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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第2章 疾風と迅雷の友情譚
22/164

 接続章 運命は集い始めて

 

 ――第二十八回彩神剣祭アルカンシェル・フェスタ、組み合わせ抽選会。


 前日から、会場付近のホテルに選手達は宿泊している。

 そのホテルは、そのまま大会期間中も使用される。抽選会の会場、スタジアム、ホテルは徒歩で行き来できる圏内、他にも調整用の模擬戦が可能な闘技場なども近くにある。

 大会のスムーズな進行に適した立地にあった。

 それもそのはず、なにせここは騎装都市。騎士と魂装者アルムのための都市なのだから。 この街は、このためにあると言っても、過言ではない。

 

 ジンヤがホテルの部屋から出る時。


「ジーンくんっ」


 不意に、ライカがジンヤを抱き寄せ、頬にキスをした。


「……ちょ、ライカ……!」


 何度も何度もキスをしていても、ジンヤはすぐに赤くなる。

 ライカはそれが可愛くて仕方がない。


「抽選会、頑張るぞ! のちゅーだよ」

「頑張るとかあるのかな……?」

「頑張ればいい番号引けるよ」

「いやいやそんな無茶な」

「…………でも、あの女のアレを上書きしないとだから」

「あはは……根に持つね……あ、いやごめん、大丈夫大丈夫、上書きされたよ」


 ジンヤとアンナの、衝撃の再会から二ヶ月。

 ライカはキス魔になった。

 二人きりの時だけで、頬などに、だが。

 上書き、と言いつつ、唇へはしてこない。ジンヤの気分にも配慮してくれてる。

 ……なんともへたれなキス魔だった。

 そこがジンヤにとっては、可愛らしいのだが。

 

 □ □ □


「よー、ジンヤ。ちゃんと眠れたか?」

「まだ抽選会だし、そこまで緊張もしてないよ。別に寝不足でもクジは引けるし……まあ、よく眠れたよ、ホテルのベッド、すっごくふかふかだった」

「そうじゃねーよバカ。試合近いんだからはしゃぎすぎんなってこと!」

「え……?」

 

 遅れて意味を察して、半眼で冷ややかなにハヤテを見つめるジンヤ。


「そういうハヤテはどうなのさ」

「いやあ、ナギが激しくてなあ、寝不足」

「……、」


 いつもならばここでナギの拳が炸裂し、ハヤテは「ごッ、がああああああああああああああああああああああああ……」となるはずなのだが、ナギはどこか上の空だった。


「……おい、ナギー? オレの爆笑取れたボケ潰すなって」

「……あ、ああ……ごめん、ごめんね、なに?」

「しっかりしてくれよ、ツッコミのキレがねえとボケが死ぬぜ。まあいいや、じゃ、さっさと会場いくか!」

「うん。他にどんな人達が来るかも気になるしね……後から行くよりも、先に行ってたほうが雰囲気に呑まれなくて済みそうだし」

「かてーなあ。オレは別にいつ行こうが、誰がいようが関係ねーけどな」

「頼もしい。約束、忘れてないだろうね?」

「おう。やっぱやるなら決勝だよな、いい感じに逆のブロック引けよ? わかってんだろうな?」

「もちろん。ハヤテこそね」

 

 拳をぶつけ合う二人。

 一年前――。

 共に高めあった二年間の修行の日々、その最後に……二人は約束をした。


 

『あーちくしょうッ! なんだよ、オレが出て行くんだからそこはオレに花持たせろよ! ジンヤそういうとこあるよな、お前!』

『あっはは、嫌だよ、負けっぱなしは悔しいからね』

『じゃあもっかい! オレが勝って出ていく!』

『やだ。僕が勝ったまま出て行け』

『あァ!? てめー……マジで負けず嫌いだな』

『キミもね』

『……っはは、オッケー、じゃあ勝負は預けてやるよ、次会った時はガチの勝負といこうぜ、お互いにちゃんと魂装者アルム持っての、全力だ』

『うん……約束だ』

 

 あの時と異なるのは……両者、最愛の魂装者アルムと共にあること。


 あの時と同じなのは……胸に燃える、最高の親友ライバルへの想い。

 

 ジンヤの胸は高鳴る。

 

