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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第2章 疾風と迅雷の友情譚
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 第九話 絶望の色は燃える炎に似て/VS《炎獄の使徒》 


 時間は僅かに前後し、ガーディアンによる突入作戦が開始される直前。

 

 薄暗い部屋には、四人の人間が。

 厳密には、この場にいるのは一人――《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》の首魁たる赫世アグニ一人だ。残り三人はホログラム。

 三人も同様に、ここではない場所でホログラムと向き合っているだろう。

 赤髪の少年――アグニを除く残り三人。


 一人は純白の鎧で全身を覆い、兜で顔を隠していた。


 一人は、幼い少年。口元は穏やかに歪み、優しげな笑みを浮かべているが――その笑みはどこか空々しかった。


 一人は少女。周りには興味がなさそうに、明後日の方向を眺めている。


「《アルブス》、《ピエロ》、《シュネー》……各員報告を。《アルブス》から頼む」


 アグニが促すと、《アルブス》と呼ばれた白騎士が言葉を紡ぐ。

 

「こちらは問題ない。ところで《ベルメリオ》――《グレイヴ》はどうなった?」

 

「計画通りだ。仕上げは《ピエロ》の役目だ。今日の件が終わればそちらに引き継ぐ」


 《ベルメリオ》――アグニが白騎士の質問に答える。


「こっちも問題ないよー。正直ぬるーい仕事に飽きてきちゃったなぁ~……そろそろガス抜きしちゃっていいかな~……《グレイヴ》の件もオッケー、仕込みは終わってるし、あとはいつでも始められるよ。あぁ~楽しみだなァ~……ギッヒヒ、ヒヒヒヒ…………」


 少年が不気味に笑う。

 瞬間、白騎士が《ピエロ》と呼称される少年の方を向いた。兜越しでもわかる、さぞ鋭い視線で睨みつけているであろうと。


「ギヒ、ギハハ……じょーだんじょーだん、まだなんにもしませーん、おとなしくしてまーす。計画に邪魔になることはしませーんよー。でも本当に退屈だしなあ、《ヴォルフ》でもイジって遊ぼうかな……そーいや彼はどうしたの?」


「アイツは少々張り切りすぎててな、既に出ている。こういった場にアイツがいなくても問題ないだろう」


「だねー、むしろいないほうがスムーズに話が進んでいいんじゃない? いたらもう百回くらい『早く戦おうぜェ!』って言ってそーだしさぁ、あはは~」

 

 《ピエロ》が笑う。《ヴォルフ》――レイガの発言に関する想像は概ね同意だが、彼のことをこの少年に好き勝手言われるのはアグニにとって不快極まりなかった。


「それでー、《シュネー》は~? 問題ないのー?」


 《シュネー》と呼ばれた少女がこくりと頷く。あまり話に積極的に参加するつもりはないようだ。


「問題ないなら構わない。今日の件が終われば、計画は次の段階だ。こんなところで躓いてくれるなよ。では解散だ」


 《アルブス》と《シュネー》が頷くと、彼らのホログラムが消え去る。


「りょーかーい。じゃあまたね~」


 ひらひらと手を振りながら、《ピエロ》のホログラムも消える。


 無口な少女。序列六位。

 《シュネー》。


 無邪気な笑みを浮かべる少年。序列五位。

 《ピエロ》。


 純白の騎士。序列四位。

 《アルブス》。


 序列三位。空噛レイガ。

 《ヴォルフ》。



 姿を現していなかった序列二位。

 《グレイヴ》。


 そして首魁たる序列一位。《ベルメリオ》。

 ――赫世アグニ。


 以上六名が《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》を統べる幹部。

 《ヴォルフ》や《ベルメリオ》というのはコードネームだ。

 悪の組織が本名で呼び合うというのも不用心は話だろうということで、各員にちなんだもので呼び合っている。

 レイガはよくこの取り決めを忘れているのは、アグニとしては悩みの種だ。

 コードネームは、メンバーが自身で決めたものもあれば、他者が勝手に決めたものもあるが、一応はそれぞれの個性に由来したものだ。ではあるものの、呼び名に大して深い意味はない。

