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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
83/164

 第10話 〝1/32〟 斎条サイカVS灼堂ルミア






「「――――勝つのは、」」





「「――――私/わたしだッ!」」






 激突する両者の刃。

 片腕だが膂力で勝るサイカが押していたものと、すぐにルミアが押し返し始める。

 膂力で負けていようが、サイカの剣技は未熟だ。力だけの剣を制する方法などいくらでもある。

 柔らかく剣を受け、力を受け流す。

 太刀筋を見切り躱す。

 そうやって、ルミアはサイカを追い詰めていく。

 傷だらけだったルミアに対し、片腕への仮想負傷のみであったサイカだったが、いつしか刀傷が増えていく。

 

 近接でなら勝てる――ルミアがそう確信すると同時、サイカも同じく、近接では勝てないと判断し、素早く後方へ跳ぶ。

 追撃をしかけようとするも、風を叩きつけられ、対処に追われる。

 風を引き裂く。

 同時、サイカは左手で剣を二本掴んでいた。


 青と黄。

 水と地だ。

 二重魔法陣が展開されていく。

 そして繰り出される技は――、


 リングのあちこちに、沼地が出現した。泥が溜まったそれは、足を踏み入れれば容易には脱出できないだろう。

 こちらを近づけないための策か。

 だがそれだけならば、沼地になっていない場所を進めばいいだけの話。リング全てが覆われた訳ではない。多少動きづらくなった程度だ。


 だが、それだけでは終わらなかった。

 今度は青の剣を捨て、風の剣を手に取る。

 風+地。再び岩杭かと思われたが――否。今度は岩杭を出現させない。

 巨大な二重魔法陣から、膨大な量の砂塵が吹き荒れた。

 岩ではなく、砂を風に乗せて周囲へ撒き散らし、満たしていく。

 

「…………ッ!」


 即座に狙いに気づいた。

 ルミアは大量の光剣を上空へ出現させると、リング上へ放つ。


「どこねらってんのばか? まあ、今からもっと狙えなくなっちゃうけど」


 十数の光剣がリング上へ突き立つが、一つたりともサイカへダメージを与えることがない。

 数秒後、砂塵によって視界が覆われる。


 恐らく参照したのはオウカ対ルピアーネにおいての、ルピアーネが使った技だろう。

 こうして砂塵で視界を遮る。

 ルミアもサイカも、オウカのような反響定位や、龍上キララがしてみせたような熱源探知は使えない。

 だが、広範囲攻撃を持っているのはサイカの方だ。

 サイカは視界など気にせず。リング全てを覆い尽くす攻撃を仕掛ければいいだけの話。


 ただこれまでの試合を見た策を、真似しているだけだ。

 それでも、今この瞬間においては有効だった。

 しかし――。


(浅知恵だよ。参照先が浅い)


 ルミアは音に気を払い、口には出さず内心でそう断じる。


 ルピアーネの策を真似たものだと一瞬で看過した。そして、その策の狙いが、広範囲攻撃による一方的な蹂躙であることも。

 確かにルミアに視界が塞がれた際の索敵方法はない。

 範囲攻撃でも、サイカには遠く及ばない。


 だが、技の発動直前で狙いが読めていたとしたら?

 対策は、ある。


 砂塵で視界が覆われる直前に放っていた光剣、あれが仕掛けだ。


 迷いなく駆け出すルミア。

 その道を、激しく輝く光の剣が照らしていく。


 光剣は、攻撃のためではなく、道標のために。


 沼地を避けて、サイカへ続くルートを示すように放っていたのだ。


 意味のないもしもではあるが、事前に読めていなければ、こうも容易く対策は取れなかっただろう。

 そこは稚拙な参照に頼った未熟を呪うがいい。

 ルピアーネの策が稚拙なのではない。

 誰かの策を真似するのが稚拙なのではない。

 つい先日の試合という、ルミアも見ていて当然のものから、なんの捻りもなく引用してきたのが甘いのだ。


 サイカへ近づく直前、もう光剣の輝きには頼らない。ここまで近づいてから、サイカの位置までのルートは記憶しておいた。

 サイカの付近にまで光剣を仕掛ければ、向こうもこちらがそれに頼ることに気づいてしまう。


 そして、今のサイカはリングを覆う広範囲攻撃を放とうとしている以上、隙が出来ている。


(――――終わりだ)


