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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第3章 漆黒の狂愛譚/もしもこの世界の全てがキミを傷つけるとしても
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 第24話 口づけのように斬り刻んで


 ――――ねえ、アンナちゃん……死ぬのもいいけどさ、どうせ死のうと思うなら、その前にぱぁーっとやりたいことやっちゃおうよ。


 囁く、悪辣。

 頭に響く不快な声。

 蝿の羽音のような。

 蛆が這いずるような。

 綺麗な少年の声のはずなのに、どうしようもなく耳にこびり着いて侵食するような声。

 お前の提案に乗るくらいなら死んだほうがマシだ……そういう旨の言葉を紡ぎたいのだが、頭が麻痺していき、言葉どころか思考すら紡げなくなっていく。

 

 ――――殺したとか殺されたとかさー、とりあえず過去のことは置いとこうよ。そんなことより今! 人間、今が一番大事でしょ!? 今やりたいことはなんだい!?


 曖昧に溶けていく思考。その中で、確固として形を変えぬ願いがあった。


 …………じんや。


 じんや。ああ、じんや……じんやが欲しい! じんやを自分のモノにしたい! じんやのモノになりたい! 最愛の男! 狂愛の矛先! 自分を救ってくれた少年にして、自分が求める運命の相手! 

 そうだ……そうだった。

 

 ――アンナは、ママとパパが大好きだった。二人のようになりたかった。でも、それには相手が必要だ。運命の王子様。ずっとそれを待ち望んでいて、そしてやっと、それを見つけたのだ。

 記憶消失の以前/以後、屍蝋アンナという肉体に宿る二つの人格、そのどちらもが求めるモノは一つ。

 ――刃堂ジンヤだ。


 思考が溶ける。

 倫理が溶ける。

 人格が溶ける。


 溶ける、溶ける、溶け落ちる。溶けて、ぐちゃぐちゃになって、形を変えて。心はまるで、飴細工。どろりと粘着く甘いそれ。どろりと溶けて、生まれ変わって、新しいカタチを成していく。


 罪桐ユウは、屍蝋アンナの壊れた心を作り変えていた。

 壊れてまともに機能していない心に、熱を灯す。本能に、魂に刻まれた願いを呼び起こし、そこに指向性を持たせていく。

 彼女はもう、刃堂ジンヤを求めることに抗えない。

 これまで彼女を抑えていた理性タガを外す。

 こうして、理性や倫理観という下らない偽りに支配されていた心を解放し、純粋にただ願いを求める本物へ戻す。

 

 ユウがいくつも持っている能力の中にある洗脳術式。

 それはここまで手間をかけずとも使用できるが、ユウが望むさらなる絶望のためには、この一手間が欠かせない。

 ただ洗脳するのではなく、相手が本当に願っている部分を強化する。

 そしてその願いを邪魔するような理性的な考えを潰していく。

 そうやって、元ある心を加工するような洗脳の方が、雑にかけるよりもずっと効き目が強い。


 ただ、《洗脳》にはいくつか問題がある。

 まず時間経過で効力が弱まること。

 そして、当人の強い意思により、洗脳が解除される恐れがあること。

 これらの問題によって、ただ洗脳するだけで恒久的に相手を手駒にできるわけではなくなる。


 だからユウは、一度アンナを手放したのだ。


 わざと外の世界に置いて、そこで大切なものを作らせる。

 その大切なものを、アンナ自身の手で壊させる。


 屍蝋アンナがジンヤを殺すにせよ、ライカを殺すにせよ、結果は同じだ。


 ライカを殺されたジンヤは、確実に壊れる。そうなれば、壊れた人形となったジンヤをアンナに与える。洗脳などよりずっと楽に、確実にアンナを操れる。

 ジンヤを殺した場合は、あの情報・・・・を与えておけば、確実に言うことを聞かせることができるだろう。


 アンナはこの先のさらなる計画における重要なピースだ。

 だからここまでの計画で、手間をかけて、彼女を覚醒させ、支配下に置けるように仕向けた。

 これからの計画は、壮大だ。

 だが、これまでの計画も、何年もかかる壮大なものだった。

 尤も――罪桐ユウのモチベーションは、《計画》それ自体より、その際に得られる絶望だが。

 

 洗脳完了。

 長かった悲劇の仕上げ。

 狂愛譚のクライマックス。


 

「…………そっかあ。…………最初からそうすればよかったんだ」


「うんうん、そうだよ。やっちゃいなよ! そうすれば全部、キミのものさ!」


「うん……前からずっと、そうしたかった気がする……。

 待っててね、らいかさん! 今、殺しにいってあげるから! 

 待っててね、じんや! 今、愛しにいってあげるから!」



 狂愛の邪魔になるあの女を殺すか。

 狂愛の矛先であるあの男を殺すか。

 

 どう転んでも、行き着く先は絶望だけの戦いが、幕を開ける。

 

 ◇


 ――そして今、ジンヤとアンナは向かい合っていた。





 最愛ライカよって絶望から引き上げられたジンヤ。


 最悪ユウによって絶望を狂愛へ変えられたアンナ。






 男と女。

 兄弟子と妹弟子。

 救う者と救われる者。

 被害者と加害者。

 守る者と殺す者。


 黄金と漆黒を構えた二人が、静かに睨み合う。


 アンナは大鎌の刃先を地面に向け、右手を耳の高さへ、左手は肩より僅かに低い高さへ。

 槍術でいう、霞下段の構えだ。

 もしくは西洋の大鎌術における梯子の構え。

 

 ジンヤが調べた限りでは、大鎌術というのは他の武器に比べると技に乏しい。そもそも、武器に向いていない農機具だ。

 西洋武術の資料の中でも、飛び抜けて割かれてる文量が少なかった。

 それ故に、おそらくは同じ長物である槍のように扱うのだろう。


 ――だが、油断はできない。

 一つ、思い当たる可能性があった――槍や薙刀、野太刀や長巻、ハルバード……長物ならば、他にもいくつもあるというのに、あえて大鎌を選ぶ理由に。

 

 あの構えから想定される次の行動は、地面に向けた刃先をそのまま突き出し、足元への攻撃。

 もしくは刃先を跳ね上げてて上段。

 それか、その跳ね上げは威嚇に使って中段へ構えを変えてからの突き。


 いずれにせよ、対処は槍と同様。だが、槍よりも簡単だろう。

 槍の鋭い穂先と違って、大鎌の刃先は巨大だ。防御はあまりにも容易い――が、ここで警戒すべき技は、《武装解除》という特級の例外イレギュラー

 放たれた場合、防御は不可能。魂装者アルムに攻撃が当たった時点で敗北する――どころか、ライカの首があの大鎌で刈り取られる。

 …………それだけは、絶対に避けねばならない。

 これまでの戦いとは、緊張感の桁が違った。

 自分の命がかかるよりも遥かに恐ろしい。

 最愛の命を賭けた戦い。

 今すぐに逃げ出したくなるような、味わったことがない恐怖。


《……勝つんでしょ? アンナちゃんを救うんでしょ? だったら私のことなんて気にしなくていいよ。いざとなったら生身でも逃げられるから》


 霊体化したライカの言葉。

 ジンヤを鼓舞するための強がりだった。

 《武装解除》を受けて危険に晒されるのはジンヤではなくライカなのだ。ジンヤが感じてるそれよりなお凄まじい重圧があるに決まっている。

 仮に武装化が解かれた場合、ライカは絶対に逃げられないだろう。

 生身の人間が魂装者アルムを持った騎士から逃げおおせるなど、天地がひっくり返るよりよほど有り得ない。

 ――――それでも、ライカはジンヤを信じていた。

 

