息が聞こえた。妬みも聞こえた。どうやら誰にだって自慢できる、立派なひとらしい。
このひとならば、わたしを幸せにしてくれるだろう。何故だか確信があった。苦しみも悩みもきっと、遠ざけてくれることだろう。
結婚して下さい。男が言う。あなたを総ての苦しみから守り通します。あなたを世界一幸せにして見せます。男が続ける。それは紛れもない事実だろう。
「違う」
声が出ていた。
羨望の声も心地よい音楽も全て消えていた。
ひらひらのドレスも消えて、元のセーラー服姿で列車に揺られていた。




