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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第3章 漆黒の狂愛譚/もしもこの世界の全てがキミを傷つけるとしても
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 第6話 束の間の休息に逢瀬を 前編/女の戦い


――目覚めると、何かとても柔らかい感触がした。

 どこか甘い匂いもする。

 ジンヤは即座に理解した。

 

 ライカが寝ぼけて、こちらのベッドに侵入してきたのだろう――と。


 大会出場選手は、大会付近のホテルに宿泊している。ジンヤとライカは、同じ部屋に宿泊していた。全員が全員そうではないが、仲の良い騎士と魂装者アルムにはあることだ。

 だが、ジンヤとライカは清い付き合いだった。

 ハヤテ達のように、高校生にしては進んだ付き合いなんていうことはなく、未だにキス止まり、それ以上先には進んでいない。

 だが、ジンヤも健全な男子高校生だ。

 正直に。

 正直に言って。

 

 ――ライカのおっぱいに興味がないわけがない。

 

 だが、そんなことを口にできるわけがなかった。

 『付き合ってるんだし、おっぱい揉ませてよ』――などと、生真面目なジンヤが口にできるわけがないのだ。

 では、誤ってそうなってしまった場合ならどうだろう?

 寝ぼけたライカが抱きついてきて、ジンヤの腕に胸が当たってしまったなら?

 そこにジンヤの罪はあるだろうか?

 否。

 合法的に、おっぱいに触れられる。

 その事実は、ジンヤの胸を高鳴らせた。

 しかし……。

 ジンヤは健全でありつつも、真面目過ぎた。

 仮に事故でも。

 事故が起きる可能性を見逃したということすら、彼は許容できない。

 だからジンヤは、極めて紳士的に、ライカを元の場所へ戻そうと、体を起こして視線を横にやったのだが……、



「じんやぁ~……♡」


 横で寝ていた少女が抱きついてきた。

 漆黒のネグリジェ。かなり薄手で、頼りない細い肩紐。そこから覗く白く細い体。

 艶めく長い黒髪がベッドに広がり、まるで夜の海ような様相だ。


 ジンヤの横で寝ていたのは、

 ライカではなく、


 屍蝋アンナだった。


「んん~……じんやぁ♡」


 気持ちよさそうに眠りつつ、寝言を漏らしながら、彼女はジンヤに抱きついてくる。


「……………………なんで?」


 □ □ □


 ジンヤは必死に記憶を遡る。

 昨日は本当にいろいろなことがあった。


 ハヤテとの戦い。

 アンナ対ガウェイン、トキヤ対ランスロット、セイバ対チェイスの試合。

 一回戦Aブロックの試合を消化し終えたわけだが、本当に濃い一日だった。

 そして、

『ねえ、じんや、デート……しよ?』

 さらに爆弾を落としていくアンナ。

 

「あのねえ……アンナちゃん? ジンくんは私と付き合ってるの。彼女がいる男の子をデートに誘うっていうのは……どうかなって思うな。それも、彼女の目の前で」

「おかしくないです、だってらいかさんも誘ってるんですから」

「…………はい?」

「ほんとはアンナとじんやの二人きりがいいけど……でも、それはさすがにらいかさんが許してくれないことくらいは、アンナにもわかります。だから、らいかさんも来ていいですよ?」

「来ていいですよ、ってあなたね……。そもそも、どうしてそれが通ると思ってるの? デートならジンくんと二人きりで行きたいんだけど?」


 睨み合うライカとアンナ。二人の間に火花が飛ぶ。


「らいかさん、怖いんですかあ?」

「…………はい?」


「だから……じんやを取られちゃうのが怖いんですかあ? 怖いんですよね、だからダメなんですよね? だって自信があったら、ちょっと他の女の子がデートに来るくらいなんでもないですよね? そうやってじんやからなんでも取り上げちゃうんですか? じんやのことをたくさん縛って、危ないものから遠ざけて、だいじに箱にしまっておくんですか? いいですよね、そうしていれば安心できますよね?」


 光を宿さない真紅の瞳が、ライカを覗き込む。

 ゾク、とライカの背筋が冷える。

 駄々をこねるような子供の理論なのに、言葉に妙な力が宿っている。

 『だいたい、もしも付き合ったらそうやってジンヤを束縛しそうなのはあなたの方でしょ』という返しは、もうどうでもよくなっていた。


「……いいわよ、私とジンくんのデートに、ジンくんのがついてくるくらい、どうってことないもの」

「……やった♡ じゃあよろしくおねがいしますねー、らいかさん。じんや! いっしょにおでかけ、ひさしぶりだね。楽しみにしててね、アンナもすっごく楽しみだから!」

 

 それから細かい待ち合わせ場所や時間を決めた後、満足げな笑顔で去っていくアンナ。

 アンナがどこまでライカの性格を把握していたかはわからない。

 だが、あの子供っぽい挑発は効果的だった。

 ライカは基本的に負けず嫌いだ。

 その辺り、直接戦う騎士ではないので鳴りを潜めているとはいえ、元々はジンヤと稽古をしていた剣士なのだ。

 怖いかと問われて、素直に頷けるような性格はしていないのだ。

 ジンヤはアンナにライカの話を多少はしている。今は少し話したくらいでは察しようがないかつてのライカの性格を、そこから読み取ることは……決して、不可能ではないだろう。