 まだ見ぬ強敵。

 そして、ずっと見据え続けた親友ライバル

 それに……あの因縁の少年だっている。


 未知の強敵、親友ライバル、因縁……誰と当たろうが、最高の戦いが待ち受ける、最高の舞台。

 どんな相手だろうが、望むところだった。


 □ □ □


 ジンヤ達が入場した瞬間、場内で少しずつ視線が集まり、囁き声が響き始める。


『……繚乱の一位に、黄閃の一位だ!』

『あの龍上ミヅキを倒したんだろ……!? 今年の黄閃、ヤベえんじゃねえか!?』

『繚乱も全然負けてねえよ、なんたって風狩ハヤテだぞ? 今年のナンバーワンルーキーには、龍上より、断然アイツを推すね』

『キララちゃん一緒じゃねーのか?』

『オウカたんは?』

『男だけかよ……ぺっ』

『でも、魂装者アルムの娘達可愛くね?』

『うお、すげえ、なんだありゃ……!』

『その横もすげえ、なんつー平らさ……!』



「ハヤテくん、ちょっとあのへんに向けて《翠竜閃翼デザストル》お願いできる?」



 翠竜寺ナギが、キレた。

 噂の的になったジンヤ達一行。

 彼らは七つの学園の黄閃と繚乱の1位。この都市の頂点に君臨する騎士なのだ、注目度も桁違いだ。

 ジンヤとしては、ただ己の因縁のためだけに当時1位だったミヅキと戦ったので、あまり自覚はなかったのだが、あれからもう三ヶ月。街で声をかけられることも増えて、やっと自覚が出てきたが、ここまでの注目は初めてだ。

 会場には、出場選手の他に、選手の付き添いも大勢いる。

 この会場に来ているくらいだ、当然大会には注目している者ばかり。

 なのでこの場において、刃堂ジンヤや、風狩ハヤテの知名度は100%、彼らを知らぬ者などいない。

 注目されている自覚はあっても、それに慣れることはない。根が小心者な上に、ずっと虐げられてきたジンヤだ。

 向けられる視線に照れつつも、隣にいるハヤテに感謝する。

 注目度で言えば、ハヤテは圧倒的だった。

 今年の一年の中で最強は誰か? 真っ先に名が上がるのは、ミヅキかハヤテ。

 ミヅキに勝利したジンヤだが、戦闘スタイルのピーキーさから、遠距離タイプとぶつかれば終わりだという意見や、そもそもミヅキに勝ったのも何かの間違いだというものさえある。

