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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
92/164

 第19話 それぞれの前夜⑦/刃堂ジンヤ





「ん……っ♡ ひゃ……♡」



 ジンヤはライカの柔らかい部分へ指を這わせた。


指先が肉に沈む。彼女の柔肉からの心地よい反発はくせになりそうだ。すべすべの引っ掛かりのない肌。ずっと触っていたくなる感触。どうして女性の体というのは、こうも触り心地がいいのだろう。

 ライカと付き合ってから随分と経っており、彼女の体に触れた回数は、もはや数えきれない程になっている。

 それでもやはり、彼女に触れる緊張も、快楽も、少しも減ることはなく、慣れも飽きもなく、毎回が初恋の人と指が触れ合ってしまったような高鳴りがある。



「ごめん……なんか変だった?」

「んーん……ごめん、私の方こそ変な声を出して。どうしてもジンくんに触られてるって思うと、ちょっと……意識しちゃって」



 夜。

 二人きりの空間。

 世界には、ジンヤとライカだけ。

 邪魔する者はいない。

 なので存分に、気兼ねなく、二人は触れ合いを続ける。


「そ、そっか……」


「ジンくんは……意識しちゃう?」


「それは……うん、そうだね。ライカに嘘はなしだ……正直に言って、意識してしまう。

 いけないんだけどな、こんな真面目・・・な時に」







 そう言ってジンヤは手を離す。


 木刀・・を握っているライカの――――太ももから。






「しょうがない……、よね? えへへ……変だね、昔はこんなことなかったのに」

「……うん、だね。子供だったのもあるし、やっぱり僕らの関係が変わった、っていうのもあるのかな……」

「嬉しいような、照れくさいような……うぅ~~、なんだろうなぁ~……ほんと、なんか、不思議だよね」



 彼らが行っていたのは、イチャつきと剣技を組み合わせたまったく新しい概念……ではなく。

 木刀を持ったライカのフォームチェックだ。

 太ももを触っていたのは、なにかいやらしい目的ではなく、脚をどれくらい開くか、体をどう使うか、そういった細かいチェックをしていたのだ。

 なので、余分なことは考えてはいけないのだが――そこは最愛の女性であり、魔性の肉体を持つ少女が相手が。

 


 引き締まっていながら、柔らかさがあるという、恐ろしくも素晴らしいライカの太もも。

 その感触を、刃堂ジンヤの指先は勝手に堪能し始め、刃堂ジンヤの理性がそれを押さえつけようとしていたが、なかなか制御がきかなかった。


「……というか、そんなにぷにぷに……? 私のふともも」

「いやいや全然。筋肉、落としてないよね? すごいよ、本当」

「えっへへぇー、でしょぉー? ジンくんのトレーニングについていってたりしてますもの」

「してますもの? ふふ、なにそのキャラ」


 実際、贔屓目抜きでライカは凄まじい。

 ジンヤのトレーニングは、魔力によって肉体を強化できる騎士に合わせたものも多く、魂装者アルム故に武装形態でない状態で魔力を扱うことができないライカは、完全な生身のまま激しいトレーニングについていってるのだ。

 勿論、現実的についていけないものもある。

 例えば、ジンヤが日課としている魔力の精密操作を行いつつの40キロのランニングなどは、さすがに不可能だ。

 このトレーニングは、『魔力操作』という負荷をかけつつ走ることから、普通に走るよりもずっと厳しいのだが、しかしそれでもジンヤは通常の騎士が極限の集中状態でやっと出来ることを呼吸のようにこなしてしまう。

 それに、騎士の肉体というのは、魔力による負荷をかけ続けると、少しずつ変化していくものだ。ジンヤの肉体は、魔力を抑えた状態でも、魔力を持たない一流のスポーツ選手程かそれ以上のパフォーマンスを発揮できるように変化している。