 無防備なサイカへ、斬撃を放つ。


 サイカは左手で火と風の剣を握っていた。風によって火の勢いを強めて、リング全てを焼き払うつもりだったのだろう。

 だが、もう遅い。


 ルミアの一閃。

 サイカの左腕を仮想欠損が襲う。これで両腕が使用不可能、魔力供給不能、加えて激痛。


「いっ、づゥ、あああああああああああああ…………!!」


 だらりと両腕を降ろして叫び悶えるサイカ。

 さらなる追撃を見舞おうとしたところで、風によって操られてた剣に遮られた。

 両腕を封じたところで、魔力を操れなくなる訳ではない。

 だが、これで近接での剣技は完全に封じた。

 心臓や首を斬り裂けば、仮想展開だろうと意識を遮断できる。


 ――――次で終わりだ。


 そうルミアが確信したところで――、


「い、やだ……ッ、サイカは、負けないッ!」


 もっと壊したい。

 ルミアにだけは、負けたくない。

 セイバと遊びたい。

 決勝に行きたい、セイバのところへ行きたい、セイバと戦いたい。

 

 サイカは考えた。

 必死になって、考えた。両腕は仮想欠損、使用不能。

 肉薄されており、現状のままでは次の斬撃は防げない。


 ――――考えた。

 これまでの彼女の戦いは、ただ壊すだけだった。

 戦いとは、相手がいつ壊れるか。どんなふうに壊れるのか。

 ただそれだけ。

 壊れるのが前提、勝利が前提。

 そこに勝敗はなく、駆け引きはなく、喜びはない。

 だが、今の戦いは違う。

 稚拙ではあるが、他者の技を真似してみせるということをやってのけた。それはこれまでのサイカならあり得ないことだった。

 あれだけでは足りない。

 ただ真似しただけでは、この相手は超えられない。


 ――――この相手は、ルミアは、強い。


 ならば――。


 風を操り、剣を両手へ。しかし、動かないため握ることが出来ない。

 そこへ泥と岩を操って、剣と手を固定する。岩で固めて、強引に剣を握る。

 

 ――骨折した手を使って、氷と炎により斬撃を放った龍上キララのアイデア。

 

 これだけでは足りない。

 模倣した程度では、相手は対応してくる。

 だから。


「いい加減、壊れろォッ!」


 岩で固めた両手による斬撃。

 だが、それもあっさりと防がれる。


 一閃――ルミアが振るった刀は、サイカの剣を固定する岩を斬り裂いた。

 岩が砕けて、剣がこぼれ落ちる。


「これで終わりだよ」


「さて、どうかなあ?」


「…………ッ!?」


 ルミアは目を見開く。この期に及んで余裕を見せる意味がわからない――そして、次の瞬間気づいてしまう。


 斬り裂いた岩、その中から――――赤色の、魔法陣が。







 ――――彼女だけだったのだ。


 ――――大会出場者32人中、9歳の彼女だけが、ただ純粋な才能だけでここまで来ていた。


 ――――技も策も必要がない。ただ膨大な魔力を振るっていれば良かった。


 ――――だから、最も才能に恵まれながら。


 ――――彼女こそ、斎条サイカこそが、最も伸びしろがある騎士なのだ。









 サイカはルミアに抱きついた。


 逃さない、どこにも逃さない。




「――――どかぁーんっ!」




 赤色の魔法陣から、爆発が巻き起こった。





 岩による剣の固定――龍上キララの技の模倣はフェイク。

 本命は、それにより隠した爆発の魔法陣。


 二人の姿を爆煙が包み込んで……。


 そして、立っていたのは――――。


「ざーんねんでした。サイカはこれくらいじゃ壊れないから」


 ルミアの体が倒れていく。

 サイカなただ、膨大な魔力によって自身を覆えば、それで爆発を防げる。

 しかし、ルミアはサイカの強烈な出力により繰り出される爆発を、至近距離で受けてしまえば、防ぐ術はない。魔力で体を覆ったところで、サイカの出力はそれを凌駕する。


 並の魔力量の騎士が行えば自爆でしかないそれも、サイカの魔力量を持ってすれば容易く成し得る。

 


 確かに灼堂ルミアは努力していた。

 譲れぬ想いもあった。

 努力で才能の差を埋め、才能のみのサイカと互角だった。


 ――――だが、土壇場で才能のみであることをやめたサイカには、及ばなかった。


 斎条サイカ。

 最強の才能を持つ騎士が、才能を振るうだけではない戦い方に目覚めた。


 