 最愛の信頼を感じて、ジンヤは恐怖を押し殺す。

 彼女を救うと決めた。

 逃亡など最初から選択肢に存在しない。

 だから、この逡巡と恐怖は踏み潰していく。


 納刀のまま腰を落とし、柄に手をかけた――信じた一刀、《迅雷一閃エクレール》を放つ構え。

 最初から全開でいく。

 いつものことだが、刃堂ジンヤの戦いは常に不利から始まる。接近せねば攻撃できず、長引けば魔力不足のスタミナ切れで敗北。

 早急に接近し、斬り合いに持ち込み、早期決着。彼の選べる作戦など、それくらいしかない。


 ――――だが、ここでジンヤの目論見は引き裂かれる。


 アンナの握る大鎌に、禍々しい魔力が宿った。

 刹那で理解する。この魔力、ガウェイン戦の最後で見せたモノと同質。


 《慈悲無く魂引きユースレス裂く死神の狂刃ソウルイーター》。

 つまりは、初手から切り札であるはずの《武装解除》――!

 

 悟った時には、彼女は駆け出していた。

 飛沫が上がる。

 噴水から広がり辺りを満たす水が、アンナの疾走軌道を明瞭にする。

 

 アンナの初手に驚きはしたものの、ジンヤは一切硬直せず、滑らかに始動した。


 彼は、柄にかけた手を離した・・・

 

「…………ッ!?」


 アンナの目が驚きにより僅かに細められる。

 ジンヤは納刀状態のまま、素手で突っ込んできたのだ。

 自殺としか思えない。

 確かに、武器を出さずに素手で挑めば、《武装解除》されることはないだろう。

 だが素手で武器を持った相手に勝つことは至難の業だ。ライカ惜しさに勝負を捨てたか。そんな想像がアンナの頭を過ぎった。


 そう、確かに、素手で武器を持った相手に勝つことは至難の業だ――だが。

 ――刃堂ジンヤは、いつだってその至難の業をやってのけて、ここまで来た。


 ――制限機構リミッター解除カット

 

 ――肉体フィジカル負荷超過オーバーロード

 ――設定セット/1秒。


 一秒で充分。

 否、それ以上は体に負荷がかかりすぎる。

 電気信号精密操作により、肉体の限界を越えて加速、アンナの間合いを侵食し、一気に目の前へ躍り出た。

 振り下ろされんとしていた大鎌をつかみ取り、奪い去ろうと試みる。

 

 ライカと再会したあの日、彼女を取り囲んでいた男達に使った技。

 ――柳生新陰流、無刀取り。


 《武装解除》が決まればそこで勝負がつくのと同じように、これが決まればジンヤの勝利だ。

 

 アンナはたまらず、後方へ下がる。が、ジンヤはそこへ追撃となる蹴りを繰り出した。鎌を持つ手元を狙って右足を振り上げる。

 ここで刀を使わないのは、鎌で防御された際に《武装解除》が発動すればそこで詰むからだ。

 アンナは蹴りを大鎌の柄で防御。だが構わず振り抜く、大鎌が上方へ持ち上げられる。アンナの胴が、がら空きになった。

 右足での蹴りの勢いそのまま、回転、左後ろ回し蹴りが、アンナのがら空きの胴に突き刺さった。

 ふわりと浮き上がり、後方へ飛ばされるアンナ。

 だが空中で体勢を立て直し、大鎌を地面へ振り下ろす。

 ぴたり、と空中で制止。そのまま優雅に着地。


 ジンヤとしても、女性を足蹴にするのは本意ではなかった。

 だがこれは騎士同士の戦い。それに相手はこちらの最愛を殺しに来ている。温い考えで威力を緩める気はなかった。


「…………いったぁ♡」


 ジンヤの懸念を他所に、アンナは喜悦の笑みを浮かべた。


 愛おしそうに、蹴撃を受けた腹部を撫でる。


「もっとちょうだい……もっと乱暴にしてもいいんだよ、じんやぁ……っ!」


 ジンヤから与えられるものはなんだろうと愛おしい。そこには痛みすらも、含まれる。

 いや、それどころか痛みの愛おしさは一際だ。


 口づけも暴力も、相手を見ているという点では同じだ。

 自分を傷つけて欲しい。

 自分だけを見て欲しい。

 もっと自分に、刃堂ジンヤという男の痕跡をつけて欲しい。自分を刃堂ジンヤだけで満たして欲しい。



 ダメージを受けて、勢いが萎えるどころか大幅に増す。

 

 

 狂愛アイの力とは、かくも複雑怪奇。

 が、それも至極当然。

 乙女心が単純明快であるはずがない。



「アンナは男に動いてもらうのを待ってるだけの女じゃないよ……だから、こっちからもいくね!」


 

 切り札である《武装解除》を破られても、なんの動揺も見せないアンナ。

 

 対照的に、優位となったように思えるジンヤは焦燥に駆られていた。

 《武装解除》を防ぐことに成功したが、あの手は何度も使えるものではない。

 電気信号操作によるリミッターの解除は、肉体への負荷も魔力消費も激しい。

 多用すればあっという間に戦闘不能だ。

 

 《武装解除》もそう多用できるものではないはず。

 だが、確実にアンナはジンヤよりも魔力保有量は多い。ジンヤより魔力保有量が少ない騎士など、剣祭出場者には皆無だ。

 スタミナ勝負に持ち込まれれば、負ける。

 さらに、こちらは常に《武装解除》を警戒していなければならない。

 

 この戦い、一手ミスすれば最愛が死ぬという極大の緊張感を常に強いられ続ける。

 それは途方なく長く、あまりにも頼りない細さの上を行く、死の綱渡り。

 これまでジンヤが楽に勝った戦いなど存在しないが、今回は一際厳しい条件だ。


「じゃあ、いくよっ!」

 

 アンナの足元から、影が伸びた。

 水面の下で蠢く影。漆黒の蛇のように動いたそれが、水面から飛び出してジンヤを襲う。

 刀で弾く。

 《武装解除》の際に見られる禍々しい魔力は、大鎌の刃のみに纏われている。であれば、影での攻撃にその効果はないと見て間違いないだろう。これは刀で防げる分、先程よりもいくらか楽に対処できる――――と思われたが。


