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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第2章 疾風と迅雷の友情譚
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 第一話 『付き合う』って

 ファミレスの店内で向かい合って座る二人の少女。


 一人は、燃え上がるような赤色の髪。高めの位置でくくったツインテールは、テール部分がロールしている。

 制服を押し上げる豊満なバスト。ブレザーの前を開け、Yシャツのボタンもろくに止めていないの胸元から谷間が覗いている。谷間のすぐ上には炎を象ったネックレスが。

 赤色のリングピアスが左耳に二つ、右耳に一つ。左手首には黒のシュシュが。

 グラスに注がれたコーラ。そこから伸びるストローが艶めくピンク色の唇に捉えられた。

 ストローでグラスの氷をかき混ぜ弄んでいると――衝撃的な言葉が、向かいに座る金髪の少女から発せられた。


「ジンくん、浮気してるかも……」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


 反応が遅れた。


 それくらいに、信じられないことだった。


「浮気……? マジ……?」


 思わずグラスをかき回していた手が止まった。


 驚愕の色が滲む声をもらした彼女は龍上キララ。黄閃学園一年。

 常に友人を従えており、クラスの中心にいるギャルだった彼女だったが、最近では交友関係が少し変化した。

 例えば、目の前の少女とよく遊ぶようになった。

 眩い雷光のような黄金の髪が、さらりと腰まで伸びている。

 きちんと着られた制服。キララのように制服を着崩しているわけではないというのに、はっきりと形がわかる程、制服を押し上げてその存在を激しく主張する、キララ以上に大きな胸。