 なので、彼のトレーニングについていくのは相当にきついはずなのだが。

 それでも――あの再会以降、ライカはかかさずついてくる。ランニングには、雨の日も風の日も、後ろから自転車でついてきてくれる。

 メガホンを持って応援してきた時は『形から入り過ぎじゃない?』と笑ったものだ。



――思えばずっと、彼女と一緒に歩んできた。

 最初に出会った時は、まだ騎士でも魂装者アルムでもなくて、だがその頃から一緒に剣を握って、競い合っていた。

 いいや、競い合っていた――というのは少し嘘になるか。

 なぜならジンヤは今でこそ剣戟最強の候補に名前が上がるまでになっているが、最初は剣技の才能すら持っているか怪しかったからだ。

 ライカどころか、周りの者達にも勝てず、いつも道場の陰で蹲って泣いているのを、ライカは見てきた。

 その度に、ライカは出会った時のように『男が泣くなど情けない』、とそう言葉をかけるか迷ったが……。


「……変わったよね、僕達」


 ふと、ジンヤはそんなことを呟いた。


「……そう? ……んー、確かにそうだね、いろいろ変わった。でも、変わってないこともたくさんあるでしょ?」

「――――確かに」




 ライカの言葉を聞いたジンヤは嬉しそうに微笑みながら、付近に立てかけてあった木刀を手に取り、既に構えているライカと相対する。


 互いに木刀を握り――――静寂。



 変わったことはたくさんある。

 変わってないことも、同様に。

 


 変わったこと。

 強くなった。もう、誰もジンヤが騎士を目指すことを馬鹿にする者なんていない。かつてはそれすら危ぶまれていたのに。優勝できるかどうかについてならば、まだまだジンヤが優勝するなどと思っている者は多くはないが、そんなことはどの選手だって同じこと。

 頂点に立つのが誰なのかを予測するのは困難を極める。それ程、今大会には強者が多い。

 ジンヤを取り巻く環境も変わった。

 多くの者がジンヤをライバル視している。

 立場だって、前とは違う。アンナを守るために《ガーディアンズ》に所属した。きっとこの先、大会が終わってからも、厳しい戦いを続けることになるだろう。

 遠くまで来た。

 ふと立ち止まると、何度もそう実感してしまう。

 

 それになにより――ライカとの関係。


 それは二人にとって、ずっと変わらなかったこと。出会った頃から、ジンヤはライカに憧れていて、彼女のことが大好きで。

 いつも後ろにくっついていて。彼女の陰に隠れて。

 それが今では、ライカを守るのはジンヤの役目で。

 二人の関係も、ただの幼馴染ではない、恋人同士のものになっていて。


 それでも、変わらないことも。

 強くなった。

 ライカとの関係も変わった。

 だが、結局はジンヤが願っていたことは変わらないのだ。


 ――強くなりたかった、ライカを守れるくらい。


 守られる弱い自分が嫌で、

 なにもない自分が嫌で、

 才能がない自分が嫌で、

 彼女に相応しくない自分が嫌で、

 偉大な父の息子に相応しくない自分が嫌で、



 ――だからこそ、ここまで歩いてきた。




 変わったこと。

 変わらないこと。



 ふと、ジンヤは思う――――

 ――――僕はどれだけ強くなれたのだろう。





 相対した二人を、一陣の夜風が撫でた。


 契機はそれだけで、充分だった。






 ライカの速く、鋭い踏み込み。始動モーション――起こりが極端に少ない、まるで滑るような、気がつけば目の前にいるような動き。

 こちらの呼吸を、目線を、意識を読んでいる。

 さながら《天眼》めいた観察眼と、《全知》めいた自身の肉体がどう動くかへの理解、《神速》めいた素早さ。

 

 上段からまっすぐに振り下ろされる。


「ぐ、ゥ……」


 どうにか木刀を寝かせて受け止めた。

 手に痺れが走る。強烈な剛剣だ。

 現在、ジンヤは完全に魔力を封じている。武装形態でないライカは魔力を使えない。対等な勝負をするなら、こちらも魔力を使わないのは当然だろう。

 魔力なしの相手に、魔力で勝っても稽古にならない。

 

 久方ぶりの、完全な非魔導剣戟。危険性としては、騎士の戦闘の方が上だというのに、どうにもこちらにはこちらの独特な緊張感がある。


「――――受けがなってない」 

 

 刹那、腹部に激痛。ライカが振り上げた右膝が突き刺さっていた。


「か、はっ……」


 踏み込み、振り下ろしの勢いそのままの蹴り。

 

(しまった……、完全に鍔迫り合いに移行するつもりだった……っ!)