 それでも、もしもライカの性格を計算して挑発したのなら大した策士だ。

 なんの計算もなく、天然でそれをやっていたとしてもやはり恐ろしいものがある。

 ライカとしては、引き下がれなかったのだろう。

 あれは、あそこで引き下がるのは、女として勝てる自信がないと白旗をあげてしまうようなものだ。

 ジンヤは男だ。

 男には引けない時があるのは、よく理解している。

 しかし。

 女にもまた、そんな時はあるのだと、彼女達のやり取りで目の当たりにした。

 女の戦いは、逢瀬が始まる以前から静かに始まっていたのだった。


 □ □ □


 回想、終了。

 あれからホテルに戻って、夕食を食べた後に、軽く剣を振って、シャワーを浴びて、就寝。

 …………当然、アンナとは会っていないし、アンナが侵入する余地もなかった。


「ん~……ママぁ……」

 

 アンナの寝言を聞いて、ジンヤは微笑む。

 ……こんな異常な事態だというのにも、場違いにそうしてしまう。

 ジンヤは、アンナの過去――その一端を知っている。

 アンナの過去は、謎が、秘密が多い。

 その秘密の一つは、二年も一つ屋根の下で暮らしていれば気づいてしまうものだ。

 オロチは、アンナの過去を全ては話してくれない。オロチが言うには、それはまだジンヤが背負えるようなものではないからだ。

 いつか、ジンヤがその過去の重みに負けないような騎士になった時に、教えてもらうという約束をしている。

 だが、ジンヤはアンナの過去がどんなものであろうとも、彼女を守ると決めている。

 それは、ジンヤが知るアンナの秘密の一端のこともある。

 しかし、それだけではない。

 きっと、ライカが覚えた違和感はそこに起因するものだろう。

 アンナの態度は、どこか歪だ。ジンヤはそれを受け入れている。

 彼らの過去や事情がわからない以上は、ライカからすればすんなりと受け入れられるものではない。

 ジンヤも、ライカにアンナについて知る限りのことを話したいとは思っている。

 しかし、これはあまりにもデリケートな問題なのだ。アンナに無断で、彼女の知られたくない秘密を話す訳にもいかない。

 そういう複雑な均衡の末、今の状態が出来上がっている。

 だから。

 ジンヤとしては、アンナとライカがもう少し互いを知ろうとしてくれれば――もっと言えば、仲良くなってくれれば……。

 今の複雑な状態から、少し前に進めると思っている。

 だから、これは彼氏としてはおかしな発想ではあるが、アンナとライカの二人と一緒にでかけることは、ジンヤにとって意味があることなのだ。


「……アンナちゃん」

 

 そっとアンナの柔らかい黒髪に指を通して、彼女の頭を優しく撫でるジンヤ。

 いつか、彼女は自身の過去と向き合う日が来る。

 でも、それは今じゃない。

 ……彼女はこれまで、あまりにも悲しい経験をしすぎている。

 だから、少しでも彼女には笑顔でいて欲しかった。

 共に暮らした、家族として。

 兄弟子として。兄として。

 大切な妹に、笑っていて欲しいのだ。

 そんなことを言いながら、アンナの幸せそうな寝顔を眺めていると……、


「…………え、ジンくん…………え、どういうこと…………!?」


 隣のベッドで寝ていたライカが、この世の終わりのような顔をしていた。


「違う……違うんだ、ライカ、……キミは絶対に何かを、何かを勘違いしている……!」

「なんで…………なんで、アンナちゃんがここにいるの……」

「違うんだ……、それは僕にもわからなくて……」

「なんで、アンナちゃんの髪を執拗に触ってるの……」

「い、いや……違う……これは頭を撫でてただけで……」

「なんで……ちっちゃい女の子の寝顔を見て嬉しそうに笑ってるの……?」

「信じてくれ、ライカ……僕はロリコンじゃない……ロリコンじゃ、ないんだ……」

 

 その時――最悪のタイミングで、


「じんやはロリコンです……♡」

 

 目覚めたアンナが、満面の笑みでジンヤに抱きついた。


「――――ジンくん、正座」

「はい」


 ライカは《仮想展開》した《迅雷》の刃を、《迅雷一閃エクレール》さながらの速度で抜き放ち、ジンヤの首元へ突きつけた。



 □ □ □



「なるほど……、そんな能力が……」


 アンナ対ガウェインの試合では、ガウェインが光属性の魔力を持っていたせいで、目立った活躍がなかったが、アンナは『影』を操る能力を持っている。

 この能力は、ただ影で攻撃するだけではなく、影の中に入り、さらには別の影から出る、というようなこともできるらしい。

 

「すごいな……回避にも、奇襲にも使えそうだ……」

「泥棒し放題ね」


 どこまでいってもバトル脳なジンヤと、今まさに彼氏を盗まれそうになっているライカの感想。

 