 そもそも、アグニは悪の組織なんてもの自体馬鹿らしい、下らないものだと思っている。

 しかし、これは彼にとって必要なことなのだ。

 《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》は、赫世アグニの目的に欠かせない。


「さて……そろそろ時間か。ここも割れてるとなると少々面倒だが、まあいい……どうとでもなるだろう」


 この直後、ガーディアンによる《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》討伐作戦が開始される。

 アグニはそれを知っていながら、少しも焦りを見せていなかった。

 

 □ □ □


 ――龍上巳月。


 初めて出会ったのは小学生の頃。

 騎士としてではなく、小さな剣士として、彼に負けた。

 次は黄閃学園の中等部入学試験。

 彼に敗北し、僕は一度は夢を諦めた。

 その次は、つい先月の出来事だ。彼と戦う度に、どういう訳か僕はたくさんのものを背負うようになっていた。

 彼に誇りを踏みにじられたライカとクモ姉のため。

 僕自身の、意地のため。

 そして、これはあの時は胸に秘していたことだが、ライカと離れている間の地獄のような日々を共に駆け抜け、再戦を約束した親友、ハヤテのため。

 絶対に負けられないはずの戦いで、僕は負けた。

 失意の底に落ちた僕を、ライカは引きずりあげてくれた。

 三度の負け。

 彼と戦う度に、背負うモノが増えていた以上――負ける度に、失うモノも増えていた。

 四度目の戦い。

 僕とライカの――迅雷の逆襲。

 今でもまだ、あれが夢なんじゃないかと思うことすらある。それ程までに、僕にとって彼は強大な相手なのだ。

 ……実際、十回やって一度勝てるかどうかというのが、僕と彼の実力差だろう。

 確かに僕は勝てたが、どちらが強いかと言えば依然それは彼だと思う。

 それでも……次も負けるつもりはないが。

 

 …………なんて、どれだけ意気込んでも、やはり現実としては、彼の方が総合的な実力は圧倒的に上なのだろう。





『アッハハハハ! いいなァ、いいよォ、いいじゃねえかアンタッ! 本当に強そうだッ! 最高に楽しい展開になってきたじゃねえかァァアアアア―――――ッッッ!!!!』





『……ハッ、なに勝手にイカれてやがる。この先テメェに楽しいことなんざ一つもねえよ』





 絶体絶命のシーンで突如現れた彼は、僕が手も足も出なかった相手を少しも恐れていなかった。

 

 □ □ □


「龍上君……キミもガーディアンに協力を?」

 ジンヤの質問に対してまず最初に返ってきたのは、


「……チッ」

 舌打ちと、


「…………ハァ~……」

 溜息と、


「……テメェは馬鹿か?」

 罵倒だった。


 そして。


「テメェなんざ知るか、つってんだろうが……オレがここにいる理由なんかテメェにゃどうでもいいだろうが。名目上はガーディアンに協力してやってるってことになってるが、別に言いなりになる気はねェよ。オレにはオレの目的がある、だから勝手にやらせてもらう――少しそこのガキに用がある、テメェにはねェからさっさと失せろ」

 

 乱雑に寄越された回答。刺々しい言葉が、不機嫌な声で語られた。

 ジンヤはそれを、こう解釈した。


「つまり――『ここはオレに任せて先に行け』ってことだね!?」


 ポジティブな解釈であった。

 

「………………、」

 

