第10話 涙すらも許されず/ 雪白フユヒメ VS 赫世アグニ
雪白フユヒメが、黒宮トキヤに抱いた第一印象は──最悪だった。
そしてそれは、相手も同じだったらしい。
『……なにこの生意気そうなヤツ』
それがトキヤへの最初の印象。
ちなみに、
『……なにこの偉そうな女』
と、トキヤは思っていた。
それからトキヤは、何度もフユヒメに挑んだ。
何度も負けた。
フユヒメは、天才だった。
トキヤには、希少な《時間》の概念属性を持っていながら、騎士としての才能に恵まれているわけではなかった。
フユヒメに挑戦するトキヤを、皆が笑った。
フユヒメは、笑わなかった。
だが、不思議に思った。彼はどうしてそこまでして自分に立ち向かってくるのか。
少し考えればわかるはずだ。
幼い少年が『才能を努力で超える』などという幻想に縋るのはわかるが、何度も敗北して現実を思い知るということはなかったのだろうか。
トキヤだってわかっていた。
自分に才能がないことくらい。
一生努力しても、フユヒメには勝てないままかもしれないことくらい。
それでも。
もしも自分の人生がなんの意味もなく終わるとしても。
惚れた少女より弱いという事実を捨て置けるほどに、彼の男としての意地はやわではなかったのだ。
彼女が彼を笑わなかったのは、そういう理由だろう。
根底ではわかっていた。
彼が強くなりたい理由、それが自分にあるということが。
そんな理由のために、何度も本気で向かってくる相手を笑う気にはなれなかった。
もちろんそれだけではない。彼には守るべき少女──溺愛している妹がいて、それも大きな理由だろう。
いつか、約束をした。
『彩神剣祭の決勝で戦おう』──いつかの約束は、果たされた。
そしてまた、約束をした。
『来年も、決勝で』──その約束は、果たされなかった。
トキヤは覚えている──真紅園ゼキに敗北した時のことを。
そしてフユヒメも覚えている──蒼天院セイハに敗北した時のことを。
今度こそ負けたくない。
次こそ、もう一度、愛した男と、あの大舞台で必ず戦う。
フユヒメはそう強く誓っていた。
□ □ □
レイガとアグニの会話から、時は少しばかり巻き戻り、Bブロック三試合目直前。
リングへ向かう途中の通路で、フユヒメは見知った少年に出くわした。
「……なにしてるの?」
「俺はお前と違って素直だから『たまたま通りかかった』とか言わねーぞ? お前の応援しにきた」
「……ふぅん、そう。別に必要ないわ。アナタの応援なんてなくても勝てるもの」
澄ました顔で冷たく言い放つフユヒメ。
「おっぱいのデカさと優しさが比例するんじゃねって仮説があるんだけど、どう思う?」
「迅速に死んで」
即座に作り出した氷の剣をトキヤへ振るう。
トキヤは「っぶね」と呟きつつ、軽く首を振って斬撃を躱した。
「……ま、緊張してねーみたいでよかったわ」
「今さらするわけないでしょ。というか、私がそんなことしている時があった?」
「まあ……ねーな」
「だったらその心配はなによ?」
「……相手が相手だからな」
真剣な声音。
フユヒメの対戦相手は──赫世アグニ。
「……関係ないわ、誰があろうと勝つ。私達は負けられない。……そうでしょ?」
「ああ……そうだな」
フユヒメが突き出してきた拳に、トキヤも自身の拳をぶつける。
私達――そう、フユヒメとトキヤは約束した。
あの悔しさを拭うと。
自分達の決着を、最高の舞台でつけると。
だから、こんなところでは負けられない。
□ □ □
Bブロック三試合目──雪白フユヒメ対赫世アグニ。
試合前。
解説の席につくオロチは、リング上のアグニを見つめていた。
