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003 リルル村/アインス

 その後、リーシャの介抱の甲斐あってなんとか復活した俺は、幸運を祈るために教会に行くことにした。

 教会はリルル村最大の建物で、日光を浴びてキラキラと輝くステンドグラスが美しい。


「ガルルゥ」

 この教会では、番犬代わりに隠れボスキャラ、ケルベロスが飼われている。本来であれば終盤戦開始までは戦えない強さの敵で、HP50000で3回攻撃してくる強敵だ。

 しかし、1周目プレイの時は死闘を繰り広げ、回復薬を浴びるように飲みながら消費したケルベロスも、今となっては楽勝だ。

「エターナル・エターナル 49999ダメージ・恐怖付与」

 哀れにも、瀕死の重傷を負ったケルベロスは許しを乞うように震えていた。

 

 このケルベロスはアインスのペットだから、即死させない方がいい。それに、後々ケルベロスが女体化してヒロインに昇格するイベントがあることを考えても、ケルベロスは殺さない方がいい。


 だが、ここで可能な限り大きなダメージを与えておくと後の展開が楽になる。エターナル・エターナルなら1刻みでダメージを調整できるので簡単だが、1周目では好都合なダメージ調整手段がなかったので、最後の方は素手で殴ってHPを1ずつ削っていく泥沼の展開だった。

 1周目の苦労をしみじみと懐かしみながら、俺は教会へと足を踏み入れた。




 教会はシンプルな構造になっている。礼拝時に使用される椅子とパイプオルガンを除くと、残るのは神に祈る時に利用される祭壇だけだ。天井は高く、ゴシック様式によって天頂を再現するかのようにして荘厳さを演出している。


 アインスは祭壇にて、独り神に祈っていた。

 アインスの最大の特徴は、本来人間であればあるべきはずの場所に耳がなく、その代わりに頭の上に髪の色と同じ漆黒色の狼耳が付いていることだ。アインスは人間ではなく獣人族であり、幼い頃に両親に捨てられ教会が運営する孤児院に拾われ、それ以来教会のためにアインスは生きていた。


 アインスは神の存在を信じており、神のために祈っていた。しかし、俺は神が存在することを信じていない。もし神が存在するのであれば、俺の存在を認めるとは思えない。


 そうだ。アインスを洗脳して、神ではなく俺のために祈るようにさせてみよう。もし神が存在しないのであれば、俺の試みは成功するはずだ。もし神が存在するのであれば、アインスのような敬虔な信徒を見捨てるとは思えないから、俺の試みは失敗するはずだ。


「エターナル・エターナル 洗脳付与」

 その瞬間、それまで祈りを続けていたアインスの身体が一瞬揺らいだ。

「アインス。俺の方を向いて返事しろ」

「はい」

 感情の籠らない声で返答したアインスは、ふらふらしながらも立ち上がり、虚ろな瞳で俺を見つめていた。人間や獣人族のような高度な知能を持つ生物に対しては洗脳が便利だが、普通のモンスターに対しては隷属の方が使い勝手が良い。隷属と違い、洗脳状態であれば潜在意識に暗示を刷り込むことができる。


「アインス。お前はとても疲れている。疲れていないと思っていても疲れている。だから、身体が重くてうまく動かないし、全身が痛む。立っていることもできないほどだ」

「はい……」

 暗示の影響で、アインスは立っていることができなくなりゆっくりとへたり込んでしまう。

「でも安心しろ。アインスはこの首輪を付けていれば疲れを感じなくなり、リラックスできる」

 俺は道具袋から取り出した幻惑の首輪を見せる。この幻惑の首輪には主人である俺の情報が登録されている。

 幻惑の首輪は、元々は想い人のいる奴隷に対して用いるのに適しているものだが、神を愛しているアインスに対しても有効だ。幻惑の首輪は、装着者の想い人への感情を徐々に主人への感情にすり替えていく効果を持ち、大抵は1週間程度で完全にすり替えが完了する。

「うん……」

 アインスが従順に首輪を付けることを受け入れたことを確認して、俺はアインスに幻惑の首輪を装着した。


 下準備を終えた俺は教会を出た。

 洗脳の解けたアインスは、俺が来る前と同じように祈り続けていた。

 アインスの首元では、幻惑の首輪が輝いていた。

 

 アインスは誰に対して祈っているのだろうか?

 神に対して?それとも俺に対して?

 

 俺の口の中で、一瞬マーマレードの皮のような苦い味が流れて、そして消えた。



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