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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第6章 赫世の復讐譚
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第03話 神すら■■の思うがままに






 不知火アザミが、アグニへ接触したのが、三回戦の前日。



 そして。

 三回戦当日――ジンヤ対トキヤが終わり、いよいよ第二試合である赫世アグニ対真紅園ゼキの開始時間が近づいていた頃だった。



 そんな中――アグニとユウヒの二人は、競技場内にある試合で使うメインのリングとは別――地下にある、試合直前に選手達が調整を行うサブのリングに来ていた。






 リング上で相対しているのは――罪桐キル。






 呼び出してきたのは、キルの方から。

 有益な情報があると、そう告げてきたのだ。

 彼女のことだ、それがろくでもない企みなのはわかっていた。それでも、応じなければ別の強引な手段に出るだけだろう。

 そして、今更何か仕掛けてきたところでたかが知れている。

 罪桐ユウのように暴れまわるには状況が悪い。《八部衆》が戻っている時点で、派手には動けない。

 そうでなくとも、アグニとユウヒが揃っていれば、直接戦闘だろうが、ジンヤに仕掛けたような搦手だろうが、通用しない。





「きひひ……、だるい前置きとかいらないよね、単刀直入に言っちゃうけどねえ――」


 ――さあ、次の絶望しかけを始めよう。





 □






 キルが現在根城にしている部屋に置かれた、大会参加者達を模した人形。

 彼女が次に仕掛ける策略。

 アグニを模した人形――その眼前に置かれたのは、ユウヒを模した人形だった。


 アグニとユウヒが向かい合う形、それが意味しているのは――。






 □




「アグニくんさあ~……もしも殺されたはずのお母さんが生きていたらどうする?」




 アグニの母は、父が殺された時に一緒に殺された。アグニが居合わせたのは、アーダルベルトと父の戦いで、母はその前に既に殺されていた。

 アグニは、確かに母の死体を見ている。

 生きていたら、などという下らない仮定を差し挟む余地はない。


「戯れるなら一人でしたらどうだ、道化」


「……きひひ、いいからいいから、そういうの……そういう余裕すっ飛ばしたいからさっさといくけど、これ見てよ」


 アグニに向けて、ホロウィンドウを一つ飛ばす。アグニがそれに視線を奪われている間に、今度はユウヒへ言葉を向けるキル。





「ユウヒくんさあ……前にこの人、殺してるよね?」


「……それを『人』と呼ぶかどうかはわからないがな」





 まず、ユウヒには別のホロウィンドウを。


 ――そこには、様々な異形の存在が映されていた。


 一つの体から、いくつもの顔が生えているもの、体に複数の顔が埋め込まれている者、手が無数に伸びているもの、動物や虫のような、人とは異なる異形と無理やり組み合わされた、禍々しい化物達。

 冒涜的な、見ているだけで気が狂いそうな異形。


 先の通り、これらを『人』と呼ぶかはさておき、ユウヒはその異形に終わりを与えた。

 

 ライキが亡くなってから、一人で世界中を回っていた時期のことだ。

 《終末赫世騎士団》の下部組織が使っていた研究施設を潰したことがあった。


 あの禍々しい化物は、そこで見ていた。もう人にも戻れず、言葉にならぬうめき声を上げているものもいれば、辿々しい言葉で何度も『殺してくれ』とつぶやき続ける者もいた。


 殺すのが――ユウヒにとっての、正義だった。

 せめて、苦しみを長引かせないように。

 そうすることしか、できなかった――救えなかった者達だった。

 何もかも、手遅れだった。


 全てを救うことはできない。

 そして、手を汚さずにいることなどできない。

 ユウヒの苛烈とも言える正義は、そうした経験によってより強固になっていった。





「…………殺したってことで、いいんだよねえ?」





「……だから、どうした? それ以上戯言を吐くのなら――、」


 腰の刀に手をかけた瞬間だった。




「き、ひ……きひひ、斬夜破キャハッ! 刃を向ける相手はアタシじゃないんじゃないのかなァ!?」


 

 

 ――――赫世アグニが、輝竜ユウヒに斬りかかっていた。


 