かつて彼と向き合った時に感じた力。あれは尋常なものではなかった。
学生の枠外であることはもちろん、それどころかプロの中でも上位の騎士にすら匹敵するのではないかと思えるほどの魔力、威圧感……。
(アイツ……まさか……)
アグニの正体についての思い当たることは――ある。
ジンヤ達の知らない世界の裏側。
オロチほどの騎士ならば、当然『裏』の人間のことも知っている。
□ □ □
リング上でフユヒメは対戦相手と向かい合う。
赫世アグニ。
《炎獄の使徒》の首魁。
『裏』の騎士が、堂々と表の舞台に出場しているという不可思議な光景。
堂々と表に出てきた理由については、フユヒメも気になってはいるが、今は瑣末なことだ。
ここで倒してしまえば、彼の目的も潰えるのだから。
「アナタ、随分な悪党らしいわね」
「それがどうかしたか?」
互いに武器を携え、睨み合う二人。
フユヒメは鞘に収められた刀。
アグニは真紅の弓。
「わざわざ『裏』の人間が表の大会に出て、なにがしたいのかしら?」
「俺が丁寧に説明するとでも思っているのなら、随分と御目出度い頭をしているな」
「あらそう……よくわかったわ」
「……、」
「……そこで何も聞いてこないことも含めて、本当によくわかったわ…………アナタが本当にムカつくヤツってことがね! だから思いっきりやれるわッ!」」
「精々全力で来い。貴様の足掻きで変わるのは、貴様の惨めさの度合いのみだが……それでも、少しでも散り様は飾りたいものだろう?」
「とことんムカつくッ!」
『――Listed the soul!!』
開戦を告げる合図。
フユヒメはアグニに向け手をかざし、そこから大量の氷柱を発射。
殺到した氷柱に対し、アグニは炎で形作られた矢を放った。
矢が氷柱と交差するところで、爆発。氷柱を吹き飛ばしたかと思えば、さらに追加で矢が放たれる。
「――《絶蒼》」
フユヒメの正面に、氷で出来た六角形の盾が出現する。彼女の持つ膨大な魔力を、一瞬にして大量に注ぎ込まれた盾は大会内でも屈指の防御力を誇る。
概念系統のランスロットを除いた通常の方法でこのクラスの防御力を誇るのは、龍上ミヅキの手甲くらいのものだろう。
そして、これを上回るのは蒼天院セイハが使う同じ技くらいのものだ。
炎矢は《絶蒼》の壁に阻まれ、壁には傷一つつくことがない。
「なるほど……流石は一昨年の準優勝者といったところか」
静かに、控えめな賞賛を零す。
だがフユヒメの力を前にしても、アグニの態度は変わらなかった。
「《魂装転換》――《破滅の赫枝》・《形体・炎槍》」
炎弓が、真紅の槍へと姿を変えた。
同時、数瞬前にフユヒメが放っていた氷柱がアグニを襲う。
アグニは槍を横に一閃。すると氷柱は残らず爆炎に包まれて消し飛んだ。
「《剣林氷樹》」
畳み掛けるフユヒメ。
彼女を中心に、リングから氷柱が伸びていく。広がる氷柱が、アグニの元へ到達する直前――
とん、と軽く足を踏み鳴らすアグニ。今度はアグニを中心に熱波が広がり、氷柱を瞬時に溶かし、蒸発させて消し飛ばした。
「やるわね。なら……《氷涙弾雨》ッ!」
水面にいくつも波紋が広がるかのように――空中に、魔法陣が浮かんでいく。
複数の魔法陣から、雨のように氷柱が降り注ぐ。
リングに氷柱が突き立っていき、墓標のような光景を作り出す。
ただし、アグニの立つ地点を除いて。
極大の炎柱が、天を貫かんと伸びていた。炎が走った後には、僅かな水分すら存在を許されず、再びフユヒメの生み出した氷柱は焼き尽くされる。
(凄まじい火力……これほどの炎使いは学生レベルじゃ見たことないわね)
いくつかの技を容易く防がれ、フユヒメは歯噛みする。
(遠距離からじゃキリがない……ッ!)
