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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
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 第11話 ■■胎動


 灼堂ルミア対斎条サイカ、その試合後の一幕だ。


 リングから控え室へ続く通路、壁に寄りかかり、端末をいじりながら『彼女』はサイカを待っていた。





「――あ、おつおめ~」



 

 彼女は軽い調子で試合を終えたサイカに声をかけた。


 目深に被ったスポーティーなキャップ。

ダメージ加工されたホットパンツからは細身の太ももが覗く。黒いキャミソール、頼りない肩紐の付近には華奢な肩が露出している。

 いかにも夏らしい肌の露出。健康的でありながら派手さの伴う、読者モデルでもやっていると言われるとしっくりくるような服装の少女。

 

「んっ、さんくーさんくー、らくしょー」


 サイカは無表情のまま両手でVサインを突き出し、指をくいくいと曲げる。




「はぁ~? らくしょー?笑 ほんとかあ?笑 ま、いいか。でさサイカちゃん……いっこ聞いていいかなー?」


 にぃぃ……と口端を吊る少女。

 声音は優しげ。口元には確かに笑みを浮かんでいるはずなのに、どこか空恐ろしさを受ける。






 少女は、サイカへ問う。


「――――なんで灼堂ルミアを殺さなかったの? そこがちょーっとわっかんないカナ~? なーんて、思っちゃたりー?」






「……………………あ!」


 今気づいた、とばかりにぽかんと口を開けるサイカ。





「――――ね、なんで?」


 きひひ――と笑いながら。





 少女は――《終末赫世騎士団ナイツ・オブ・ラグナロク》第六位、罪桐キルは問う。





 罪桐ユウの妹にして、彼に代わり彼の地位についた少女が、どういう訳か騎装都市の内部に――それどころか、大会が行われている競技場に入り込んでいる。




「…………うーんー……あれ、なんでだろ? 戦う前は、ぜったいころそーとおもってた」


 可愛らしく腕組みをして、可愛らしく小首を傾げて――仕草にそぐわぬ物騒なことを平然と言ってのけるサイカ。



「ん~~~、ま、イッカー、イイヨネー? うんうん、勝ったわけだし……ま、勝つよね、サイカちゃんのが才能ありありなんだからさ、なーんか最近、努力がどーとか、しょうもないこと言ってる途方もない馬鹿が沸きまくりだけど、努力とか笑、ウケるマジで爆笑、笑い殺す気かって」





 才能のない者も、努力すれば才能がある者に勝てる?

 本気で願って叶わないことなどない?

 何を馬鹿な。一体どれ程愚かならば、そんなことを考えられるのだろうか。下らない、そういう類の妄想は小学生の内に卒業しておくべきだ。



 努力すれば、蒼天院セイハのように時を止められるか?

 努力すれば、赫世アグニのように規格外の膂力を得られるのか?

 努力すれば、レヒト・ヴェルナーのように万物を切断する能力を手に入れられるか?

 努力すれば、斎条サイカのように、災害の如き力を振るえるのか?


 ――――答えは否、分かりきっていることだ。 



 今回の大会は道理のわからぬ馬鹿が多い。

 係数が低いくせに叶わぬ夢を見た馬鹿が多すぎる。

 

 才能のない水村ユウジは、才能のある龍上ミヅキに負けた。

 才能のない灼堂ルミアは、才能のある斎条サイカに負けた。

 

 水村ユウジや灼堂ルミア、そういった愚かな凡夫は、当然のように、順当に、才能のある者に負けた。



 龍上キララは、技術、経験の面で零堂ヒメナに劣っていただろうが、才能では彼女より上だ。

 だから勝利したのだ。

 才能があるから、勝利した。


 ルピアーネ対オウカはBランク対Cランクの対決で、Cランクのオウカが勝利したが、あんなものは所詮誤差。BランクもCランクも平等に区別なくゴミだ。係数が基準値にも満たない、低ランク同士、凡才同士の対決など、どうでもいい。