 ただでさえ冷ややかだったミヅキの視線が、絶対零度の様相を呈した。

 ジンヤは思った。

 あれは台所の三角コーナーに向ける類のそれだと。

「……と、とにかく任せられるなら僕は行くよ。僕も確かめなくちゃいけないことがあるんだ。……ありがとう、龍上君」


「話を聞いてねえのかテメェは……これはオレが勝手にやってることだ、テメェに礼を言われる筋合いはねェんだよ」


「うん……じゃあ、これは僕が勝手に感じた恩だ。……それじゃ、正直、あまり心配はしてないし、キミに限ってそうされるのは失礼だと思うけど……気をつけて、彼は強いよ」


 レイガを指してそう告げて、立ち去ろうとするジンヤ。


「……おい、刃堂」


 その背中を、驚くべきことにミヅキは引き止めた。

 あれほど目の前から消え去ることを促していたというのに。


「――あのガキ程度に手こずってるようじゃ、神装剣聖エピデュシアなんざ遙か先だぞ」


「……、」


 胸を刃で貫かれたのかと錯覚する程、その言葉はジンヤに突き刺さった。


「……そんだけだ、もうテメェに用はねえよ。ほら、失せろ」


 何も返す言葉がなかった。

 ジンヤはミヅキが空けた大穴を抜けて部屋から出ようとするも――


「なァ――――に勝手に逃げようとしてんだよッ!? まとめてかかってこいって言っただろうがァッ!」


 ジンヤに向けて、レイガは発砲――その弾丸を、ミヅキは斬り落とす。

 きん、と甲高い音が鳴り、真っ二つになった弾丸が床を穿ち、二点の穴が生まれた。


「テメェこそ、仲間でも呼んだらどうだ?」


 その光景を見たレイガの目が大きく見開かれ――、


「ひゅー……やるねェ。こりゃ前言撤回かな? ……アンタ一人でも楽しめそうだッ!」


 牙を剥き出し、凄惨に笑った。


 □ □ □


 ジンヤはミヅキと分かれ、別ルートでこの施設の奥を目指す。

 彼には現在、ガーディアンに協力するというもの以外に、もう一つ目的があった。

 無論、ガーディアンへの協力を疎かにするつもりはない。

 大会の前に、出場が決定した選手を襲うなどという卑劣な真似は、同じ大会出場選手として、断じて許してはならないと強い怒りを覚えている。

 同時に――アンナの安否が不安でしかたない。

 これは烏滸がましい考えだが、この施設での作戦に、自分が少しでも力になって早期の終了を狙う。そして他のアジトと目される場所での作戦にも参加させてもらいたい。

 ここにアンナがいるかどうかはわからない。いるのならば、必ず助ける。

 都市にある全ての《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》に関する施設を虱潰しに回ってでも、アンナを探し出したい。そんな焦燥に駆られていた。


 《使徒》への義憤。

 アンナの安否への焦燥。


 二つの気持ちを抱え疾走するジンヤは、やがて一つの部屋に辿り着いた。

 階段を駆け上がり辿り着いたそこは、施設の上層・最奥部にある部屋だ。何か重要な場所であることは確実だろう。

 扉を開け、部屋の中へ入る。

 まず目に視界に入ってくるのは、巨大な石。宝石のように輝くそれは、不規則に明滅している。

 その手前には、一人の男が立っていた。

 真紅の剣は、刀身自体が赤いが……別のアカが付着している。

 それは、血の赤。

 男の足元には、誰かが倒れている。

 目を凝らす。

 勝手に、答えを求めるように足が動いて、前に踏み出す。

 立っている男と、倒れている男に近づいていく。

 倒れていたのは――烽条焔だった。

 そして。

 男は倒れている焔へ向けて、赤い剣を振り上げた。

 認識した瞬間、ジンヤは弾かれるように駆け出す。


「――なにをしているんだよッ、お前ェッ!」


 ほとんど思考を排除し、男へと肉薄。迅雷一閃エクレールを放っていた。

 鞘と刀身を磁力により反発させ、極限まで加速させた神速の抜刀術。

 撃発機構を用いた《撃発一閃エクスプロジオン》ではないものの、それでもジンヤが持つ技の中では最高クラスの威力であり、並みの騎士では防御不可能だろう。

 相手は直前まで、自分に意識を向けていなかった。

 回避はまず間に合わない。

 防御ができたとしても、まともに防御用の技を発動することはできないだろう。

 ――この一閃で終わり。

 奇襲での決着だが、構うまい。相手は《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》だ。これはスポーツでもなんでもない。甘いことを言っていれば、やられるのは自分なのだ。

