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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第7章
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第5話 この一撃のために





 キララがミヅキを倒すために積んだ策。


 一つ。

 『剣技でなら己が上』というミヅキの油断を突くこと。こればかりは、厳然たる事実である以上、どれだけミヅキが相手を警戒しても――いいや、警戒し、正確に彼我の実力差を把握しているからこそ引っかかるはず。

 二つ。

 事前に伏せきった、《デザストル》という切り札による奇襲。

 ヒメナは格闘である故に、剣技中心で組み立てることが出来なかった。オウカに至っては、振動剣によって剣戟を封じるということまでやってきた。一回戦、二回戦、ともに苦しめられはしたが、剣士タイプではなかったことがここで有利に働いた。

 三つ。

 《氷》による低温で、ミヅキの動きを鈍らせる。心理的油断を突こうが、伏せ札による奇襲をしようが、地力で捻じ伏せられることは予想できる。そこを埋めるために、もう一つ重ねた。

 ミヅキの動きを予測し、封じていく上でも《氷》を扱うのが最善であったが、さらに決め手を強化することにも応用させられた。


 

 ここまで積んだ。

 ここまで重ねた。

 ――頑張ったから、報われて欲しい。そんなものは、ただの甘えだ。

 それでも、考え抜いて。こうすれば、勝てるという厳然とした事実を積み上げていく。

 これならば絶対の壁である兄を超えられるという確信を抱いて放つ技だ。

 涙を堪えて。

 震えを抑えて。

 狙いを過たず――左の刀でミヅキの野太刀を弾いて、空いたところへ右の刀で突きを放つ。

 狙いは首筋。

 仮想ダメージだろうが、首を切られてしまえば意識は断たれる。



 決めるなら、一刀で。


 

 龍上キララの願いが、努力が、これまでの積み重ねが乗った一刀が、ミヅキを捉える――その直前、







 ミヅキの視線が、一際鋭さを増した。

 握る刀での防御は間に合わない。

 しかし。

 ミヅキは刀から左手を離して振るった。

 響く金属音。弾かれるキララの刀。

 そう、ミヅキにはこれがある。

 めるくの《金属操作》を利用し、ミヅキの膨大な魔力を『硬化』のために注いで作り上げた――凄まじい攻撃力、敏捷性を持ちながら、さらに防御力まで兼ね備える、《パーフェクトオールラウンダー》たる所以である、超硬度手甲。



 手甲に包まれた左手が、キララの刀を弾いたのだ。

 





(――――反応が早い……ッ、それに……動きも鈍ってない……!?)





 驚愕するキララ。これで決められる、はずだった。

 しかし……。

 


(これで決められる……はずだった。勝てる、はずだったんだ……兄貴が、私の予測よりも強・・・・・・・・くなってさえいな・・・・・・・・ければ・・・) 


 


「少なくとも……5月頃のアイツになら届いてたはずだ」


 ハヤテが歯噛みしつつ言う。

 5月頃、ハヤテとミヅキは戦っている。そこでハヤテは《デザストル》を決まり手として、ミヅキを破っているのだ。

 だが、当然ミヅキも成長している。わかっていた。キララだってそれは理解していたのだ。


「……いや、一回戦、二回戦のアイツにだって、届いたはずだ」

 

 ミヅキはハヤテと戦った頃よりも強くなっている。だが、キララはその成長幅まで計算に入れていた。

 それでもなお届かないということは、その計算が甘かったということだろう。

 

「考えられるとすれば、《ブレインアクセル》か……」


 ジンヤが静かに推理を口にした。

 彼だからこそ、すぐに思いつくことができた。

 ミヅキは既に二回戦で、生体電流への干渉による肉体操作を披露している。

 ハンター・ストリンガーの毒で体の自由を奪われた際、その打開策としてそれを使っていたのだ。

 であれば、似た技術である思考加速にも到れるだろう。

 どれくらいの精度で扱えるのか。持続時間は。消耗の激しさは。ジンヤが扱うそれと比べて、どこまでのものになっているのか。

 詳細が気になるところだ。

 ジンヤとミヅキの差は、技術に依る部分が大きい。パワーでは勝てないのだ。ジンヤが苦労して獲得した技術を、全てミヅキにも獲得されてしまえば、それだけ勝ち筋は消えていく。

 そして、同じ《雷》である以上、それは決してあり得ない想像ではないのだ。

 

 


 ――キララもまた、ジンヤと同じ答えに到達していた。


(《ブレインアクセル》……だとすれば……!)


