第7話 ちゃけば、知らなかったんスよおおおお……
激闘が続いた剣祭。束の間の休日にアンナの提案により、彼女とジンヤ、ライカの三人で出かけることに。
ジンヤを巡り火花を散らし、勝負を繰り広げていた二人だが……。アンナが大切にしているリボンを落としてしまう。彼女の様子から、それがいかに大切かを察したライカは、リボンを必死に捜索、無事に見つけるも……。
捜索の際に助けてもらったチャラ男・ランスロットの口車に乗せられ、なぜかチャラ男主催の合コンに参加することになってしまったのだ……!
その合コンというのが、恐ろしい面子であり……、
まず男性陣。
ランスロット
アロンダイト
刃堂ジンヤ
黒宮トキヤ
夜天セイバ
真紅園ゼキ
黄閃学園、炎赫館学園、闇獄学園、藍零学園、4校もの序列1位、内3人は前回ベスト4という優勝候補だらけの異様な集まり。
そこにさらに『黒宮トキヤを最も苦しめた男(自称)』ランスロットとその魂装者だ。
そして、女性陣。
ガウェイン
雷崎ライカ
屍蝋アンナ
黒宮エコ
灼堂ルミア
真紅園クレナ
実力ある騎士の魂装者達に加え、Aブロックで話題をさらった屍蝋アンナ、彼女に奥の手を引き出させたガウェインと、こちらも豪華なメンバーだ。
現在の騎装都市は、剣祭目当ての観光客も集まっている。そして都市に住んでいる学生の最大の関心も剣祭だ。内外問わず、あらゆる者達から注目を集める剣祭出場選手。それが突然一同に介しているというのは、ちょっとした事件だった。
「とりま~さらっと自己紹介いっちゃいましょうか~! まあもうみんなチェックしてくれてると思うけど、改めまして~今大会最もモテ男こと~
チャラチャラ・チャラチャ~……チャランスロットでっす! シクヨロウェーイ!」
「ウェ――――イ!」
ホストのように盛った青髪の男――ランスロットが決めポーズをしつつお決まりの台詞を口にした。カチューシャをつけた第二のチャラ男、アロンダイトも追従する。
「いや、お前一回戦で負けた時点で絶対今大会一番モテてねーだろ」
「おい……ゼキ、バカお前……なんでそんなこと言うんだ」
ゼキの歯に衣着せぬ言葉になぜか焦るトキヤ。
「え、事実じゃないスか?」
「…………いや、そうかもしれねーが」
「誰?」(ルミア)
「じんやぁ、はい、ポテト、あーん」(アンナ)
「ちょっと何してるのアンナちゃん!?」(ライカ)
女性陣はほぼランスロットの話を聞いていなかった。
「ランス……私、帰っていい?」
「頼むわガーたん……ガチめにメンタルが持たんってこのアウェー」
「いや、知らない……帰ってアニメ見たいんだよなあ……」
「十連分払ったっしょ!?」
ランスロットは、ガウェインをここへ呼び出すために、彼女のガチャ代を支払っていた。
「……っあ~……爆死した。ランス、もう十連分ある?」
「ちょ、マ!? さすがにそりゃヤバたん」
「アニメ見たくなってきたなー」
「タクのダチっしょ!? ガーたんの仇討ちの為に頑張ったっしょ!?」
「え?」
「やー、だから、オレがトッキーパイセンに勝って、したら次はしろあんチャンだったワケっしょ?」
「しろあんちゃん?」
「屍蝋アンナちゃん」
「……ああ、アンナたそに勝とうとしてたんだ」
「そゆこと」
「頼んでないし。ってかランスもう負けたじゃん」
「鬼っしょ!? ダチのために頑張った仲間にその塩対応!?」
「屍蝋アンナに勝ってから言って欲しいんだよなあそういうのは……」
「めんぼくナッシング……」
「アニメ……見る……帰る……」
「――ガーたん、これいる?」
ランスロットは、ガウェインにガチャ十連分の課金のためのカードを渡す。
「────報酬分の仕事はしよう」
ランスロットの手からカードを奪い取り、キメ顔になるガウェイン。
「へへっ、やっぱ頼れるのはタクのダチ公だわ……」
「ふひひ……任せな。合コンとか知らないけど全員抱かせてやるぜ」
「それマ? ガーたんも抱けちゃう?」
「もしもしラティ? うん、《陽光剣装・第三決戦形態》を使う時が来た」
「ちょい待ち待ち待ち待ち」
「さっさと戻って再開したほうがよくね?」
ゼキがめっちゃ睨んでいた。ランスロットはビビリつつ、席に戻る。
あの男はどことなく、ランスロットの所属する組織の長に似ているのだ。
「ランスロットッス……よろしくっす……」
「アロンダイトッス……よろしくっす……」
ランスロットの反省を活かし、アロンダイトは簡潔にいくことにした。
