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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第3章 漆黒の狂愛譚/もしもこの世界の全てがキミを傷つけるとしても
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 第8話 束の間の休息に逢瀬を 後編/混沌、合コン、王様は誰だ?


「――で、ちゃけばどーよ実際? みんな誰狙い?」


 合コンの舞台となったファミレスのトイレに、男達は集まっていた。

 ランスロットは男達に問いかけた。 

 ランスロット、アロンダイト、ジンヤ、トキヤ、ゼキ、セイバ……6人もの男がトイレに集まっているのは、異様な光景であったが……これは必要なことなのだ。

 スポーツ――サッカーやバスケなど、特にチームでプレーする時間制限のあるものにおいて、休憩の時間とは、ただ休むだけのものではない。

 優れたチームは、この時間にこれまでのプレーの反省、これからの作戦、相手チームの分析、チーム全体の士気を高めるなど、これら全てを行わなければならない。

 

 ――それは、合コンも同じだ。


「僕は誰狙いとかは……そもそも彼女がいますし。強いて言えばライカ狙いですかね」

 

 と、ジンヤ。


「まあ当たり前だがクレナはどうでもいいとして……そうだなあ、エコちゃんとルミア先輩を狙うとこえーしなあ……」

「あ?」

「いや、だから怖いから狙わないんですって」


「……俺は別に何も言う気はないが、ルミアが何をするかわからないからやめてくれ」

「惚気けスか?」

「……殴るぞお前」


 ゼキは、トキヤとセイバからそれぞれ睨まれつつさらに思案して、


「じゃーライカちゃんかなー」

「……真紅園さん?」

「……怖ぇーよ、……刃堂、お前そんな人殺しそうな目できるんだな……」

「ご、ごめんなさい……そんな目してました?」

「おう……。ま、冗談はこんくらいにして…………あー……これもう、フリーなのが屍蝋ちゃんはないとして……ガウェインちゃんしか残ってねえ……」

「……おめー、ホントにヒメナちゃんにいつか刺されるからな?」

「トキヤ先輩、今日のことはフユヒメ先輩には黙っておきますんで……わかってますよね?」

「……いい後輩を持ったぜ」


 ぐっ、と互いにサムズアップを突きつけ合う。


「……最低だなこいつら……」

 

 その光景をジト目でセイバが見ていた。


「そういうセイバはどうなんだよ?」

「興味がないな。なるべく穏便に済んでくれとしか思わない……あの屍蝋とかいう子、どことなくルミアに似てて心臓に悪いな……」

「あー……」

「ごめんなさい……あの、ランスロットさん……本当にごめんなさい……」

「……俺からも謝っておこう。ルミアは危険なので取り扱いには気をつけてくれ……」


「いや全然いいっスよ、女の子はちょっとおてんばなくらいでちょうどいい的な? 感じあるっしょ?」

「お前……マジでどういうメンタルしてんだ?」

「大丈夫っす、マジで《不壊》なんで」


 ジンヤとセイバに謝られ、ゼキに不思議そうな目で見られるランスロット。

 つい先程折れかけた彼だが、そんなことなど気にせず強がってみせる。


「俺もエコ以外に興味ねーしなあ……強いて言えばガウェインちゃんか? ってかランスロット、お前はどうなんだ?」

「えっ、オレッスカ?」

「んだよ、一番乗り気なんだから誰も興味ねーわけないだろ?」


 トキヤの問い。言葉に詰まるランスロット。

 正直に言えば、『誰狙い』など彼にはない、可愛い女の子は全員好きだからだ。

 ライカも、アンナも、エコも、ルミアも、クレナも、ガウェインも、全員可愛い。なので正しく言えば『全員狙い』だが……そう口にすれば角が立つ……どころか命が危ない。

 目に見えて危険なのはアンナとルミアだが、先程のゼキの冗談に対するジンヤの反応や、トキヤの妹の溺愛ぶり……それらを考えると、もはやどこをどう進もうが地雷を踏まずにはいられない。

