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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第7章
151/164

第2話 謎の美少女・ハナちゃん




 前回までのあらすじ!

 

 憧れのジンヤとのデート向かった爛漫院オウカであったが、しかしそこに屍蝋アンナ(※性格が悪い!)から送り込まれた刺客達が迫る――!

 二人の刺客。

 あらゆるジャンルを網羅している故に当然アイドルも大好きなオタク、ガウェイン・イルミナーレ!

 そして、彼女がいるくせにドルオタ、しかも他の女とでかけている、いろいろと大丈夫かよお前! 水村ユウジ!


 ――――爛漫院オウカの運命や如何に!?





 □




「ほぁわぁぁぁあ~~……???」


 オウカはいきなり心臓を雑巾のように絞られたような、そんな驚愕と共にわけのわからない声を出した。


「な、なに……!?」


 びくっ、と奇声に対して驚くキララ。遅れて事態を理解する。

 ――迫るガウェインとユウジ。

 奴らに見つかれば、オウカがどうなるか。

 アイドルが、男とでかけている。キララがいるとはいえ、言い訳にならないだろう。個人差あるだろうが、それでもアウトなのは間違いない。

 

「ヤバ……どうする、隠れる?」

「いえ……ですが……」


 ――この時オウカは、対キララ戦並みの速度で思考を回す。


 変装をしたとしても、相手はこちらのファン、侮ることはできない。一瞬で変装を見破られてしまう可能性もある。

 今さら帽子を被って眼鏡をかけたところで誤魔化し通せるとは限らない。

 ではどうすればいいか。

 相手の視界に入ることなく、この場から離れるのが理想だが――今は位置が悪い。相手はこの店の入り口付近にいる、これでは脱出は不可能。

 様子を伺いつつ、相手が移動するのを待てばいいが……その間、見つかるリスクはある。

 隠れつつ様子見、それはいいとして、何か手を打たなければ――。

 

 そこで事態は急変する。


「…………あれ?」


 首を傾げるユウジ。

 

 ――気づかれた。


 迫る足音。

オウカはユウジ達に背を向けているが――しかし、ファッションショーをしている最中に被っていた帽子を取っていたため、目立つピンク色の髪が露わになっている。

 これでは後ろ姿でも、ファンなら『まさか……?』と気づいてしまうだろう。

 

 オウカ、キララの前方にジンヤ。今はユウジ達から死角になっているが、このまま近づいてこられれば、確実にジンヤの存在に気づかれる。

 時間がない。

 策を講じる暇がない、思考する暇もない、今すぐに何か、何か、何か何か何か何か何か何か何か何か何か――――…………、


 そして、オウカは咄嗟に手を伸ばし――、ジンヤの手を引いて、試着室へと彼を押し込んだ。


 これでひとまずはなんとかなったが……。


「あの……、もしかして……オウカちゃん……!? す、すみません……今プライベートかな、話しかけたらまずかったですか……!?」


 背後から声。

 話しかけられた。

 ……緊張が走る。

 試着室のカーテンは締めた。布一枚挟んだところで、爛漫院オウカのアイドル人生――その生死がかかっている。

 ジンヤが見つかれば――……終わる。


「……、い、いえ、大丈夫ですよ。久しぶりですね、ユウジさん」


 彼とは、以前大会の中ですれ違っている。ちょうど彼が試合を終えた後に、オウカの試合があったからだ。

 彼のことは、よくイベントに来てくれるので覚えていた。


「やっぱり、お、覚えてて……っ!!」

「も、もちろん……。握手しましょうか?」


 それを口実にこの場から引き離す――そういう狙いだったが、しかし……。


「いいんですか……っっっ!??!!?!!? あ、でも、いや、いいです……」

「……え?」

「やっぱりそれは、自分の手で握手券を手に入れて、接近イベにいくからこそ価値があるものですから……!!」

「そ、そうですか」


 名言っぽい感じで言われたが、オタク特有の独特な拘りを語られただけだ。


「…………? 中に誰か……?」


 気づかれた。

 当たり前だ、不自然に誰かを押し込めてカーテンを締めるところを見せているのだ。疑問に思われても仕方がない。


「え、ええ、友人が……」


 ジンヤの姿を見られたわけではないはず。

 


「そうですか……。それじゃあ、またライブいきますっ、頑張ってくださいっ!」

「ええ、ありがとうございます、また来てくださいね……養分チェリーちゃん♪」


 ――やり切った……。

 あとは彼らが店を出るのを待ってからジンヤを脱出させれば……。


 そこでオウカは気づく――。


 見ている。

 立ち去ったユウジと、横にいる金髪の少女が、こちらを、すごく、見ている。

 なにやら二人で怪訝そうな顔で話している。



(……怪しまれて、いる……?)