 剣技に体術を組み合わせてくることくらい、考えていて当然。

 ライカの一刀を受けることに必死で、対処がなおざりだったのもいけない。

 躱すなり、受けるなら受けるで力を受け流すなりして、次へ備えなければいけなかったのに。

 継ぎ目なく次撃を放ってくることくらい、わかっていたはずなのに。


 ジンヤがたまらず後方へ一歩退く。

 だが、痛みに悶えている暇などない。

 ライカはこちらへ既に距離を詰めており、木刀の柄頭を振り下ろしていた。

 至近距離でなら、新たに剣を振りかぶるよりも遥かに速い。

 が、そこまでは許容できない。ジンヤはすぐさま木刀を握ったまま、左腕を上げて、相手の腕が振り下ろされる前に、そこを抑える。

 

 直後――再び激痛、ライカは木刀から右手をぱっと離し、こちらの左脇腹へ鉤突きを打ち込んでいた。


「ぐ……ッ」


 痛みで体勢が僅かにぐらついた――瞬間、視界がぐるりと回った。体勢が崩れたところへ、足を払って倒されていた。

 尻もちをついて、ライカを見上げる形になる。


「――――はい、一回死んだね。……ふふ、まだまだだねー……、ジンくん」


 ゾクリ、とジンヤの全身に震えが走る。

 自らを見下ろして、切っ先を突きつけてくるライカの嗜虐的な笑み、戦いの快楽に身を委ね昂ぶり恍惚に頬を染める彼女は、どこまでも美しかった。


 ――――ああ、これだ。


 この姿に、憧れた。

 かつてジンヤを救った少女。

 ジンヤをいじめていた者達を殴り飛ばし、ジンヤの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らしたあの少女は、はっきりいってガキ大将だとか、乱暴者だとかで済むレベルではなかった。

 あれは、鬼だ。どこまでも鋭く、危険な、暴力の化身。その近寄りがたさが、その気高さが、弱い己には眩しくて仕方がなかった。

 

 ――美しい夕焼けに照らされ鮮烈に輝く金糸。

 何人も犯せない、強い在り方。

 ジンヤの強さへの渇望、その原風景。


 刃堂ジンヤがどれだけ剣戟最強と言われようが、所詮はこの程度。


 ――――ライカは、未だに非魔導の剣戟ならジンヤよりも遥かに強い。


 恐らくは、叢雲オロチと同等か、それ以上。

 

「相変わらずだね……差は縮まってるはずなんだけど、全然そんな気がしない」

「んー、強くなってるよ? ま、私のが強いけど」


 これだけ剣戟の腕があっても、一切の魔力を扱えないライカは、普通に戦闘すれば並の騎士にすら劣る。

 なぜなら、魔力による防御をされてしまえば、非魔力の打撃は限りなく効果が薄くなるからだ。

 でなければ――例えばあの時。ハヤテと再会する直前、ライカが罪桐ユウの策略により、彼の息がかかった部下によって連れ去られた時も、彼女は自力で帰ってきてしまっていただろう。


「――――さ、もう一本いこうか?」


 木刀を肩に担いで、冷たい表情で言うライカ。


(こういうとこ……師匠にちょっと似てるんだよな……、いや……アマハさんに、ってことか。で、師匠もきっとアマハさんに似てるんだ)


 雷崎アマハ。

 ライカの母。日本で二番目に強い騎士。

 彼女の話題を、ジンヤは極力避けている。

 自身に両親への負い目があったように、ライカもまた、同じような傷を抱えているからだ。




 仕切り直して距離を取り、両者は再び構える。



 ライカの構えが変わっていた。

 