 その技は知っている。

 かつてのミヅキ対ハヤテでは、ミヅキが使えなかった技。それがあれば、《デザストル》を防ぐことも可能なのだろう。

 だが、決してそれは万能ではない。

 持続時間の短さ、消耗の激しさ。乱用できるものではない。


 ならば。

 だとすれば。

 ここからは――――



「我慢比べなら……気合の勝負なら、絶対に……負けないッ!」



「……ハッ。いいや、そうはならねェよ」




 追い詰められている、はずなのに。

 龍上ミヅキは、未だ口端に笑みを刻んでいた。


 ここからの勝負は。

 キララがどこまで《デザストル》を打てるのか。

 ミヅキがどれだけ《ブレインアクセル》でそれを防ぎ切るのか。

 そういう勝負では――――ない。


 ミヅキの左手を覆っていた手甲が変形。

 手甲が、二本目の刀へと変じていった。




「まさか……アイツが……ッ!?」


 大きく目を見開くハヤテ。


「……龍上くんが……二刀流……?」


 ジンヤも、僅かに驚きを見せていた。


 



 

(あり得ないことではなかったけど……)


 それ自体に対してのキララの動揺はない。キララは兄の才能を知っている。兄の努力を知っている。

 これまで見せていなかったとしても、兄ならばそれくらいはやってのけるだろう。

 問題は扱えるということよりも、その練度。



「二刀で競うの? 風狩ハヤテから直接教えを受けたアタシと」


「御託はいらねえ、試しみろよ。……こねえなら、こっちから行くぞ」


 キララの恐れを、動揺を見抜き、その隙を突いて駆け出すミヅキ。



 互いの二刀が刃を重ね、高速で響き渡る鋼の調べ。

 




「――ク、ソ……ッ!」


 痛感させられる。



 

 ――やっぱり、兄貴は兄貴だ。


 自分よりも優れた才能。自分よりもずっと努力している。それらもあるが、それ以前に、どうしても生物として――人間として、存在として、格の違いを感じる。

 勝てる訳がない。

 絶対に勝ちたいと思う度、頭の片隅に臆病な自分がいた気がする。

 

 ――ミヅキの二刀での技量は、ハヤテに教えを受けたキララと同等か、それ以上。

 才能が違う。それに、ミヅキは幼少の頃から剣を振るってきた。二刀の経験もある。

 そして、ハヤテとの一戦。

 あの時から、ずっと考えていた。

 もし、同じような相手に当たったらどうすればいいか。

 奇しくもそれは、ジンヤと同じ答え。ジンヤもまた、ハヤテの《デザストル》に対して、二刀を選択していた。


 連撃の対応に追われ足元への意識が薄まったところを狙い、ミヅキが蹴りを放つ。

 刈り取られる――、ここで倒されるのは不味い。

 即座に判断したキララは、狙われた左足とリングを凍らせて固定。

 蹴りが直撃し、左足に激痛が走るも、倒されることは避けた――だが。

 素早くミヅキが次撃を放っていた。

 即座に足を引いて、さらに蹴りを放つ。腹に、そして次は足を振り上げ顔面に。

 どちらも直撃。

 足元の氷すら砕けて、キララの体が宙を舞って、リングへ叩きつけられた。



 □



「容赦ねえなあ。自分の妹の顔蹴っ飛ばすかよ」

「あれでも加減したんじゃねえか? 刀で切ってるわけじゃねえし。前の試合のがよっぽどだったぜ」


 レイガは周囲から聞こえてきた観客の声に苛立ち思わず舌打ちをした。

 男達が、レイガを睨んでくるが、構わずに吐き捨ててやる。


「馬鹿が。何見てたんだよ……」

「あァ?」


 絡んでくる男に吐き捨ててやる。


「龍上キララは刀を下げてなかった。切る隙なんかねえからああしたんだろ。それに、真剣勝負に女だとか男だとか、兄妹だとか、関係あるかよ。今までのアイツの覚悟が見て取れねえなら、オマエらにこの試合を観る意味なんかねェよボケ」

「てめぇ、なに好き勝手……」

「おい、やめとけ……」


 レイガに絡んだ男の連れは、レイガが一回戦でゼキと戦った相手であることに気づいたようだ。ここで喧嘩を売ったところで敵うはずがないという当然の道理にも。

 男達が引いていく中、レイガは目もくれず、試合を見つめる。


「……終わらねえよな、こんなもんじゃ」


キララを見つめるレイガ。その視線に込められた真意は――。


 □




 薄れゆく意識の中で、キララは思っていた。




 ――ああ、やっぱり……。


 やっぱり、兄貴は強いなあ……。


 やっぱり、自分なんて、こんなもんか……。


 そうして、キララの意識は沈んで――。





 □



 その時、観客席のジンヤは、ヤクモと視線を交わし、一度頷きあった。


 ――「……ジンヤ。キララにも、プライドはある」


 キララ対オウカの試合の際、ジンヤは倒れるキララに声をかけようとしたら、キララの意志を汲み取っていたヤクモに止められた。

 今度は、動じない。

 この状況でも。

 積み上げた策の全てを捻じ伏せられた、もはやこの先はないと思えるような時でも。





「…………ここまでかよ……」


 ハヤテの言葉に対し、ジンヤは。





「……立つよ。立てるなら、立つ。策が尽きても、キララさんなら、それでも」


ただ、それだけ――ジンヤは確信に満ちた言葉を口にした。







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