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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第8章
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第4話 未だ、両者譲らず





 ――――「……必ず勝つ。それだけ確約するから黙っていてください」


 ――――《……フフ、素敵。そう言い切ってくれるところは大好きよ、ユウヒ》



 1回戦、2回戦ともに圧倒的な力を見せつけて勝ち上がってきた輝竜ユウヒ。

 だが、3回戦の相手、レヒト・ヴェルナーは別格であった。

 その速さ故、先手を取ることにことにかけては自信があったというのに、初手のやり取りでは上を行かれた。

 

 ――速さとは、絶対だ。

 ライトニング、セッカ、チェイスにも見られたような『速さ』への信仰を、ユウヒもまた持っていた。

 速さがもたらすものは、ターン制RPGのように、『ただ先に攻撃できる』ということに留まらない。

 先に仕掛けられ、その上で相手の攻撃は全て躱して、一方的に攻撃を続けることが出来る。

 攻撃は当たらなければ意味がない。

 防御など、全て躱してしまえば意味がない。

 速さの絶対性。ユウヒは既にそれを1回戦で示していた。相手に何もさせないまま戦いを終わらせてしまう、理不尽にすら思える程の強さ。

 

 ――だが、もしそれを、相手も持っていたのならば?


 空間切断移動。

 言ってしまえば、テレポート。

 厳密には異なるかもしれないが、起きている現象としてはかなり似ているだろう。

 ともすれば、移動距離などにもよるが、こちらよりも速く動くことができるのかもしれない。

 性能次第で、ユウヒの速さと並び得る力だ。


 あの力の性能を細かく検証していく必要がある。

 

 ――発動条件は?

 ――連続使用はどこまで可能か?

 ――魔力消費は?

 ――発動時の負荷は?

 ――発動までにかかる時間は?

 ――移動先の座標指定はどう行っている?


 そして、これらの点以外でも、既に気がかりな点を見つけていた。


(『背後への移動』……空間移動使いならやりそうなものですが……)


 回避即反撃というだけなら、レヒトのやったように最小限の移動で十分ではあるが、もしも背後に移動されていたとすれば、防御がより困難だったかもしれない。

 背後に移動されようが、レヒトの能力を考えに入れればその可能性は浮かぶだろう、魔力の気配を感じ取って振り返ることも出来たかもしれない。

 故にそれで試合を決められることはなかったにせよ、より大きなダメージが入る確率は、そちらの方が高かったはずだ。


 ――なぜ、それをしなかった?


 この違和感は、レヒトの能力を解き明かす糸口になる気がした。

 なにができて、なにができないのか。それを考えていくのが、正体不明な能力と戦う際の基本だ。


 不可能だったのか。それとも、状況がそれを許さなかったか。


 できないだろう、と相手の力を軽視するよりは、相手を上に見積もっておいた方が良いだろう。

 試合開始直後で、準備が必要な術式は行使できなかったはず。

 そう考えると、最低限の移動というのも、状況に即したものに思える。


《――来るわよ、ユウヒ》

「……ああ」


 レヒトが動く。

 相手はこちらの思考に答えが出るまで待ってくれるなどということはない。

 中途の思考を続けつつ、対応していかねば。



 □



 ユウヒがレヒトに対し思考を重ねていたように、レヒトもまたユウヒ対して同様であった。

 

(初手は決まったが、ここからどうするか……)


 もとよりあれで終わるなどとは思っていなかった。

 こちらの能力の詳細を伏せたままここまで来られたこと。ユウヒは序盤から攻めるタイプであることは判明していたので、初手が読めやすかったこと。その程度の原因が、今の戦況を作っている。

 ユウヒはレヒトに対し、『空間移動によって、自身の強みである速さを潰される』と考えていたが、それはレヒトもまた同じことだ。

 ユウヒの速さを以てすれば、空間移動さながらの動きをすることが可能。

 あの速さにどう対応していけばいいのか。

 神経を研ぎ澄まし、彼の挙動や魔力反応から細かな予備動作を見抜き、『速さに乗る前』を捉えていかなければならない。

 レヒトとしても、輝竜ユウヒは常に気を抜くことができない難敵だ。



 □



 ユウヒが弾き出した、ここからの展開案――それはレヒトへ接近し、剣戟を仕掛けるというものだ。

 

 まず一つに理由としては、遠距離攻撃の手段を持ってはいるが、射撃戦となればこちらが不利だろうという判断を下したからだ。

 なにせレヒトは、翠竜寺ランザや斎条サイカが扱っていた強力な遠距離魔術を全て防ぎきっている。

 『切断』を遠距離から突破するというのは得策ではないだろう。

 

 次に、近接戦となれば、『空間切断移動』の役割が薄れるからだ。

 近距離で高速のやり取りとなれば、無駄なモーションを入れる隙がなくなるだろう。

 空間移動を使われて厄介な局面で浮かぶのは、間合い外から突然内側へ詰められるパターンだ。近接戦ならばそれも潰すことができる。


 近接に持ち込むのはいいとして、レヒトに剣の腕で勝つことができるのかという問題はある。

 レヒトがどこまでやれるかは不明だが、大きな得物だ。

 

 懐に潜り込めば確実にこちらが有利であるし、取り回しがいいとも思えない。

 力比べで勝てずとも、切り合いで勝つ方法はいくらでもある。


 ユウヒは再び、抜刀の構え。

 一度は躱されている。

 しかし当然、ただ前回をなぞるような真似をするつもりはない。


 ユウヒは抜刀の構えから、斬撃を放つ。

 レヒトは剣から片手を離して、手刀を振って空間移動、ユウヒの放った斬撃を躱した――


 ――が、ここから前回のやり取りとは異なる展開を見せる。


 ユウヒは抜刀からの一閃を放っていたが、それは通常の《閃光一刀エクレール》ではなかった。

 彼は確かに、斬撃を放っていたというのに、彼の刀は未だに鞘に収まったままなのだ。


 では、彼が振るっていたのは何か?


