第12話 誰よりも速く
『凄まじいスピードだぁあああ――――っっっ!!!
もはや実況が追いつきませんっ!!
高速で繰り返される技の応酬!!
この勝負、相手を振り切るのはどちらだ――っ!?』
実況の桃瀬が声を張り上げ、歓声が響き渡る。
Dブロック第三試合
電光セッカ対ライトニング・ヘッジホッグ
セッカとライトニング、二人には共通点が多く存在していた。
共にランクはB。
共に敏捷はA。
共に雷属性。
共に、武器はスピードだ。
セッカの武器は両足を覆うフルグリーブ。
ライトニングの武器は、両手に持った長さ60センチ程の大きな針。
互いに相手をスピードで翻弄するタイプ。
この同系統対決がどうなるかと言うと――、
お互いにリングを縦横無尽に駆けながら、攻撃を加えていく。常に激しく動き回り、相手を揺さぶり、どうにか置き去りにしようとするも、その速さは互角。
観客から見ると、二人の動きが霞んでは現れ激突し、再び霞み――ということが繰り返される、高速のぶつかり合い。
ライトニングの方は、針を出現させる限界が二本ではないようで、時折投擲が織り交ぜられるも、セッカはそれを全て蹴り落としている。
遠距離がある分、ライトニング有利に思えるが、そこはセッカが常に距離を潰す動きをすることにより、投擲を封じていた。
「速ェ――じゃんオマエェッ! どいつもこいつもノロマばっかりだと思ってたから嬉しいよォォッ!!」
「カハハッ! ほざけよガキッ、テメェもオレからしたら、ノロマなんだよォッ!」
「ハァッ!? 僕がノロマァァ……!? ナメたこと抜かしてんじゃねえぞ、ぬるま湯につかったザコのくせにさァァッ!」
激しく罵り合いながらも、二人の顔は狂笑に染まっていく。口端を吊り上げ、牙を剥き、爛々と輝く瞳で相手を睨めつける。
二人とも速さにプライドを持った騎士だ。
そこへ目の前に、自身に勝るかも知れない速さを持った相手が現れた。
ならば、比べるしかないだろう――――どちらが速いのかを。
(――もっと速く、速く、魔力ブン回せ、魔力神経が焼き切れたって構わねェッ!)
魔力神経への負荷を度外視して魔力を流す。
全身に電気を流し、限界超過駆動を成す。
ジンヤが使う《制限機構解除》と同じ原理の技だ。
だがその練度ではジンヤに劣るだろう。《精密》においてジンヤに勝る騎士は学生レベルではそうそういない。
これは、そこまで《精密》を上げなければ、他の騎士と勝負にならない程に、ジンヤの他のステータスが低いということでもあるが。
同じ技はライトニングも使っている。
身体能力、出力、雷属性の魔力による肉体強化術式の練度――複数の要素によって、二人の速さは成り立っている。
激しいぶつかり合いは、その実神経を擦り減らすような精密な術式行使の勝負でもあった。
◇
(――所詮、『表』の温いヤツかと思ってたけど……こいつ、強いなァ……)
警戒していたのは、この先で当たるである輝竜ユウヒだったが、この相手も想像以上に出来る。
ライトニングの中に焦燥が芽生えた。
ここで負ける訳にはいかない。
ここで負けたら、レヒトの役に立つことが出来ない。
レヒトの求めた戦い、その礎にならなければいけないのだ。少しでも多く、彼の役に立たなければいけないのだ。
レヒトは斎条サイカという化物に勝つだろう。
自分ならばきっと、あの少女には勝てない。
――自分の分は、弁えている。
ライトニング・ヘッジホッグは、大会を優勝出来る器ではない。
それでも――そうだとしても、レヒトの役に立たなければいけないのだ。
この相手に勝って、次の輝竜ユウヒ戦、そこで少しでもユウヒの手の内を引き出さなければいけない。
輝竜ユウヒにだって、勝てないかもしれない。それでも、ヤツの手の内を引きずり出して、レヒトの役に立つ情報を手に入れなければいけないのだ。
同じくレヒトの部下である、ルピアーネのように、みっともなく一回戦で負けることなど許せない。
――――ライトニングには、なにもなかった。
ただ空っぽの自分を満たすために、自身のちっぽけなプライドを満たすために、他者を痛めつけるような力の振るい方をしていた時代。
そんな時、レヒトに出会った。
『――貴様のその力、オレのために振るうつもりはないか?』
最初は、ムカついた。
なんだこいつは。いきなり現れて偉そうに。こういう偉そうなヤツを地べたに這いずらせた時こそが、最高の快感なのだ。
戦って、地べたに這いずったのは自分の方だった。