 気づかれたのだろうか。

 いや、そんなはずはない……。

 

 だがまずい。

 このままずっと、試着室の前にいるのも不自然だ。何がしたいのだとなる。そして、試着室から誰も出てこないのも不自然だ。そんなに着替えに時間がかかるわけがない。どんな服だ。鎧か。ウェットスーツが脱げなくなった人か。それは店員に助けを求めるレベルだ。

 ――というか、そもそも……店側に迷惑……!

 

 どうすればいい。

 何か、この状況を打開する策は……。


 彼らが都合よく立ち去るという可能性は捨てるべきだ。都合の良い奇跡など起こらない。今ある手札でなんとかしなくては……。

 今使えるもの――変装用の帽子、眼鏡、メイク道具……、試着室の中には、これまで試着したいくつかの服。他に使えそうなものは…………あった。

 オウカは自身のバッグからあるものを取り出し――そして、試着室の中に入った。




「……え、オウカさん……!?」


 戸惑うジンヤを真剣な眼差しで見つめながら、オウカは言う。


「……ごめんなさい、刃堂くん……もう、こうするしかないんです……」


 そう言って彼女はジンヤの顔へ手を伸ばして――――。


 

 □




 ――何を隠している……?


 ユウジとガウェインは、オウカの奇妙な行動を怪しんでいた。

 オウカは確かに、試着室の中に『何か』――というか、『誰か』を入れたはずだ。

 一体なぜ? 誰を? この疑問は、『隠す』という行為や、オウカの挙動から推察することができる。

 つまり――、隠さなければいけない相手。

 アイドルが隠すべきもの。

 スキャンダル。

 

 答えは――――、彼氏だ。


 ユウジはここで葛藤する。

 

 疑うのか――――推しのことを。


 オウカはこれまで異性関係のスキャンダルとは一切無縁だった。ファンが恋人という姿勢を地で貫いている、本当に天性のアイドル気質。

 そんな彼女に、彼氏が……。

 正直、そうだとしたら、ショックだ。

 だが――、真剣な交際なのであれば、応援したい。

 そもそも、まだそうと決まった訳ではない。

 ――……悪い男に、オウカが騙されているのかもしれない。

 

 真実はまだわからない。

 彼女を疑うことには胸が痛むが、しかし……疑うということは、信じるということなのだ。

 全てが杞憂であるのなら、それでいい。

 

「…………どうする……ガウェインさん……」


「――――私が行こう」


 ここは女性向けの服屋だ。男のユウジが試着室に乗り込むなど、犯罪にしか見えない。

 ガウェインも気持ちは同じ。

 オウカの一ファンとして、オウカを信じるために。

 もっとも、今の彼女には『別の思惑』もあるのだが。


「いいのか、ガウェインさん……こんな役を押し付けてしまって」


「なに……かまわんさ。私とお前さんの仲だろ」


 わりと最近知り合ったオタク同士の仲であった。浅い仲だ。


 ――そして、ガウェインがオウカのもとへ向かった、その瞬間だった。


 試着室のカーテンが、オウカの手によって開かれた。


 そこから現れたのは…………。



 □




「――――なッッ……!?」



 

 

 僕――水村ユウジに衝撃が走った。

 まるで体に電流が走ったような。というか過去に龍上ミヅキに雷撃を浴びせられたことがあるのでわかる。電流が走った。それくらいの衝撃だった。


(…………か、可愛い…………ッ!)


