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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
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 第5話 水着回番外編/浜辺のガールズトーク



「え~……じゃあ、ルミアさんって、あのおさななじみさんとは、つきあってないんですか?」

「うん、まだね」


 アンナとルミアが、そんな会話をしていた。

 人見知りが激しいアンナだが、ルミアとは同じ愛と狂気に生きる者として波長が合うらしい。

 

 集合時間が近づき、ライカ達より遅れてさらにルミア、クレナ、フユヒメ、エコがやって来て、選手限定区画に設けられたレストスペースには、大勢の少女達が集まっていた。



「まだ! ってことは~?」

「も、もちろんいずれはそうなりたいなあ……とは思ってるよ? でもそれより……」




「……それより……?」




「――――斬りたい♡」



「わぁ……♡」





 恍惚の表情を浮かべるルミアに、同じような顔になって目を輝かせるアンナ。


 そして横で聞いているキララとヒメナは思った。

 なぜそこで「わぁ……♡」なのか。

 なにが「わぁ……♡」なのか。

 さっぱりわからないと首を傾げている。


「――つまり、大好きってことですよね?」

「うんうん、そうそうっ、そうなの! ……すごいねアンナちゃん、なんでわかるの?」

「私もなので!」

「……好きな人、斬りたい?」

「はいっ!」



「……………………………………」



 今度はライカが渋い顔になっていた。今まさに自分の彼氏を殺害したいという願望が語られてるのだ、恐ろしくもあるだろう。

 ただ単純に殺害したいというのは厳密にはそうではないのだろうが、傍から聞いていれば大差はない。


「でもー……つきあってないってことは、あんまりそういうことは?」

「そういうこと?」

「えと、その……えっちなこと……とか、しないんですか……?」

 

 アンナがもじもじしながら顔を赤らめて聞いた。

 それを耳にしたルミアの頬にも赤みが差す。


「うぅぅぅぅ~~~ん…………、あんまりしないかも……? そーゆーの、付き合ってからじゃないと……」

「そうなんですかあ~……」


 なぜだか残念そうな顔をするアンナ。

 

 横で聞いているキララは、


(いやなんで斬りたいとか言っといてそこは照れる!?)


 ――と、ルミアという人間が本気でわからなくなっていた。


「せっかくですし、くわしい人に聞いてみませんか? こんなに人がいるんだし」

「なるほどぉ。……いいねえ!」


 アンナの提案に頷くルミア。


「皆さんの中で、彼氏がいる方ってどれくらいいるんですか?」


 ルミアの問いに、ライカ、ナギが手を挙げる。

 少し遅れて、ヒメナが「一応……」と控えめに手を挙げた。



「馬鹿なのだけどいるよー、馬鹿なのだけどねー」



 馬鹿だけどねーと繰り返しながらぴょこぴょこ椅子の上で小刻みに揺れつつ挙手したのは、神樹シンラ。


 薄緑色の髪をポニーテール。小さな背丈。どう見てもヒイラギやめるくと同年代の小学生にしか見えないのだが、彼女は大人で、あの《八部衆》の魂装者アルムというすごい人物なのだ。小学生にしか見えないが。

 彼女の騎士である雷轟ソウジがゼキの師匠であるという繋がりと、シンラとオロチは知り合いということからやって来ているのだが――『六人辿れば世界中の人と繋がれる』なんて言うが、ライカはいよいよ『知り合いの知り合い』くらいの人が、がすごい人ばかりになってきた……と考えていた。

 

(……でもまあ、六人なんて言わず、あの人から辿れば……)


 あの人――彼女の母親である、雷崎アマハ。

 《八部衆》という立場の、普段ならば接することがない者によって、封じている記憶が呼び起こされる。

 

「ん? ライちゃんどした? ジンジンのこと考えてた?」

「え、あ、うん……」


 つい誤魔化してしまう。

 