痛感した。この人間は、レヒト・ヴェルナーは、生物としての格が違う。彼は、違う人間なのだ。そして、そんな人間に出会ってしまった時、ライトニングはどう思ったか。
――自身の空虚な人生は、彼のためにあると思った。
彼のために生きよう。
こんな塵屑のような自分でも、彼は必要としてくれる。
――――誰よりも速く。速く駆け抜け、稲妻となり、彼の敵を食らう。それが出来ずとも、せめて敵を照らし、彼のための道標となる。
それがライトニング・ヘッジホッグの在り方。
そして――彼はとある事実を知ることになる。
――――『レヒト様……どうか、あなたの願いを、叶えて……。ボクの人生は、そのために……』
ライトニング・ヘッジホッグは、別の《並行世界》において、レヒトを守って死んだ。
その記憶を手に入れた時、ライトニングは震えた。
滂沱の涙を流して歓喜した。
別の可能性の自分。
その人生には、確かな意味があった。
今の世界の自分も、そう在りたいと思った。
――――だから。
だから、この勝負、負ける訳にはいかないのだ。
ライトニング・ヘッジホッグが、レヒト・ヴェルナーの役に立たないまま、無様を晒すことだけは許されないのだ。
「オマエ、速かったよ……ボクの次にねェッ!
でも――――いい加減、振り切らせてもらうよォッ!」
リングに突き立つ大量の針。
投擲を繰り返していたのは、この時のため。
セッカを捉えることのなかった針も全ては布石。彼のルートを阻害するように突き立った針は、しかしそれだけが目的ではない。
雷撃が、セッカを襲う。
針はライトニングの魂装者だ。彼の魂装者は、数を増やすことに優れたタイプ。
針に雷撃が流れ、高密度魔力の塊である魂装者を通して、威力が増幅される。
その雷撃は、セッカに当たれば大ダメージを免れないだろう。
刃堂ジンヤのように、『同属性魔力』の攻撃を無効化するのは、高精度の魔力操作が必要とされる。セッカにそこまでの技術はない。
そして、ライトニング自身に当たれば、彼をさらに強化する。
こういった技は、外部へ魔力を出力できない刃堂ジンヤには出来ない芸当だろう。
リングを雷撃が覆っていく。
セッカは、自身もまた雷撃を放ち、襲い来るライトニングの攻撃を撃ち落としていく。
だが――そこへさらに速さが強化されたライトニングが迫り――、
『痛烈ゥ――ッ! セッカ選手、ライトニング選手が振るった針をモロに食らって吹き飛ばされたァ――――ッ!!』
この戦い始まって初のクリーンヒット。
どうにかグリーブによりガードしたが、それでも雷撃に気を取られ体勢が悪かった。
吹き飛ばされ、リングに何度も叩きつけられ停止する。
そこへさらにライトニングは針を投擲し、叩き込もうとするも――――、
ざくん――と、リングへ針を突き刺し、攻撃をやめたライトニング。
「……イナミツセッカだっけ? お疲れ。オマエ、よくやった」
セッカはダウンしている。
これ以上の攻撃は無駄と判断した。
まさか自身と速度で張り合える騎士がいるとは思わなかったが、それでもこれは当然の結果。
彼の役に立たずに、自分が負けるなど、あり得ないのだから。
いい勝負だった。
観客の誰もが、そう思い始めた時だった。
『フォー、ファイブ……』
カウントが響く中で、闇の底に沈んだセッカは――――。
◇
――――セッカは、自身が誰よりも速くなければいけないと思っている。
なぜなら、そうでなければ彼に追いつけないから。
十一年前。
暑い、夏の日だった。
響いていた蝉の声をよく覚えている。
澄み渡る青い空、真っ白な入道雲――――鮮血に染まった、親友の顔。
サイレンが響いていた。
《ガーディアンズ》に囲まれた、喧騒に包まれた蒼天院の屋敷。
――――蒼天院セイハの両親が、殺された。
セッカとセイハが出会ったのは小学生に上がる前の頃だっただろうか。
同じ騎士の家系。親同士の仲が良かったが、しかしセイハはあまり人と積極的に接するタイプではなかった。
――無愛想なやつ。
それが蒼天院セイハへの最初の印象だ。
だが、すぐに彼を意識する出来事が起きた。
セッカには自慢があった。
それは、かけっこで誰よりも速いこと。
誰の背中も見ない。自身が全てを置き去りにして一番にゴールする。
その感覚は、格別だった。
なのに――セイハは、自分よりも速かった。
頭もいい、喧嘩も強い、家の格だって蒼天院のがずっと上だ。
それなのに、自身のたった一つの誇り、プライドの拠り所ですら、彼には勝てないというのだろうか?
