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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第2章 疾風と迅雷の友情譚
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 プロローグ 彼らの友情譚

 吐き出した血が、地面を赤く染める。

 周囲には何人もの男が倒れていた。

 僕の拳は、血に濡れている。意識が朦朧とする。体中が痛み、軋む。

 依然として、僕は十数人の男に囲まれていた。


「クソが、どんだけ諦めが悪いんだてめえ……」

「君達もね……」


 どれだけの数に囲まれようが、騎士である僕が、その力を使えばそこらの不良に負けることはない。たとえ僕にどれだけ騎士の才能がなくてもだ。

 だが――今の僕は、一切の魔力を使っていない。相手は一般人だ。魔力を使えば、それだけで細かい事情抜きで僕が悪いことになる。騎士は力を持つ以上、そこには責任がつきまとう。

 鍛えた肉体と、この身に修めた武のみで、この場を切り抜けなければならなかった。

 しかし……どうやらここまでのようだ。

 足がもつれる。立っていることもままならない。

「やっとぶっ倒れてくれるみてえだなあ……んじゃ、いい加減死ねやオラァ!」



「――テメェが死ねボケが!」



 瞬間。

 僕を殴ろうとした男の顔面に、突然現れた別の少年の足が突き刺さった。

 サラサラと風になびく、肩辺りまでの髪。軽薄そうに、笑みで歪む口元。

 鮮やかな飛び蹴りを叩き込んだ少年が、僕の方を見て驚いたように目を見開いてる。


「うっわ、ボロボロじゃねえかお前。どしたよ?」


 僕は黙って前方を指で示した。声を出すのも億劫な程にボロボロだったのだ。

 示した先には、縄で縛られている少女が。


「ひゅー……やるねえ、囚われのお姫様救出作戦だったか、熱いじゃねーかよおい、いいね……男助けるよか燃えるわ。あ、まあお前助けてやるのもまあまあ燃えるぜ? こう、大勢相手にこっちは二人、信じられるのは背中を預けた親友だけ……みてーなのもいいじゃんか?」


 こんな時にこの人は何を言っているんだろう。

 そう思いつつも、僕は口端に笑みを浮かべている。

 ああ、そうだ。

 確かに彼の言う通り。

 たった一人で大勢に囲まれていた時とでは、心強さが違う。

 彼が誰なのかはわからない。

 でも、一つわかっているのは……。

 僕と彼は、背中を合わせて、周囲を見回し――


「負ける気がしないね」「負ける気がしねえなあ」


 同時に、そう呟いていた。


「お、なんだ気が合うじゃんか、マジで俺ら親友になれるかもな」

「さあ、どうだろうね……」


 僕には友達がいないからなあ。

 唯一、そう呼べる間柄だった彼女とは、今は離れ離れになっているし……彼女との関係が、いつまでも『友達』であるのは、僕としても悔しいんだ。

 だから僕に、本当の意味での友達はいないのかもしれない。

 だけど。

 

 ――これが、僕と彼との出会いだった。

 

 僕の親友であり、憧れであり、一生親友でい続けたいと思った少年。

 風狩カザガリハヤテとの、出会いだった。


 今、明かそう。

 僕がライカと離れていた三年間、何をしていたのかを。

 語ることを禁じていた物語を。


 疾風と迅雷が紡ぐ友情譚の、序章となる追憶を始めよう。

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