 この大会はつまらない、下らない。


 だから――キルは『少し面白くしてあげなければ』と、そう考えたのだ。





 ――――そのために、斎条サイカに《並行世界》の知識を吹き込んだ。




《並行世界》で起きた事象の再演因果。それは、当人達が再演の対象となる記憶を持たずとも作用するが、記憶を持っていた方が因果は強まる。

 キルの狙いとしては、サイカがルミアを殺すという結果がベストだった。

 その事象を再演させるために、因果を強めようと画策していたのだ。


 やり口としては、兄のユウに似ているだろう。

 裏から手を回して、自ら手をくださず、絶望の種を蒔いて、後は笑顔で萌芽を待つのみ。

 『罪桐』は元来、強大な力を持ちながら人心を弄ぶ黒幕志向の者が多い。

 罪桐カイや、罪桐ユウがそうだったように。

 

 誰しもが目を輝かせながら見守る、騎士達が研鑽を重ねた力をぶつけ合う夢の舞台。

 それを鮮血に沈めてやりたかった。

 台無しにしてやりたかった。

 キルがサイカへ接触した理由の一つはそれだ。

 『楽しいから』――シンプルに、享楽的に。場合によっては、サイカよりも『人の形をした災害』というような表現が、罪桐の者にはよく似合うかもしれない。

 

 サイカはルミアを殺さなかった。

 その点だけ見れば、今回はひとまず失敗。

 だが、それも些事。

 サイカが負けていないのならそれでいい。


「ねー、サイカちゃん」


「んー?」


「次の二回戦、相手はたぶんレヒト・ヴェルナーでしょ……三回戦は輝竜ユウヒ。準決勝は……まあ、順当に龍上ミヅキかなー?」


「だから?」








「――――殺そっか、全員」


「…………いいねっ!」

  




 二人の少女は、花咲くような笑顔を見せた。




 帰りにスイーツでも食べていこうかと、それくらいの気軽さで話を進める。




「サイカちゃんが狂えば狂う程に……悪い子になればなるほどに、セイバくんは、アナタのことを止めなくちゃって必死になってくれるの……大好きなカレには必死に、夢中に、自分のことで頭をいぃぃぃ~……っぱいにして欲しいのは、女の子ならトーゼンだよねっ!?」


「うん、うんっ! あったりまえだよっ! 殺そう、みんな!」


 狂っていく。


 最初から狂っていたサイカが、さらなる狂気に当てられ、怪物性を増していく。


 さあ、殺せ。

 この蠱毒の壺を血で満たせ。

 この場には、血が足りない、狂気が足りない、臓物が足りない、闇が足りない――もっと面白く、もっとオカシク、もっと絶望を。

 

 ――――ああ、ざまあみろ、罪桐ユウ。

 お前がいない間に、娑婆こっちで面白いことはあらかた食らっておいてやる。

 後から出てきて、残りカスの皿を見て『絶望』するがいい。


 ◇


 その後、サイカは次の試合を観戦すると言って先に観客席の方へ行ってしまった。

 控え室に一人取り残されるキル。

 

「……きひ」

 

 ぐでーん、と考えていることとはかけ離れた脱力的な姿勢で、椅子に座ったまま机の上に体を預け寝ている。




 サイカ対ルミアの一戦、《因果》はどう作用していたのか。


 実のところ、刃堂ジンヤという存在は未だ解明の途中であるように、《因果》や《係数》などの、この世界に存在する《法則》は謎が多い。

 しかしそれも当然だろう、なにせこの世界で最強の存在であるアーダルベルト自身、《絶対に勝利してしまう》という法則に悩まされているのだから。


 今回の戦いについても、キルの中ではある程度の推測は出来ている。

 次はもっと上手くやろう。


 死体の一つも出来上がらなかったのは期待外れだが、今後の楽しみが増えたと思えばそれも悪くないだろう。


 


