第02話 全てを焚べた先に
――「私の兄、ヒギリ・シラヌイ――そして、私をここに送った人物である――赫世レンヤ。
彼らの《物語》による因果が、あなたにその悲しい《物語》を背負わせてしまっているんです」
告げられた事実には、さしものアグニでも驚きを禁じ得なかった。
だが、思考に空白が生まれたのも束の間、即座に明かされた事実により湧き出る疑問点をまとめていく。
不知火アザミが《並行世界》の『赫世』ということはわかっている。
彼女の兄だという『ヒギリ・シラヌイ』。なぜ姓名の順を変えたのか、そもそも『シラヌイ』とはなんなのか、という疑問は今は置くことにする。
並行世界の人物である以上、そちらの世界での事情があるのだろう。
アザミの言葉が事実ならば、彼女もまた『生き残り』なのだから、ヒギリという人物は既に故人のはずだ。
そして、赫世レンヤ。
アグニの知る限り、親戚筋にそのような人物はいなかった。なので恐らくレンヤという人物も並行世界の者であるはず。
ヒギリとレンヤ。
どちらも並行世界の赫世だとして、その彼らが今の自分に影響を与えている――というのは、一体どういうことだろうか。
アグニは、レヒトがトキヤに与えていた程度の並行世界に関する知識ならば、当然持っている。
『並行世界の自分』からの影響を受けるのならばわかる。
ユウヒがライキからの係数的な影響を受けている可能性がある、ということからも分かる通り、他人であろうが自身と深い関係がある人物からの影響もあり得るだろう。
だが、アグニにとって件の人物はまったく見知らぬ他人だ。
『赫世』というだけで影響を受けてしまうのなら、アグニに影響を与えられる人物は一気に大幅に増えてしまうが、その二人に限定する根拠は何か。
――そもそも、二人がアグニに影響を与えているという根拠はなんなのだろうか。
アグニはそれらの疑問点をアザミに伝えた後、さらにこう付け加える。
「……赫世レンヤとやらは、それらについての情報も貴方に持たせているのだろう?」
「もちろんです。まず――、」
「……『貴方』?」
アザミが話だそうとしたところで、レイガが怪訝そうな視線をアグニへ向けた。
「……あの、どうしました? ええと……、」
「オレは空噛レイガね。……いや、アグニ、なんかシラヌイちゃんへの感じ、変じゃね……?」
「空噛……? ……というか、シラヌイちゃん……」
微妙にショックを受けるアザミを余所に、アグニは溜息をつきつつ、レイガの疑問へ答える。
「……彼女の年齢が見た目通りだと思っているなら、お前もまだまだだ」
「あァー?」
「明らかに魔力を扱う練度が桁外れだ。十年やそこら生きていて辿り着くのは不可能だと考えていい。なら、そこに何かあると考えるのが道理だろう。外見と年齢が一致しない程度、《終末赫世騎士団》の存在を考えれば珍しくもない」
《終末赫世騎士団》にもそのような存在がいるのだ。そもそもアーダルベルトからして、一体何年生きているのか見当もつかない。確実に外見年齢とは一致しないだろう。
レイガにはその辺りの機微がまだわからないらしく、あまりピンと来ていない様子だ。
ここで言う機微というのは、相手の魔力の扱いから重ねた研鑽を察することであり、相手が外見と年齢が一致しない特殊な事情を抱えているのなら、それを察して触れるべきか判断するということだが――本能で生きているレイガには少々難しいか。
「ん~……シラヌイちゃんってババアなの? 何歳?」
「……なッ……!」
アザミからなんとも言えない声が漏れ出た。
「……お前、女性に年齢を……。……もういい、退屈だろうが、少し黙っていろ」
「……ちぇ。りょォーかい」
素直に頷くと、テーブルの上にあったコップを掴み、中の氷を噛み砕き始めるレイガ。
アザミとしては、子供扱いも嫌だが、ババア呼ばわりされるのもそれはそれでショックだった。アグニに変な気の使われ方をしたこともだ。
レイガとの相性の悪さに恐ろしいものを感じつつ、逸れた話を強引に戻すことにする。
「アグニさんの疑問点についてですが、答えられる範囲で答えさせてもらいます。というのも、こちらとしても、その疑問について答えようとすると、伏せておきたい情報を明かしてしまうことになりますから……」
当然のことではあるだろう。
彼女の目的も不明なら、所属も不明だ。
だが、現状彼女が完全にこちらの味方ではないのだから、言えることに限りがあるのもわかる。
となれば、次なる疑問は、なぜ彼女が味方でもないのに情報を与えてくるかだが――そこでアグニは、この状況とある出来事の共通点を見出していた。ひとまずそれについては後回しだ。
まずは明かせる範囲の情報を聞き出しておく。
「構わない。そこについて触れるにしても、その前にそちらが出せる札は確認しておきたいからな」
まず『無償で情報を提供する』。そして後から何か要求をしてくるのかもしれない。
ありがちなやり口に見えるが、この後の展開がどうであれ、無償の部分で使えるものがあればそこで切り捨ててやれば確実にこちらが得をする。