フユヒメは防御寄りのオールラウンダーだ。
鉄壁の防御を誇る氷の盾《絶蒼》を軸に、遠距離では豊富な魔力から繰り出す多彩な魔術、近距離では卓越した剣技と隙がない。
龍上ミヅキや、蒼天院セイハもこのタイプで、大抵の騎士が目指すのは『攻守ともに優れ、全てのレンジで強い』という万能型だ。
余談になるが、それを踏まえると近接剣技一択のジンヤのピーキーさが浮かび上がるだろう。
そして今――そのフユヒメを、アグニは真正面から圧倒していた。
フユヒメは魔力保有量、瞬間出力、身体強化、どの面も優れている。
強化を施した脚力による激烈な加速で、一気に距離を詰め、蒼銀の刀を振り下ろす。
上方からの振り下ろしは、真紅の槍に容易く弾かれ――刹那、フユヒメは気づく。
アグニの膂力、その異様さに。
弾かれようが、即座に切り返すつもりだったが、フユヒメの体勢が大きく崩れた。
そこまで力を溜めた動きには見えなかった。軽く振り払うような動きだった。
だというのに、まるで渾身の一撃を叩き込まれたかのような威力。
ビリビリと手が痺れる。防御のための動作でこれだ。
これが攻撃に転じたとしたらどれほどの――そんな疑問の答えは、すぐに出た。
フユヒメの体勢が崩れたことにより捻出された暇を以て、アグニは槍を大きく引いていた。
そして、突く。
先刻の軽く振り払うような動きとは訳が違う、十分な溜めからの攻撃。
「《絶蒼》――、」
「――随分とその薄氷に信を置いているようだな」
澄んだ破砕音が響いた。
絶望の音色だった。
ゼキやセイハなど、学生内でトップクラスの騎士が、全力の一撃でやっと壊せるかどうかという強度を誇る鉄壁――《絶蒼》。
アグニはそれを『薄氷』と言ってのけ、特別なことはなにもしていない一突きで砕いてみせた。
素の膂力が違いすぎる。
学生トップのフユヒメから見ても、アグニの持つ力は異常だった。
格が違う、あまりにも。
学生のレベルなど、遥かに逸脱している。
フユヒメには知る由もないことだが、風狩ハヤテの感じた絶望は正しかった。
赫世アグニは、別格だ。
――――それでも、フユヒメは諦めない。
もう一度、あの場所に。
トキヤは勝利したというのに、自分が負けられるはずがない。
ずっと自分を追っていた彼に置いていかれてしまうことなど、許せない。
今だって、彼はゼキにリベンジを果たすことを目的にしている。
そんなのは、嫌だ、許せない。
(トキヤ……アナタは私だけ見ていればいいのよッ!)
「――《絶刻》ッ!」
フユヒメの右手に、銀色の魔法陣が浮かぶ。
《絶刻》。
『時間』を『凍結』させるという、規格外の概念術式。
レイガのように、弾丸に魔力を込め、停止させる対象へ撃ち込むという過程すら必要としない、発動すれば問答無用で相手を停止させるという絶技。
ただし、術式の構築難度が他のそれに比べて桁違いだ。
フユヒメは同じ技を使うセイハと比較しても、発動までの速度で劣っている。
術式構築、膨大な発動に必要とされる魔力のチャージ。
トキヤがランスロット戦で見せたように、事前に発動までの手順を終え、いつでも発動させられるようにしておく《遅延起動》を使うという手もあるが、その場合は他の技の精度や威力が格段に落ちる。
故にそれに頼らず、一から構築せねばならないため、発動までに時間がかかるのだが――
その隙を見逃すほど、アグニは甘くはなかった。
《絶刻》への対処は、多くの騎士が頭を悩ませる命題だ。
発動すればほぼ確実に敗北する。であれば、発動を阻止する他ない。
《絶刻》を抜きにしても、セイハやフユヒメの実力は凄まじい。素の攻防で彼らに遅れを取っていれば、まず間違いなく《絶刻》発動の隙を与えてしまう。
尤も、その程度の騎士ならば発動前に決着がついていることがほとんどだが。
アグニの選択肢は二つ。