悔しかった。
だから、彼に勝とうと必死になって努力した。
せめて一つ、自身の誇りだけは譲れないと。
そして――勝った。
『……きみ、すごいな。同年代の相手に、何かで負けたのは初めてだ』
無愛想なやつは、思ったよりずっと偉そうなやつだった。
だが、なぜだからセッカは、彼のことが嫌いではなかった。
いつしか憧れていた。
セイハには生まれ持った使命がある。いずれは彼の父のように、《ガーディアンズ》に入って、この街の平和を守るのだろう。
セッカにはそんな大きな目標はなかった。
高潔な志もない。街の平和にも、あまり興味がない。自分さえよければそれでいい。
自分は、セイハに比べて大したことのない小物だ。
――――だが、それでも、この偉大な男のために何かがしたいと思った。
だからそれからも、セイハは自身を鍛え続けた。いつの日か、この偉大な男のもとで戦う日が来ると、セッカは信じていた。
そんな時だった。
その日も、セイハと会う約束をしていたと思う。
セッカとセイハは、早い時期から騎士としての力に目覚めており、魔力を使った組手などをよく行っていた。
だからその日も、セイハと戦うのを楽しみにしていたのだが――。
『セイハ……なにが……あったんだ……?』
『……父さんと母さんが……殺された』
彼の横では、彼の妹であるヒメナが震えながら泣きじゃくっていた。
なのに、セイハは泣いていなかった。
冷たい顔だった。
親が死んで、なにも感じていないのか。
それとも、恐怖で心が麻痺して、どんな表情も浮かべられないのか。
――――違う。
違うのだ。彼はそんなに弱くない。
セッカにはわかった。
その冷たい表情の中にあったのは――怒りと決意だった。
犯人を許さないという怒り。
平和を脅かす悪への怒り。
自身が平和を守る正義となるのだという決意。
震えた。当時、彼は六歳だ。この世界には一体どれ程、親を殺されて真っ先にそんな顔が出来る子供がいるのだろうか。
やはり彼は、自分とは違う。
悲しみもあった。そこまで悲壮な在り方でなければ壊れてしまう。そういった危うさもあっただろう。
だからこそ――電光セッカは、蒼天院セイハのために戦わなければならない。
ずっと彼のもとで、彼を支えなければならない。
――――そして、なにより。
この日、セッカは約束の時間に遅れてしまった。
だからセイハは、家の外で待っていたのだ。
何かが違えば――。
ほんの少し、何かが違えば。
仮にセッカが遅れなければ、二人も犯人に殺されていたかもしれない。
セッカが遅れたことで、セイハは助かったのかもしれない。
意味のないもしもだ。
しかし、もしもセッカとセイハが、事件の現場に居合わせれば。
もっと違った結末があったのではなかっただろうか?