「いけないかなって思ったんですけど……でも、この中にじんやがいるんだって思ったら……つい……」

「つい、じゃないのよ、ついじゃ……アンナちゃん、それは犯罪よ?」

 

 室外の影から室内の影への移動。これで扉に鍵がかかっていようがお構いなしだ。

 

「まあまあライカ……アンナちゃんは身内みたいなものだし、ここは穏便に……」

「身内ならなおさら、これは当たり前の常識として教えておかないといけないでしょ!?」

 

 さながら、娘を叱る母親と、娘に甘い父親だった。


「らいかさん、じんやを怒らないで……」

「……む、」


 ライカは子供が好きだ。道場にいた頃は、年齢など関係なく稽古に励んでいたし、年下の面倒もよく見ていた。

 しかし今、この幼さを盾にしたやり口に、ライカはちょっと子供が嫌いになりそうだった。

 どうにもアンナと真っ当にやり合おうとすると、彼女の幼さから自分が悪者のような気がしてくるから困ってしまう。

 こういうのも小悪魔というやつだろうか。

 勝手に寝ている相手の布団に侵入する。

 大胆で狡猾な、悪魔のような一手だった。

 ライカがそんなことをすれば、夜這いかなにかにしか見えないだろう。

 アンナならば、お茶目な一幕ということで片付いてしまう。

 恐ろしい相手だ。

 果たして、女子力皆無の自分が勝てるのだろうか……。


(勝てるかじゃない……勝つんだ! ジンくんのこと、譲れるわけないんだから……ッ!)


 強敵を前に決意を新たにするライカ。

 自分も度々ジンヤに不意打ちでキスしたりするわりに(頬が限界だが)、布団に潜り込むという手段に戦慄するという、謎の貞操観念を持っているライカだった。


 □ □ □


 そんなわけで、デートなのであった。

 一度、アンナとは別れて、商業地区の駅前で待ち合わせ。

 剣が刺さっている台座のオブジェが目印の場所で、キララを交えたデート(1巻2章)の時も、ここが待ち合わせ場所だった。

 台座の周囲では、外国人らしき二人が「これヤババババエクスカリバーっしょ?」と騒いでいた。


 先に到着したジンヤとライカ。

 ライカはなぜかきょろきょろと周囲を警戒していた。


 今日のライカの服は、白のレースがあしらわれたチュニックに、ダメージ加工の丈がかなり短いデニムパンツ。慣れない踵の高めな靴。チュニックはオフショルダーのもので、ショートパンツと合わせて、夏らしく肩と太腿が大胆に露出している。

 この辺りのセンスは、『とりあえず肌見せとけば童貞は落ちるっしょチョロいから!』という、キララのアドバイスがあったとか。

 実際、ジンヤとしても上を見れば薄手の服のせいで形までわかる大きな胸と白い肌が露出した肩が、視線を下げれば『それはもう水着と大差ないのでは……?』と言いたくなるほどに顔を見せた太腿が。目のやり場に困りつつも、キララの目論見通り、かなりドキドキしていた。


 さて、ライカがなぜ周囲を警戒しているかと言えば……。

 アンナのあの、神出鬼没さ。突然現れ、ジンヤに抱きつく。

 ――――今日こそ、あれを阻止する。

 可能性として高いのはやはり駅方面。だが、もしも少し早めに到着してどこかで時間を潰していたのなら、駅とは逆方向からくる可能性もある。

 油断はできない。

 ライカもかつては剣士だ。

 感覚を研ぎ澄まし、アンナの気配を感じ取ろうとするが……、


「――じんやぁ♡」

 

 予測できなかった。

 アンナは、ジンヤの影から突然飛び出してきて、ジンヤに抱きついていた。


「さすがにそれはズルいんじゃないかな!?」

 

 思わず叫んだ。

 出鼻をくじかれた感はあるが、気を取り直す。

 次に注目すべきは、アンナの服装。

 実は私服がダサかったりしないだろうかと、若干人間の小さい期待をしていたライカだが……、

 アンナの服装は――ゴスロリだった。

 肩紐にまでレースがついた漆黒のワンピース。腰にはアクセントになる大きなリボンが。

 彼女の華奢な体のラインが顕になっていて、少女の危うい魅力が引き出されていた。


(…………ダサいとかって次元にいない……ッ!)


 ジンヤの服の好みは謎だが、恐らくあの系統を好む人間からすればアンナは派手な服に見合う華を持っているように見えるだろう。

 同じ女から見ても、アンナの容姿はとても整っている。


「……ちょ、アンナちゃん、どっから出てきたの!? ……影!?」

「えへへぇ……どこでしょ~?」

「ぐぬぬ……、」


 早速やられた気分だった。

 起きている現象としては、これまでと特に大きな変化はないが、ライカの気持ち的には厳しいスタートとなった。


 □ □ □


 三人が向かったのは、ショッピングモール『パンドラ』。元になった逸話を知っているのか疑わしいネーミングの店だが、夏休みのこの時期は大盛況だった。

 

「らいかさん、勝負ですっ!」

 