 なので最強議論からは外されてしまうことも多い、が……。


「くっだらねえ……」


 不機嫌そうに現れたのは、銀髪の少年――龍上ミヅキだった。

 再び騒然とする会場。


『出た、龍上だ……!』

『中学時代、全国三連覇! 中学時代から超高校級なんだ、ルーキー最強はアイツに決まってるし、優勝だって狙えるぜ!』


 己を褒め称える者達の言葉を、ミヅキは下らないと一蹴する。


「その時に強いヤツが勝つ、そんだけだろうが」


 大勢からの注目に、彼なりに辟易しているようだった。


「……みづきがさいきょー、これできまり、あとはよわい」


 後ろにぴったりとくっつく同じく銀髪の少女、めるく。


 ミヅキとジンヤの視線が、僅かに交わる――


「あの、龍上くん……!」


「…………、……チッ」


 ミヅキはジンヤに視線をやり、それから横に立つハヤテを睨めつけ――一瞬、凄まじい形相を浮かべた。

 視線だけで相手を凍てつかせ、噛み砕かんとする絶対零度の視線。


「おー、こわ……すげー見てる」


 柳に風。ハヤテはミヅキの殺意に満ちた視線を軽く流す。

 ミヅキがその場を去ろうとした時。


「……龍上くん、この間はありがとうッ!」


 その背中に、ジンヤは感謝を届ける。《使徒》との戦い、レイガに窮地に追いやられた時に、ミヅキには助けられた。


「ボケたかよ。言ったろうが、オレが勝手にやったことだってな」

「何度でも言うけど、勝手に感謝してるよ」


 その言葉を耳にして、ミヅキは再び舌打ちを一つ。

 そして。


「……礼なら、あそこでもらってやる」


 会場の壁に張り出された、未だ余白が残るトーナメント表。

 この場に集まる騎士達の名を刻んで、あれはやっと完成する。

 ミヅキが指差したのは、その頂点。


「……そうだね。どうなるかわからないけど……うん、そういう巡り合わせになれば。変に思われるかもしれないけど……僕は、キミとの戦いが好きなんだ」


 刹那、ミヅキの脳裏に想起される言葉が。


『……ねえ、龍上君……キミは今、楽しくないかい?』

『……あァ?』

『僕は楽しいよ。強い相手に、己の全力をぶつけられる。こんなに楽しいことは他にないよ』

『……馬鹿が、下らねえ……』

 

 そして。


「……ハッ」

 

 ミヅキは笑う。

 どこまでも獰猛に。

 どこまでも凶悪に。

 そして、どこまでも楽しそうに。

 それだけだった。

 笑みを一つ残して、龍上ミヅキはジンヤとハヤテに背を向け歩み出す。

 

「………………べー、っだ」

 

 めるくがハヤテとナギに向けて舌を出し、それから慌ててミヅキの後を追う。

 ジンヤは首を傾げる。

 ……自分ではなくなぜハヤテ達に、と。

  

 □ □ □


 その後も様々な騎士が会場に到着し、何度か場内はざわめくが、ジンヤ、ハヤテ、ミヅキの時を超えることはなかった。


 だが。

 彼らと同等のざわめきが再び起こる。


 現れたのは、金髪の少年だった。

 背はジンヤと同じくらい。

 ジンヤが167センチ、最近発表の高1男子平均より1センチ低いのが悩みの種だ。

 ちなみにハヤテが178、ミヅキが182だ。ジンヤはハヤテに対し、常々身長を178センチほど寄越せと思っている。その場合、ハヤテは消滅してしまうのだが、彼の恨みは、憧れは、渇望は……それほど深い。

 


『今度は煌王の一位、輝竜ユウヒだ!』

『輝竜だって、龍上や風狩に負けてねえぞ!』



 ああそうだ――とジンヤは記憶の中に該当する情報があることに思い至る。


 □ □ □


 僕は、彼のことを知っている。


 輝竜ユウヒ。

 学園序列は七校中五位、煌王学園の頂点。

 龍上くん、ハヤテ……そして彼で、今年の三大ルーキーだ。

 彼らは一年にして入学時に、自身の学園の頂点にいた上級生を倒して序列一位となり……。

 

 ……って、黄閃の序列は、龍上くんが二位で僕が一位なんだよなあ……。


 でも、『月刊騎士道』の剣祭特集号では、そうなっていた。いや、龍上くんを抜いて僕を三大に入れろとは言わない……せめて四大にしろよ! 僕も入れてよ!

 ……編集部の電話番号載ってたよな。いや、いいや……実力で次の号の特集を僕にしてやろう。

 ちなみに、黄閃の僕、繚乱のハヤテ、煌王の輝竜くんを除く四校の序列一位は、上級生だったはず。

 残りの各学園序列一位は、二年が二人、三年が二人だったはず。

 ……ルーキーが豊作な年、とも雑誌にあった。確かに一年で序列一位なんて、年に一人いるかどうかという程度のレア度だろう。

 僕もレアなんだけどね……えへへ……。


 そして。

 その煌王の序列一位、三大ルーキー(四大にしろ)の一人が、こちらへやってきた。


 僕の前で立ち止まる。

 金色の髪、青い瞳。外国人のような顔立ちだ。髪や瞳は属性次第だけど、顔立ちまで日本人離れしてるとなると、ハーフかもしれない。


 対して僕は、凡庸な顔立ちの日本人……いや、母さんは美人だし、父さんは格好いい。なぜ僕は……。


 金髪碧眼の彼。

 黒髪黒目の僕。


 見つめ合うこと数瞬――そして。


「……刃堂ジンヤさん……ですよね? 今年三人いる一年にして学園序列一位の。……なんて、ボクが言うのも変ですが」


 優しげな声音。柔らかい喋り方。

 あ、一人称は「ボク」なんだ……なんて、変なところを気にしてしまう。

 とにかく優しそうで、好印象だ。

 それに……っ!