 唯一の安全地帯があるとすれば――――、


「――オレもガーたん狙いっすね」


 この合コン唯一の安全地帯――それが、ガウェインだった。


「あん? なんだよ、じゃあわざわざこんな合コンやらないでもお前が勝手に遊びにでも誘ったらよかったんじゃねえか? 知り合いなんだろ?」

「ハハ……照れくさかったんスよ。距離が近すぎると逆にそういうの照れくさい的な? 口実がいるんスよ」


 ――こんなメンバーが集まるとは知らなかったんスよ! という言葉を飲み込み、それらしいことを言うランスロット。

 彼は本当に可愛い子なら誰でも好きなのでガウェインのことも当然好きなのだが……。

 ゼキの言うとおり、彼女を狙うのならばわざわざ合コンなど開かない。

 

 ――ランスロットは、不特定多数の可愛い女の子とイチャイチャしたり、モテたりしたかった。

 

 彼はその夢を捨ててはいない。

 なので、ここは周囲を油断させる。ここで正直に「全員狙いです」と言っても、やり難くなるだけだ。

 

(この後の『アレ』に……ワンチャン賭ける!)


 合コンの恐ろしさ……それは、チームワークが重要でありながら、あっさりと味方に裏切られる可能性があるということ。

 狙いが被らなければ、お互いの目当ての子に、それぞれが味方のいい部分をプレゼンしていくという協力プレーができるが……狙いが被れば、後は血みどろの足の引っ張り合いだ。

 そもそも今回の合コンは、そういった定石以前の問題ではあるが、しかしそれでも、ランスロットは基本に忠実なプレーを心がけていた。


 □ □ □


「みんなは誰狙いな感じ?」


 残された女性陣へ、そう問いかけたのはガウェインだ。彼女は宣言通り、報酬分の仕事をしようと思っていた。さらに上手いことランスロットが満足いく結果を残せれば、追加報酬としてもう十連分くらい要求できると踏んでもいた。

 

「それはまあ……ジンくんかな? というか彼氏なんですけど……」

「じんや♡」

「……わたくしはお兄様が馬鹿な真似をしないか監視しに来ただけですわ」

「お兄ちゃん!」

「セイバだよー」


「な、なるほど……」


 そしてガウェインは――。

 

(……すまんランス……これはもう、どうにもならない……)


 ……諦めた。

 全員が全員、連れの男に心底惚れているのがよくわかった。そこにランスロットが入り込む余地はない。


「私、飲み物取ってくるね~……」


 いたたまれない気持ちになったガウェインは、空のグラスを手に取り立ち上がる。

 ドリンクバーでコーラを注いでると……、


「……お」

「……。……どうも」

 

 

 やってきたのは、アンナだった。どういうわけか、グラスを二つ持っている。


「……」

「……」


 二人の間に沈黙が落ちる。

 

 □ □ □


「……そのまま寝ちゃいな、ロリロリの可愛いお嬢ちゃん……所詮はそこらの学生なんか、超絶美少女ガウェインちゃんとラティの敵じゃないんだよね」


「……おほっ! かっくいー! スタイリッシュな復帰、乙。ま、いくら格好良くても無駄なわけだが、勝つのはガウェインちゃんですしおすし」


「……ん~? ふひっ、ふひひぃ、美少女に話しかけられちゃった。……なになに? なにかな、アンナたそー? ガウェインちゃんですよー」


「……ハハッ、わろす。やられっぱなしで粋がられても迫力に欠けるんだよなあ」


 


「そうやって『だしおしみ』してるといいです、負けた時の言い訳になりますよ?」


「えぇ~っとぉ~……なんでしたっけ? 『こっからが本番』……でしたっけ?」


「さぁ、ここからが本番です。一本ずつ綺麗に削いで、丸裸にしてあげますよぉー……?」

 

 □ □ □


 二人は戦いの最中に口にした台詞を思い出す。

 戦闘中でテンションが上がっていたとはいえ、後から思い出すとかなり恥ずかしい。

 


「……ねえ、アンナちゃん」

「え、と……ガウェインさん? 何か用ですか?」

「うん。まずは二回戦進出おめでとう」

「……ありがとうございます」

「キミとはちょっと話してみたかったんだよね……私達、ちょっと似てると思って」

「……え、似てますか?」


 アンナは首を傾げた。


 見た目や性格、属性や戦闘スタイル……どれも似ているどころか、正反対と言った方が近い気がする。


「ふひひ……。『似てねーよ』って思った? まあ、基本似てないよ、全然。……でも、どっかでこの世界に見切りつけてそうな感じとか……それでも、この世界のどうしようもなさとは別に、大切な人がいるとことかさ……」