 次々と伸びる影の刃。

 水面を引き裂き、白い飛沫が飛ぶ。

 始めの内は容易に防げた。

 影の刃を伸ばしての攻撃。

 龍上ミヅキの操る蛇腹剣に比べれば、切れ味は数段落ちる。

 速さも威力もない攻撃だと思った――しかし。


 影が、三つに分かれた。分離しただけ細くなった三つの影が、同時に迫る。


「……くっ!」


 防ぎ損ねた。心臓を狙う一つは防いだ。右腿を狙うもう一つも。だが最後、顔面を狙うそれを首を振って避けたが、左頬を掠った。朱線が引かれ、血が滴る。


「……ジンヤの綺麗な顔に……傷、ついちゃったね♡ ごめんね……。でも、大丈夫! じんやのことも、アンナでいっぱいにしてあげるからね! いっぱいいっぱい、傷つけてあげるからっ!」


 少女が奏でる甘い声には取り合わず、ジンヤは思考を高速回転させていた。


 確かに、龍上ミヅキのそれよりも、影の斬撃は鈍い。

 が――ただ劣った攻撃を仕掛けてくるほど、アンナは愚かではなかったようだ。


 工夫はこの地形。

 水で満ちた足元からの攻撃は、狙いが僅かに読みにくい。揺れる水面に幻惑される影の始点。そこを読みきれなかった故のダメージだ。

 かすり傷だったから良いものの、これが致命傷になっていてもおかしくない。


 この場所で仕掛けてくるアンナは、かなり狡猾だ。

 水面の揺らぎによる影の読み難さ。加えて、水に足を取られて動きが鈍る。


「ギッヒヒ、じんどーどうしたの、防戦一方じゃん! そろそろ諦めて雷崎ライカを差し出して尻尾巻いて逃げたら~?」


 不快な羽音。罪桐ユウの言葉を完全に無視するジンヤ。


「つれないなー……だったら――、」


 ユウが動いた瞬間、彼の首元に影の刃が突きつけられた。


「…………邪魔するなら、あなたから殺すけど……?」

「……おー、こわ。言うようになったねえ……ギヒヒ、まあいいさ、僕も二人きりで楽しんでもらいたいし――、」


 刹那。

 ユウへと迫る、刃が一つ。


「――――《閃光一刀エクレール》ッ!」


 現れたのは、輝竜ユウヒ。


「うわっ、とお!」


 ユウは《未来予知》でそれを躱す。アンナに影を突きつけられても一切動じないのも当然。

 アンナの攻撃も、ユウヒの攻撃も、既に視えていた・・・・・ものだから。そんなものに一々驚いてやる義理はない。


「罪桐ユウ、貴様という悪を、ここで断つッ!」

「あっつくるしいねえ、正義のヒーロー! 今こっちは最高の絶望ショーを観劇中なんだけど、それ邪魔するってどれだけ無粋かわかってる!?」

「黙れ、知るかクズがッ! 僕が理解しているのは、貴様を斬らねばならないということだけだッ!」


 青い瞳に憎悪を燃やすユウヒ。

 いつもの丁寧な口調も崩れ、凄絶な形相で凄まじい連撃を放つ。


 さしものユウも、これにはたまらず後退。

 ジンヤとアンナが戦いを繰り広げる公園の広場から引き剥がされるユウ。

 ユウヒがユウを追ってその場を去る際、ジンヤへ一瞬目配せをした。

 言葉はない。

 ただ視線に込められた意味は通じる。


 ――――勝て、ジンヤくん。

 ――――キミも無事で、ユウヒくん。


 男達は、ただそれだけ意思を交わすと、視線を切ってそれぞれの相手へ戻る。


「やっと二人きりになれたねえ、じーんやぁ♡」


《私もいるけどね》


 霊体のライカが、アンナに向けて言った。


「……あはは、らいかさん、これから死んじゃって幽霊になる予行練習ですか? 熱心ですね」


 ぞっとする程冷えた声で、霊体のライカを睨むアンナ。

 殺意。

 これまでに向けられたことのない鋭い感情に、ライカの背筋が冷える。


「……さあ、邪魔者は去ったんだ。続けようか」

「……うんっ♡」


 ジンヤの言葉にアンナが頷くと同時、彼女は影を殺到させ――さらに。


 じゃらり――と、硬質な音が奏でられた。


 大鎌の石突から伸びている鎖。それを影と同時のジンヤへ放った。


(影だけでも手一杯だっていうのに……ッ!)


 鎖が刀に巻き付いて、動きが阻害されているところへ影が伸びる。

 逃げなければ。

 しかし鎖により動きを封じられている。刀を離せば動けるが、そうなればライカが殺される。だが動かなければ、影に斬り刻まれる。

 八方塞がり。このままじゃやられる――そう思った刹那。


《ジンくんっ!》


 ライカが叫ぶ、同時に。





 ――――武装が、解除された。





 刀が消失。霊体から肉体を経て、ライカが目の前に現れる。

 鎖が地面に落ちる。

 

 ライカを両手で受け止める。彼女を抱えたまま、後方へ下がって影から逃れつつ、すぐさま再び武装化。




「《魂装解放リベラシオン・アルム》――《迅雷・逆襲》」




 ライカの機転により、なんとか逃れることが出来た。

 着想のもとは、ハヤテの魂装者アルムである翠竜寺ナギのそれだろう。

 《奇跡》とまで呼ばれたイレギュラー。

 戦闘中にあえて武装を解除するという、ハイリスクな技。

 一歩間違えば、《武装解除》の鎌を振るわれるもなく、ライカは影に刻まれていた。


「…………ねえ、じんや……アンナと戦ってる最中に、どうして他の女といちゃいちゃいするの?」


 底冷えしそうな程の声。

 アンナの光が消え失せた黒瞳が、さらに深い闇を宿した。

 水しぶきで張り付いた前髪の隙間から、射殺さんばかりの視線をジンヤへ向ける。

 幽鬼の形相のまま、アンナは呪詛めいた言葉を吐く。


「……じんやのいけず。じんやのいじわる。そうやってアンナがいやがるところをみて楽しんでるの? いいよ……じんやはアンナをどんなふうに使ってもいいよ。でも……でもね、その女はダメ……アンナ達の、アンナ達だけの! 二人だけの戦いに、その女が割り込んでくるのは、許せないよッ!」


 

 狂愛の叫びと共に、再び影がと鎖が乱舞する。

 