 その豊かさはキララを凌駕していた。

 澄み渡る空のようなブルーの瞳には、今は不安の色が滲んでいた。

 同じく黄閃学園一年、雷崎ライカ。

 キララ同様派手なギャルのようだが、派手なのは髪色だけで、それ以外の制服の着こなしや立ち振舞は上品さがある――ように、必死に見せている。

 幼い頃の彼女は男よりも男らしく、男よりも強い、がさつな少女だった。

 しかし少女は恋をした。恋は人を変える。未だ過去の名残はありつつも、幼少期に比べれば遥かに女らしさを得たライカ。

 項垂れるようにストローへ口を運び、グラスに注がれたオレンジジュースで喉を潤す。

 ……過去の彼女なら、ストローなど使わず一瞬で飲み干す、ドリンクバーを干上がらせんばかりの勢いで飲み干す。もうそんな傍若無人な彼女はいないのだ。


「……えっと、なんで? 見ちゃった、その……ジンジンがアレしてるとことか……」

「アレって……?」

「え? そ、そりゃ、ほ、ほ……ホテル、とか……その女の人と、出たり入ったり……」

「え、見てない見てない、そんなの見てないよ」

「あっ、そうなん。よかった、ビビったー……」


 キララはギャルだが、処女だった。

 なので発想が極端なのだ。


「じゃあなんで? ってかどういう感じ? もう確定? まだちょっと怪しいかな~くらい?」

「かなり怪しい」

「かなりか……マジか……」


 呆然として、テーブルの一点を見つめ、しきりに「マジか……」と呟くキララ。


「……なんで、怪しいってなったん?」

「ジンくんさ、過去のこと……中学時代の三年間のこと、絶対話さないでしょ?」

「あ、それわかる。なんか隠してるよね」

「そうなの! 絶対その時のことだけ話さないの、それより前のことはたくさん話すのに」

「だよね! ってかライちゃんのことばっかじゃない? 昔のライちゃんはこうだった~、ライちゃんはすごい~、昔はがさつだったけど可愛いとこもあった~とか、そんなん」

「昔は……」


 ライカの顔色が悪くなっていく。


「私は、昔の女……」

「いやいやいやいや」


 確かに昔の女ではあるだろうけどさ、とキララは内心でツッコんでおく。

 昔の女――というか、昔からの女だろう、幼馴染なのだから。


「やっぱ、隠すってことは、中学時代に別の女がいて……今、二股、的な……?」

「そうなのかな~……って」

「うっわ、だとしたら最低じゃん~……」


 つい先日、ライカとジンヤが付き合っていることを発表した場で、ライカからジンヤを奪おうとしていた女の発言だった。

 キララはたった今、凄まじい棚上げをしていることに自覚はあったが、この重い空気でそこに触れるとさらにややこしくなるだろうと思い、ひとまずそのことから目を逸した。


「……なんか、決定的な証拠ある感じ? 直接見てないなら、端末の履歴とか」

「え……か、彼氏の端末って、勝手に見ていいの?」

「いいっしょ?」

「でも、人のだよ……」

「いや~浮気疑われる男が悪くない?」

「そういうもの……?」

「そうだって」

「でも……」

「見てないの?」

「見てない」

「甘いってマジそれ、甘いな~!」


 キララは処女だった。そして、彼氏いない歴=年齢だった。

 故に彼女の発言のソースはドラマと少女漫画なので、発想が極端だった。


「でも、怪しいことならあってね……」

「なになに?」


 キララは不謹慎ながら、少し楽しくなってきていた。

 『浮気の相談に乗ってあげられるアタシ』に酔っていた。まるで恋愛強者のように振る舞えるから。


「アルバム、なんだけど……」

「アルバム? 中に女の写真でもあった?」

「ううん、中が見れないの」

「見れない? どゆこと?」

「見ちゃったの……鎖がぐるぐるに巻かれて、鍵がついてるアルバム」

「うわ~……なにそれ……?」

 いかがわしい写真でも入っているのだろうか……とそこまで想像して、キララの顔は赤くなった。

「どうしよう、キララちゃん……」


 どうしよう……とキララは焦る。

 こっちが聞きたかった。

 鎖が巻かれたアルバム――そんな不思議なアイテムが出て来る少女漫画は、読んだことがない。そもそもなんだ、鎖とは。魔導書か、とキララは脳内でジンヤに文句をつける。


「そこは、もうバシッと聞くしかなくない?」

「……え?」

「直接ジンジンにさー、『なにこれ?』って突き出しちゃいなよ」

「で、でも……もし……」

「そーやって立ち止まっててもしゃーないっしょ? なんだそんなことかって笑えるオチがあるかもしれないし……もしもの時はさ、アタシも怒るし、アタシの胸ならいくらでも貸すからさ……」

「キララちゃん……!」


 パッと顔を上げるライカ。

 何かが、二人の女の間で通じ合った気がした。

 ほっとするキララ。

 先刻のセリフは、キララがこれまで読んできた少女漫画に登場する、頼れる友人キャラ(サバサバ系のクールな姉御タイプ想定)が言いそうなセリフをシミュレートし編み出したものだ。


「ありがとう、キララちゃん……! わかったよ、私、ジンくんに聞いてみるね……!」

「うん、それがいいよ。こんな話しちゃった後に言うのもなんだけどさ、自分の彼氏くらい、自分だけは最後まで信じたげなよ……よく考えたら、ジンジンに限って、それはないって」

「うん、うん……そうだよね!」


 よかった……と胸を撫で下ろすキララ。

 勝手に盛り上がってしまったが、あのジンヤが浮気などあり得ないと思う。

 龍上キララ、十六歳。

 まだ恋はしていない…………はずだった、つい最近までは。

 しかし、目の前の友人の彼氏で、最近知り合った少年。

 自分を変えてしまった男――刃堂ジンヤに恋をしていた。

 ライカに笑顔が戻ったことが嬉しくもありつつ、ちくりと少しだけ、胸が傷んだ。


 ある日の放課後。

 ここ数日、キツめのメニューが続いていたので今日はオフに。なのでライカは僕の家に遊びに来ていた。


『オフの日にパートナーとの絆を深めるのも騎士シュヴァリエ魂装者アルムにとっては大切なことでしょ? ことだよね? ね?』


 とライカに言われ(……ゴリ押され?)、なるほどと頷いてしまったので断れなかった。

 正直、ライカと付き合うということになってから、彼女との距離感が急にわからなくなってしまったので、そのタイミングで家に来られるというのは……いやではないんだけど、嬉しいんだけど、すごく、困るというか、どうしたらいいかわからない……。