 だから。

 躊躇いなく。

 狙いを過たず。

 その一閃は、相手を捉えた――はずなのに。


「…………なんだ、貴様は?」


 苛立たしげな色を含む声を発した赤髪の少年。

 彼は、虫でも払うように片手で剣を振って、迅雷一閃エクレールを弾き飛ばした。


「……なッ……、そんな……ッ!?」

 

 ジンヤの体が弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 かつてない驚愕が、ジンヤを襲った。

 あの龍上ミヅキですら、体勢を整えてない状態で迅雷一閃エクレールを喰らえば、刀を弾き飛ばされていたのだ。

 だというのに、目の前の男は、体勢が不安定な状態で、奇襲の迅雷一閃エクレールを、片手・・で防いで見せた。

 それどころか。


「……ぐッ、あ……」


 防ぐばかりか、ジンヤの体をふっ飛ばした。

 凄まじい痺れが両手に走る。壁に叩きつけられた衝撃で、背中に激痛が走る。

 その現象が物語るのは、相手の凄まじい膂力。

 今の乱雑な振りでこれなのだ。

 彼が本気で剣を振ったら、何が起きるのか。

 想像して、背筋が凍る。

 ジンヤはこれまで戦ってきた相手を回想する。

 オロチはジンヤと向き合う時は、本気ではなかったので実力がわからないが、戦ってきた時の力では最大でもミヅキ程度かそれ以下までしか見せていない。

 ハヤテとミヅキではどちらが強いか、これもわからない。

 膂力であればミヅキの方が上だったろう。だが速度や剣の技量であれば、ハヤテが上手かもしれない。

 …………そして、ミヅキすら上回る膂力を持った、目の前の相手。


 たった一合で理解した。

 間違いなく、これまで戦った敵の中で、彼が一番強い。

 

 剣士としての本能が、逃げろと叫ぶ。

 恐怖がせり上がってくる。

 負けても次がある試合ではない。

 焔の周囲に溢れた血が、それを強く実感させる。

 殺される。

 死の恐怖――そんなものを味わう機会など、学生の枠内で戦ってきたジンヤにはこれまで訪れなかった。

 だが、先刻のレイガとの戦いの時もそうだったのだ。

 レイガが仮想戦闘術式を使用することなど、ジンヤは知る由もない。

 ただ、恐怖を感じる前にミヅキの介入があっただけのこと。あの時だって、レイガの奇特な信念がなければ簡単に殺されていた。

 そのことに、ジンヤも気づいた。そして思い知った。気づくのが遅すぎた、と。

 過去最強の敵を前にして、自分を頼ってくれた先輩の血を見て、やっと気づいた。

 それでも。

 

『……ジンくん、ダメだよ……死んじゃうよ……あんなのと、戦うなんて……』


 ライカが怯えた声を漏らす。

 それでも。それでも。

 ――あの赤髪の少年が、《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》においてどういう存在かはわからない。

 レイガと名乗った少年よりも確実に上。レイガや赤髪の少年のような、彩神剣祭アルカンシェル・フェスタ出場選手クラスが、《使徒》に大勢いるとは思えない。

 であれば幹部クラスなのは間違いない。

 目の前の相手は、剣祭のために己を磨き続けた騎士を踏みにじった張本人。

 そして。

 赤髪の少年の背後――そこには。

 長い黒髪にリボンをつけた少女が、鎖で繋がれて拘束されている。


(……まったく。どうにもキミは、いつも災難に巻き込まれてる気がするよ)


 彼女とは、一年前のある事件以降離れ離れになって会っていない。ハヤテと別れたあとに起きた事件だ。

 別れの時、酷く泣かれたことを思い出す。

 

 ジンヤは許容することができない。


 剣祭を邪魔する悪を見逃すことを。

 

 焔を見捨てて逃げることを。


 そして。

 