「じゃあー次ヤージン行ってみようか!」
ランスロットに振られるジンヤ。
「えっと……刃堂ジンヤです。こういう集まりは経験がないのでよくわからないので失礼があったら申し訳ないです……よろしくおねがいします……」
ぺこりと綺麗な角度でお辞儀。
「ちょいヤージン硬いんじゃない~?」
──刹那。ランスロットがそう口にした瞬間、彼の喉元へ漆黒の刃が突きつけられていた。
刃は足元の影から伸びていた。
「じんや~♡」
アンナが、一体いつ手にしたのか『じんや♡』『迅雷一閃して♡』と書いてあるうちわを持っていた。
「え、えと……しろあんチャン?」
ランスロットがアンナへ呼びかけると、満面の笑みだった表情が一変。笑みが消え失せ、暗く冷たい刺すような視線を向けられる。
「あんまりじんやに失礼なこと言わないでくださいね……?」
「……は、はい」
ランスロットが頷くと、足元から伸びた漆黒の刃が引っ込み、アンナの表情が再び笑みに戻った。
彼は本能で感じ取った。この女はヤバい、と。
「じゃ、じゃあ次~、オレの未来のお兄様こと、トッキーパイセン!」
「は?(威圧)」
「……エコぴっぴとオレがラブな感じになったら、トッキーパイセンはオレのお兄様じゃないっスか……?」
「は?(威圧) 死なすぞてめえ(威圧)」
「さーせん……」
「お前、エコに色目使ってみろ、タダじゃすまねえぞ……」
「パネエなトキヤ先輩、合コンで色目使うの禁じだしたぞ。じゃあもう何しに来たんだよ」
ランスロットを睨みつけるトキヤに、ツッコミを入れるゼキ。
「もう~……お兄ちゃん? 喧嘩しちゃダメだよ?」
「いやいや、してないしてない」
「だいたい……そもそもお兄ちゃんだって、こんなところに来てるのがフユヒメさんにバレたら怒られちゃうんじゃない?」
「あん……? なんで俺が怒られなきゃいけねーんだ」
「はぁ~……やれやれだなあ~」
大げさに肩をすくめて見せるエコ。
「別に……あいつは彼女でもなんでもねーっての……。あ、わりい……俺の番か」
立ち上がるトキヤ。
「あー、藍零の黒宮トキヤだ。去年はそこの赤いのに負けたが……今年は取らせてもらうぞ。刃堂と屍蝋ちゃん、やるとしたら勝ったほうだよな、その時はよろしく頼むぜ」
「ええ……よろしくお願いします!」
睨み合って、互いに笑みを浮かべるジンヤとトキヤ。
「……おい、その前に俺とだろうが」
「あー……セイバもよろしくな」
不機嫌そうに目を細めてトキヤを睨むセイバ。
Aブロックを勝ち残った四人が同じ場にいるのだ。どこに視線を向けようが、火花が散るのは当然だった。
「次は俺か……。夜天セイバだ。よろしく頼む」
「ちょいちょい~そんだけ~?」
刹那、ランスロットの眼球にフォークが突きつけられた。
「セイバぁ……いい?」
「ダメに決まってんだろ」
「はぁーい……」
眼球へ突きつけたフォークをくるくると回しながら手元に戻し、それでパスタを巻き取って口へ運ぶルミア。
「……オレ……今日、死ぬのかな……」
ランスロットは早くも折れかけていた。こんなに女の子に相手にされないのは初めてだった。ランスロットは、顔はいい。顔は。なので、彼が口にしている程ではないが、実際にモテる。
それが今はどうだろうか。
誰も……誰一人として、ランスロットに欠片も興味を持っていない。
もうダメなのか……。
彼の心の中の炎が。女の子とイチャイチャしたいという火が、消えかけたその時──
「気をしっかり持つっしょランス! ここで諦めていいのかよ!?」
「ロンロン……っ!」
消えかけた火に覆いかぶさり、冷たい風から守ってくれるような……そんな言葉を、友が……アロンダイトが投げかけてくれる。
「ランス言ってたじゃねえか……! 日本でモテまくるって……! 『たぶんイギリス人ってだけでモテまくるっしょ』って……あの言葉は嘘だったのかよ!?」
「ガチに決まってるだろ……!」
「なあ、なんだこれ?」
「さあ、なんスかねこれ」
トキヤとゼキは、突然始まった二人のやり取りを呆然とした顔で眺めていた。
「オレらは《不壊》、こんなことじゃ折れねえ……だよな、ダチ公?」
「ああ、当たり前っしょ」
がしっと互いの右腕を組んで決意を新たにする二人。
「あー……? オイ、そろそろオレの番でいいか?」
「あ、はい、っす……」
男性陣最後となったゼキが立ち上がる。