 出会いが多い月である4月を終えて、今は5月を迎えていた。

 先月に起きた出来事。

 ライカとの再会。

 キララさんとの出会い。

 クモ姉の抱える事情を知り、

 因縁の相手である龍上君と決着を付けた。

 僕の人生の中でも一際濃密だった一ヶ月だった。

 そして、僕とライカは、僕らの夢のため、これから先に控える彩神剣祭アルカンシェル・フェスタの準備を――……


「ねえ、ジンくん……これなに?」


 準備を……しているはずだったんだけど。

 僕とライカの間に置かれているのは、細い鎖で縛られたアルバムだった。

 鎖で縛られ、錠前がつけられている。

 なにやら怪しげというか、物々しいというか、何も知らない人が見れば不思議に思うだろう。

 これは、僕にとって大切なものなのだ。

 同時に、これを開くわけにはいかなかった。

 この鎖は、僕の決意だ。

 ある思い出を封印しようという、固い決意。


「これは――」


 ある約束があった。

 僕と彼は、二人ともやらねばならないことがあった。

 互いに目的を果たすまでは、そのことだけを考えようと決めた。

 だから僕らは、過去を思い出さないことを誓いあった。

 ……いや、そもそも僕らは二人とも、あの地獄のような日々を積極的に思い出したくないというか、記憶が消えるような目に何度もあってるから、思い出せないことも多々あるだろうけど……と、それはさておき。

 僕は目的を果たした……と言ってもいいと思う。

 ライカと再会し、彼女にふさわしい騎士になり、因縁に決着をつける。

 だから今、彼のことを思い出すことを自分に許可できる。

 そうなったら、僕は話したくてしょうがない。

 僕の大切な人に、親友のことを知ってほしい。

 こんなにも素晴らしい男が、僕の親友でいてくれるのだと。

 そして、彼に――ハヤテに早くライカを紹介したい。

 どうだ、僕の彼女は可愛いだろ、って。

 ……彼はどうだろう。目的を果たせたのだろうか?

 彼のことだ、きっと果たせているに違いない。

 信じよう。だから、僕はライカに話さなければならない。いや、話したくてしかたないんだ。

 さぁ、封印を解く時が来た。

 かちゃり、と鍵が開き、じゃらりと鎖が解けていく。

 アルバムを開く。

 そこには――笑顔で笑う、僕とハヤテ。


「……中学時代のジンくん? こっちは?」


「僕の親友。ずっと黙っててごめん。そういう約束……というか、願掛けみたいなものだったんだ。僕ら二人には目的があるから、それを果たすまでは過去のことは忘れて、目的だけを見ていよう、って……この約束には、続きがあって――」


「ジンくん……ごめんなさいっ!」


 僕の言葉を遮って、ライカが勢い良く頭を下げる。


「え、ええ……なにに対しての謝罪なの?」

「私、ジンくんのこと疑ってた……浮気してるんじゃないかって」

「う、浮気!?」


 誰が!? 僕か!? なんで!? 


 浮気って、まず彼女がいないんだけど………………って、いたか! 目の前に可愛い彼女がいるな! そうだよ! 彼女が、ライカがいるんだ僕には!


「こんなに可愛い彼女がいるんだから浮気なんてするわけないよ!」

「か、かわいいって……もう……」


 顔を赤くしてもじもじするライカ。

 今そういうのはいいんだけど。

 浮気の話は……?