 試着室から出てきたのは、少女だった。

 さらりとした肩くらいの黒髪。背は女性にしては高いくらいだろうか。フリルの多い白いブラウスに紺のスカート。黒のストッキングに包まれたすらりと伸びる脚。全体的に清楚な印象。ざっくり言ってしまえば、いかにも『童貞が好きそう』というような格好だ。というか僕も好き。

 

 控えめに俯き、頬を朱に染めている。何か照れくさいのだろうか、もじもじと脚を震わせ、手は所在なさげにスカートをつまんだり、髪をいじったりしていた。



「え、あ、あの…………あのっ!」

「……は、はいっ!?」


 僕は思わず黒髪の少女に話しかけ、よくわからないことを口走った。


「…………アイドルの方ですか!? どこのグループ!? オウカちゃんの友人……!?」

「え、いや……ちが……アイドル、じゃないです……」

「……そんな!? 絶対アイドルやったほうがいいです!!」

「か、考えておきます……」


 ささっと、彼女はオウカちゃんの背後へ隠れてしまう。オウカちゃんよりも身長が高いのに、どこか小動物のような仕草をするアンバランスさがまた可愛らしい。


「……こんな逸材がいたとは……」


 そして僕は、大事なことに気づいた。


「……あの、お名前は……?」




 □




「え、っと……刃島刃鳴はしまはな……です……」



 ――――どうしてこうなったんだ……。


 テキトーな名前だった。

 誰だよ、刃島刃鳴はしまはなって。すごい名前だな、と名乗った本人も思っていた。


 黒髪の少女――もとい、ユウジの視点からそう見えているだけの少年。

 

 つまり。

 刃島刃鳴はしまはなは、

 

 ――女装した刃堂ジンヤだった。


「ハナさん……、なんと可憐な……」


 なんでもありかよこの人。

 ジンヤはとてつもなく困惑していた。

 一刻も早く元の格好に戻りたい。しかし、それはダメだ。そうなれば、オウカに迷惑がかかる。ここを切り抜けるまでは仕方がない。

 しっかり女の子の演技もしなければならない。

 

 ――――だがそれは、とてつもない恥辱だった。

 

「ハナさん……あなたはいつか、アイドル界のトップになれる……!」


「うんうん……、私の次くらいにすごいアイドルになれますね」


 熱っぽく語るユウジに、にやにやしながら頷くオウカ。

 

(――こ、この人は……!)


 オウカはついさっきまで死ぬほど焦って、必死にジンヤに女装してくれと頼んできたというのに、今はもうなにやらこの状況を楽しんでいる。

 なんだ、なんなのだこれは。


「ハナちゃん~、モテモテじゃ~~~ん……。ぷ、ぷぷ……ぷくく…………」


 肩を組んでくるキララは、笑いを堪えられてなかった。




(ゆ、許せない……、あとでちょっとつねるからなキララさん……!!!!)


 ジンヤは怒っていた。




 ジンヤは幼少期、情けない、男らしくない、女々しいと、そう馬鹿にされていじめられていたのだ。

 それを、やたらと男前な少女――ライカに救われた。

 

 女々しい少年と、雄々しい少女。あべこべの二人が出会って、二人は少しずつ、強さと弱さを交換して、今の形になった。

 別に弱い男はいけないだとか、強い女がいけないだとか、そんな話をするつもりはないが、そうやって二人はなりたい自分になっていったのだ。

 なのでジンヤにとって、女々しいというのは地雷というか、トラウマというか、そういう屈辱がある。

 

 そんな経緯があるので、この件で馬鹿にされると温厚なジンヤも少し怒るのだ。



「それでは……またいつか!」

 

 ユウジのその言葉に『もう二度と会うことはない……(この姿で)』と思いつつ手を振るハナちゃん(ジンヤ)。


 こうして、オウカはなんとか機転と、ジンヤの犠牲によって、窮地を脱したのだ。


 □




「……ああ、ハナさん……、いけない……ガチ恋はいけない……」

「ユウジくんさあ……」

「なんですか?」

「…………、彼女いるのに、気が多いよね」

「――――う゛」

「おとなしそうに見えて、チャラいよね」

「そ、そんなことは……」


 良くも悪くも、ユウジは普通の少年だった。

 彼女はいるが、アイドルは大好きだし、可愛い女の子に目移りすることもある。

 