『……刃堂ジンヤさん……ですよね? 今年三人いる一年にして学園序列一位の』


 月刊騎士道の記事に傷ついた僕の心を癒やしてくれる確認だった!


「……うん、どうにかね。キミもだよね? 雑誌で見たよ、輝竜くん」

「あの雑誌はあまり好みませんね。キミの凄さを理解してない」

「あはは……まあでも、他の騎士の情報は助かってるよ。こうしてキミとの話の種にもなったし」

「そこだけは認めましょう。刃堂さんを低く見積もったことは許しがたいですが」


 …………いい人だ!

 僕の中で、輝竜くんはいい人認定された。

 というか、僕はあまり同年代の友達がいないので、優しくされるとおそらくチョロい。

 

「……なんか、僕のこと買ってくれてる?」

「正当な評価です。龍上さんとあれだけやれる騎士なら、優勝も狙える……と、ボクは思っていますよ」

 

 本当にいい人だ。

 ……なんだろう、僕この人に何かした? 初対面だけど……やたら優しい。

 誰にでもこういう感じなのだろうか。

 ただ、正当な評価をすることに拘りがあるとか?

 彼の人となりは謎だが、それは初対面なので当然。

 僕にとっての彼への第一印象はとても良いものだった。

 ……ハヤテ以来かな、こういうことは……なんて考えていると。


「……じー」

「……あ、オレも。……じー」


 ライカとハヤテが、こちらを睨んでくる。


「な、なに?」

「ジンくんが取られて辛い、っていう視線」

「オレもオレもー、ジンヤが寝取られた……つれえ……って視線!」

「二人ともどうかしてるよ……」


 特にハヤテ。なに言ってるんだもう。

 だいたい少し話しただけだろう。まあ勝手に二人で盛り上がられても、そこに参加できないと面白くないか。

 ……わかる。

 中学時代、ハヤテといる時かなりこういうことがあった!

 ハヤテは誰とでも仲良くできる、なので人が集まる。ただハヤテ目当てで集まってきた人は僕に興味がない、なので僕はハブられる……。

 うう、あまり思い出したくない過去だ。

 でもそういう時はハヤテが察してくれるし、後から謝られたりするんだけどね。

 ……まあ、謝られるのもそれはそれで辛いけど、とにかくハヤテは僕を蔑ろにしたりしない。そんなの、僕もそうだ。


「大会で当たったらよろしくね、輝竜くん。キミとは気持ちのいい戦いができそうだ」

「……ええ、ボクも同じことを思いました。以前から思っていましたが、ますますキミと戦いたくなりました。当然のことですが――勝ち続ければ、必ずまた会えますよ」

「違いない。うん、お互い勝とうね」

「勿論。応援してます。それじゃ……一応、ボクも煌王の一位なので、他の代表のところへ行かないと。ちょっと問題児がいまして」

「問題児……? えっと……なんか大変みたいだけど、頑張って!」

「ありがとうございます。それでは」


 そう言って、輝竜くんは爽やか・・・に笑った。

 なんでもない……いや、むしろ好印象なはずなのに、少しぞくりとした。

 彼があまりにも完璧に笑うから。

 まるで、太陽の輝きに焼かれるような……そんな、異常なまでの《正しさ》。彼に抱いたのは、そんな印象だ。

 でも、好印象なことに変わりはない。


 きっとあまりにも彼が爽やかで……しかもイケメンだから……少し己が情けなくなったのだろう、と僕はそんな結論を出した。


 □ □ □


 同時刻――キララは、迷っていた。


「ここどこ……ってか強そうな人多すぎ、もうマジ無理……助けて、ヤクモ先輩……」

「……ララ、怯えすぎ」

「いやいやユッキーこれマジやばいかんね? アタシほどになると、彩神剣祭アルカンシェル・フェスタ出場選手、黄閃学園第四位、龍上キララ様程になると、相手のりきりょーとか超わかっちゃうんですけど? マジでみんな強い帰りたい」