 龍上流〝天雷〟の構え――いいや、この場合は薬丸自顕流、〝右蜻蛉〟の方が正確か。


 ライカは魔力を用いる訳ではないので、騎士のためにアレンジされた呼び名は適切ではない。

 

 あそこから繰り出されるのは、ただひたすらに速さと強さを求めた一撃。

 

 龍上ミヅキのように野太刀を扱っている訳ではないので別物と言えるが、それでも生半可なものを彼女が繰り出すとは思えない。

 

 速度、威力は恐ろしいが、軌道は読める。


(落ち着いて、確実に躱せば――……、)


 意識が極限まで張り詰める。


 いつだ? いつ……、いつ動く? その一瞬を見逃ぬために、全神経を導入しライカの動きを掌握する。




 ――――動いた。


 やはり速い。刹那の肉薄。だが、読める――――と、そう思った時だった。





 ライカは、まだ間合いでもないのに、刀を振り下ろした――なぜ? 読めていたはずが、ここで予想外の動き。


 そこで気づいた。

 構え自体が釣り・・なのだ――、振り下ろしてくると、そう予測させたところでの変化。実際は、振り下ろしではなく、突き。

 しかし、踏み込み自体は激烈。モーションの変化を読ませない流麗な動きでありながら、勢いそのままの、恐ろしいまでの鋭さ。

 読み間違えたもの、それでもまだ反応は間に合う――!


 躱すか、捌くか。


 高速のやり取りの中で、長考などする余地はない。ほぼ直感で捌くこと選択。

 剣を横に振って、相手の剣の側面を叩き払う。

 だが。

 ――再びそこで戦慄させられる。


 ライカの突きを払おうとしたこちらの剣が、あっさりと躱された。

 上段から突きへの変化、そこからさらに突きの軌道が沈んで、喉元から心臓へ狙いが変わった。


 膝を柔らかく曲げて、ほぼ上半身の動きがないまま、突きの軌道を変えてみせたのだ。







 

「――――はい、また死んだ」


 ぴたりと胸元の手前で剣を止めたライカが冷たく妖艶な笑みのまま、慈悲なく告げる。





 

 怖い。強い、強すぎる、その強さはもはや恐怖だ。

 しかし、だからこそ、ジンヤはどうしようもなく彼女に惹かれてしまう。


 ジンヤはハヤテ、ミヅキ、ユウヒなど、剣に生きる者達との戦いを好む。勿論、それ以外の戦い方をする者と競い合うことも好んではいるが、やはり剣戟は格別だ。

 

 剣に生きる者、剣に狂う者――剣鬼。

 雷崎ライカは、ジンヤが知る剣鬼の中で、最も美しい剣を持ち、その在り方も、振る舞いも、何もかもが心を深く捉えている。


「……っはぁ……クソ……マジかあ。……やっぱり強いなあ、ライカは……」

「ふふ……龍上君や輝竜君……《神速》の系譜にある剣士なら、こういうことはしてきそうじゃない? 今から備えておかないとね」

「あー……、確かに。これは想定できなかった僕が未熟だ……」


 どれだけ剣速に自信があろうが、それだけでは対応のしようもある。だからこそ、磨きあげた最速の一撃すらに使うという大胆さが必要になる。

 ――必殺の一刀は、それに対する相手の恐怖や警戒といった心理を掌握、利用してこそ、さらなる必殺となり得る。

 この考え方自体は、ジンヤもわかっていたはずだ。

 《迅雷幻閃エクレール・ファントム》――風狩ハヤテ戦で、彼の絶対のカウンターに思えた《凪の構え》を破るために編み出した、フェイント技術。

 《迅雷一閃エクレール》が警戒されるからこそ、まったく同じモーションのまま《迅雷一閃エクレール》からの変化が可能になるファントムが活きる。 


「もう一本いく?」

「もちろん、お願いするよ」


 ライカには魂装者アルムとして、自身の武装形態を磨いていかなくてはならない。

 なので、彼女との稽古は頻繁に出来る訳ではないが、やはりこうして剣を交えるのは、ジンヤにとって至高の一時だった。

 