 彼の悲劇は……、その『可愛い女の子』の正体は、彼が憧れた人物で、そもそも女の子ですらないという点だった。




(…………まあ、面白い落とし所になったし、よかったかな)

 


 

 今回の件は――、というか、今回の件『も』、ガウェインは事態を裏からコントロールしていた。

 同じように括るのはどこかおかしな話だが、対罪桐ユウ戦と同じだ。


 まずアンナはストーキングによってジンヤやキララの動向を把握、オウカの情報を手にした彼女は、ガウェインにその情報を流す。

 オウカのファンであるガウェインに情報を流せば、オウカとジンヤのデートの場所に、ファンである彼女が居合わせる。

 それによりオウカのスキャンダルが露見――そこまでいかずとも、それを避けるためにオウカはジンヤから手を引くという算段だ。


 ――が、ガウェインはアンナの狙いを読んでいた。

 アンナに協力したい気持ちもあるが、オウカをスキャンダルから守りたい気持ちもある。

 だからガウェインは、あえてアンナの誘いに乗り、アンナの思惑通りに動く。


 ガウェインは、オウカを追い詰めているように見えて、『追い詰めすぎない』ようにするために動いていたのだ。

 

 具体的に言うと、本当にオウカに甚大なダメージが及ぶようなスキャンダルが起こりそうな事態になれば、彼女はそれを止める側になって動いた。

 今回のガウェインは中立。

 アンナとオウカ、どちらにも肩入れしすぎず、事態をコントロールするために動いていたのだ。

 それに、アンナがやりすぎてしまうのも、ガウェインとしては本意ではない。

 それが露見すれば、ジンヤやキララに怒られるのはアンナだ。アンナの狙いから逸れつつも、それでもアンナのためを思って動いていたのだ。


 

「それにしても……ハナちゃん……ウケる」



 なんにせよ、おもしろいものが見れたので彼女は満足だった。


 


 □



  

 ――――その後。


 用事を終えたライカ、アンナも合流。ジンヤ達一行は、カラオケに向かった。

 

 そこでは――――、



「言いたいことがあるんだよ!」



 歌っているライカに向けて、サイリウムを振りながら叫ぶジンヤ。




「やっぱりライカはかわいいよ


 すきすき大好きやっぱ好き


 やっと見つけたお姫様


 俺が生まれてきた理由


 それはきみに出会うため


 僕と一緒に人生歩もう


 世界で一番愛してる


 ア・イ・シ・テ・ルー!」

 


 ――――ジンヤは、いつもどおり、他の女とイチャイチャした分、ライカともイチャイチャしなくてはならないので、カラオケで、他の女がいる中で、彼女に『ガチ恋口上』をするという意味不明なプレイを強要させられていた。


「………………むぅ」


 頬を膨らませるオウカ。


「…………いいなあー」


 羨ましそうにそれを眺めるキララ。


「……………………どこまでもいやしいおんなめ……」


 殺意に満ちた瞳で、気分良く歌っているライカを睨むアンナ。



 ちなみに。

 一行はカラオケの後に、今度は訓練施設に向かい、実戦形式の戦闘訓練を始めるので、今回初参加だったオウカは『スケジュールえぐいですね!?』と驚いていた。





 