「真紅園ゼキだ。トキヤ先輩と被るんすけど……まあ、結局みんな言いたいことは同じだよなあ? 優勝するんで、どうぞよろしく」
「吼えるじゃねえか」
「よろしくおねがいします……っ!」
「……熱苦しいな、どいつもこいつも……」
トキヤ、ジンヤ、セイバがそれぞれゼキに言葉を返す。
ゼキの自己紹介は、それだけだった。それだけで、充分だと思ったのだ。
「じゃお待ちかねの女性陣、いっちゃいましょうか~! まずは~ガーたん!」
「みんな初めまして~。超絶美少女ガウェイン・イルミナーレちゃんですっ! そっちのランスロットとはイギリスにいた頃からの知りあいで、彼はこう見えても結構カッコイイところあるんだよ~? みんな、仲良くしてあげてねっ、ぶいぶいっ! ぴーすぴーす、いぇーい!」
満面の笑みピースをしつつ、ランスロット上げを織り交ぜた自己紹介を終える。
「……ガーたん……!」
早速のアシストに感激するランスロット。報酬分の仕事はしてくれるようだ。
「いや……誰だ……?」
普段のガウェインを知るアロンダイトは、ドン引きであった。
「おっぱいでけえ……(ゼキ)」
「でけえな……(トキヤ)」
「すごい……(ジンヤ)」
「……ちょっとジンくん?(ライカ)」
「…………やっぱり『きんぱつきょにゅー』は、悪……(アンナ)」
「……ふひひ、悪くないなあ、飢えた男共の視線に晒されるのも、ガウェインちゃんはやはり超絶美少女なんだよなあ……」
ボソボソと小声で呟き、にやけただらしない顔になるガウェイン。
「ちょ、ガーたん……あんま趣旨忘れないように頼むわマジ、こっちのアシストのプラ夫高めでよろ」
「把握把握」
「そんじゃ次行っちゃいますか~、ライライちゃんよろしく!」
「……それ私? 雷崎ライカです……そこの彼、ジンくんとはお付き合いさせてもらってます。なので他の男性の方にはあまり興味がありませんし、女性の方がジンくんと過度に仲良くなっちゃったりしたらイヤなんですけど……それでもよければ、よろしくお願いします。なんだか、合コンの参加者に相応しくなくてごめんなさい……」
申し訳なさそうに、しかしはっきりと『自分はジンヤのモノで、ジンヤは自分のモノだ』と周囲へアピールするライカ。
それを聞いて、ジンヤが赤くなる。
アンナはむすーと頬を膨らませた。
ゼキは、
「オイコラ、ランスロットてめーコラオイ」
「なんスか……」
「なんでカップルが合コン来てんだよ、意味わかんねーだろ、どうなってんだてめーの人選はよォ、あァ? オイコラ?」
「ゼッキン……」
「……それ、オレか……?」
「ゼッキン……ライライちゃん見てよ、可愛くない? おっぱいでかくない?」
「……でけえな」
「……したら、それでいいっしょ?」
「…………そうだな」
ランスロットの真剣な眼差しに、ゼキは心を打たれた。
「……お前、それでいいのか……?」
トキヤがゼキに呆れた視線を向ける。
「ほいじゃー次~、しろあんチャン、シクヨロ!」
「……屍蝋アンナです。じんやと結婚します、じんやに手を出したら殺します、よろしくおねがいします」
ぺこり、と可愛らしくお辞儀。
あまりに当たり前のように淡々と、とんでもないことを口走っていた。
「いやいやいやいや、ちょっとちょっとちょっとちょっと」
「なんですか、らいかさん」
「さらっとデタラメ言わないでね、アンナちゃん? 結婚って何?」
「……します」
「『……します』じゃなくてね? 私とジンくんは付き合ってるの、わかる?」
「じゃあ、らいかさんはじんやと結婚するんですか?」
「え、そ、それは……できたら、いいけど……」
――「……わ、わた……わたわた……私は……ジンくんがいいなら、いいけど……」
――「え、待って、今の、なしというか……!」
――「なしなのっ!?」
――「いや! だって……! もっと、もっとちゃんと伝えるからこういうことは……!」
――「……うん、わかった……かっこよく言ってくれなきゃ、おっけーしないんだからね……?」
ライカの脳裏に、過去の会話が浮かぶ。
ハヤテとナギの、自分達よりも遥かに進んだ関係を目の当たりにして、いずれは自分達も……とは思うものの、やはりまだまだ照れが勝る。
結婚なんて、考えただけで頭が茹だってしまいそうになる。
「……へぇー……らいかさん、結婚する気まんまんなんですねー、学生のうちから重いですねー」
「アンナちゃんだけには言われたくないかなあ~……?」
引きつった笑みを浮かべつつアンナを睨むライカ。