 でも照れるライカも可愛いな……。


「……もしかして、僕、不安にさせてた? あんまり、彼氏としてしっかりしてなかったかな……」

「そんな、こと……」


 弱々しい否定は、言外の肯定だった。

 ……僕も、男だ。

 言葉を重ねるよりも、すべきことがあると思った。

 僕はライカを抱き寄せて、抱きしめる。


「ごめん……なんか、照れくさくて……」


 あの時――龍上ミヅキ、二度目の決定的な敗北をして、失意の底にいた僕をすくい上げてくれた日以来の、久しぶりに彼女の温もりを感じることが出来た。

 温かくて、柔らかくて、愛おしくて。

 離したくなくて、誰にも渡したくなくて。

 抱きしめていくうちに、そんな気持ちが湧き上がってきて、腕に込めた力が強まってしまう。

 彼女の方も、手を回して強く抱き返してくれる。


「ごめんね、ライカ」

「……そんな。謝るのは私のほう、勝手にはやとちりして……」

「いいや、不安にさせた僕が悪いんだ」 

「……ずるい。優しすぎ」

「ライカだってずるいよ、可愛すぎる」

「…………~~~~っ……もうっ! そーゆーのもズルだよっ!」


 ぺしっ、と両手で顔を抑えられる。

 むー、と頬をふくらませるライカ。

 ……なんか今、すごい『付き合う』ってこんな感じなのかなって思ってる。

 馬鹿っぽい。傍から見てたら、絶対に鼻で笑う。外でこんなことしてるカップルがいたらイライラしてしまうと思う。

 でも。


「……楽しい」

「……ふふ、何が~?」

「ライカといるのが」

「私も~」


 でも、いいだろう。

 どうせこの部屋には僕らしかいないんだ。誰が見ているわけでもない。誰に憚ることなく、イチャイチャできる。

 よくわからなかったし、恥ずかしかったけど……たぶんこういうのが『付き合う』ってことなのだろう。

 僕らはきっと二人とも、恋愛がへたくそだ。お互いに付き合うのなんて初めてで、どうしたらいいかなんて全然わからない。

 へたくそはへたくそなりに、ゆっくり自分たちのペースで進んでいこう。

 そんなことを考えながら、僕はライカとの時間を過ごした。


 


 □ □ □


 後から思えば笑ってしまうような浮気騒動から数日後。

 時刻は昼前。

 僕とライカは商業地区で待ち合わせをしていた。

 前回も同じように出かけることになった時は、デートなのだろうかと思っていたが、今回はデートだと断言出来る。

 合流してから、とりあえずお昼にして、それから二人で商業地区を見て回るというプランになっていた。

 待ち合わせ場所へ向かう電車の途中、ライカからチャットが届いた。

 

 ライカ:限定販売のクレープ見つけたよ

 ジンヤ:……お昼前だよ?

 ライカ:でも、限定だよ!

 ライカ:限定だよ!


 ハリネズミを模したキャラクターが慌てふためいて転がっているスタンプが送られてくる。


 ジンヤ:限定ならしかたない

 ライカ:じゃあ私並ぶね! 並ぶからね! ジンくんの分も買っておくね!

 ジンヤ:ありがとう

 ライカ:それじゃ、あとでね


 端末をしまう。

 しょうがないな……でもクレープなんて、ライカにしてはなかなか女の子らしい。

 限定で並ばないといけない、さぞおいしいのだろう。

 クレープの味と、それからそれを頬張るライカの笑顔を想像すると、彼女に会うのがさらに楽しみになってきた。


 □ □ □


 待ち合わせ場所は、前回と同じく剣が刺さった台座のオブジェがある場所だ。

 相変わらず子供が剣を抜こうとしている。

 微笑ましい視線を子どもたちに向けた後、辺りを見回してみる。

 ライカはいない。

 クレープを買うのに、そんなに手間取っているのだろうか?