 □




『……納得いかないことがあるのですが』


「…………ん~……、なんですかぁ~……?」



 不機嫌そうな顔つきの眼鏡に白衣の男性――トレバー。

 彼に応じるのは、間延びしたやる気のなさそうな声を発する少女、罪桐キルだ。


 二人は日本とアメリカ間でビデオ通話をしていた。

 キルはユウが健在だった時代から、《ラグナロク》内において、《係数》研究に関わる分野にも協力していたので、そちらの担当であるトレバーとも顔見知りなのだ。


『どうして刃堂ジンヤの周りに異性が集まるのでしょうか?』


 極めて真面目な顔でおかしなことを口にするトレバー。

 クールな仕草で眼鏡を直したりしているが、普通に聞いていれば『なんであいつあんなモテるの?』というショボい僻みにしか聞こえない。


「……ああ、それねぇ~?笑 別に大した理由なんかないよ」


 キルは思わず笑ってしまう。

 トレバーがとことんジンヤを嫌うことにも、そんな下らないことに気にすることにもだ。

 相変わらず細かいやつだと思いつつ、キルは説明してやる。

 このことに関して言えば、トレバーが理解――というか、納得しがたい理由がいくつかあるのだ。


「まず、刃堂ライキの件を参照すれば、《主人公》が誰とくっつこうが《法則》は大して気にしないってのはわかるよね」


 《主人公》にとって重要なのは、ヒロインに対する想い、それにより生まれるドラマ――つまり物語であり、ヒロイン自体の素性はそこまで重要ではない。


 勿論、《主人公》と関係を持つ異性――いや、この場合異性である必要すらない。屍蝋アンナの魂装者アルムは同性である花隠エイナであることからも分かる通りだ。

 

 だが、関係を持つ相手の《係数》が高いことで、《係数》に影響を与えるケースもある。

 黒宮トキヤと雪白フユヒメが良い例か。雪白フユヒメの《係数》は高く、それがトキヤに与える影響も大きい。


『……ええ。実際そうなってる以上、その事実は理解できますが……では、なぜそうなっているのか、というところです』


「……まあ、日本のコミックをたくさん読めばわかると思うけどさあ……。この場合、別にお国柄に限った話でもないか。ただ単に、話のジャンルの問題かな」


 そう、それは日本だろうがアメリカだろうが同じことだ。


「――コメディにおいて、世界が救われる必要なんかないんだよ。ラブコメの主人公は、世界を救うスーパーパワーを持っていなくても成立するでしょ?」


 推測――という体で話しているが、キルは答えを知っている。

 なにせ《作者》なのだから。


 もしもこの世界のジャンルが『ラブコメ』であるのなら、異性にモテるということは大きな意味を持つだろう。

 だが、そうではない。

 刃堂ジンヤの件も、これに当てはめることができる。

 彼がモテたところで、世界にはなんの影響もない。

 それ故に、トレバーの『ジンヤが《主人公》でないのにモテるのには納得いかない』に対しては、そういうものだとしか言いようがない。


 しかし彼の疑問はもっともで、『英雄色を好む』という言葉もある通り、《主人公》としてのタイプにもよるが、基本的に《主人公》は多くの他者と関係を持ち、多くの他者から好意を持たれる。

 ハーレムを構築するところで主人公性を得るタイプもいるだろう。

 だが、数だけでなく『質』も重要だ。


 刃堂ジンヤに当てはめれば、雷崎ライカ、龍上キララ、爛漫院オウカの好意には価値がない。

 あるとすれば、《主人公》である屍蝋アンナのものくらいか。

 

 別の《法則》が力を持つ世界があれば、そこでは異性からの人気がもっと重要視されるのかもしれないが、この世界において『数』は然程重要ではない。

 やはり大切なのは、『質』の方だ。

 実際、赫世アグニは今はもう失われたたった一人を想い続けて強い力を得ている。



「……そういうことだからさ、気にしない方がいいよ。っつーか研究室に籠もりっきりで溜まってんの?笑 いい店紹介しようか?」


『お気遣いなく。……では』


 キルの下品なからかいに苛立つも、なんとか感情を抑えつつ通話を終えるトレバー。


「あーあ……つまんねえ……」


 堅物のトレバーのこともそうだが、それだけではない。


 ゼキ対アグニの結果も、たまらなく不快で、下らないものだった。

 ゼキは勝利した。大方の予想を覆してだ。

 それは刃堂ジンヤに近い偉業であるはずなのに、しかしジンヤがトキヤを倒した時のような喜びは見せない。



「ぐちゃぐちゃに殺せよ……、クソつまんねークソ寒い青春見せられてシラケるって。なにが復讐譚だよ、ゴミが。もうお前の物語はクソだよ、さっさと死ねよ……」


 怒りのままにアグニを模した駒を掴んで、壁へ叩きつける。

 

 

「まあいいか。……ちょうどいいネタもあるし……おいしー『絶望』、おかわりいっちゃおっかなあ……」


 

 そう呟いて彼女が掴んだ駒は――、輝竜ユウヒを模したものだった。


 

  

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