 びしっ、と人差し指を突きつけるライカに突きつけるアンナ。


「勝負……?」


 困惑するライカに、アンナは説明を始める。 

 剣祭の二回戦、アンナが勝てば、ライカはジンヤと別れる。騎士と魂装者アルム、共に戦う者としての約束だ。

 そこを違えることはない。だが、それはさておき――約束とは別に、どちらがジンヤに相応しい女なのかも決めておくべきだ、とアンナは言う。

 勝負のルールは単純。

 これから店内を回って、ジンヤが一つ店を決める。その店の中から、二人は一つ品物を選び、どちらが選んだかは伏せてジンヤの前に。

 出された品のうち、ジンヤがどちらの選んだ物を気に入るか、というものだ。

 勝負の焦点は、どれだけジンヤを――愛する者を理解しているか。

 ジンヤと先に出会ったのも、共にいた期間が長いのもライカだ。だが、アンナは期間や出会った順番など愛でカバーできる些事だと豪語する。

 様々な店を回りつつ、一向が立ち止まったのは、様々なスイーツが並ぶ店だった。

 足を止めたのはジンヤではなくライカとアンナだったが。



「らいかさんって、お菓子とか作れるんですか? 女の子としてそれくらいできないとまずいですよね~?」

「つ、作れるよ……(大嘘)」

「へえ~、なに作るんですか? アンナは最近、チョコレートがブームなんですよ? ああ、じんやにバレンタイン上げたかったなあ、来年は絶対にあげなくちゃ……」

「ふ、ふぅーん……私も、チョコとか……作れるよ(大嘘)」

 


 女子力の戦いにおいて、ライカは無力だった。

 ライカは所詮、戦いの中に生きてきた者だ。彼女が握ってきたのは、ホイッパーやパレットナイフではなく木刀だ。チョコなど食べられればなんでもいいと思っている。

 その時、


「じゃあ、この店にしようか」


 ジンヤから予想外の発言が飛び出した。

 先程説明された勝負。それを行う店を、ここにしようと言うのだ。


「え、なんで……!?」

「ダメだったかな……? ここに僕の欲しいものがあるんだけど……、それを当てようって勝負だよね?」

「うんっ、そうだよ! じゃあ始めましょうか、らいかさん?」

「ぐぬっ……い、いいよ! 始めようか!」


 そんな感じで、戦いは始まった。

 ジンヤの好きなお菓子は何か。

 難題だった。ジンヤはそもそもお菓子をあまり食べない。彼は一日の摂取カロリーを計算して生きているので、余計なカロリーとなるようなものは口にしないのだ。

 そんな彼が好きなお菓子などあるのだろうか。ライカは首をひねりつつ、店内を見て回り、そして――それを、見つけた。


(これだ……っ!)


 まず間違いない。

 あとはそれにアンナが気づくか……。設けられた制限時間は五分。残り時間とアンナの動向を気にするライカ。

 そして、残り時間が少なくなってきたところで……アンナも、ライカと同じ答えにたどり着いてしまう。


(不味い……これじゃあ引き分け…………いや!)


 ライカは見逃さなかった。一見、勝負は引き分けに見える。だが、アンナは致命的なミスを犯した。


 □ □ □


「それじゃあ、結果発表と行きましょうか」

 

 強気なライカ。アンナも平静だ。ジンヤはそんな二人を見てニコニコしている。


「アンナちゃん、私達が選んだものはほぼ同じだし、ここは同時に出しましょうか」

「そうですね。もったいぶってもしょうがないです」


 そういうわけで、二人は同時に選んだ品を出す。

 二人が選んだのは、チョコレートでもなければ、クッキーでもケーキでもない。

 差し出されたのは、プロテインバーだった。

 ジンヤがあの店で好む物と言えば、これくらいしか思いつかなかった。


「うん、二人とも正解かな……ってことは、ひきわ――、」

「甘いよ、ジンくん」

「……え?」

 

 不敵に笑うライカ。


「ジンくんも、アンナちゃんも甘いよ……このチョコ味のプロテインバーよりも甘いよ……ふふふ」

「……らいかさん、こわれちゃいました?」

「し、失礼な……」

 

 ライカはちょっと楽しくなっていた。

 

「二つのプロテインバー……味が違うでしょ? ジンくんはどっちが好きなのかな?」


 ライカの言葉通りだった。

 チョコ味と、抹茶味。

 ジンヤが好むのは……、


「しまった……まさかっ!」


 そこでアンナが素早くライカを睨みつけた。

 気づいてしまったのだ、己の敗着に。


「……抹茶だ」


 静かに呟くジンヤ。

 そう、ライカは知っていた。

 ジンヤが抹茶などの和風な味付けを好むことを――!