「……きひ、きひひ……」




 キルが思い描く絵図を構成する要素。


 一つはサイカ。

 だが、それだけでは終わらない。


 ――――罪桐ユウは、あれだけの力を振るっていながら、しかし全力ではなかった。

 それは何故か。

 まずアーダルベルトの命令によって力を制限されていたというものがある。

 そして、それ以前に騎装都市内での隠密行動に当たり、力を封じておかねばならないのだ。

 魔力を解放してしまうと、《ガーディアンズ》側の感知術式に引っかかってしまう。

 そして全力を出せないという状況は、キルも同じこと。

 ――が、それは何の問題にもならない。

 キルの武器は、ユウと同じく能力に留まらない。

 絶望をデザインする悪辣なセンスとスキルを有してこその『罪桐』だ。



 さて――絶望の種は斎条サイカのみに留まらないが、今はそれよりも……。



「きひ、斬悲悲キヒヒ斬悲夜破破破破キヒャハハハハッ! 

 ああ……楽しみだなあ……楽しみ……。

 まだ……まだだよ……まだアタシが出る幕じゃない……でも、でもさあ……。

 彼はどんな顔するのカナ……」


 

 キルが目下最も惹かれている人間。

 それは。







「ユー兄は、最後に彼に執着していた……。

 その彼が、ユー兄に全然関係ないとこで壊れちゃうんだもん……もう最ッッ高♡ 

 ああ、濡れる、濡れちゃう……♡ もぉ、乾燥知らず、潤うぅぅ、潤う……♡ 

 

 あ~、もうっ、だいすき、だいっすきだよぉ……刃堂ジンヤくん♡」







 口元が裂ける。宵闇に輝く三日月めいた弧を描き、瑞々しい桜色の唇から、荒い吐息が漏れる。




「はぁ……っ……やっばぁ♡ もう、むり……どっかでテキトーに男見繕ってヤって発散させとかないと壊れちゃうよぉ……」




 堪らずに下腹部へ指を這わせていたが、どうにも収まりそうにない。

 

 刃堂ジンヤに直接絶望を与える――その時を想像しただけで絶頂を迎えてしまいそうだ。


 罪桐ユウの、あの男の執着した玩具を破壊してやる。

 


 ――キルは、ユウを憎悪している。

 あの男さえいなければ。

 彼さえいなければ。

  ユウが自身の生み出したカイを憎悪し、《人類最悪》の称号を奪い取るために殺したように。

 キルにとって、ユウは邪魔でしかたがなかった。

 《人類最悪》。いずれその称号も、何もかも奪い去ってやろう。

 


 当面の楽しみは、刃堂ジンヤの三回戦。

 二回戦の対屍蝋アンナ戦はどうでもいいが、三回戦で黒宮トキヤか夜天セイバ、どちらかの《主人公》と当たる。


 この世界には、《主人公》というものがいる。

 超えられない壁は、確かに存在する。

 そこで思い知るといい。

 下らない夢から覚めて、現実と向き合うべきだ。




 刃堂ジンヤは、途方もない馬鹿で、自身の分を弁えない愚物だ。


 ――――だが、だからこそキルはジンヤは愛していた。





「最ッ高にアタシ好みの馬鹿……。

 キミの絶望、想像しただけでイっちゃうよぉ……。

 加えて今はブタ箱でぶーぶーやってるカスまで潰してくれて、もうどこまでアタシを夢中にさせてくれるの!? すきすき、だいすき、愛してるよぉ、刃堂ジンヤくん……♡♡ 

 はぁ、はやく会いたいなあ……、でもまだ……まだまだ我慢しないとね……。

 我慢した分だけ、キミとの出会いは最高になる気がするもん……♡」


 



 ――――罪桐ユウとの戦いは、ひとまずの決着を迎えた。




 ◇








 第11話 ■■胎動








 第11話 悪辣胎動









 だが、終わらない。

 この世界の悪辣は彼一人ではない。

 彼を憎み、彼を越えようとする悪辣の少女が、この街の中で静かに胎動していた。



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