「……どうして、そんなこと……」


 ガウェインの言葉は、アンナの心の深い部分を捉えていた。

 

 アンナは、この世界が嫌いだ。自分を排斥する者が大勢いるこの世界が、憎くてしかたがない。

 アンナにはほとんど過去がない。朧げになった遠い日の記憶、両親に愛されていた日々……彼女に明確に残っている記憶は、それくらいだ。

 無意識の内に、リボンに触れてしまう。

 真っ赤なリボン。母親がいつも結んでくれた大切なもの。

 記憶の断絶以降のことは、嫌なことの方が多い。誰も信じられない世界。どこに行っても、拠り所のない、この世界に居場所がない感覚。

 言葉で、暴力で、心を切り刻まれるような想いを何度もした。

 戻りたいと思った。両親に愛されていた、あの穏やかな日々に。

 戻れない。これから先、死ぬまでずっと地獄のような日々が続くのだと、もう幸せは手に入らないのだと、そう思っていた。

 そんな時。

 彼に出会った。

 彼に救われた。

 このどうしようもない世界で、彼だけは違う、彼は自分を絶対に裏切らない。

 彼だけは自分を愛してくれる。

 彼だけは自分を守ってくれる。

 ――……それなのに……あの女がいるから……。


「試合の時の感じとか、刃堂って言ったっけ? 彼への態度とかを見てれば、なんとなくね……。……私もそうだから」

「そう、なんですか……?」


 ガウェインはアンナを見抜いていたが、アンナはガウェインのことなど少しもわかっていない……どころか、わかるつもりがなかった。

 アンナは基本的に他人に興味がない。……だが、今少しだけ、ガウェインへ興味が出てきた。

 

「私はねー母親がちょっとね……。親の愛が希薄だった子供ってのは悲惨でさー、そこの欠落の部分で、どっか歪むんだよねー」


 ガウェインの脳裏に、『面倒臭い』が口癖の、自分をどうでもいいモノのように見る母親の顔が浮かぶ。そして、皮肉にも同じ口癖を繰り返す自分。だが、ラティとの出会いで救われた。

 アンナにとっての救いが、あの刃堂という少年なのだろう。


 アンナは僅かに表情を曇らせた。

 記憶の断絶以降、世界の大半はアンナにとって敵だったが、それ以前の両親との記憶だけは違う。

 彼女にとって、両親の愛だけはこの世界で絶対の信頼に値するものなのだ。

 それがない……想像しただけで、足元から全てが崩れていくような感覚に襲われる。


「……あなたは、それで大丈夫だったんですか……?」

「ん、まーね。へーきへーき。アンナちゃんと同じ……救いになる一人がいれば、世界あとのことなんかどーでもよくねー? って話」

「……確かに、そうですけど」


 彼女の言葉は極端だが、だからこそ同じように極端な考えのアンナにはすんなり飲み込めた。

 

「……えと……それで……?」

「あー、『似てるからなんだよ』って話だよねそりゃ……別に、だからどうってことはないんだよね……ちょっと話したかったのと……似てるから、アンナちゃんのこと、気に入ったかもってだけ」

「……はあ。どうも……」

 

 ガウェインの優しげな視線から目を逸らすアンナ。ジンヤがいる場所では積極的な彼女だが、彼が絡まないところでは、人と接するのが億劫な、内気で臆病な少女のままだ。


「だからさー、手伝ったげよっか?」

「……え?」


 ガウェインが語りだす『作戦』。

 それを聞いてアンナは、この根本の部分は似ているが、それ以外はほとんど正反対な相手のことを好きになれるかもしれないと思った。


 □ □ □


「王様ゲ―――――ム!」

「ウェ――――――イ!」


 男性陣が戻ってきたところで、いよいよ合コンらしいことをする段階に突入するが……。

 ランスロットも、もうわかっているのだ……この合コンに来ている女性陣はほぼ全員、ワンチャンすらない――どころか、ワンチャン狙えば殺されかねない危険人物だらけということは。