 ライカの家では、基本的に和食が出る。雷崎の家ではライカの祖父も同居しているので、デザートに抹茶アイスなどの和風なものが出ることも多かった。

 そして、ライカの家によく遊びに来ていたジンヤが、それらを好んで食べていることも、当然覚えていたのだ。


「思い知ったかしら、お嬢さん……幼馴染は、伊達じゃないのよ?」


「……ぐっ、ぐぬぬ、いい気にならないでくださいよ、この程度で……っ!」


 ノリノリの二人だった。

 ジンヤは二人が楽しそうなのがなによりで、微笑ましく見守っていた。


 □ □ □


「お昼にしましょう」

 

 次の勝負は、昼食をどこにするか、だった。


(もらった……)


 先程の勝負同様、ジンヤの好みなどライカは完璧に把握している、負ける道理はどこにもない。

 

「ねえ、アンナちゃん……やっぱり五回戦とか言い出さないよね? 次、私が勝ったら、この勝負は私の勝ちよね?」


 二本先取、と事前に決めてあった。


「……ええ、もちろん。そんな『みっともない』こと言わないですよ?」

「……ふふ、ならここであなたは終わりよ……」

「…………そうやっていい気になってるといいです」


 そして、運命の二回戦。

 

 ライカの答えは、和食料理の店だった。手堅い選択。先程の勝負の決め手となったこと同様、やはりライカは幼い頃からジンヤと共に過ごし、彼の好みを把握している。

 これで間違いないはずだった。

 しかし――アンナの回答は。


 ――――ラーメン。


「…………馬鹿な、勝負を捨てるというの……?」

 

 ライカに動揺が走る。

 そんな高カロリーなものをジンヤが選ぶはずがない。

 頭では、理屈ではわかっているはずなのに、それなのに胸騒ぎがする。

 この一手、何か恐ろしい考えが隠されている気がしてならない。


 そして、ジンヤが選んだのは…………、


「じゃあ~、ラーメンで」


「…………馬鹿なッ!」

「え、ええ……!?」

 

 驚愕するライカを見て、ジンヤも驚愕する。どうして昼をラーメンにしただけで驚かれなければいけないのだろうか。


「――――甘いんですよ、らいかさん。チョコ味のプロテインバーより甘いのはどっちなんでしょうね?」

「……どういう、ことなの……?」

「ふふふ……確かに、じんやは普段なら高カロリーなもの無闇に食べたりはしません。でも、アンナといっしょにおでかけした時は、普段の予定にないものも食べていいって特別ルールなんです。だから、外食の時はあまり栄養とか関係なく食べたいものを選ぶんですよ?」


 それは、ライカと離れていた間――オロチの屋敷で過ごす間に出来た習慣だった。

 ジンヤは栄養管理を徹底しているが、アンナやハヤテはそうではない。二人にまでそれを押し付けるのは、ジンヤとしても気が引けたので、二人と出かける時は、そういう細かいことはなしにすると伝えていたのだ。

 さすがにこれは、ライカの予想の外……!


「らいかさん――――幼馴染にあぐらをかきましたね?」


「ぐ……っ、小娘が……っ!」


 やはりノリノリだった。

 なんだかジンヤも楽しくなってきた。

 

 二人とも、ジンヤが好きで、負けず嫌い。案外気が合うのでは……? とジンヤは思い始めていた。口にするのは恥ずかしいし、怒られそうなので黙っていたが。


 □ □ □


 それから食事を終え、三回戦に突入……という前に、事件は起きた。

 

 ジンヤがトイレで席を外している間のことだった。


「…………ひ、ぅ」


 アンナが突然、その場に蹲ってしまう。


「……ど、どうしたの、アンナちゃん?」

「…………ひ、ひと……ひとが、たくさん……いる……、」

「え……?」

 

 アンナはきょろきょろと周囲を見回しながら、ライカの背後に隠れてしまう。


「……人が多いのは……苦手、なので…………」

「そ、そうだったの……? さっきまで平気だったみたいだけど……?」

 

 そもそもこれまでも、大勢の人間がいる場所で平然としていたはずだ。

 それに、あの大歓声の中で堂々と戦っていた彼女が、今更こんな人混み程度に怯えるとは思えない。


「……じんやがいると平気……エイナでも大丈夫……しってる人がいると、平気だけど……いないと、だめ、なんです……、しらない人は、……こわい、から……」


 震えだしたアンナが、隅っこで丸まってしまう。

 怯えて小刻みに揺れる小さな背中は、

 剣祭の話題をさらっていったあの漆黒の大鎌の使い手でも、

 ライカに大胆不敵な挑発を繰り返す小悪魔とも、

 これまでのアンナとは、同一人物とは思えない程に、あまりにも頼りなく、儚げだ。


 アンナはかつて、壮絶ないじめを経験している。

 その頃から、人前に出るのは苦手だった。彼女の中には精神のスイッチのようなものがあり、先程言った通り、ジンヤやエイナなど、彼女が信用している人間がいれば普通に振る舞うことができる。

 しかし、そうでない時。スイッチが切り替わってない、素の彼女は、ただの臆病で、他人を信用できない、自分が嫌いな少女なのだ。

 他者とは、自分を排斥する者。

 その認識が、彼女の奥底にまで刻みつけられている。

 嘲笑う声を、母親に褒めてもらった大切な髪を切り刻む鋏の鋭さを、投げつけられた罵倒を、自身を拒絶される恐怖、彼女は鮮明に覚えている、忘れられるはずがない。


「……どうして、ジンくんがいる間に言わなかったの?」


 そこまで重症なら、事前に伝えてくれていれば、何か対策も出来たかもしれないのに。

 というか、そんな状態だというのに、こんな場所に来るのは無謀では――と、ライカは考えたが。


「じんやを心配させたくなかったし……もう、平気になったって、思ってほしかったから、……でも、むり、だった……、ごめん、なさい……、」

「大丈夫……大丈夫だからね……」

 