 

 □



「キララのアイデアと似てますね……!」

「それな。パクリやがったなアイツー……」


 オウカの言葉に頷くキララ。

 2回戦のオウカ対キララ、その決め手となった攻防――キララは氷の刃でオウカへ斬りかかり、次に本命の魂装者アルムによる一閃で勝負を決めた。


 ちなみに、今キララとオウカはジンヤ達とは離れた場所で観戦している。

 3回戦第三試合、キララ対ミヅキと第四試合レヒト対ユウヒは同日に行われる。よってキララは試合後で、ジンヤに告白した直後なので、さすがにあの後すぐにジンヤのそばにいるのはキツイという判断だった。



 ユウヒが振るっていたのは魂装者アルムである刀ではなく能力で生成した光刃だ。

 右手で光刃を振るい、それは躱されたが――彼の左手は、魂装者アルムである腰の刀にかけられていた。



 □




「――――《閃光一刀エクレール双爪ナーゲル)》」



 右手の光刃で放つ一刀目。

 左の逆手で持った魂装者アルムによって放つ、本命の二刀目。

 

 魔力で刃を生み出すことなどできないジンヤには真似できない、高速ニ連抜刀剣技。


 ユウヒのニ刀目は、正確にレヒトの移動先へ放たれていた。

 躱したと、そう思っていたはずだ。

 だからこそ、そこを点いた攻撃ならば入る――。

 

 ――そう、考えていたが。


「お前が相手だ。二度通じるなどと甘いことは考えていない」


 冷然と呟くレヒト。

 防がれた程度では驚くつもりなどなかった。

 だが、しかし。


「ここまでとは……ッ!」


 レヒトはユウヒの一閃を防いでいた。

 問題は、防ぐのに使った部位だ。

 剣身でもなければ、ジンヤのように柄を使ったのでもない。

 

 答えは――鍔。

 日本刀のように円形のものではない、西洋剣ゆえの両端へ伸びた部位で、ユウヒの斬撃は受け止められていた。

 線ではなく、点での防御。

 さながら、トキヤ対セイバの試合でセイバが見せた柄頭を使った防御のような、驚異的な技術だ。


 日本剣術の中には柄を使った防御があるように、西洋剣術にも鍔を使った防御技術自体は存在している。

 

 だが、レヒトがやってのけた技は、ユウヒも技術書の中ですらお目にかかったことがない。


 ユウヒが今繰り出したのは、下から上への斬撃。

 ユウヒが知る限りでは、鍔を使う防御で想定されるのは上段から振り下ろしてくるものに対して行う。

 それも当然で、レヒトがやってのけた方法では、ほんの数センチズレていれば、柄を握る指が切り落とされてしまうからだ。

 この発想。

 この胆力。

 あまりにも高いリスク。だからこそ、大きなリターンが存在する。

 防御に鍔を使用しているということはつまり――刃を使用していないということだ。

 

 相手の刃を鍔で封じつつ、こちらは刃が使用可能。

 通常、相手の斬撃に対し防御をすれば、即座に反撃することは不可能だが、現在の体勢であれば、そのまま剣を振り下ろすことが可能なのだ。


 当然、ユウヒも即座にそのことを理解していた。

 抑えられた左の刀へ力を込めて、レヒトの剣を押し止める――いいや、相手は両手でこちらは片手、力比べでは意味がない。

 鍔の端を押して、斬撃をずらすか。

 それとも逆に柄を握る手を斬りつけるか。

 ――いずれも通じない。

 レヒトの力の前では、ユウヒが刀へ力を込めるよりも早く、刀が押し込められ、対抗策を実行することができない。


 そのまま刀は下へ押し潰しつつ、剣はユウヒへ振り下ろされた――。 




《――さっさと使いなさい、出し惜しみするような相手ではないでしょう》


 刹那――少女の声が響いた。






「《終焉神装ラグナロク》――――」


 リンドウの言葉通り、ユウヒが起句を発した直後。





 レヒトの剣の軌道は、確かにユウヒを捉えているはずだった――




「……なるほど、そんな力を持っていたか」



 ――だというのに、ユウヒは斬られることなく、血を流しているのはレヒトの方だった。


 レヒトの腹部から胸部へと抜ける傷から鮮血が滴る。



「随分な余裕ですね」

「……そう何度も斬り損ねてやるつもりはないからな」


 血を流しながらも、レヒトは口端を吊って僅かな喜悦を滲ませる。

 傷を意にも介さず、再び剣を構えた。



(この能力も、彼にかかれば容易く見抜かれ、対策を打たれるか……)


 

 早々に《終焉神装ラグナロク》を引き出された。

 この分なら、《開幕ライトアウト》を引き出されるのもそう遠くないだろう。

 最初から能力を隠して勝ち上がることができる相手ではないことは百も承知ではあるが、それにしても想定よりも早い。


 先にダメージを与えたのはレヒト。

 だが、先に血を流させたのはユウヒ。

 現状、両者一歩も退かずといったところか。



(《開幕ライトアウト》は……まだ使ってこないのか……?)


 こちらも《開幕ライトアウト》は温存しているが、傷を追わせ、優位に立てるような能力を発動させているというのに、使ってくる様子がない。


(どういう《開幕ライトアウト》なのか……。《開幕ライトアウト》なしで、ボクの《終焉神装ラグナロク》に対応できるということでしょうか……?)


 未だ、底は見えない。

 が、確実に近づいてはいるはずだ。

 

 ここからさらに戦いは激化する――そんな予感を胸に、ユウヒもまた再び刀を構えた。
















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