一つは、発動前に術者を攻撃し、発動を防ぐこと。大抵の者にはこの選択肢かない。そして限られた者のみが持つもう一つの選択肢は――
銀色の魔法陣が、炎に包まれた。
「……まさか!」
「知っていてなおそれに縋ったのなら、愚かだな」
《概念焼却》。
アグニほどの騎士ならば、当然その技能を習得している。
「――なんて、驚いてみせれば、私が手詰まりだと思うでしょ?」
《絶刻》は術式自体が消滅させられたというのに、フユヒメは――笑った。
笑みの理由は、二人の遥か上空にあった。
先程氷柱の雨を降らせた魔法陣よりもさらに高い位置。
そこに巨大な魔法陣が出現していた。
「……『時間停止』すら囮に使うか」
「見抜いたところで手遅れよ。まさか一回戦で使うことになるとは思っていなかったけど……アナタが出し惜しみできる相手じゃないことはよくわかったわ――さぁ、これで終わりよ」
上空の巨大な魔法陣から、巨大な氷塊が放たれる。
それはもはや、個人に使用する範疇のものではなかった。
一流の騎士による防護壁がなければ、スタジアムを丸ごと破壊するような馬鹿馬鹿しい威力。
フユヒメが持つ技の中でも最大威力の、その技の名は――
「――《蒼星天墜》」
それを前にしたアグニは。
「……なるほど、思っていたよりはできるようだな」
依然として、少しも動じていなかった。
「だが俺の前に立ちはだかるには足りんな。学生の枠内で頂点だろうが、プロの騎士だろうが……あの男の前では等しく塵に過ぎん」
アグニはフユヒメのことを見ていない。それどころか、この大会に出場しているどの騎士のことも見ていない。
彼が見据えているのはもっとずっと遠い最果てなのだから。
アグニはフユヒメ程度の相手になど興味はない――だが。
彼女の瞳は、何かを思い出しそうになる。
その瞳に、見覚えがある気がした。
そして思い当たる。
敵わない相手を前にしても諦めないそれを。
届かない星へ手を伸ばす愚かなそれを。
「……あまり、見ていたい瞳ではないな」
同じだ。
最果てを目指す、己の瞳と。
だから。
「――――《世界焦がす破滅の炎槍》」
思わず、当初の想定を上回る力を披露してしまった。
レーヴァテインの名の通り、それは炎の巨人が握る、世界を焼き尽くした武器そのものだった。
真紅の槍から炎が伸びる。
フユヒメの上空からの氷柱の雨を防ぐために放った炎柱。それを凌ぐ巨大な炎が伸びる。
一瞬の出現だった炎柱を凌ぐ巨大な炎剣は、その形を保ったまま燃え盛る。
□ □ □
刹那。
解説のオロチが立ち上がり、叫んだ。
「防護障壁を強化しろッ! あそこで戦ってるのはそこらのガキじゃねえ……アタシが戦ってると思えッ!」
彼女の焦った叫びで、障壁を担当していた騎士達も即座に事態の異常さを理解した。
□ □ □
ゆっくりと、炎剣が氷塊に向けて振り下ろされた。
氷塊が炎に包まれ、その形を失っていく。氷塊だったものが、雨となってスタジアムに降り注ぐ。
炎剣は、止まらない。
リングを丸ごと両断できるほどの馬鹿げたスケールのそれが、フユヒメを襲う。
逃げ場など、どこにもなかった。
轟音が響いたかと思えば、リング内全てが炎に包まれる。防護障壁が炎を阻むも、リング内部は全て赤く染まり、観客から両者の姿が完全に見えなくなる。
後に残ったのは立ち込める煙と、悠然と立つアグニ。
――そして崩れ落ちたフユヒメ。
これで、彼女の剣祭は終わった。
蒼天院セイハにリベンジを果たすこともなく。
最愛の少年と、相応しい舞台で決着をつけることもなく。
なにも。
なに一つ成し遂げられずに、終わりを迎えた。
少女の瞳から溢れた涙は、無慈悲な炎によって零れることすら許されずに蒸発していく。
厳然たる、圧倒的な実力差。
これが赫世アグニ。
世界最強を殺すと誓った男の実力。
□ □ □