 ライカは子供が好きだ。怯えてる子供を見捨てるなんてことは、出来ない。

 それがたとえ、自分の彼氏を付け狙う恐ろしい小悪魔だとしても、だ。

 優しく背中を撫でる。

 アンナがライカに抱きついてくる。

 

「……あれ、そういえば……アンナちゃん、リボンは?」

「…………え?」

 

 彼女がつけていた、赤いリボンがなくなっていた。


「……あ、れ……なんで……なんでなんで……だめ……いや……ママが……あれは……ママの……、たいせつな……なんで……!? だめ……あれが、ないと……」


 さらに不安定になっていく彼女の精神。

 ライカは一瞬、どうしていいかわからなくなるが――しかし。


「…………アンナちゃん、待ってて、すぐ戻る」

「……え?」

「リボン、ないとダメなんだよね?」

「……う、うん」

「お母さんにもらった、大切なものなんだよね?」

「……うん」

「――大丈夫」 

 

 ライカは、アンナを人気が少ないベンチに座らせ、ジンヤのその場所を端末で伝えた後に、駆け出した。

 慣れない靴で、躓きそうになりながらも、彼女は走った。

 手当たり次第に、これまで通った道にいる人に、リボンのことを聞いて回りつつ、下の階へと降りていく。

 ショッピングモールのサービスセンターで、落とし物がないか確かめる。

 見つからない。

 それでも、ライカは諦めない。もう一度来た道を戻って……、と考えていた時だった。


「あっれー、なんか見たことある感じの顔だわ……ロンロンわかる?」

「あれっしょ……あのー、第一試合の、ヤババな感じだったバトルの、アルムの娘っしょ。ランスおっぱいでかくね!? って言ってたっしょ?」

「あ~……はいはい把握。ライカちゃん! 思い出しましたわ! いや、忘れてない、忘れないわ~、可愛い子の名前は忘れないからね、ガチめに」


 こんな時に……、とライカは歯噛みする。

 ナンパだろうか。誰だか知らないが、自分も有名になったものだ。だが今は構っている時間はない。


「すいません、今ちょっと急いでて……、」


 そこで、ライカはあることを思いついた。


「あの、お願いがあるんですけど」


「え、なになに? いきなり可愛い子にお願いあるとかこの展開テンアゲなんだけど」

「キテるわ~ランス。これモテ期突入まであるっしょ」


 奇妙な喋り方の二人に、ライカは事情を伝えた。

 すると、


「オッケー、任せろ――いウェーイ! ちゃけば、ダチ公の数パネェから、人海戦術的な感じでいくんでラクショー的な?」

「ってかガーたんに頼んでアレしてもらったほうがよくない?」

「あ、なるりょ! っべえわそれ、いけるいける」


 なにやら勝手に盛り上がる二人。ホストのような派手な髪型の男が、端末を操作し始める。

 それからしばらくして……、


「ビンゴっすわ~……さすがガーたん」

「……え?」

「リボン、発見、ミッションコンプリート的な?」

「……え? え、と……ありがとうございます!」


 それから短いやり取りを終えて、ライカはアンナのもとへすぐに戻る。


 □ □ □

 

 アンナは依然震えたままだった。横でジンヤが彼女の背中を擦っている。


「アンナちゃん!」

「…………ぁ、」

 

 アンナも目に飛び込んできたのは、汗だくになりながら駆けてきたライカが、赤いリボンを掲げる姿だ。

 するとアンナは一目散に駆け出し、ライカに抱きつく。


「……ありがとうっ……らいかさん、……ありがとう……っ!」

「……そんなに大事なものなら、気をつけないとダメだよ?」

「……うん……ごめんなさい……、ありがとう……、アンナ、これがないと、ダメで……」

「わっ、ちょ……そんなに抱きついたら……、走ってきたから汗かいてるし……」

「……いいもん……」

「もぉ~……私がよくないんだってー……」

 

 □ □ □


 それから、疲れてしまったのか、アンナは眠ってしまう。

 ライカの膝の上で、すやすやと眠るアンナ。


「ほんと……子供みたい。私達と同い年……なんだよね?」

「……ライカ、そのことなんだけど……」

「教えてくれるの……アンナちゃんのこと?」

「うん。アンナちゃんが、構わないって、さっき」

「そっか……じゃあ、聞かせて」


 ジンヤは語り始める。

  

