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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
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 第17話 それぞれの前夜⑤/龍上ミヅキ


「ハーイ、そこのイケメンくん、ちょっとお姉さんとトークどうデスー!?」


 大会出場選手が宿泊するホテルの前。

 そう言ってその女性は、ホテルから出てきた男に声をかけた。


 彼女の年齢は判別が難しかった。女子高生にも見えるし、もっと上にも思える。

 美しい金色の長髪。顔立ちからして日本人ではないだろう。碧眼に、通った鼻筋。

 真っ白いシャツの裾を結んで、へそが大胆に露出している。豊満な胸元は、薄い生地のシャツを膨らませ、輪郭が露わになっている。

 桜色のフレアスカート。白との組み合わせにより、爽やかな印象を受ける。

 胸元には大きなサングラスが。

 顔立ちと合わせて、どこかハリウッド女優のような雰囲気。


 その女性が声をかけている相手は――――


「…………、」


 龍上ミヅキだった。

 ミヅキは女性を一瞥するなり、興味なさげにため息をついた後、無視して歩みだした。

 彼の後ろには、彼の服をちょこんと摘んで後ろをついていく少女、めるくの姿も。


「ちょちょちょっ、ウェイウェイウェイ、ウェイト、ウェイトデースっ! マジですか、リアリー!? こんなにパーフェクトボディのセクシーガールが話しかけて無視するってことありマス!?」

「…………用件」

 

 舌打ちの後、ミヅキは端的にそう言った。


「ワーオ……信じられないくらいクールデスねー……でもいいデス、ますますワタシ好みでフォーリンラブデスね!」



 女性は屈託のない笑みを浮かべつつ、ミヅキに近寄ってくる。

 そこで彼女は気づく――自分を睨みつける、小さな少女の姿に。


「ワオ……アナタは……」


 金髪の女性が、目を丸くした。


「……ぐるる、ふしゅー……めるく、このおんな、きらい……」


 ミヅキの後ろに隠れつつも、敵意を剥き出しにして女性を睨むめるく。

 

 珍しい状態だった。

 だが、そもそもこの状況自体が珍しいのだ。

 龍上ミヅキへ密かに想いを寄せる異性は多いが、しかしミヅキは常に近寄りがたい雰囲気があり、話しかける勇気がある者などそうそういない。

 

 なのでこの女性はレアケースでイレギュラー。

 めるくにとって、緊急事態の危険生物だ。


「ホワイ……? なんだか嫌われてしまいましたネ? なぜでしょう? 大丈夫デス、いつかアタナもワタシのような素敵なレディになれますよ?」

「…………き・ら・い!」


 大きな胸を激しく揺らしながら煽ってきた女に、ずんずんと小さな足で地面を踏みしめつつ、怒りを露わにする。


「……ハァ。いい加減にしろ、テメェはなんだ?」

「ワタシはハンター・ストリンガー。次のアナタの対戦相手デス」

「ンなこた知ってんだよ。オレに絡む目的は?」

「ンー……ソーデスネ、アナタにラブだからデスかね?」

「……、」

「ア――――っ、なぜっ、デスっ、かぁ――――!?」


 再び突然無視して歩みだそうとするミヅキに、ハンターは慌てて駆け寄る。


「……ワカリマシタ……手短に、本題だけ話マス……。ウゥ……ホントはアナタとたくさんお話したかった乙女心とか理解して欲しいのデース……」


 軽薄で掴みどころがない彼女だが、ミヅキに相手にされないのは本気で堪えているらしく、落ち込んだ顔をしてみせる。

 



 だが、彼女はすぐに表情が一変させて。








「――――めるくちゃんのことです。興味ありますよね?」


「……どういうことだ?」





 ミヅキもまた、声音と表情を変えた。

 めるくについては謎が多い。

 ハンターは、事前にセイハに聞かされていた外部からの騎士だ。

 つまりは『裏』の人間。めるくのことを知っていても不思議ではない。






「ワタシに勝てたら、めるくちゃんの正体・・を教えてあげマース! ただし……」





「……、」


 ミヅキとめるくは、注意深くハンターの言葉へ耳を傾ける。

 ふざけた態度ではあるが、今後の自分達にとって重要な存在になるかもしれない。

 彼女の存在が、急激に無視できないものへと変わる。

 
















「――――ワタシが勝ったら、アナタはワタシの彼氏になってもらいマス♡」


「こ・ろ・すぅぅっ!」





 ハンターの爆弾発言に、めるくがブチギレた。


















 べしべしとハンターを小さな手で頑張って力いっぱい叩くめるく。ハンターには少しも効いていない。

 『それでは、試合でまた会いましょう、グッバイデス、ワタシの未来のダーリン♡』――とそんな勝手な言葉を残して、ハンターは嵐のように去っていった。




「みづき!」

「ンだよ……」




 ハンターが去った後、めるくがぷっくうううう……と頬を膨らませ、ちょっと涙目でミヅキを睨んでくる。




「やっぱり、ああいうのが、いいの!?」

「……チッ、ハァ~……。テメェもずいぶん面倒になってきたな……」

「みづき!」

「……なんだ」

「あいつにかてる!?」

「楽勝だ。風狩の野郎に負けた時に誓っただろうが。オレとテメェで頂点を取る。あの言葉に偽りはあるか?」

「ぜっっっったい、ないっっっ!」

「だったらアイツをぶっ飛ばして、アイツから情報だけぶん取る、そんだけだろ。文句は?」

「ないっっっ!」



 ミヅキはその言葉を聞くと、牙を剥いて凶悪な笑みを浮かべた。

 めるくも真似をして、可愛らしく尖った犬歯を剥いて、ミヅキのような笑みを浮かべる。


 ――――なにも変わらない。

 突然変な女が絡んでこようが、なにも。




 二人のやることは、何一つ変わらず――――勝つことだけ。











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