「オイコラ、ランスロット、コラ。合コンに彼女持ちの上に別の女に結婚を迫られてるハーレム野郎がいるってどういうことだテメエコラ」
「……し、知らなかったんスよお~……」
もはや恒例となったゼキとランスロットのやり取り。
「……いや、ゼキ。お前も妹とヒメナちゃんとミランちゃんで、大概ハーレム野郎だろ」
「ンなこと言ったら先輩だってエコちゃんとフユヒメ先輩でハーレムじゃないすか」
「セイバも、セイラさんとルミアちゃんでハーレムだしな」
「……俺を巻き込むなよ、そんな話に……」
セイバが不満げな声を発する。
ゼキは腕組みし、うーん……と唸りだす。
彼女持ちの上にさらに別の少女に言い寄られているジンヤ。
そして、複数の異性と親密な関係を築いているゼキ、トキヤ、セイバ。
チャラ男のランスロットとアロンダイト。
「……すげえなこの合コン、見事に男どもがクズしかいねえ」
「ああ……よくもまあこんなメンツ集めたな」
ゼキとトキヤが、集まったメンバーを振り返り、しみじみと呟く。
「さー、気を取り直して次いってみよー! 次はエコぴっぴ!」
マジでメンタルつえーこいつ、というゼキの呟きをスルーしつつ、ランスロットは進行役を続けた。
「黒宮エコです……! えっと、ごうこん? のことはよくわかりませんが、頑張ります!」
「エコ~~~! 世界一可愛い! 頑張らなくていいよ! お兄ちゃんはエコの魅力わかってるからな! 他のやつには内緒だからな!」
「もぉ~……お兄ちゃん、恥ずかしいからそういうのいいって……」
エコの自己紹介の直後、急激にテンションが上がるトキヤ。
「ありえねーだろ、合コンに妹連れてきてるって」
呆れ果てた顔で呟くゼキ。
「お兄様……私のことをお忘れですか?」
その時、これまで口を閉ざしていた赤毛の少女が、言葉を発した。
「あー……そうだった……オレも妹同伴だったわ、ありえねえ……」
「まったく……私が見ていないところで異性との不埒な会合に出席するなんて許せませんわ」
「へいへい……いーだろ、お前が見てるんだから」
「……だとしても許せませんわ……お兄様は、私だけを見ていればいいのです。あのまな板や、他の異性は必要ありませんわ!」
「まな板って……ヒメナはまな板だが、お前も大してねーだろ」
「なっ……Cはありますわ!?」
「オレにはまな板と区別がつかねー」
赤色のツインテール、毛先は強めにカールしている。髪色に近い、情熱的という言葉が浮かぶような、真っ赤なワンピース。
ずっと不機嫌そうに眉根を寄せている少女の名は――真紅園紅奈。
クレナはゼキの妹で、魂装者だ。
真紅園の家は、一般的な『お金持ち』のイメージそのままで、邸宅も大きな洋館……なので、『真紅園らしい』のは、いかにもお嬢様といった風貌と口調のクレナなのだが……。
ゼキは、かつてある事件を機に『真紅園』と敵対しており、今は家を出ている。
だが、クレナは幼い頃から兄を想い……諦めきれず、彼を追いかけてきたのだ。
「まったく……レディに向かって信じられませんわ……本当に兄様は女心が少しもわからないどうしようもない不良ですわ……」
ぶつぶつと兄に文句を言うクレナ。そこで、自分が進行を遮ってしまったことに気づいた。
「……失礼致しました。私は真紅園クレナと申しますわ。粗忽なゼキお兄様がいつもご迷惑おかけしていると思います。愚兄の無礼は、私の方から深く謝罪しますわ」
「別にいらねーっての、ンな謝罪」
そこでトキヤが、
「相変わらず似てねー兄妹だな」
「そうっすよねー?」
「いや、お前のことディスってんだよ、気づけ」
「なんスか、やるんすか?」
「いずれやるから落ち着け」
「はい、それじゃーラスト! ルーミック!」
ゼキとトキヤの言い争いを遮り、ランスロットは健気に進行を勤め上げる。
「あ、私ですか? 灼堂ルミアです。セイバに手を出したら殺します! よろしくねー!」
ルミアが元気よくそう宣言した。
宣告ランスロットの眼球にフォークを突きつけた彼女が言うと、シャレになっていなかった。
「おい、マジか……こんなのばっかか……? オイコラ、ランスロてめえ……」
「しょうがないじゃないッスかぁぁぁ……ちゃけば、知らなかったんスよおおおお……オレもおおおお、こんなのばっかりってええええ……!」
もはや半泣きのランスロット。
だが、始まってしまった合コンは止まらない。
混沌の宴は、自己紹介を終え、次のステージへ進む……。