 大切な妹弟子――屍蝋アンナを見捨てることを。


 例え絶対に勝てない相手だとしても、逃げるわけにはいかなった。


「ごめん、ライカ……この場は絶対、譲れないんだ」


 立ち上がり、納刀、再び構える。

 《迅雷一閃エクレール》が効かないならば、今度は《迅雷/撃発一閃エクレール・エクスプロジオン》を叩き込むのみ。

 左手の指をトリガーにかけた、その時。

「またそれか……やらせると思うか?」

 真紅の剣が膨大な魔力を発した。

 極大の業火を圧縮して纏った剣が、振り下ろされる。

 ジンヤは目を剥いた。あれだけの膂力の持ち主、得物は武器、近接タイプの騎士かと思ったが、魔力の扱いにも長けている。

 この部屋は、赤髪の少年が立つ円形の足場を中心に、そこへ幾つか橋がかかっている。

 上層のこの部屋と下層は吹き抜けになっており、落ちれば騎士といえどもダメージは免れない。

 ジンヤは先刻弾き飛ばされたことにより、相手のいる場所とは逆方向の、橋の入り口付近にいる。

 躱すスペースがないのだ。後方へ逃げて部屋から出る――間に合わない。左右に躱せば落下の危険性がある。

 回避ができないなら、防御は――しかし、ジンヤに火炎を防ぐ術などない。


「俺に問いを投げていたな……まずは燃え朽ちろ、灰になった貴様にでも、じっくり語ってやろう」


 業火が、放たれた。

 巨大な業火は、さながら列車が迫ってくるような圧力を備えている。

 回避は不可能。

 防御は不可能。

 であれば、ただ呆然と灰燼となるのを待つしかないのか。


 ――刹那。

 一陣の風が荒ぶ。


「翠竜寺流、〝嵐旋〟があらため――《旋風一閃テンペスト》ォッ!」

 

 風の斬撃が、業火を真っ二つに斬り裂き、周囲に散らした。


 風になびく髪。軽薄そうに歪む口元。


「……一応言っとくか? なんだよ、お前、ボロボロじゃねえか」

 

 ジンヤは思う。

 今日は助けられてばかりだ。

 情けない。

 でも――涙が出るほど、頼もしい。


「そうでもないさ、まだやれるよ――ハヤテ」


「上等だ。……っつーか、またか。オレはあまりにもイケメンすぎて、常に親友と女の子のピンチには駆けつけちまう運命なのかねえ? ったくつくづくお前は……いや、この場合はアンナちゃんか?」

 

 ハヤテは囚われたアンナを見て呆れたように笑った後――、


「……まあなんでもいいや。ホント、どーにも最近は許せねえボケが多くて敵わねえな。なんだよテメェは。俺の大事な親友と妹弟子に手ぇ出したんだ、覚悟できてんだろうな?」


 瞬時に笑みが消え去り、凄まじい剣幕で相手を睨む。


「……ほぉ、風狩ハヤテか。願ってもないな」


 赤髪の少年は、ハヤテを見て僅かに目を細めた。


「あァ? オレのこと知ってんのか……オレはテメェみたいな女拐って悦に入るロリコン知らねえぞ……その上まあ……とんでもねえ悪党だなテメェは」

 

 言葉の途中、少年の足元に血まみれの焔がいるのを目にしたハヤテは、少年への敵意をさらに強める。


「少し興が乗った、ここで遊んでやるのも悪くないな……」


 真紅の剣を構える少年。


「――《炎獄の使徒アポストル・ムスペルヘイム》序列一位……いや、こう名乗ってやろうか、《終焉を灯す者レーヴァテイン》、赫世アグニだ。来い、まとめて焼滅させてやろう」

 


「知ってるならいらねえだろうが、礼儀は大事だよな――翠竜寺流、風狩ハヤテ」

「――雷咲流、刃堂ジンヤ」


「……なあ、ジンヤ、たまにはオレに合わせろよ」

「……ああ、わかった」


「じゃあいくぜ」

「うん」



 刀を構えるジンヤとハヤテ。

 そして、二人の声はこう揃った。


「「――負ける気がしねえな」」


 


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