 その時だった。

 何かが落ちているのに気づいた。

 それは。

 二つの、クレープだった。

 ――刹那、端末に着信。

 相手は、ライカだった。

『ごめん、クレープ落としちゃった』……そんなライカの声を期待する……だが。

 通話先から声がしない。聞こえてくるのは、車の走行音と……それから、波の音。

 そして。


『おい、ちゃんと見張っとけよ』

『ああ? 見てんだろうが……って、おいなに持ってんだ!』


 ――通話が切れる。

 頭が真っ白になった。

 次の瞬間、怒りが、沸騰する。

 ライカが、さらわれた。

 今の一連の出来事に、理解が遅れてついてくる。

 走行音。波の音。相手は車で、沿岸部付近…………なら、あそこか。

 これでも人々を守る騎士を目指しているし、父さんは一流の騎士だった。こういう事態への心の備えはある。

 魔力を解放し、疾走を開始。

 人を拐って隠して移動するのに車は都合がよかったんだろうが、だったら追いつくのは簡単だ。

 こちらは車よりも速度が出て、道路なんて関係なくルートを選べるのだから。

 犯人は、相手の人数は、相手に騎士はいるのか、いるのならば能力は、目的は、なぜライカが狙われた…………とりあえず、今は全てがどうでもいい。

 どれだけ冷静に徹しようとしても無理だった。

 最愛の人を助ける。

 今はただそれだけしか考えられなかった。


 □ □ □


 目星をつけた場所に到着した。

 沿岸部に立ち並ぶ倉庫。その近くに不自然に停められた車が一台。

 ……どうにも杜撰だ。

 何かの罠だろうか。だがここで待っていても仕方がない。

 都市の治安も守る組織《ガーディアン》へ連絡することも考えたが、到着が間に合うかはわからない。

 何かあってからでは遅い。通報は入れておくが、頼るつもりはなかった。

 一つの倉庫へ入っていく男を見つける。

 男が入っていった倉庫の中の様子を伺う。

 そこには。

 …………ライカが両手を鎖で縛られていた。

 外傷はないように見える。

 周りにいるのは、男が一人だけ。男からは魔力を感じない。

 相手は非騎士一人だろうか、ならばなにも問題はない。

 僕は男の背後へ素早く近づき、首を締め上げる。


「……なっ、てめえ」

「――どういうつもりだ?」

「な、なにがだ」

「これはどういうつもりだって聞いてるんです。答えないなら意識を落とします。続きはガーディアンの人に任せましょうか」

「……そ、れは……、」


 男が言葉を発するよりも早く――


「続きなんかねえんだよ!」

「が、あッ……」


 背後から衝撃。体が地面に叩きつけられる。

 どうして……相手は一人だったはずなのに、どうして背後から……。


「やっぱ釣れたか、ちょうどいいな、まとめて処理できて捗る」


 背後に視線をやると、そこには誰もいなかった――と思われたが、次の瞬間。

 そこに一人の男が現れた。足元から順に、透明だった体が出現する。

 そういう能力の持ち主か……っ!

 男の手にはナイフが。それが放つ魔力量から察するに、あれは魂装者アルムか……。

 こっちは生身、向こうは魂装者アルム持ちの騎士……かなり不利だ。

 透明化の能力を持つ男が、僕を踏みつける。


「ぐッ、あァ……っ!」

「とりあえず今年は諦めてもらう程度にゃ壊れてもらうぞ? そんじゃまあ、死んどけよ!」


 ナイフが振り上げられ、

 振り下ろさ――――、


「――――テメェが死ねボケ!」


 刹那。

 ナイフを振り下ろそうとしていた男に、鮮やかな飛び蹴りが突き刺さった。

 男の体が吹き飛ぶ。


「うっわ、ボロボロじゃねえかよ…………ってほどでもねーか、でもまあヤバかったんじゃねーの? なぁ、ジンヤ」

「……キミは!」

「おいおい、言うほど久々じゃねーだろ」


 風になびく翡翠の髪。軽薄そうに歪む口元。


「……ああ、そうだね……でも、とても久しぶりに感じるよ、ハヤテ」

「まー、あの頃は毎日顔つき合わせてたからなあ……っつーかさ、これあの時っぽくねえか?」

「……ああ、確かに」

「だったら、わかってるよな、おらさっさと立てって」


 差し伸べられた手を掴み、僕は立ち上がる。


「で、俺らはこう言うわけよ、なあ?」

「ああ……」


 吹き飛ばされた男が立ち上がり、こちらを睨みつける。

 あとからぞろぞろと、魂装者アルムを持った騎士が現れる。

 あっという間に囲まれてしまう僕ら。

 あの時と同じだ。

 だから僕らはこう言うのだ。

 

「負ける気がしないね」「負ける気がしねえ」



 これが、僕と親友との、再会だった。

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