 龍上ミヅキには劣るという評価、改めなくてはならなそうだ。

 ミヅキの蛇腹剣。ハヤテの刃翼。

 今までの戦いの中でも、遠距離攻撃を強力な手札がないジンヤは、敵の遠距離攻撃に苦しめられ続けてきた。

 だが、ミヅキもハヤテも、一番得意とするのは真っ向からの斬り合いだ。

 アンナは違う。

 鎌による近接での戦いでも、アンナは手強いだろう。

 しかしそれ以前の問題。

 影と鎖による攻撃。近づくことすら許されない、遠距離からの手数の多さ。


 刃堂ジンヤには、致命的な弱点がある。

 空噛レイガとの戦いを思い出せば、即座に理解できるだろう。

 あの時ジンヤは、レイガには何も出来ず、ただミヅキに助けられただけだ。

 ジンヤは遠距離を得意とする相手には勝てない。


 鬼門となる遠距離。

 刃堂ジンヤの限界。





 だが、ここで限界の一つや二つ越えられないのなら、誰かを救うことなどできやしない。





 再び電気信号へ干渉。



 ――制限機構リミッター解除カット

 ――知覚速度パーセプションスピード限界駆動オーバークロック


 ――疑似思考加速ブレインアクセル・エミュレート発動ブート



 知覚が。

 感覚が。

 爆発的に鋭敏になり、時間が引き伸ばされていく。


 とぷん――……と、まるで水底へ沈んだかのように、全てのモノが鈍重に見える。


 影と鎖、その全ての動きを正確に把握する。


 今のジンヤならば、銃弾をいくつ叩き込まれても、容易く躱してみせるだろう。


 かつての限界、それを今ここで越える。


 頭に鋭い痛みが走る。

 脳味噌が文字通りショートし、頭が爆発しそうだ。


 それでも、痛みを押し殺し、前へ。


 ジンヤはそのまま、鎖と影を全て置き去りにして、アンナへと肉薄を果たした。


 背後から影と鎖が追いすがっているのがわかる。

 大鎌を振り上げるアンナ。

 

 これ以上の思考加速は危険だ。本当に脳が焼ききれて死ぬかもしれない。

 加速を切り上げる。

 

 そして、アンナが大鎌を振り下ろすより速く、ジンヤは刃を振り抜いた。


「《迅雷一閃エクレール》ッ!」


 狙いは足元。

 この攻撃には、ある意図がある。

 確かめたいことがあった。アンナを倒すには必要なことだ。


 地面すれすれの這うような斬撃。アンナはそれを、飛び上がって躱した。

 アンナの体が宙空を舞う。

 斬撃が躱される。


 そして――…………。


「……やはりか」


 確認は済んだ。ジンヤの仮説は当たっているようだ。

 

 背後から遅れてやってきた鎖を刀で弾き飛ばした。


(…………よし、次の段階だ)


 アンナを倒すための策は薄っすらと浮かんでいる。

 だがまだ条件が揃っていない。

 今はまだ。

 だから――――。


 そこからジンヤの戦い方が変化し始めた。


 距離を取って影と鎖を防ぎ続けたかと思えば、突然それらを弾き飛ばしながら接近を試みる。

 攻める気があるのか、ないのか。

 訝しみつつも、アンナは攻撃を加えていく。

 アンナの優位は崩れない。影と鎖による攻撃を破るには、ジンヤは《疑似思考加速》を使わなければならない。

 だが、この技を長時間使うことはできない上に、さらに消費が激しい。

 一度《迅雷一閃エクレール》で斬りかかってきたきり、《疑似思考加速》の使用も控えていた。

 

 なにが狙いだろうか――アンナがそう考えつつも、戦いは続き。


 そして、気づいた。


 気がつけば、最初の戦いの場であった噴水がある広場から大きく離れている。

 どころか、公園から出てしまっていた。

 地の利を消された。意図の読めないジンヤの動きは、これが狙いか。


「これだけじゃないよ」


 そしてジンヤは、再び《疑似思考加速》。

 鎖と影を鮮やかに躱し、アンナへ肉薄。


「――――《迅雷/撃発一閃エクレール・エクスプロジオン》ッ!」

 

 強烈な一撃。

 アンナはなんとか大鎌を立てて、柄の部分で防御。自身に影を纏わせ、身体能力を引き上げる《迅疾影鎧じんしつえいがい》も使って、どうにか防ぎ切った。


 しかし、後方へ大きく飛ばされた。

 そして、後退した先は。

 

 ――――陽光の通らぬ、暗い路地裏。


 公園を出た先には、背の高い建物が並び、それにより日光が遮られた場所が。

 暗く、黒い、真っ黒な場所。

 ここでは、影ができない。

 これがどういうことなのか、アンナにはすぐ理解できた。


「その様子だと、やっぱり他の影使いと同様に、影が形を成していない場所では能力が使えないみたいだね」


 アンナが焦りの表情を浮かべたのを見て、ジンヤは作戦の成功を確信した。

 

 アンナVSガウェインの際、ガウェインが発した光により、影がかき消されて、アンナの能力が途切れたことがあった。

 それを考慮すれば、アンナも数多の影使いと弱点は同じだとわかった。

 地水火風に加えて、木、氷、雷。これら基本七属性。だが、ここに光と闇を加えて九属性と考える騎士もいる。

 《光》と《闇》は、概念属性ほど希少ではない。




「さあ、影は封じた。ここからは斬り合いの時間だ」


「望む所だよ、じんや……こんどは大鎌こっちでたっぷり愛してあげるね」




 淫靡な手つきで大鎌の柄を擦りつつ、妖艶に笑うアンナ。

 

 ジンヤへ肉薄。上段から鎌を振り下ろす。

 今は《迅疾影鎧》も、影による斬撃も使えない。つまりアンナの大部分の能力が封じられた状態。

 ――――で、それがどうしたというのだ。

 ジンヤはいつだって、同じような状態で戦っている。ならば自分が同じ状況で泣き言を言いたくない。追いつきたい、憧れの人に、大好きな人に。そのために、ジンヤと離れ離れになっている間、血の滲むような努力をしてきた。

 ジンヤが、ライカと離れている間も、ライカを想って努力したように。

 アンナは、ジンヤを想って強くなった。


 そんな彼女が、能力頼りの騎士であるはずがない。


 上段からの鎌の振り下ろしを、ジンヤが刀を掲げて防御。

 アンナは鎌を引いて、位置を調整。刃先と柄、その間に刀を挟み込み、くるりと手首を返した。すると何が起きるか。

 刃先と柄に挟まれていた刀が、強引に向きを変更させられる。

 ジンヤは刀を握っていた両腕ごと、体を左方向へ持っていかれた。


 ハルバードを扱う技術に、これに近い技法があった。

 槍と斧を合わせたような形状の武器で、斬る、突く、払う、打つと様々な攻撃が可能な武器――それがハルバードだ。扱いが難しいが、その分上手く扱えば強力だ。

 恐らく大鎌は、それよりもずっと難儀な武器だろう。

 だがアンナは極めたのだ。西洋武術すら取り込んで、特異な武器を自分のものにしている。


 左方向へ体勢が倒れかけた隙――そこをついて、アンナは接近してきた。

 大鎌を回転させ、刃先と正反対の部分、石突による突き。狙いは下段。

 鎖は取り外していた。近接で戦う分には邪魔と判断したのだろう。

 

 狙いが甘い。石突による刺突は当たらないと、完全に見切った。

 