 それでも、このゲームで女性陣の誰かといい思いができる可能性はある……ランスロットは、そこに全てを賭けた。


「……おかしいな……テンションの上がるシーンのはずなんだが、地雷が多すぎてどう転んでも危険な予感しかしねェぞ……?」


 ゼキの困惑をよそに、全員に割り箸が配られる。


 王様ゲーム。割り箸にはそれぞれ王様を示す印と、番号が割り振られている。

 王様になった者は、『○番が×番に~する』といった命令を出すことができる、というシンプルなゲームだ。

 

王様だーれだ、という掛け声と共に全員が割り箸を引く。


「お、俺だ」


 最初の王様は、トキヤだった。


「最初は軽めのやついくか~……3番が11番にハグ。……いやにしても、多いな」

 

 合計十二人。王様を抜いて1番から11番という大所帯だ。


「軽いスかそれ……?」とゼキ。

「じゃあもうちょいすげーのにするか? キスとか?」


「あっ、オレ! オレ11番! ウェーイ……オレと熱く抱き合ってくれるハニーは誰かな……?」


 そこでゼキが固まった。


「トキヤ先輩……もっと軽くしないスか……最初ですし、ね……?」

「ん? なんだお前、珍しく日和ったこと言いやがって。……あ~……そういうことか。じゃあやっぱハグだな、それで勘弁してやるよ」

 

 ゼキは……3番だった。


「ふざけんじゃねええええええええええええええええ!!!! なんで! なんでオレが! 冗談じゃねえ! イヤだ! イヤすぎる! トキヤ先輩! 命令変えてくれよ! なあ! 助けてくれよ!」

「王様の命令は~?」

「あああああああああああああああああああああああああああ…………!!!!」


 叫ぶゼキ。

 一方、ランスロットは、さらさらと砂になって消えてしまいそうだった。

 魂の抜けたような顔をした男二人が抱き合っている、悲しい光景がそこにはあった。


「捗る……! 捗る……!」


 全員が微妙な顔の中、ガウェインだけはいきいきした顔で、二人の姿を撮影していた。


 □ □ □


「6番が2番の頭を撫でる、でよろー」


 次の王様はガウェイン。


「あ、六番、僕です」


 ジンヤが手を挙げると、


「やったぁ♡」


 アンナが二番の割り箸を掲げて、ジンヤの横へ座る。


「はい、じんや~……なでていーよ?」

「あはは、これじゃいつもしてることとあんまり変わらないね」

「いつ撫でられてもうれしいもんー♡」


 ジンヤの指が、アンナの艶めく黒髪に沈み込んでいく。彼の指が動く度に気持ちよさそうに身をくねらせ、彼の腕に猫のように頬ずりする。


「じんにゃ~♡」

「あはは、アンナちゃん猫みたいだね。にゃー」


「………………………………………………………………………………………………」


 ザクッ――と、ライカは手元の皿に乗っているウィンナーのフォークを突き立てた。


「…………刃堂、あれ大丈夫なのか……?」

「……どうなんスかね……やべーやつ三人目だ……」


 戦慄するトキヤとゼキ。ジンヤとアンナを見つめるライカの瞳。そこに宿る闇は、アンナやルミアに引けを取らないものだった。


 □ □ □


「次もこの超絶美少女ガウェインちゃんが王様ー。それじゃ~次はこれでいこうか」


 用意されたのは、一つの大きなグラスに一本の奇妙なストロー……そのストローは、ハートの形を描いて二股に分かれ、飲み口が二つになっている。

 一つのグラスを二人で共有する、カップル用――いや、かなりのバカップル用のジュースだった。


「じゃ、1番と5番、いってみよーか」


「……あ、また僕だ」


 1番はジンヤ。

 瞬間、ライカは思った。


(今度こそ、ジンくんと……!)