 アンナには、幼少から今までの記憶が、七年分ほどすっぽりと抜けてしまっている。


 なんらかの魔術的な作用によるものらしい。

 彼女が持っている記憶は、本当に小さい頃のものと、それからオロチに出会ってからのものだけだ。

 彼女の年齢にそぐわない幼さは、そういうことらしい。

 彼女は必死に背伸びしてはいるが、保持している記憶としては、六歳までのものと、十三歳から十六歳のもの、合わせて九年程度で、単純に考えると、九歳ほどの精神らしい。

 聞いてみれば納得だった。

 確かに、あそこまで幼い十六歳というのも、不思議な話だろう。

 あのリボンは、アンナにとって記憶が確かな六歳以前の時代に、母親にもらった大切なものらしい。

 言わば彼女にとって、自分という人間を確かなものにしてくれるものなのだ。


 あれがなければ――確かな、幼少の頃の自分すら失くしてしまえば、

 彼女はもう自分が何者かすらわからない。


 だから、リボンを失くした際にあそこまで取り乱したのだ。

 彼女にどうして記憶がないのか。

 記憶がない間、なにをしていたのか。

 彼女の過去に、何があったのか――それは、ジンヤですら教えてもらっていないらしい。

 当人には記憶がなく、真相を知っているのはジンヤの知る限りではオロチくらいだ。

 

 それでも。

 過去がわからず、どれだけ謎を抱えていたとしても。

 ジンヤにとって、アンナは大切な家族なのだ。


 ――ジンヤは、できることなら、アンナとライカには仲良くして欲しかった。 

 当たり前の話だろう。

 自分の恋人と、自分の家族が、仲が悪いよりは良いほうが嬉しいに決まっているのだ。


 だから今日。

 火花を散らしつつも、どこか楽しそうな二人。

 アンナのために必死になってくれたライカ。

 ライカに抱きついてお礼を言うアンナ。


 それらの光景は、ジンヤが望んでいたものだったのだ。


 □ □ □

 

 それから、しばらくしてアンナは目を覚ました。


「……そろそろ帰ろっか、アンナちゃん」

「……やだ……もっとじんやといたい」

 

 目をこすりながら、そんなことを言う。


「また来ようよ。三人で……ね、ジンくん?」

「うん。それがいい」

「…………らいかさん、勘違いしてる」

「え……?」


 そこで、アンナは口を尖らせた後に、言葉を続ける。


「確かにアンナはらいかさんのことがすっごく嫌いで、邪魔で邪魔で、絶対に『はいじょ』しなくちゃって思ってたけど……、」

「思ってたんだ……」

「でも……、今日ちょっとだけ、いい人かも……さすがじんやがちょっと気に入った人だけはあるかも……って思ったけど……、」

「ちょっとじゃないからね、すごく気に入ってるからね、ね、ジンくん、そうだよね?」

「うん、すごく……すごくだよ、うん」


「……むぅ、しずかに」


 アンナが人差し指を口元に当てる。


「「はい」」

 

 ジンヤとライカは言われた通りに口を閉ざす。


「……ちょっとらいかさんのこといいかもって思ったけど、でも、それとこれとは別なんだよ……? どれだけらいかさんがいい人でも、じんやのことは、絶対にあげないから」

「……ふふ。うん……そうだね、望む所だよ」

「もぉーっ! それ! その余裕な感じがいやなんですーっ!」

「……あはは、そんなこと言われてもな~」


 その光景を見て、ジンヤはまた微笑む。今日は顔が緩みっぱなしだ。

 なんだか、仲の良い姉妹のようだ。

 ジンヤもそうだが、ライカも一人っ子で、前に姉妹に憧れると言っていた。

 ……やっぱり案外、二人の相性は悪くないのかもしれない。


 □ □ □


 それから、しばらくまだ遊ぶのか帰るのかで揉めた。

 ライカとしてはアンナを心配してのことなのだが、当のアンナが帰るつもりはないらしい。

 アンナとしても、一年ぶりに大好きなジンヤと一緒にいられる時間なのだ。

 そう簡単に終わらせられてはたまらないのだろう。


 その時、ライカの端末に連絡が。


「……ジンくん、これから一緒にご飯に行きたいって人がいるんだけど」

「え……? 誰? キララさん?」

「ううん……えっと、その……言いにくいんだけど、……ランスロットって人」

「……は!? え!? 」

 

 ランスロット・ディザーレイク。

 トキヤ対ランスロットの試合は、ジンヤも見ていた。確か、トキヤの妹に必死に言い寄っていた男だ。誰にでも言い寄るチャラついた男なのだろう。しかし、いつの間にライカに?

 というか、


「ライカが僕以外の男の連絡先を……!?」

「ハヤテくんのも知ってるよ……」

「いや……それとは全然別でしょ……え……え……浮気!?」

「ジンくんがそれ言う!?」


 散々『妹』とやらとイチャイチャしておいて、凄まじい言い草だった。


「さっき、アンナちゃんのリボンを探すのを手伝ってくれたの。それで、お礼をしてくれって」

「恩着せがましい……」

「た、助けてくれたのはホントだから……。『チャラ男が見返しもなしに女の子助けるわけないっしょウェーイ!』だって」

「いけません、そんな人と遊んじゃ」


 完全に父親の雰囲気を出すジンヤ。


「リボンを探すのを手伝ってくれた人なら、アンナはお礼したいな」

「うーん……アンナちゃんがそういうなら……」


 ジンヤとしては、かなり気が進まなかった。

 単純に、ライカやアンナという大切な人を、どこの馬の骨とも知れないチャラ男に会わせたくない。

 だが、『お礼』という名目となると断りにくい。


(チャラ男め……狡猾な……!)