 が――甘かった。

 大鎌がジンヤの両足、その間に滑り込む。そのまま大鎌の柄で足を払われる。先刻の一撃で体勢が崩れかけてたのも相まって、あっさりと倒れていく。

 相手の股下に柄を滑り込ませ足を払う。これも西洋武術の技だ。

 ハルバードやポールアックスなど、様々な長物の技を自在に使いこなしてくる。


 そもそも、槍でもなく、ハルバードでもなく、ポールアックスでもなく、薙刀でもなく、野太刀でもなく、長巻でもなく――――なぜ、大鎌なのか。


 大鎌は扱いやすい武器ではない。

 しかし、この形でなければいけない理由が存在するのだろう。


 鎌とは、刈り取るもの。

 死神の武器。

 死神――魂を刈り取る者、死の寓意アレゴリー

 ランスロットやガウェインの魂装者アルムがそうだが、概念属性を持つ魂装者アルムはこういった「形」に込められた意味が重要となる。




 《慈悲無く魂引きユースレス裂く死神の狂刃ソウルイーター》。


 魂を引き裂く死神の刃。

 魂を引き裂く――つまり、魂装者アルムを引き裂く。



 あの規格外の技を放つには、あの形状は必須なのだろう。


 形状は、能力と密接に関わっている。

 伊達や酔狂で選んだ形状ではない。



 そして、扱いの難しさに見合うだけの努力を、彼女は積んできている。


 






 完全に倒れる途中、ジンヤはどうにか踏みとどまる。

 だがその良くない体勢のところへ、さらに追撃が仕掛けられた。

 

 撃発音。


 影が使えずとも、魂装者アルムの機能である撃発機構は発動可能だ。


 大鎌が振り下ろされる。

 強烈な一撃が見舞われた。

 

 なんとか受けた。衝撃が全身を駆け抜ける。左膝が地面に突きかけている。

 右手で刀の柄を握り、左手を峰に添えて、やっと受けきれた。両手で柄を持っていれば、そのまま刀を持っていかれていただろう。


 こちらは崩れた体勢。アンナは大鎌を振り下ろした状態。そして、密着している。


 ――――この体勢のまま、さらなる攻撃を加えることが可能な技を、アンナは以前見せていた。


 その技とは――――


 膝を抜く――つまり、脱力によりノーモーションで膝を曲げ、それにより生まれた足裏と大地の隙間を踏み抜き、腰、肩を回転。

 これらで生んだエネルギーを大鎌へ集約し、ゼロ距離で叩き込む。すなわち中国拳法における『寸勁』。それを大鎌で行う。






「雷咲流〝驟雨〟が改――《音無く首裂くサイレント死神の凶刃ソウルイーター》」







 だが――――雷咲流の技をジンヤができない道理はない。








「雷咲流〝驟雨〟が改――《迅雷驟閃エクレール・アヴェルス》」







 密着状態で、同時に同じ技を放つ。

 

 体術による威力、魔力による威力。

 加えてアンナは撃発による威力。

 ジンヤは峰に添えていた左手から磁力を発し、刀を後押しする疑似的な《エクレール》による威力。

 結果は互角――両者、大きく後方へ弾かれる。


「…………はぁ……、はぁ……」


「……っはぁ……はぁ…………」


 二人共、呼吸が荒くなってきた。

 疲労はジンヤの方が濃い。

 影と鎖により苦しめられ、脳のリミッターを何度も外し、さらにここに来て体術の競い合い。

 魔力も体力も、ジンヤの方が大きく削られている。

 

 対して、アンナにも焦燥が生まれている。

 影を封じられ、体術勝負に持ち込まれた。さすがはジンヤ、斬り合いで彼を倒すのは一筋縄ではいかない。


 だが――。


 両者、口元に笑みを浮かべていた。


「…………本当に、強くなったね。アンナちゃん」

「うん……頑張ったよ……アンナ、頑張ったの。だってね、アンナ……ずっと寂しかったから」


 遠いあの日々。

 叢雲の屋敷での、大切な思い出。

 あの頃、ジンヤとハヤテは毎日のように本気で競い合っていた。

 二人はいつも楽しそうだった。

 

 ジンヤは、いつもアンナに笑顔で接してくれる。

 優しい笑顔。愛おしい笑顔。

 でも――そのジンヤが、アンナに見せない顔がある。


 ハヤテと戦っている時の、狂気すら感じる剣士の笑み。


 それだ。

 アンナはそれが欲しかった。


 自分にもその凶悪で、野蛮な、荒々しい、男の笑みを向けて、乱暴に刃を突き立てて欲しい。

 いいや、それだけじゃない。

 狂愛だけじゃない。

 もっと純粋な願い。


 …………アンナだって、ジンヤと戦いたかった。

 ジンヤと本気で遊びたかった。

 もっと自分を見てほしかった。


 ハヤテばっかり、ずるい。


 ……アンナがやたらとハヤテに当たりがきついのは、彼女がジンヤ以外への男にまったく興味がないのもあるが、ジンヤを取られた嫉妬もあるのかもしれない。


 あの頃のアンナは、まだ弱かった。

 記憶が消されたことにより、《幻想都市》時代、そしてその後の戦闘経験で積み重ねた強さをリセットされていた。

 弱いアンナには、ジンヤは本気になってはくれない。


 だが今、ずっと秘めていた願いが叶っている。

 

 ジンヤはアンナだけを見ている。

 ジンヤと対等に戦えている。

 重ね続けた努力が報われた。

 想い続けた願いが報われた。

 

 尤も――それだけで満足するつもりは、毛頭ない。


 本当に欲しいのは。

 一番に欲しいのは。


 ジンヤの愛だ。ジンヤの体だ。ジンヤの心だ。ジンヤの全てだ。

 ジンヤと結ばれたい、ジンヤの恋人になりたい、ジンヤとキスがしたい、ジンヤに犯されたい、ジンヤの子供が生みたい、ジンヤと家庭を築きたい、ジンヤと一生を添い遂げたい、ジンヤが好きだ、ジンヤが大好きだ、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き――――、


「………………なんで」


 こんなにも。


「…………ねえ…………」


 こんなにも、願いが叶っているのに。


「………………なんで、らいかさんなの…………?」


 こんなにも強くなった。

 こんなにも、ジンヤは自分を見てくれて、本気になっている。

 

 なのに近づけば近づく程に、遠くなっていく。

 許せない。

 一つ願いが叶う度、一番大切な願いが遠いことを実感してしまう。


「ねえ、なんでらいかさんなの!? どうしてアンナじゃダメなの!? なんで!?」

 

 溢れてしまう。

 溜め込み続けた想いが。

 溜め込み続けた狂愛が。

 全てが、溢れる。


 涙がこぼれた。

 

 艶やかな黒髪を振り乱しながら、アンナは漆黒の大鎌を乱舞させ、ジンヤで怒涛の斬撃を加えながら叫ぶ。


「先に出会ってたから!? 先に出会ったのがそんなに偉いの!? 愛って過ごした時間なの!? 愛って出会った順番なの!? おかしいよ……っ! そんなのっ、ずるいよっ! だったら、アンナはどうすればよかったの!?」


 涙が止まらなくなる。

 今まで感じ続けていた理不尽を、叫ぶ。







「幼馴染ってなに!? 子供の頃の思い出がそんなに大事なの!? ないよっ……そんなのっておかしいよ! アンナの子供の頃は、ずっと地獄だった! じんやとらいかさんが楽しく過ごしてる時、アンナは人を殺してたんだよ! ずっと! ずっと! ずうぅぅぅっと! なんでアンナばっかりこんなひどい目に合うの!? だったら少しくらい、アンナだって幸せになってもいいでしょっ!?」







 漆黒の暴風となった少女の刃が、狂愛の矛先を刻む。

















 

「どうして! どうして! どうしてアンナじゃダメなの!?