 合コンの神(?)は、先刻アンナに振り向いたが、今度こそは自分に……とライカが祈るも。


「やったぁ♡ またアンナだ~」


 ジンヤの相手となる5番は――またもアンナだった。

 二つの飲み口の距離はかなり近い。それこそキスでもしない限り、ここまで顔を近づけるということはそうそうないだろう。


「……き、きんちょーするね」

「う、うん……でも、アンナちゃん……あんなことしたりするのに……?」


 『あんなこと』というのは、アンナと再会した時に、突然キスをしてきた時のことだ。それも口内を蹂躙するような熱く激しく深いものを。


「あ、あの時はちょっと大胆だったけど……でも、じんやといつこーゆーことをしても、何度しても、アンナはドキドキするよ……? じんやを大好きな気持ちは無限だから……」

「そ、そう……? まあ、僕もいつまで経っても慣れたりはしないかな、こういうのは……」


 お互いに顔を真っ赤にしている二人。


「付き合いたてのカップルみてーだな」

 

 ゼキの何気ない言葉が、ライカに突き刺さる。


(……いや、カップルなのは私とジンくんなんですけど……!?)


 □ □ □


「お、また私だ。それじゃ~」


 それからもゲームは続く。男同士もあまりにも悲しい絡みが続き、ガウェイン以外誰も喜ばない命令が繰り返された。

 王様は再びガウェイン。


「……そろそろいい時間だし、このへんですごいやついっちゃって締めようかー……、そんなわけで――4番が、8番に……」


「……あ、僕だ」

 

 4番はジンヤ。


「――――キス!」


 ガウェインがそう告げた瞬間、アンナは無言でジンヤへ割り箸を突きつけた。

 そこに書いてある数字は――8番。


「え、ええ……アンナちゃん、さすがに、それは……!」

 

 ライカの目の前で――いや、もしもこの場にライカがいなくて、ジンヤは絶対にライカ以外の女性とキスなどしない。

 だが――アンナも逃がすつもりなど少しもない。

 

 気がつけば、漆黒の手がいくつも伸びて、ジンヤの四肢を拘束していた。アンナの影を操る能力だ。


「じゃあ……いただきます♡」


 少女が唇の舐める。その顔つきは、あどけさなが残るにも関わらず捕食者のそれだった。


 動けないジンヤにアンナが顔を寄せた刹那――、


「させるかッ!」


 ジンヤを押しのけ、ライカが割り込み……、


「「……あ」」


 …………アンナとライカの、唇が重なった。


「…………むぅ」


 アンナが額に青筋を浮かべる。

 苛立ったアンナは、ライカを抱き寄せ、そのまま強引に舌を彼女の口内へ押し込んだ。

 ライカのナカへ侵入してきた舌は、淫靡に暴れ、上顎を舐め上げる。

 ゾクゾクゾク……と、ライカの背筋を快感が這い上がってくる。

 舌という生温かく、独特の湿り気を帯びたものが、敏感な部分を的確に、繊細に、丁寧に、丹念に、刺激してくる。これまでの人生でまったく味わったことのない快楽に、意識が溶け落ちそうになる。

 アンナのキスは、恐ろしいほどに上手かった。

 ライカは――キスだけで絶頂に達しかけた……。

 

「……ら、らめ……あんなちゃ……もう、やめっ……おかしく、なっちゃ……」


「…………しょーがないから、これくらいで勘弁してあげます……アンナとじんやの愛の『いとなみ』を邪魔した罪は重いです……」


 腰が砕け、頬を紅潮させ、ぐったりとしているライカ。


 ライカから舌を引き抜いたアンナは、透明な糸を拭い、手元のオレンジジュースを飲みながら、未だ自らの邪魔をした忌々しい相手を睨みつけていた。


「……なんか、すげーもん見たな(トキヤ)」

「……そっスね……オレ、あんまそっちは興味ないけど、ちょっとドキドキした……(ゼキ)」


「セイバもあーゆーのしたい?(ルミア)」

「冗談じゃない……(セイバ)」


「……な、なんてはしたない……(クレナ)」

「うう~……エコにはあーゆーのはまだ早いよぅ……(エコ)」


「なんだったのかな……オレらのいた意味……(ランスロット)」

「また頑張ろうぜ、ダチ公……今度は、普通の女の子呼んでさ……(アロンダイト)」

 

 集まった者達に衝撃を与えたアンナの暴挙を最後に、合コンという名の混沌は幕を下ろしたのだった……。


 □ □ □

 