 憤るジンヤをよそに、付近のファミレスで落ち合うことになる。

 ただし、その段取りは、ライカから連絡先をもらったジンヤがつけた。

 ジンヤは知らない男とライカが連絡を取り合うことすら嫌だったのだ。案外ジンヤも、かなりそういうところは潔癖なのだった。

 

 そして。


「ウェーイ! ヤージン、ちょりりーんっ!」

「ヤージン……?」

「ヤージン、ジンヤーのあだ名っしょ? オッケイ?」

「や、オッケイじゃないです……」


 いざ会ってみると、案の定……初っ端からランスロットのノリについていけないジンヤ。



「……ん? お前、刃堂か?」


「……おー、なんだよ、またAブロックか。オレだけかよBブロック」


「……あんまり会いたくない相手なんだが……」



 さらに驚愕する。

 ランスロット以外の、席についていた三人。

 


 黒宮トキヤ、真紅園ゼキ、夜天セイバ……前回大会のベスト4の内、三人がそこにいた。




「…………えっ、なっ、どうして……?」

「いや、オレもなんで? って感じなんだわ……たまたまそこのうるせーのに会って、気づいたらこうなってた」

「うるせーのはオメーもだろ」

「いや……トキヤ先輩、絶対オレよりアレのがうるさいっすよ」

 

 ゼキはランスロットを指差して言う。


「ってわけで、メンツも揃ったところでいっちゃいますか!」

 

 大きなテーブルを挟んで、男女に分かれて座る若者達。

 全員が騎士か魂装者アルムとして、高い実力を持つという奇妙な集まりだった。


 右側には男性陣。トキヤ、ゼキ、セイバ……そしてジンヤ、ランスロット、アロンダイト。

 左側には女性陣。トキヤの妹であるエコ、ゼキの魂装者アルムの少女、セイバの魂装者アルムで幼馴染のルミア、それから困惑したまま座っているライカとアンナ。



「ほぼ全員、あの変なのに集められたんだよ……まあ、オレはトキヤ先輩の巻き添えだけど」



 ジンヤはゼキに事情を説明してもらう。

 最初にランスロットに出会ったのはトキヤ。剣祭では刃を交えたが、戦いが終われば敵視する理由はない。少し話すくらいならと思ったが……気がつけば、偶然出会ったセイバを巻き込みさらにトキヤによって付近で遊んでいたゼキが強制的に呼び出された。

 

「……いや、なにすんだ?」


 ゼキがランスロットに疑問を投げかける。彼は何かをするつもりらしいが、このバラバラの集まりでやることなど見当もつかない。


「そりゃ、初対面の男女が集まったらやることは一つじゃないっスか?」

「あー……? なんだよそりゃ」

「合コンっスよ~! こんだけイケメンと美少女揃ったら、やるしかなくないッスか~?」

「――――待て」

「……なんすか?」

「合コンは別にいい、だが……」


 いいのかよ……とセイバは小さく突っ込む。

 ゼキもどちらかと言うと、ランスロットに近い、陽性のウェイだ。陰性のセイバとしては早く帰りたかった。それから、ルミアが暴発しないか心配でしかたない。

 

「お前、女の子呼んでねーじゃねーか」

「……え、いやいや、この集まりはオレらが集めたし、いっちゃん集めたでしょ?」


「いや、クレナはオレが。エコちゃんはトキヤ先輩が、ルミア先輩はセイバ先輩が、んで刃堂とその魂装者アルムと……あと、第二試合の屍蝋ちゃんはなんでいるんだ? まあ知らねえが、それは刃堂が。……で、お前の魂装者アルム、男じゃねーか。お前ら、連れてきた女の子、ゼロ、わかるか?」


「…………たかし」

「…………男ですんませんっした……」

 

 何故か頭を下げるアロンダイト。


「あ? たかし? たかしって誰だよ」

「ちょ、待ってもらっていいすか? ナオン、呼ぶんで」

「……おう、わかりゃーいいんだよ」


 ランスロットが誰かに通話をかける。


「あ、もしもし、ガーたん? いや……マジでマジで、ヤババババエクスカリバー案件なんすわ、これガチめにオレの……ってか、タクのメンツに関わる的な? これカムランよ、マジ。うんうん……金? 課金? オッケイ、出すわ。うん、回しな回しな、うん。あい、……りょうかーい! とりま場所送るね」


 通話を終えるランスロット。


「超絶美少女、来ますわ」

「ほぉ~……やるじゃねえか」


 にやりと笑い合うゼキとランスロット。


 しばらくしてやって来たのは、ガウェインだった。


「…………ちょ、え? これ、なんの集まり? 今北産業」


 呆然とするガウェイン。


「……あ、」

「……あ、」


 それから、ガウェインとアンナの目が合った。




 かくして。

 混沌とした合コンが、幕を開けてしまったのだった……。


 









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