 もしアンナが、もっと大人っぽい雰囲気だったらよかったの!?

 もしアンナが、もっと背が高ければよかったの!?

 もしアンナが、胸がもっと大きければよかったの!?

 もしアンナが、らいかさんみたいな綺麗な金色の髪をしていたらよかったの!?

 もしアンナが、じんやの幼馴染ならよかったの!?

 もしアンナが、何もないって思っていた頃のじんやの、何かになっていたらよかったの!?

 もしアンナが、じんやを救ってあげてたらよかったの!?

 もしアンナが、じんやの魂装者アルムだったらよかったの!?

 もし……もし、……もっと早く出会えていたらよかったの!?

 もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし、もし…………もう、もう……もう、どうすればよかったの? どうすればよかったんだよぉッッッ!? どうしたらぁぁぁッ! 

 どうしたら……どうしたらよかったのぉ…………ねえ…………、ねえ、じんやぁ……!」



















 大鎌を取りこぼし、崩れ落ちて泣きじゃくるアンナ。


 チャンスだ――――とは、思わなかった。


 ジンヤが刀を下げて、何か言葉を紡ごうとした瞬間。













「甘ったれないでよ、アンナちゃん」















 ライカが武装解除し、アンナの前に立っていた。

 

 馬鹿――――ジンヤがそう言う前に、ライカは振り返り、視線だけで彼を制した。





「……私だって、別にずっと幸せなわけじゃなかった。もう嫌だって思うことは、何度も思った。ずっと騎士になりたかったのに、その夢が断たれた時。ジンくんが、龍上ミヅキに負けて、学園に入れなくなった時。それからまた、龍上ミヅキに負けて、彼の魂装者アルムになるかもしれないって時……それに、もう一度ジンくんが負けて、本当に落ち込んじゃった時。……今だってそうだよ。罪桐ユウなんて訳の分からないヤツのせいで、私も、ジンくんも、アンナちゃんも、みんな苦しんでる」







「だから、なに……? そんなの、アンナに比べたら……」


「それが甘えだって言うの。自分が世界一不幸だとでも思ってるの?」

「思ってるに決まってるよっ!」

「幸福にも不幸にも、優劣なんてつけられない! それは理屈じゃない! 恋愛だって同じだよ! 先に出会ったとか、過ごした時間とか、顔が可愛いとか胸が大きいとか……全部、全部関係ないよ。なにが理由かなんて、どうでもいいでしょう? 確かに、なにか理由があった方が納得できるのかもしれない。でも無理だよ、そんなのないから。恋愛に、理屈なんてないんだよ。この人だ――って、そう想っちゃったんだもん。少なくとも、私はそれだけ」

「なに、それ……」

「ごめんね、めちゃくちゃで。……でもね、恋愛の話なんて、めちゃくちゃにしかならないでしょう?」

「……ずるい……ずるいよっ! 人が本気で願って叶わないことなんて、ないんじゃないの!? アンナは世界で一番、じんやと結ばれたいって願ってるっ!」

「だから、甘いってアンナちゃん――――世界で一番ジンくんと結ばれたいと願ってるのは、私だから」

「…………そ、んなの……っ!」


 ゆらり、と泣き崩れていたアンナが立ち上がった。

 大鎌を、ライカの首にかけた。


「――――――殺せば?」


 冷ややかな顔で、ライカは告げた。

 

 ――――あー、最近なんかよく殺されそうになる、と赤熱する思考の片隅で、冷静に思う。


「殺したらきっと、私はジンくんの中で永遠になっちゃう。そうしたらアンナちゃん、もう絶対に勝てないよ。死者はね、永遠だから最強なの。その人の中で、勝手にどんどん強くなっていくの。……私も、大好きな人を亡くしたから知ってるよ」


 刃堂美華。

 ジンヤの母親。

 小さい頃、ライカも一緒によく遊んでもらった、ライカの憧れの人。


「じゃあ……じゃあ、どうしたらいいのぉ…………アンナは、もう……、じんやしかあ……じんやしかいないのに……」

「――――本当にそう?」


「……………………え?」




「……ガウェインさんも、オロチさんも、今もずっとあなたのために戦ってる。あなたの魂装者アルムだって、あなたが大切なんじゃないの? 本当に、ジンくん以外の全ての人が、どうでもいいの?」


「…………そんなの、どうでもいいに、きまって……っ!」


「そんな人、ジンくんが好いてくれるかな?」


「…………それは……っ!」






「ほら、やっぱり甘い。なんにもわかってない。そうじゃない……そうじゃないよ、アンナちゃん。ジンくんの好みはね、そうじゃないの。――――預けてた勝負、私の勝ちだね」






 ジンヤ、ライカ、アンナの三人でデートに行った時。

 どちらがジンヤに相応しい女かを決める勝負……そんなお遊びめいた戦いをしていた。

 結果は一勝一敗。勝負が決まる前に、アンナのリボン紛失騒動や、合コンに巻き込まれて、有耶無耶になっていた。







「…………やだ、みとめない」






 子供のように――いや、事実彼女は子供だ。だからアンナは、負けを認めない。


 大鎌をライカの首から外した。

 そして。







「…………こ、ん、な、も、のおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!」






 彼女がしていた首輪。

 罪桐ユウがアンナを洗脳するためにつけていた魔装具を、強引に引き千切った。

 

 あの悪辣が、ここまで用意周到に心を壊し、出来得る限り最高の洗脳を施した。


 ――――だが、そんなものは、アンナの狂愛の前では塵屑だ。


 そんなもので、この想いは止められない。

 そんなもので、この狂愛アイは制御できない。



 首輪を投げ捨て、アンナは叫ぶ。





「続けよう! このままじゃ、終われない!」


「……ああ、僕もそうしたいと思っていたよ」


「ねえ……じんや……もう大会に出れなくても、まだあの約束は有効?」






 約束――剣祭でアンナが勝ったら、ジンヤはアンナのモノになる。





《いいよ。そうしないと終われないでしょ?》





 武装化し、霊体となったライカが言う。




 