「ふひひ……どーよ、アンナちゃん……ラストはちょっと計算外だったけど、まあよかったんじゃない?」

「……うん……ありがとう、ガウェインちゃん。ガウェインちゃんのこと、最初はちょっと嫌な人で変な人かなって思ってたけど……すっごくいい人だね」

「でしょでしょ? ガウェインちゃんはアンナちゃんの味方だからねえ……頼ってくれていーよ?」

「うん……ほんとに、ありがとっ」


 無邪気な笑みを浮かべるアンナと、ゲスな笑みを浮かべるガウェイン。

 

 何度もジンヤとアンナの番号が都合よく選ばれる理由……それは、ガウェインとアンナが裏で策を巡らせていたからだ。

 ガウェインは小型のドローンを操る技術を持っている。それにより、参加者の番号を手元の端末が確認。あとは王様になった際、アンナに都合のいい命令を出すだけだ。

 

「………………ガーたん?」


 合コンを終え、ファミレスの外で各々が話しているという状況。いつの間にか、ガウェインとアンナの背後に、ランスロットが立っていた。


「裏切ったのか……タクのダチを……!」


「……ランス……無理ゲーだったんだよ……メンバー集めの時点で、この合コンに勝ち目はなかった」

「それでも……オレは女の子と同じグラスのジュースが飲みたかった!」

「……それ以上言うなら……このことをケイ姉さんに報告するよ?」


 ケイというのはランスロットやガウェインと同じく《七彩円卓》のメンバーであり、ランスロットが英国にいた頃に何度もアタックし、振られ続けた女性だ。


「……ぐっ……そ、それだけはマジ勘弁……」

「じゃあ、もう十連分……いいね?」

「……たりめーよ……タクのダチっしょ?」


 ガウェインの脅しに屈したランスロットは、再び課金のためのカードを彼女に手渡すのだった。

 今回の一件、ランスロットは本当に踏んだり蹴ったりでひたすらにツイていなかった。

 ガウェインはそのことが少し可哀想だとは思ったが……概ね自業自得なのでまあいいかと思った。


 □ □ □


「にゃあ~♡」


 その夜。

 ジンヤとライカの二人が宿泊しているホテルの部屋。

 入浴も終えて、後は眠るだけというところで、ライカがいきなりジンヤをベッドへ押し倒し、なぜか猫の鳴き真似をしながら頬ずりしてきた。


「エ……。ちょ、ライカ、どうしたの……?」

「…………ふにゃーっ」

 

 怒ったような声を上げる猫ライカ。


「…………あ……今日のこと、怒ってる?」

「にゃー!」


 頷くライカ。

 合コンの場で、アンナにばかり構っていたからだろう。ゲームの都合上そうなったとはいえ、どういう理由があろうがライカからすれば面白くないだろう。

 きちんと埋め合わせはするべきだ。


「……この猫ちゃんは寂しがりでヤキモチ焼きだなあ」


 ジンヤは、精一杯ライカを甘やかそうと思いつつも、ついいじわるを言ってしまう。


「ふにゃ~……」


 ライカは顔を真っ赤にして、着ていたパジャマについていたフードをかぶって顔を隠してしまう。

 猫耳付きの可愛らしくてかなりあざといデザインのパジャマだ。

 猫っぽい甘え方は、アンナのように見た目が幼い者がする分にはまだしも、ライカのような育ちきった女性がするには、かなり厳しいものがあったが……しかし、これはこれで、なんとも背徳感があるというか……ジンヤは、何かイケナイことをしている気分になりつつ、ライカの頭を撫でる。

 ライカが「ふにゃあ~♡」と気持ちよさそうな声をあげながら擦り寄ってくる。

 それからジンヤは、『世の中のカップルって、こうやってバカップルになっていくんだろうなあ……』というようなことを考えつつ、思いっきりライカとイチャイチャした。







 □ □ □


 翌日。

 束の間の休日は終わり、再び剣祭の熱気は街を包んでいく。


 本日最初の試合は――真紅園ゼキVS空噛レイガ。


 □ □ □




「……あー、あー、あァ~………待ちわびたよォ……本ッ当にさァァ……あんなの見せられてお預けなんて酷すぎるッ! なあ、アグニもそう思わねえ!?」


 控室のイスの上にあぐらをかいて、ガタガタと揺らしながらそんなことを言った少年。

 ボサボサの青髪、凶悪な目つき、鋭い牙を剥いてみせる獣のような笑み。

 ――彼の名は、空噛レイガ。

 