武装の強制解除という異端の技を見せつけ、一躍話題となったアンナ。
アグニは、純粋な力だけを見せつけて、アンナの異端を上回る勢いで話題になっていた。
この後の試合。
嵐咲ミラン対ルッジェーロ・レギオン。
ミランは善戦するも、ルッジェーロに敗北する。
これでBブロック四試合が終了。
勝ち上がったのは、真紅園ゼキ、蒼天院セイハ、赫世アグニ、ルッジェーロ・レギオン。
次のCブロックは、
ハンター・ストリンガー対アントニー・アシュトン。
両者、セイハのリストにあった選手――つまり外部からの刺客同士という組み合わせ。
龍上ミヅキ対水村ユウジ。
ジンヤとしては気になる、龍上ミヅキの大会最初の試合。
爛漫院桜花対ルピアーネ・プラタ。
ジンヤと同じ黄閃学園の四組目の出場者にして、キララがライバル視する少女、オウカの出番だ。
龍上キララ対零堂ヒメナ。
ジンヤとライカ共通の友人であるキララの出番。
零堂ヒメナ――真紅園ゼキと同じ学園で、彼の恋人でもある少女。
強敵だった。ヒメナは確実に、キララより格上の相手。
引き続き見逃せない試合が続く剣祭。
ジンヤの脳裏からは、圧倒的な力を見せつけたアグニの姿が消えていなかった。
□ □ □
「――じんや、明日一緒に夏祭りにいかない?」
唐突にそんなことを言い出したのは、アンナだった。
ライカはデジャブを感じる。
試合を見終えた後の帰り際、いきなりそう切り出したアンナ。
以前もこうやってデートの提案をしてきた気がする。
「うん、いい…………あ」
頷きかけたジンヤはしまったという顔でライカに視線を向ける。
さすがにライカを通さずにデートに勝手に違う女を連れてくるのは暴挙だと気づいたようだ。
「ライカ、いいかな?」
夏祭り自体は、もとから二人で行くつもりだったのだ。ライカとしては、二人きりだと思っていたので、正直に言えば嬉しい提案ではない。
「……らいかさん、だめ?」
「……うーん……」
「あのね……アンナね……」
そしてアンナは語りだした。
彼女はジンヤに出会う前は、学校でいじめにあって引きこもっていた。ジンヤと出会ってからも、彼女の中の『スイッチ』が切り替わっていない状態では人が大勢いるところに行くことはできないのだ。
アンナはそれをジンヤに隠していた。
そして、ジンヤと一緒に住んでいる時期にも、夏祭りに行く機会はあった。だが断った。ただ「人混みが嫌い」とだけ言って。
ジンヤはそれを信じていた。
だからアンナは、ジンヤとハヤテが楽しげな顔で遊びに出かける背中を、いつも寂しそうに見ていたのだ。
本当は、一緒に行きたかった。
だから……夏祭りは、彼女の憧れなのだ。
「…………その話をされたら私は絶対に断れない!」
不謹慎ながら、ずるいと思った。
こんな話をされた後に「でも二人きりがいいからごめんね」などと言い出せば、ジンヤに嫌われるどころか神経を疑われてしまうだろう。
というか、そんな計算抜きで純粋にライカはアンナを夏祭りに連れて行ってあげたくなった。
一方アンナは……、
(……ふふ、不幸な過去も『つかいよう』です)
なんとしてもアンナはジンヤと夏祭りに行きたかった。
そして、今話した過去も事実だ。
事実ではあるが、それを『利用』することに対する躊躇いは彼女にはなかった。
なんだってする、それが愛のためならば。
□ □ □
その夜。
蒼天院セイハのもとに、一通のメールが送られてきた。
メールには、いくつかのファイルが添付されている。
その中の映像ファイルを開き――彼は信じられないものを目にする。
メールを確認し、その映像の詳細を知る。
もしもこのメールに記載されていることが真実だった場合。
《ガーディアン》として、この都市を守る者として、絶対に看過できない事態が始まる。
セイハはその後、彼らに連絡を入れた。
そして、セイハは告げる――――――――。