 ハヤテはジンヤとの戦いを、ナギとの触れ合いに勝るというようなことを言って、ナギに怒られたらしいが――、であれば、触れ合いと斬り合い、どちらも出来てしまう雷崎ライカという存在は恐ろしい程素晴らしいな……などと、ジンヤは脳内で惚気る。


「……ねえ、ライカ」

「ん、なーに?」

「次一本取ったら…………もう一回ふともも触ってもいい?」

「…………ん? んん、んにゃ、んにゃにいって!?」

「隙ありっ!」

「甘い!」


 再びライカの勝利。


「……もー、ジンくん、稽古中にそういうおふざけする人じゃないと思ってたのにな……幻滅。しかもそれでも負けてるし」

「うう……ごめん。今のは稽古よりはイチャイチャ寄り……」

「まったく、しょうがないなあ……」

 

 ちらちらとスカートの裾をなびかせて、太ももを見せつけてくる。

 ジンヤがそこへ手の伸ばすと――ぺしん、とライカに手をはたかれた。


「私に勝てない弱っちい人には触らせなーい」

「ぐ、ぅう……」


 こう言われては、ジンヤは絶対に手を出せない、そこだけは彼のプライドが妥協を許さない。


「……ふふ、あははっ。ジンくん、ホントに悔しそぉ~……あぁ、かーわいいっ♡」

「ぐううう……」


 また小悪魔ライカだった。

 数日前の『風呂水着チンアナゴ事件』以降、時折こうして現れては、ジンヤを弄んでくる。

 だが悪くない、どうにもこうしてやられてしまうのも悪くないのであった。


 付き合っていると、こういった適度な刺激が、二人の間にマンネリを許さないのだ。勿論、ライカとの間にそんなものはないのだが、より高みを目指すというのは大切なことだ。


 その後も二人は夏の夜空の下で、心ゆくまで斬り合い、触れ合う。


 ◇


「……明日は試合だし、もう少し軽めでもよかったかな……」


 ライカとの稽古後、ホテルに戻ってシャワーを浴びて、心地よい充実感に包まれたまま、ベッドに身を投げ出す。

 ライカが出てきたら、もう一イチャイチャしてから寝よう……となどと考えた後、ジンヤは一度思考を切り替える。


 ――明日はいよいよ二回戦。

 対戦相手は、屍蝋アンナ。

 一度勝った相手とはいえ、気を抜けるような相手ではない。

 それに、前回のアンナ戦、リング上ではなく、屋外での戦いは恐らくジンヤに有利に働いていた。

 影を封じるために、日陰となる路地裏へ誘い込む作戦。それに、ビルの屋上から突き落とし、影から切り離したことで影を封じるという、決め手となった策。

 思い返せば、我ながら無茶したものだ。

 これらはリング上では使えない。

 影を封じることができないとなると、正面から屍蝋アンナを破らなければならない。

 確実に、厳しい戦いになるはずだ。


 ――勝つ、必ず。

 決意を燃やすと同時、胸が高鳴る。


 屍蝋アンナは強敵だ。そういう相手と戦う前夜は、やはり得難い興奮がある。





 ――と、そこで。


 端末にメッセージが――送信相手は、屍蝋アンナ……ではなく。



 ――――花隠エイナ。

 屍蝋アンナの魂装者アルムだった。

 




『夜分に申し訳ありません。今から少しお話があるのですか、よろしいでしょうか?』




 ――なんだろうか。

 アンナならともかく、彼女から連絡があるのは珍しいことだった。

 タイミングからして、明日の試合のことのはずだ。


 メッセージには、ライカもついてきて欲しいと書いてあった。

 ジンヤは、ライカが風呂から上がるのを待って、彼女と共に、待ち合わせの場所となるホテルのロビーへ向かった。

















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