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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第3章 漆黒の狂愛譚/もしもこの世界の全てがキミを傷つけるとしても
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 第12話 そして××の幕が上がる



「だいす――」




 アンナが、『だいすき』、と叫ぼうとした。


 その刹那。


























          「はい残念ーっ!

           ラブコメの時間、終了ぉー!」









 
















 そして。

 絶望が具現した。









 

 □ □ □








 肩ほどまでの長い黒髪。整った中性的な顔立ち。

 何色もの絵の具を混ぜ合わせたような、濁った真っ黒の――かと思えば、穢れを知らぬ純粋な少年のように輝く瞳。


 突然現れたかと思えば、大声でわけのわからないことを発した少年。


「……キミは……」


 ジンヤは彼を知っている。

 彼の名は、罪桐ユウ。

 一度目は、《使徒》のアジトで赫世アグニ、空噛レイガと一緒にいるところを目にした。恐らく《使徒》のメンバーなのだろう。

 二度目は、蒼天院セイハとの試合。ゼキの技を使っていたことから、コピー能力を持っていると推測できる。珍しい能力を持っていながら、セイハにあっさりと敗北していた。

 

「やあ、久しぶりだね! アンナちゃん! 最近どう? 恋してる?」


 にこにこと笑いながら、友人にするかのような気安さで話しかけてくる。


「……だ、誰、あなた……?」

「ギヒ……当たり前か、まだ思い出してないもんね。焦っちゃったよ、君がぼくを思い出した時のことがあまりにも楽しみすぎてさぁ……。で、スルーされちゃった質問についてなんだけど……恋、してるねー。まあ見りゃわかるよね、してるよね、あー面白い、ギヒヒ……」


 牙を剥いて笑う少年。

 中性的な顔立ちに反して、その笑みは凶悪だった。


「……なんなんだよ、キミは」


 ジンヤがアンナの前に出て、敵意を含んだ声で問う。


「はぁ? 君、誰だっけ? ……って、あ~……えーと、じんどーなんとかだっけ? お前みたいな係数・・が低いモブ、覚えにくいんだよね……。でもダメだ、いけないいけない、じんどーを忘れるなんて。だって、このモブも大事な構成要素パーツだもんね。で? なに? 今ぼくはアンナちゃんと喋ってるんだけど?」


 楽しげに笑っていたというのに、ジンヤを目にした途端に何もかも飽きてしまったかのようなつまらなそうな顔になる少年。


「さっきからわけのわからないのことを……アンナちゃんになんの用だ?」

「うーん、用、用ね……いろいろあるけどー……まず一つ目は挨拶かな。アンナちゃんに『久しぶり』と、それから……一応、初めましてだね、じんどー。なんか前にちらっと見た気がするけど、あの時はばたばたしちゃってたもんね」

「……目的を言うつもりはないのか?」

「だから、一つ目は挨拶だって。これから長い付き合いになるんだからさ。第一印象って大事でしょ? 雷崎ライカの第一印象はよかったよね?」


 突然ライカの名を出され、ジンヤはさらに警戒を強める。

 自分とライカのことを知っているのだろうか。なぜ? どうやって? 少し観察して、当てずっぽうで口にしただけのようにも見えるが、それ以上の不気味な何かを感じてしまう。


「さて、と……とりあえず、少し緩めておくか・・・・・・


 少年――罪桐ユウは、腰のケースから本を取り出し、さらさらと何かを書き込む。

 それから本をケースをしまったかと思えば。

 ぱちん、と指を鳴らした。

 直後。


「……あ、ああッ……」


 アンナが頭を抑え、しゃがみ込む。

 彼女の手から、赤色のヨーヨーがこぼれ落ちた。


「……ッ!? お前……なにをしたッ!?」

「さーてなんでしょー? なんだと思うー?」

「答えろッ!」

 

 叫ぶと同時、ジンヤはライカへと手を伸ばしていた。

 その手の意味を、ライカは言われずとも理解していた。

 武装化。そして素早く抜刀すると、刀をユウへと突きつける。


「ギヒヒ、怒った? ま、これくらいでキレてちゃ先が思いやられちゃうなあ……」


 首筋に切っ先を向けられても、少しも動揺を見せない少年。


「とりあえずこんなもんかな……あー、そういやさっきぼくの目的を聞いてたね。一つ目が挨拶。それは済んだから、二つ目も教えておくよ」


 こつん、と指先で首筋に向けられた刀を弾いてみせる。


「ぼくとこんなことしてる場合じゃないと思うよ? そろそろ着くと思うし」


 彼はまた、意味のわからないことを言う。

 足元に転がってきた赤色のヨーヨーを見つけると、にっこりと笑いながら踏みつけた。

 少しずつ体重をかけ、ヨーヨーの形を歪ませていく。


「二つ目はね、アンナちゃんの絶望する顔が見たかったんだ」


 少しずつ、歪みが大きくなっていく。


「ぼくはね、人の絶望が大好きなんだ、愛してると言ってもいい。さっきまで馬鹿みたいにラブコメかましてた君らがどん底に落ちる様をげらげら笑ってやりにきたんだ。あー、それからね、人間が壊れちゃう瞬間とかも大好きだね。ま、まだこんくらいじゃ壊れないと思うけどね……大丈夫、壊し方・・・はもう決めてあるからね」


 ぱん、とヨーヨーが弾けて、中の水が飛び散った。


 破裂したヨーヨーを見て、ユウは満足そうに笑う。


「……それじゃ、またね・・・、アンナちゃん。素敵な絶望の表情を見せてよね?」

「なにを、言って……」


 直後、ユウの姿が消え去った。

 

 また空間転移系の能力を使ったのだろうか。コピーの能力の制限は不明だが、複数の能力を切り替えて自在に使えるなら、かなりの強敵だろう。


「大丈夫、アンナちゃん? 立てる?」

「う、うん……」


 頭の痛みは収まったようだが、未だに恐怖と混乱が残っているようだ。

 それはジンヤも同様だった。

 罪桐ユウ。言っていることはほとんど謎めいていたが、それでも彼が何か恐ろしいことを仕組んでいることだけはよくわかった。

 これからどうすればいいのだろうか。

 《ガーディアン》の協力を仰いで、彼を探し出し、詳細を問いただすか。

 先日知り合ったゼキに相談してもいいかもしれない。彼ならば、ガーディアンのトップであるセイハと話すこともできるだろう。

 ジンヤよりもずっと《使徒》については詳しいはずだ。


 ジンヤが思考を巡らせている、その時だった――。





   アンナの周囲に、


  

            極大の氷柱が、突き立った。

  




 □ □ □



 第12話  『そして××の幕が上がる』





       『そして絶望の幕が上がる』




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