 レイガの脳裏に浮かぶのは、Aブロックで激しい戦いを演じた騎士達。

 刃堂ジンヤ、屍蝋アンナ、黒宮トキヤ、夜天セイバ……誰とやっても楽しめそうだと、レイガの気持ちは高ぶってしかたがない。

 

「……ああ、待たせて悪かったな。だがこれから好きなだけ楽しめるだろう?」


 眠るように瞑目し、腕と足を組んで座っていた少年、アグニがそう返した。


「まァなァ~……うんうんうん、確かに確かにそォだよなァッ!」


 初戦から真紅園ゼキという願ってもないほど最高に楽しめそうな相手。

 次は蒼天院セイハか、罪桐ユウ。

 そして次は確実にアグニが勝ち上がってくる。


「……なァ、アグニ。久しぶりに本気に遊んでもいいんだよなァ!?」

「構わん」

「――その相手が、アグニでも?」

「無論だ。好きにしろ……俺達とあいつ・・・が東ブロックと西ブロックで分かれた時点で、既に目的は達している。この大会、どう転んでもも俺の目論見通りの事が運ぶ」


「ま、それもそっかー……じゃあ思いっきり遊べるなあ……あァー楽しみだなァッ、本ッ当ォにッ!」


 牙を剥いて笑うレイガ。

 今にも暴れだしたい衝動を抑えつけようとして、それが笑みとして滲み出てしまう。

 

 彼の求める最高の遊戯たたかいが、すぐそこまで迫っていた。

 

 □ □ □

 

「……あ、真紅園さん」


 本日の試合が迫る会場。観客席に向かう途中のジンヤとライカは、試合を控えるゼキに遭遇した。


「おー、刃堂。その『シンクゾノさん』って長くね? ゼキでいーぜ、ゼキで」

「じゃ……ゼキさんで。昨日はどうも。試合、頑張ってください!」

「おう、サンキューな……ちと早いが刃堂も頑張れよ? 屍蝋ちゃんはヤバそうだが、なんとかしろや。オレァ、女の子殴る趣味はねえんでな」

「あはは……僕と戦いたいとかではなく……」

「いやいや、お前とやりたいってのもあるぜ? まー……そうなると屍蝋ちゃんだけじゃなく、トキヤ先輩かセイバ先輩のどっちも倒さねえといけないが……誰が来ようが楽しめそうだ。お前が来てもおかしくねえと思うぜ、オレは」

「……そんな……ありがとうございます! 僕も、そのつもり……というか、優勝を目指しているので!」

「吹くじゃねえか……嫌いじゃねーなァ、そーゆーの。……ま、優勝すんのはオレだけどな」

 

 ガシガシとジンヤの頭を撫で回しながら、楽しげに笑うゼキ。

 ジンヤも自然と笑みがこぼれてしまう。

 過去のジンヤだったら、ゼキのような相手は少し苦手だっただろう。

 ハヤテよりもさらに気性が荒い……端的に言って不良なゼキは、苦手な人種なはずだが、ゼキは不思議と嫌な感じがしない。

 むしろ好感を抱いていた。どこまでも戦いに貪欲な彼は、その部分のみは自分に似ている。

 自分も彼も、気持ちのいい戦いを愛し、求め、常にそれができる相手を探している。

 だから、それが叶う相手を見つけた時、同じように思わず笑ってしまうのだろう。



「んじゃまァ、オレが格好良く勝つとこ見てな……教えてやるぜ、この剣祭の《頂点》……そこに一番近い男の強さをよ」



 楽しげに、少年のように笑いながら、ゼキは去っていく。

 

 □ □ □




 いよいよ始まる一回戦Bブロック。

 《頂点》蒼天院セイハや、《頂点》に一番近い男、真紅園ゼキ。

 ジンヤが目指す頂きに立つ者達の戦い、その幕が上がろうとしていた。



 







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