殺されたセイハの父もまた、強い騎士だった。
犯人の気を逸らすことや、不意を打つことができたかもしれない。
無意味な仮定だ。
だが、それでも――――セッカは、あの日遅れてしまったことを、悔やみ続けている。
だから、誰より速くなければならない。
もう、彼に置いていかれないように。
もう、あの日のように、間に合わないのは嫌だから。
電光セッカの前を、誰かに譲ることだけは、許容できない。
◇
――――セッカが立ち上がった。
「ハハッ……マジか、オマエ」
ライトニングが、驚きと喜びが入り混じったような笑みを浮かべる。
「ああ、悪ィ……遅くなったな――だが、これで終いだ」
セッカの姿が、消えた。
「――――なッ!?」
「遅ェ――――ッッッ!!!」
思考加速と肉体加速を同時に、限界超過で行使する。
この戦いで最速の動きを見せたセッカの蹴りが、ライトニングに突き刺さった。
ライトニングもどうにか反応し、ガードしようと試みたが、思考加速により、彼の動きを全て読み切っていたセッカは、直前で蹴りの軌道を変更――防御を許さぬ、蹴撃一閃。
『決まったァッァァァアア――――ッッ!!
同属性同系統のスピード対決ッッ!
制したのは、電光セッカ選手だ――――――――ッッッ!!!』
勝利したセッカが、拳を突き上げる。
そして、観客席にいるある人物へ、拳を突きつけた。
まず、真紅園ゼキ。
ゼキはセッカの意図を察すると、にやりと笑った。
次に、蒼天院セイハ。
セイハもまた、こちらの意図を察して、薄く微笑んだ。
セッカの意図はこうだ。
セッカ西ブロックとは反対の東ブロック、制するのはゼキかセイハ。
どちらかだ。ゼキかセイハの、どちらか。
そのどちらかと、自分は戦う。そういう誓い、宣戦布告。
確かに今は、ゼキとセイハが自分の先を行っているのかもしれない。
だが、許さない。
電光セッカの前を行くことは、何人足りとも許さない。
もう、置いていかれない。
もう、間に合わないのは許せない。
――――それが、最速を願う少年の誓い。
◇
Dブロック第四試合――絡繰リラク対輝竜ユウヒ。
これが一回戦最後の試合。
その試合の注目度は高かった。一回戦最後という一つの区切りとなる試合なのもあるだろう。
これより以前の試合を見に来ていた者達も、この試合を見ずに帰るなどありえないというのもある。
――――輝竜ユウヒ。
高い注目度を持ちながら、謎の多い選手。
彼の経歴は不明な点が多い。以前より、《ガーディアンズ》として活動し、彼に助けられた人間も多い。その人柄の良さや甘いマスクにより、人気も高い選手だ。
――しかし、彼には中学時代の経歴が存在しない。
龍上ミヅキと同じ学年。
龍上ミヅキが三連覇をしていた間、彼は大会に出ていない。
表舞台に姿を現さずに、一体なにをしていのか。
そして、煌王学園序列1位、その実力は如何程のものなのか。
高い人気を持ちながら、謎に包まれた騎士――注目が高まるのも、無理はないだろう。
「クヒ、クヒヒヒヒィッ……随分と人気者のようですねえ?」
「……ボクよりも、蒼天院セイハの方がずっと上だろう」
確かにユウヒへの歓声の量もトップクラスではあるが、前回大会優勝者のセイハには僅かに劣るだろう。
「クヒ……比較対象が蒼天院セイハの時点で、謙遜が成り立ってませんよぉ……?」
「……あの、何か?」
柔和な笑みのまま、ユウヒは対戦相手に問う。
絡繰リラク。
無造作に伸びた髪。
その隙間から、ぎょろりとした瞳が覗く不気味な男だった。
この男は悪だ――ユウヒは多くの悪を見てきた経験と直感により、それを見抜いていた。
だが、今は自身に宿る悪への憎悪を抑えていた。
相手を倒すことは変わらない。
どんな善人だろうが、悪人だろうが、等しく倒すと決めている。
彼との約束のために、決勝まで行くのは確定事項だ。だから今は、心を無闇に怒りで乱すことはしない。
もしもこの男――絡繰リラクが、野放しにされた悪ならば、大会が終わってからケリをつければいいだけの話。
現在進行形で彼に苦しめられる誰かがいるなら話は変わるが、そうでないなら優先順位を間違えてはいけない。