 本当に、自分の彼女は豪胆だな……と、幼い頃のようなライカの物言いに驚きつつも、惚れなおす。

 ああ、そうだ。雷崎ライカという女は、どこまでもかわいくて、そしてどこまでも格好いい。

 出会った頃に憧れたのは、こういうところだった。

 










「…………アンナちゃん。ここが剣祭の二回戦だ。観客もいない、喝采もない。でも、僕らにそんなの必要ないよね――――さあ、僕らのためだけの戦いを、始めよう」









「……うん、いいよ、大好きだよ、じんや。絶対勝って、アンナのモノにする」










 もう、ジンヤの剣祭は終わっている。出場はできない。一度はそのことに絶望し、死まで考えた。だが、まだやることがある。

 少女を救わなくてはならない。

 少女の気持ちに、決着をつけなくてはならない。


 ――――なによりも。

 ずっと守るべき対象だと思っていた彼女が、自分を想ってここまで強くなっていたのだ。

 ここで彼女を無下にするようなヤツは。

 彼女の想いに応えないようなヤツは。

 騎士でもなければ、男でもない。

 




《ジンくんに勝つ? やってみなよ、私達は負けないッ!》




「黙れこの泥棒猫ッ!」




《こっちのセリフだッ!》

 








 ジンヤを他所に始まってしまう女の戦いに苦笑しつつ。


 互いに構える。

 




 アンナはもう、罪桐ユウの洗脳から解放されている。

 だが――――もはやあんな端役のことはどうでもいい。






 狂愛譚の主役は、屍蝋アンナと刃堂ジンヤ、そして雷崎ライカ。







 この狂愛に決着をつけなければ、この物語は終われない。






 きっと傍から見れば意味がわからないと思うだろう。

 余人には理解できないだろう。



 だが、当人達にしか理解できぬ意地がある。







「……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッッ!」




「……セァアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッッ!」


 二人の騎士が、吼えた。

 黄金の刀と、漆黒の大鎌が激突する。







 高速の剣戟。凄まじい速さのやり取りの中で、いくつもの技と駆け引きが咲いては消える。

 火花が散る。

 さながら、あの夜に咲いた花火のように。


 あの時言えなかった、想いがあった。





「じんやっ! 大好きっ! 強いところが好き! 優しいところが好き! アンナを救ってくれるところが好きっ! 好き! 好き! 全部大好き! 初めて会った頃から、ずっとずっと、大好き!」



 出会いは叢雲の屋敷。

 あれからずっと想い続けてきた。


「ああ、僕もアンナちゃんのことは大好きだ! 屋敷での日々、いつも支えてくれた! 慕ってくれるのが嬉しかった! 家族がいない僕に、家族のように接してくれたのが、本当に嬉しかったっ!」



「だったらっ!」






「でも……ごめん、僕は、ライカが好きだ。だからアンナちゃんの想いには応えられない」













「…………そんなのっ! もっと! もっと! もっと強くなって! 

 もっといい女になって! 心変わりさせてあげるからっ!!!!

  アンナしか見えないようにしてあげるっ! 

 ……ああ、もう……もうもう、なにがハヤテだっ! 

 なにが龍上ミヅキだっ! なにが輝竜ユウヒだっ! 

 あいつら全員、嫌いだっ、嫌いっ、大っっっっ嫌いだっ!!!

 邪魔だっ! どけっ! じんやはっ! じんやは、アンナのものなんだから!!!!

 アンナだけ見てればいいんんだからっ!!!!!

 じんやは、ずっっっっっと、アンナを倒すことだけ考えてればいいんだからあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」














 漆黒が幾重にも描く斬光が鋭さを増していく。




 アンナの独占欲は異常だ。

 ジンヤがアンナ以外のことを考えるその全て許せない。

 ジンヤの思考の大半は、強敵達のことで占められている。

 それが許せない。不愉快だ。邪魔だ。腐れホモ共が、全員ブチ殺すと今決めた。

 


 刃堂ジンヤの思考の一片たりとも、世界中の誰にも渡さない。

 


 両者に傷が増えていく。


 至高の愉悦だった。ジンヤによって、刻まれていく。愛しい傷が、増えていく。

 ジンヤのことを、刻んでいく。口づけの痕をつけるように、彼に自分の痕跡を刻みつけていく。

 この男は自分のモノだとマーキングしていく。


 今、ジンヤはアンナのことだけを考えている。

 アンナを倒すことだけを考えている。

 独占している。彼の心を。

 今この瞬間だけは絶対に、ライカよりも、アンナのことで心を満たしている。


 これだ、これだけは、ライカにはできない。魂装者アルムごときにできてたまるか。


 そのことが、ライカに優越感を覚えることが、たまらなく快感だった。


 このままライカからジンヤを奪い去る。

 だから、必ず勝つ。




















「……つぅ―――――――――――――――――――――――――――――――かまえたぁ♡」























 突然、ジンヤの動きが完全に停止した。


 振り向くことすら、できない。

 なぜか――答えはすぐ浮かんだ。


 影使いの常套手段にして、必殺の技術。


 影縫い。対象の影に刃を突き刺すことにより、動きを封じる。

 アンナの足元、そこから伸びる鎖が、ジンヤの背後に回っており、先端の刃が、影に突き立っていた。

 ではなぜか?

 現在、影はビルの影により覆われており、能力は封じられている。

 答えは、アンナの足元にあった。


 マンホール。

 その穴の中に影を伸ばし、下水道を通り、別のマンホールから影を伸ばして、鎖を操作。

 影によって、刃をジンヤの影に突き立てた。


 確かに、影が形を成していない時は、影を実体化出来ない。しかし、影を伸ばして、光がある場所にたどり着けば、そこから実体化は可能。

 

 ジンヤの背後のマンホールは、ビルの影の範囲外にあり、そこから影が伸びている。それはアンナの足元のマンホールと繋がっている。






 ――――狙っていた。ずっとずっと、この必殺を。



 そして――――――――






「――――《慈悲無く魂引きユースレス裂く死神の狂刃ソウルイーター》」









 《武装解除》だけは、彼女の能力で影の有無が無関係だ。今も発動することができる。

 




 《影縫い》と同時発動。《武装解除》を他の能力と併用するのは初めてのことだった。恐らく、通常はできないのだろう。

 それができれば、もっと早くにジンヤは詰まされている。

 術式構築の難度が高く、他と併用すると、発動に時間がかかる……こんなところか。


 だが、動きが封じられた今、時間はいくらでもある。

 











 王手――――いや、詰みだ。











 刃堂ジンヤの敗北。

 それを確定させる漆黒が振り下ろされた瞬間――、


 バヂィッ――と激しい炸裂音。同時、閃光。


 ジンヤの刀が、凄まじい雷光を放った。

 

 現在、ジンヤは指一本動かせない。

 だが、それで構わない。

 この技を破るのに、指一本も必要ない。


 ただ魔力を注ぎ込み、解放しただけ。

 だが、それで充分。

  