 灼堂ルミア対斎条サイカ――――勝者、斎条サイカ。



 ◇


 試合後、ルミアが運ばれた医務室。

 激しいダメージを受けたルミアは、待機している中でも最上位の治癒術式を持つ騎士により治療を受けた。

 

 ルミアが意識を取り戻すと、すぐそこにはセイバがいた。



 ルミアは記憶を手繰る。

 サイカと戦って、勝ちたくて、勝ちたくて――――そして、負けた。


 届かなかった。

 後少しだった。


 結局、並行世界での因果とやらは覆せなかった。

 また負けてしまった。


 意識が途切れる前のことを思い出して、現状を認識して、現実を受け止めようとして……受け止めきれず、涙が溢れた。


「……セイバ、ごめん……ごめんね……、私、負けちゃった……」

「……いいさ。生きて戻ってきてくれただけで、それで充分だ」

「……でも……でもぉ……っ!」


 セイバと戦いたかった。

 最高の舞台で、この殺意アイをぶつけたかった。

 サイカになんか、負けたくなかった。

 

 わけのわからない《因果》などに、負けたくなかった。

 並行世界など知らない、因果など知らない、運命など知らない、才能など知らない……そんなものを、凌駕したくて、どれだけ誰かに無理だと言われても、認めたくなくて、ここまで努力してきたのに。

 

「……むり、なのかな……」

「……なにがだよ」

「才能に勝つのは、無理なことなのかな……?」


 涙とともに、ルミアはそう零した。


 すると、セイバは突然立ち上がった。


「なあルミア、赫世アグニや、レヒトにサイカ、トキヤ、ゼキにセイハ……あいつらと俺、どっちが才能があると思う?」

「…………それは、そんなの決まって……」


 確かにセイバの才能は唯一無二だ。無効化は強力だ。だが、事実として昨年優勝したのは蒼天院セイハ、一昨年は黒宮トキヤ。

 セイバは彼らに負けている。


 夜天セイバは、彼らよりも弱い。

 セイバ、彼らに比べれば才能がない。


「俺は、サイカより才能がないか?」

「…………うん」


「――――でもな、優勝するのは俺だ」


「…………勝てるの?」

「勝つさ、必ず。お前の仇、取ってやるよ。俺はもう、絶対に誰にも負けない。お前を守れるやつになるって誓ってるんだ、だから俺は、この世界で最強になってやるよ」


「……な、なんっ、で……」


 大粒の涙を流しながら、つっかえなが、ルミアは問う。


「どうして、そこまで……」





「あのさ、ルミア……俺、お前にいくつか嘘ついてるんだ」

「……え?」

「前にお前が、『人を殺すのはいけないこと?』って聞いただろ?」

「……うん」

「それで俺がなんて答えたか、覚えてるか?」

「……もちろん、覚えてるよ」




 ――――「……お前がいなくなると、少し寂しい」





「それからさ……お前に会った頃に、お前を助けた理由は、いじめが気に食わないからって言っただろ?」

「うん……」





「…………あれも嘘だ。

 お前がいなくなったら、少し寂しいじゃ済まない。

 お前を助けたのは、お前に惚れてたからだ。

 ……だから、だからさ……また、強くなれよ。

 俺、待ってるから。お前を守れる、最強の騎士になって、待ってるから。

 最強になって、待ってるからさ――――だから、また這い上がってこいよ」





 セイバの言葉で、またルミアの涙が溢れた。

 

 ――――強くなろう。もう誰にも負けないくらい。


 この殺意アイを、誰にも汚されないように。


 灼堂ルミアがどれ程の歪みを抱えていても。

 灼堂ルミアがどこかで躓いてしまっても。


 夜天セイバは、必ず受け入れてくれる。

 夜天セイバは、ずっと待ち続けてくれる。







 少女は再起を誓った。



 ――――少年は、頂点を取ることを誓った。







 かくして、夜天セイバは絶対に負けられない理由が生まれ――――彼の物語へと繋がっていく。


 次のセイバの試合、その相手は黒宮トキヤ。


 主人公と主人公、物語と物語がぶつかり合う激闘の幕が開けようとしていた。


 







 





今回はちょっと意外な勝敗かも?と思うので、感想はできればふせったーでお願いしますー('、3_ヽ)_



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