 ジンヤやヤクモなどと接していると鳴りを潜めるが、キララの素の性格はこちらが近いだろう。

 すぐに調子に乗る、自分が大好き、人より上に立ちたい、基本的に小市民で、小悪党。

 キララはそんな自分が大好きだったが、今は大嫌いになってしまった。けれどキララは自分が好きなので、自分を嫌いにはなりたくない……という、少しややこしい精神になってしまっている。

 自分を好きになるにはどうすればいいか。

 誇れる自分であればいい。

 つまり――優勝すればいい。


「第四位って……黄閃の代表で最下位じゃん」

「うっさい!!!! ガン萎えするこというなしマジ! 底辺から頂点まで駆け上がる、これが一番熱いの! わかる?」

「そういうの大っ嫌いだったくせにね」

「マジでうっさい! あ、兄貴だ」


 兄貴~と、既に席についているミヅキのもとへ駆け寄るキララ。

 会場は前方に席が配置され、抽選が始まればそこへ着席していく。

 ミヅキは長い脚を組んで座り目を閉じて、静かに運命が決まる時を待ち望んでいる。

 めるくはそんなミヅキをじー……っとただ眺めている。

 それだけで彼女はとても満足そうに、へらっと口元を歪めたりする。


「兄貴!」


 うるせえのがきた最悪だ、とミヅキは思った。


「きらら、静かに」

「ごめん、めるちゃん! 兄貴、ジンジン……じゃない、刃堂ジンヤ見てない?」

 

 自分とジンヤが仲良くしていることなど不愉快だろう、と兄の心中を察した配慮をするキララ。それがまたミヅキの神経を逆撫でる。どうでもよかった。

 ミヅキは妹のことなど基本的にどうでもいいのだ。

 どうでもいいが、こんなのでも家族だ。特別家族愛に溢れてはいないが、どうでもいいので嫌ってもいなかった。


「……チッ。……、」


 ミヅキは舌打ちした後、背後を振り返り、ジンヤのいた方向を顎で示した。


「サンキュー! それじゃ! めるちゃんもバイバイ!」


「……じゃーな、きらら」


 めるくはキララのことをナメていた。こいつは自分より下だ、と彼女の本能がそう判断を下している。


「……あ、兄貴!」

「……、」


 ミヅキはキララに視線をやる。


「なんか、前よりもいい感じじゃん! そんだけ! じゃね!」


 わけのわからないことを言って、キララは去っていった。

 結局、ミヅキはキララの言葉に何一つ返事をしていない。

 けれど、そんないい加減なやり取りで通じてしまうのが、兄妹というものなのだ。

 尤も、ミヅキはそんな兄妹の在り方も、どうでもいいものなのだが。


 □ □ □


「……ジンジン、ライちゃん、ナギナギ~……会いたかったよ~……!」


「オレは!?」


 キララの言葉に驚くハヤテ。

 ミヅキの道案内とも呼べぬ何かのお陰で、キララは無事ジンヤ達のもとへたどり着いた。


「あ、風狩くんはいいっス、大丈夫なんでほんと。ってかお久しぶり、髪切った?」

「切ってねえよ! 結構伸びてるわ!」


 肩の辺りまで伸びている翡翠の髪をつまんでキレるハヤテ。

 翡翠の髪は、綺麗に外側にハネている。今日は抽選会なので、髪型のスタイリングにも拘ってきているのだ。誰も喜んでいないが(ナギもそのせいで出るのが遅れそうになったのでキレた)。


 キララはハヤテに冷たい。

 初対面の時に、「うわ、すげえ……ライカちゃんといい、ジンヤおっぱいに囲まれて暮らしてるじゃん……ごっがああああああああああああああああ(ナギが殴った)」ということがあったので、キララはハヤテが苦手なのだ。

 龍上キララはギャルで、処女だった。

 セクハラされるのは苦手なのだ。

 

 ……風狩ハヤテは、女好きでチャラチャラしている。

 そして顔が良くて強い、なのでかなりモテる。


 しかし、ジンヤの周囲にいる女性陣からは、何故かあまり評判がよくなかった。


 □ □ □


 キララと彼女の魂装者アルム、ユキカが加わったことで、会話も弾む。


 ――その時だった。


 会場が、静まり返った。


 直後。



 爆発するような歓声に迎えられ、一人の男が現れた。





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