「やっぱり……付き合ってると、その……いろいろ、したり?」


 辿々しい質問を口にするルミア。

 具体的なことを何一つ言葉にできていない。




「…………らいかさん。じんやとえっちなこと、どれくらいしたんですか?」




 アンナのストレートな質問。

 オブラートという言葉への逆襲。

 具体性の塊であった。



「えっ、えっち!? な、こと、って!? し、し、し、してないよ、全然……」

「おまえ、つまんないウソつくね……」




 水着……風呂……チンアナゴ……様々な単語と記憶が脳裏を駆け巡っていくライカはだらだらと汗をかき始めた。

 そんなライカを、アンナは真っ暗な瞳で睨みつける。

 ついガウェインに借りていた昔の漫画の台詞が出でていた。サイドエフェクト的な何かが発動していた。女の勘的な。

 というか、そうでなくともバレバレだった。


「え、えとー……そういうのは、私よりも、キララちゃんのが詳しいんじゃないかなー」


 ライカは友達を売った。


「えっ、アタシ!? い、いやまあ、そりゃ、ヤりまくりだケド……?」

「きらら……」


 アンナが哀れんだ瞳でキララを見つめる。

 根が男子小学生のライカを騙すのが、ファンショッビッチ龍上キララの限界だった。 

 

「むりすんな……?」


 めるくまで、何かを察した。


「いや、マジだから……マジで……」


「……私は、あまりそういうことは……。付き合っていても、なかなか踏み出せないということもあると思います」


 キララを見かねたのか、ヒメナが注目の矛先を引き受けてくれた。


(ヒメナさん……!)


 キララが目を輝かせると、ヒメナは表情を変えずに黙って頷いた。

 

「ヒメナちゃん、そーゆーことしたいって思わないの?」


 フランクな口調でルミアが聞く。

 どうやらルミアとヒメナは以前から付き合いがあるようだ。


「…………も、もちろん、そ、その、まあ、………………人並みには……」


 表情はあまり変わらないまましどろもどろになるヒメナ。


「ですが、私もそういうことには疎いので、どうすればいいかというアドバイスはできませんね…………むしろ、助言が欲しい側です、はい……」


 照れつつも、はっきりとそう言うヒメナ。

 根が真面目なのだろう、誤魔化したりはしないようだ。どこかの龍上キララと違って。


「そうなると、後は……」

 

 ルミアの視線が動くと、その場にいた女子達の視線も一斉に動く。


 多くの視線が、一気に翠竜寺ナギに集まった。


「………………え、……私?」


 ナギの人生で、初めて経験する注目の浴び方だった。試合の時とはまた違う緊張がある。観客席からではなく、間近に多くの視線があるというのは体験したことがなかった。


「どうなのでしょー、翠竜寺さん?」


 まるで今朝何を食べたか聞くような気軽さで問いかけてるルミア。


(ど、どうしよう……)


 ナギは困った。

 とても困った。

 はっきりと言えば、めちゃくちゃセックスしている。

 だが、めちゃくちゃセックスしていることを言うのは当然恥ずかしい。

 しかし、嘘つくのも憚られる。

 ナギもヒメナと同じで、根がかなり真面目な方だ。

 そして、あまり人と接した経験がないので、誤魔化し方なども知らない。


「あう……」


 たすけてハヤテくん……と涙目になりそうだった。


 先程は外の世界を知らないところへ目にした初めてに生命体(ロリ巨乳)への衝撃と驚愕と憎悪から弾け、奇行に走っていたし、普段は「貧乳」と馬鹿にしてくるハヤテをぶん殴ってはいるが――翠竜寺ナギは、本来とても繊細な女の子なのだ。

 

「うー……ちっちゃい子もいるし、ちょっとここでは……」


 苦肉の策であった。

 こう言ってしまえば乗り切れるかもしれない。実際にめるくやヒイラギと言った女子小学生の前で、そういう話をさせられることもないだろう。

 既にかなり小学生の前で話すようなことではなかったが。

 しかし――。


 ヒイラギはヒメナが、めるくはキララが、話の流れを察して、女子小学生組を浜辺の方へ誘導し、砂山を作らせて遊ばせていた。



「めるく様、どちらが大きい山を作れるか勝負しましょう! 負けませんよ!」

「まけないよ……みづきのなにかけて……!」



(しまったぁぁぁぁ……ちっちゃい子もういない……!)