「少し……私の話を聞いてもらいましょうかあ……」
そう言ってリラクは、横へ控えさせていた女性の髪を乱暴に掴んで突き出してきた。
「私、どうにも死体でしか興奮できなくてですね……なので、死体が欲しいのです。そのためにも、優勝しなくてはいけないのですよ」
「…………ッ、貴様……」
平常心を保つことを意識していたユウヒだが、ここで明確に彼の心が乱れた。
平然と巫山戯たことを抜かすリラクという男。
あの罪桐ユウと比べれば小物も小物だが、それでも悪であることに変わりはない。
「とある筋から、アナタとの戦いの内容に応じて、『報酬』がもらえるという話がありましてね……僥倖でしたよ。まず大会に優勝し、願いを使って、なおかついくつか裏の取引をして、やっと私の願いは叶う……そう思っていたのですが、いくつか段階を飛ばせそうなんのでね……クヒヒヒ、本当に、私はツイているッ!」
「…………、」
ユウヒの視線が一層冷ややかになっていくのも構わず、リラクは言葉を紡ぎ続ける。
「ああ、ところでこの魂装者――私の『姉』なのですが……洗脳魔術で意識を抑えつけてはみたものの、やはり死体には程遠いですねえ……肉の温かさがどうにも不快で……」
リラクが髪を掴んでいる女性。彼女の瞳は、光を宿していなかった。
彼の言葉通り、非人道的な扱いを受けているのだろう。
だとすれば――――もはや見過ごせない。
目の前の男は、やはり悪。
それも、今この瞬間も『誰か』が苦しめられている。
それに、なにより――――。
――――ドクンッ、とユウヒの心臓が一際大きく高鳴る。
◇
『へえ……ユウヒくんっていうの。私はユウミ。あはは、「ゆう仲間」だ「勇」と「優」で字は違うみたいだけどね』
『勇気と優しさ。どっちも揃えば、無敵でしょう?』
『こーら……ユーくん、また喧嘩したの?』
『ほらほら、おねーちゃんのこと、ユー姉って呼んでみてよ?』
『ごめんね、ユーくん……でも、私達は、永遠に、一緒だから……』
◇
強く、強く強く、ユウヒは刀の柄を握りしめた。
「――――自身の姉の意志を奪ったのか?」
「クヒヒ……ええ、そうです――何か、気に障りました?」
「いや、別に……ただ、一ついいか?」
「クヒ、クヒヒヒッ……どうぞどうぞ、なんでしょうか?」
「――――――その薄汚い口を閉じろ、塵屑」
ユウヒが腰を落とし、刀の柄に手をかけた。
抜刀術の構えだ。
「クヒヒ、どうやら怒って頂けたようで!! では、私の口の方は、力づくで閉じさせてみてはいかがで――、」
狂気に満ちた笑いを見せるリラクが言葉を紡ぐ途中。
瞬間、『Listed the soul!!』と開戦を告げる合図が響いて――、
「――――――――――《閃光一刀》」
抜刀一閃、リラクが倒れ――静寂。
会場全体が、完全な静寂に包まれた。
「……レフェリー、もう終わっています」
静寂を破ったのは、ユウヒの穏やかな調子の言葉。
止まった時が動くように、レフェリーがリラクのもとへ駆け寄り、彼の意識が完全に失われていることを確認し…………。
『な、な、なんということでしょうか――――――――!!!!!
一瞬! あまりにも一瞬! 速い、速い、速すぎる――ッッ!!
最速対決が行われた直後に、それを遥かに上回る選手が現れてしまったッ!!
輝竜ユウヒ選手!!! 大会新記録を大幅に塗り替える、0コンマ9秒で勝利を決めたあああああああああああ―――――――――――ッッッッッ!!!!』
◇
「……ああ、いけない……。ダメですね、ボクの悪いクセだ……『姉』となると、どうにも自制が……。これではまた、ユー姉に怒られてしまいますね」
刀を収めた後、ユウヒは熱のこもった視線を自身の刀に向けつつ、いつもの穏やかな口調で呟いた。
まるで乱れた心を抑えつけるように。
自身の刀へ、話しかけるかのように。
その奇妙な仕草には、誰も気づかない。会場は熱狂に包まれ、今の試合で起きた絶技に夢中だ。
◇
そして、熱狂の包まれた会場のどこかで、こんな呟きがあった。
「斬夜破破ッ……マジか、使えねーあいつ笑
いろいろ吹き込んでやったのに~。
一瞬でやられちゃったんですけどー笑笑
マジ役立たず過ぎる笑」