「――――なッ、……」


 すかさず抜刀し、アグニの斬撃を受け止めるユウヒ。







「……なぜ……、アグニ……ッ、どうしたというんですか……ッ!?」










「鈍いなああああァァ…………!! ユウヒくんさぁ、ぶっ殺しちゃったんだよ!! アグニくんのお母さんをさあ!!!!!!!! きひ、きひひひ、斬夜破破破キャハハハッ!」











 

 キルは想う。

 ああ、手軽な絶望だ。

 絶望の種はそこら中に埋め込んであるのだ。

 

 ――こっちは《作者かみ》なのだ。

 世界さくひんの中で起きたことくらい把握している。

 それらをどう使ってやれば、どんな展開が生み出せるのか、そんなことはあまりにも簡単に予測できる。

 つまらない、予測通りの展開ではある。

 だがそれでも、予測通りだとしても、どうせわかりきった展開ならば、絶望の方が甘美に決まっている。

 

 ジンヤ相手のように《夢》だなんだと回りくどいことをしてやる必要もない、こんなにも簡単に、絶望と悲劇は生み出せる。



 彼らのような、クソッたれの《主人公》どもでは、ジンヤのような面白みはないが、それでも悲劇を踊ってくれるのならば喜んで楽しんでやらねば。

 それが《作者》の努めだろう、せめて《作者》だけは、登場人物キャラクターどもの無様さを、愚かさ、下らなさを、惨めさを、絶望を、悲劇を、思う存分楽しんで、げらげら笑ってやらねば。





 さあ――もう大会など、どうでもいいだろう。

 

 思う存分、憎悪のままに、殺し合え。





 □





 《神格因子》というものがある。

 

 例えばガウェインやランスロットの能力が、伝承に由来するものであるように。

 例えばハンター・ストリンガーの能力が生物に由来しているように。

 

 アグニとユウヒの能力は、『神話』に由来している。






 ユウヒの因子は《フレイ》。

 太陽にも劣らぬ輝く剣を持ち、平和な治世を齎すと言われている神だ。


 アグニの因子は《スルト》。

 最終戦争ラグナロクにおいて全てを焼き払った、世界を終わらせる者。




 フレイとスルト。

 世界を守る者と、世界を焼き焦がす者。

 正反対の二人が。

 



 共に、最果ての男を打倒すると共闘を誓っていた二人が。

 

 《神樹世界》において、赫世レンヤと皇白アキラが扱い、共に戦った二つの神格が。

 《想星世界》において、ヒギリ・シラヌイとアマネセル・リュミエールが扱い、共に戦った二つの神格が。

 


 本来の神話の通り――最終戦争ラグナロクをなぞるかのように向かい合う。


 フレイは神話において、最終戦争ラグナロクで、スルトに敗れる。


 ――が、神話とは異なる点が一つ。




 最終戦争ラグナロクでのフレイとスルトの対決の際に、フレイを殺した剣の名をレーヴァテイン。


 元はフレイの剣であったが、スルトの手に渡ったなど、剣の正体には複数の説があり、そもそも剣ですらないという説すらある。


 アグニが武装の形態を剣、槍、弓と次々に変えるのは、この正体不明という部分を利用しているのだ。







 そして、神話において、レーヴァテインはスルトの手にあったが――。







 □


 








「《魂装解放リベラシオン・アルム》――《破滅の赫枝レーヴァテイン》」





「《魂装解放リベラシオン・アルム》――《英雄の閃刃レーヴァテイン》」


 


 二人は同時に、最愛の武装を解放。







「……目を覚ませアグニ、キルに乗せられているのがわからないのか!?」



「関係ないんだよ、そんなことは……貴様も、俺の復讐すべき相手だッ!」

  




 アグニはどれだけ憎悪を燃やそうが、復讐のために冷徹に計画を組んでいた。

 ――が、それは全てが復讐のためにあったというだけのこと。

 

 復讐のためならば、冷徹に組み上げた計画すら、全て憎悪に焚べる。


 それが赫世アグニの在り方だ。




 □





 ――――このように、神話の力の断片を持っているガキ程度。



 神ごとき、正真正銘のさくしゃの前ではただの操り人形なのだ。





 □



 第03話 神すら■■の思うがままに




 第03話 神すら彼女さくしゃの思うがままに





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