 雷光により、ジンヤの影が一瞬消え去る。

 すると《影縫い》の拘束も解除される。



 アンナがマンホールを利用する策を伏せていたのと同様に。

 ジンヤもずっと隠していた、《影》への対抗策を。


 だが、一度回避しても、またすぐに背後から影が襲ってくる。

 狭い路地裏。逃げ場はない――否。


 ジンヤは足先に磁力を集中。それにより、壁に張り付き、一気に垂直に駆け上がる。


 彼は魂装者アルムからを除き、外部に魔力を放出できない。だが、体内の磁力が外部に作用するのは、外部への魔力放出が不可能という欠陥とは関係がない。


「……逃さないっ!」


 壁に幾重に伸びる配管に鎖を巻きつけて、アンナも壁を登っていく。


 やがて二人は、ビルの屋上へたどり着いた。


 ここならば、影の能力をフルに使える。一時的に逃げ延びるために、優位を捨てた――今度こそ、ジンヤの敗北かと、そう思われた刹那――――、





「――――条件は整った」


「……なにが?」


「アンナちゃんを倒す条件」


「……やってみせてよ!」




 

 影を殺到させながらも自身もジンヤへ斬りかかる。









「ハヤテはきっと、アンナちゃんを救う戦いに参加できなかったら、文句を言うからね……これはその代わりだッ!」


「……はぁ!? なんっ、で、じんやが……それをっ!」







 アンナはジンヤが何をするのか理解していた。








 ジンヤは言いながら、二本目の刀を手にしている。

 《迅雷・疾風》。親友との戦いの際に編み出した、二刀の型。















「――――――――《迅雷/翠竜嵐閃エクレール・デザストル》ッ!」



















 最高の親友が持つ技を模したそれは、二刀による高速連撃。


 彼のように、風による加速が行えないジンヤは、二刀を反発により加速させて威力を補う。

 それは、一撃一撃が擬似的な《迅雷一閃エクレール》の連撃。



 アンナといえど、それを受けきることはできない。

 

 ジンヤが一年間、打倒を願い続けてやっと叶ったのだ。初見で防げるはずがない。




 後方へステップを繰り返し、必死に逃れるアンナ。だが、この場所がどこだったのか、回避に必死で頭から抜け落ちていた。












「――――――あ、」









 アンナが足を踏み外し、ビルの上から落下していく。












 ――――空中で、ジンヤは容赦なく刀を構えた。

 納刀。

 抜刀一閃の準備が完了。







 この戦いで、ジンヤがアンナの足元を狙って攻撃をしたことがあった。

 その際に確かめていたこと。


 あの時、宙空にいたアンナは、自身の足元に伸びる影と切り離されていた。

 すると、ジンヤへ迫っていた影は消え去った。






 つまり、アンナの能力は、自身が影と接していないと使えない。






 今この瞬間、空中に放り出されたアンナは、影を操ることが出来ない。

 完全に無防備になる一瞬、ジンヤはずっと、それを待っていた。










「《慈悲無く魂引きユースレス――――、



「一手遅い、これで詰みだ――《迅雷一閃エクレール》」




 空中での一閃は、過たずアンナの斬り裂き、彼女の意識を刈り取った。













 ◇





 ジンヤとアンナの激闘、その決着から数分後。


「…………ん、んん……」


 アンナが目を覚ました。


「…………そっか……アンナ、負けたんだ……」


 公園のベンチから体を起こす。

 最後の一撃、ジンヤは仮想戦闘術式を使った。アンナを傷つけるわけにはいかないからだ。

 

 ここまでの戦いをしてもなお――――これからが本番。


 今はユウヒが罪桐ユウを抑えているだろう。

 これからジンヤとアンナも参戦し、アンナの力でユウを倒す。


「……アンナちゃん。早速で悪いけど、今からもう一戦だ。罪桐ユウ、あいつを倒して、全ての決着をつけよう」

「…………当たり前だよ。あいつだけは……絶対に、絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許さない」

 

 呪うように繰り返す。彼女がされたことを思えば、当たり前だろう。




「…………ねえ、じんや」


「……なんだい?」


「…………どうして、アンナを責めないの?」










 剣祭に出場できなくなった。

 父親を殺した。

 ライカを殺そうとした。

 ずっと、彼を騙していた。

 

 殺されても、文句は言えない。

 

 なのに、ジンヤはまったく責めない。


 


 絶対に許されないと思っていた。

 許されていいはずがないと思っていた。一生罪人として生きる。

 そんなこと、耐えられない。だから、壊れた心に身を任せた。

 そうした方が、楽だったから。

 

 抑えきれない狂愛があったのは事実。

 だが同時に、それを抑えていた、弱いアンナは、また逃げてしまった。

 安易な方向に流れてしまった。

 

 本当に、自分はどうしようもない人間だ。

 


 

 自罰は、無限に沸いてくる。

 この苦しみは、永遠に終わることがないように思える。


 永遠の罪過。

 永久の罪人。

 永劫の自罰。


 贖罪も、救済も、何もかも手遅れてで、どうしようもない。

 

 過去は取り消せない。

 

 死者は蘇らない。





 屍蝋アンナは、永劫に許されてはいけないはずだ。



















「……なんで……なんでそんなに、優しいの……?」







「…………一つ、決めていたことがあるんだ」







「……え?」








「…………僕はずっと一人っ子で、昔から兄弟に憧れていた。兄でも弟でも、姉でも、妹でも。……で、下の弟か妹がいたら、こうするって決めてたことがあるんだ。……アンナちゃんは、僕の妹弟子だから……妹だと想ってるんだけど、構わないよね?」






















「……ちょっとやだけど……恋人がいいけど……まあ、いいよ。妹で恋人ってのもありだもん……。…………それで……決めてたことって?」























「…………大切な妹がなにをしても、全部、絶対に許す。そして、なにがあっても、必ず守る」



















 そう言って、笑って、頭を撫でてくれる。



 ああ、この男は、本当に愛おしい。

 この男を好きになってよかった。



 こんなの誤魔化しだ。そう思う気持ちもある。

 ライカに嫉妬する気持ちもある。







 それでも確かに、遠いあの日に願ったこと――――ママとパパのような、幸せな家族が欲しいという願いは、叶っていた。


 





 世界を敵に回してでも守る。

 あの言葉は、嘘じゃない――――彼の手のひらから伝わる優しい温もりから、それが伝わってきた。





「…………あっ、じんや……これ、やって」



 そう言って、頭を指差す。



 激しい戦いで乱れたリボンを、ジンヤが結び直す。



 遠い遠い優しい過去の中で、大好きなママがしてくれたように。














「……………………へたっぴ♡」

















 ぜんぜんうまくなってない。


 いつまでたっても、へたっぴなんだから。


 でも、大好き。

 

 ずっとずっと、大好き。






 世界が終わったって、きっとこの星よりも大切な想いは消えない。












 







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