 失策に焦るナギ。


「恥ずかしいのなら、あとでこっそり……(ルミア)」

「……で、ですね……。あとでこっそり、聞きたい人だけ……(ナギ)」


「じゃあ、聞きたい人ー」


 ルミアがそう周囲に問いかける。

 手を挙げたのは、ライカ、アンナ、キララ、ヒメナと今話しに混ざっていた者達に加えさらに。


 フユヒメ、クレナも恥ずかしそうに下を向いて顔を赤らめつつ、さりげなく手を挙げている。

 二人は話に興味がなさそうな顔をしていたわりに、しっかりと聞き耳を立てていた。


 そしてちゃっかりシンラも手を挙げている。 


 それを見てアンナは一言。




「むっつりすけべだらけ」




 むっつりと相反する、普通にスケベな女の言葉だった。



 ◇



「その勝負、まったぁ!」


 ヒイラギとめるくの前に現れたのは、黒宮トキヤの妹、黒宮エコ。


「あなたは……!」

「なにものだ……」


「ふふ……私は黒宮エコ、《砂場の女王》と呼ばれた女……」


 謎のドヤ顔をキメる金髪ツインテールロリ巨乳少女。ちなみに水着はバニーガール風のもので、頭にはうさ耳をつけている。


「エコ様もやりますか!?(ヒイラギ)」

「混ぜて混ぜて~(エコ)」

「ひあかむずあにゅーちゃれんじゃー(めるく)」


 エコはえっちな話がよくわからないのと、砂遊びがしたかったのと、それから。


「ふふふ、おねーさんの力を思い知らせてあげましょー」 


 普段は「トキヤの妹」として子供扱いされることが多いエコは、お姉さんぶりたいという欲望があったのだった。



 ◇


「ところでオロチさん」

「あん、どした?」


 話に加わってなかったオロチに、シンラが話しかける。


「オロチさんって、そーゆーことはどうなんです?」

「馬鹿、オマエ……そりゃヤりまくりに決まってんだろう…………昔はな」

「……今は?」

「……聞くな、三十二歳、独身。弟子三人。彼氏0人の女に、そんなことを聞くんじゃねえ

……」


 オロチは注文していた酒を呷ろうとするが……、

 シンラが突然グラスを掴むと――、




「あ――――っっっ、なにすんだオマエ!?!?」




 シンラが突然、グラスの中身を全て浜辺に捨てた。


「昼間っからダメですよー、委員長ストップです」


「てめえ……うう……鬼かよ……」


 叢雲オロチ三十二歳はとても悲しくなったが、まあアンナが楽しそうにやってるので良しとした。


 シンラはオロチの『ヤりまくり』という言葉が嘘だとわかっていた。シンラの知る限り、オロチとそういう関係にあった男性は、たった一人しかいない。

 そして、その彼はもう――――。

 彼を失った時のオロチは、見ていられない程に荒れていた。

 師であるライキを失った時期ともそう離れていない。

 あの時期は、彼女の人生においても最も辛い時期だったはずだ。

 …………だが、アンナを引き取ってから、オロチは変わった。

 


 アンナを眺めながら優しそうに目を細めるオロチを見て、シンラも優しく微笑むのだった。



 ◇



「…………いかないんですか?」

「暑い、疲れた、アイス食べたい、帰りたい、寝たい」

「…………アンナちゃんと遊ぶんじゃなかったんです?」

「うー……行く」


 ガウェインは、ランスロットを叩きのめした時点で精神力が尽きていた。



 ◇


 

 浜辺に姦しい声が響く中。

 その裏で――男達の戦いは続いていた。





 






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