「では、まずなぜ『赫世』とは言え、見知らぬ他人からの影響があるかですが――これに関しては、そもそも『並行世界からの影響は、別の自分からのみという訳ではない』ということですね。勿論、このことが知られてないのは、この現象が希少だからなのですが。
同一人物からのものよりもかなり条件が厳しくなりますが、ありえることなのです」
なるほどそう言い切られてしまえば、こちらとしては一旦頷くしかない。
アグニが類例を知らぬ程に希少なことならば、自身が知らないのも当然だろう。
そして、そのような特別が自身に起こり得る心当たりならばある。
「条件とやらはどこまで開示できる?」
「……ヒギリ・シラヌイやレンヤさんとあなたには、『赫世である』というだけでなく他にも共通点があります。その在り方――物語には近いものがあるのです。……それ以外の条件もありますが、そこはまだ明かせません」
「彼らの物語については?」
「勿論お話しましょう。その前にもう一つの疑問については?」
「では、そちらから」
疑問1 なぜ他人からの影響を受けるのか。
疑問2 なぜ影響があると判断できたのか。
赤髪の少女は頷くと、二つ目の疑問についての話を続ける。
「申し訳ないのですが、こちらに関しては、伏せたい情報と深く関連してしまうため話せることが多くありません。『判断できる手段を持っている』としか」
「……《係数》が高まる程に、他者の係数を察知する精度も上がるが、それに近い手法か?」
「概ねは。ですが、ただ係数を高めるだけでは辿り着けないと考えてもらっていいです」
「――……なるほど」
一度ここで整理しておく。
提示した疑問の回答により、新たに疑問が生まれた。
明かせなかった条件とは何か?
そして、『《係数》の影響を判断する手段》とは何か?
ひとまずこれらについては、現状明かせないというのならそれでいいだろう。
まだ残っている開示可能な事柄を拾っておくのが先だ。
「……それでは、彼らの物語について聞こうか」
「……はい。語らせていただきます。それが今回の本題ですから」
□
ここまでで、アザミは意図的に一つの重要な事柄を伏せた。
それは、アザミが元いた世界が、現在――西暦2028年から約千年後の世界であるということ。
千年後から現在への影響。
この事実を踏まえると、さらに複数の疑問が出てくるはずだ。
まず未来から過去への影響。これ自体は然程大きな問題ではない。なぜなら、並行世界からの影響において時間軸を無視していたのは、黒宮トキヤへのもので確認されている程度の事象だからだ。
では、なぜアザミの世界は完全に滅んでいないのか。
そもそも、なぜアーダルベルトは、望む結末があるのならば、それが実現している並行世界へ行こうとは考えないのか。
また、アーダルベルトというあらゆる世界を滅ぼしている者が存在するのなら、なぜこの世界は『並行世界のアーダルベルト』により襲われることがないのか?
仮にそのような存在が現れたとして、アーダルベルト同士が戦う、というようなことがあるのか。
このように、現状アザミがしたい話からずれた事実を伝えれば、無限に疑問が湧き出てしまう。
聡明なアグニなら、すぐに一つの事実から、付随する疑問点に気づいてしまうだろう。
それら全てについて話す時間はないし、アザミも全てを知っているわけではない。
だからこそ、アザミは意図的に情報を選んで話しているのだ。
□
――そして、不知火アザミは語り始めた。
アグニに影響を与えているという、二人の赫世の話を。
――赫世レンヤは、大切なたった一人のために、世界を滅ぼした。
あまりに突飛なスケールに、感覚がおかしくなりそうだが、そう容易いことではないだろう。
世界――一人の人間が相対するには、あまりに巨大なモノ。
赫世レンヤには、その『たった一人』以外にも、大勢の仲間がいたはずだ。彼はその全てを殺し尽くした。一人と世界を天秤にかけ、選択をした。
殺して、殺して、殺して、殺して、心が摩耗して、狂って、それでも己の選択を曲げず、鏖殺の限りを尽くし――やがて、世界に敵対する悪として、討たれた。
アグニに言えた義理ではないが、大した悪人がいたものだ。
だが、似たような人物なら知っている――アーダルベルトだ。
たった一人を守る、という点ではアーダルベルトとは異なるだろうが、それでも一つの世界を滅ぼしてしまうのなら、結果は同じだ。
並大抵のことではないだろう。
その領域へ至るには、どれ程類まれな資質が必要だろうか。どれ程の研鑽が必要だろうか。どれ程の覚悟が必要だろうか。
――赫世アグニは、それを持っているだろうか。
――ある、とそう確信して進むと、アグニはあの日誓っている。
それでもやはり、自分の成そうとしていることの途方もなさに対し、一切心を動かさないことなどできない。
善悪はどうあれ、当人はどう考えているにせよ、レンヤの成したことは偉業だ。
それを成せる者はそうそういないだろう。
間違いなく、彼は《主人公》だったのだろう。
なるほど、そのような者の影響ならば、例え他人であろうと、『赫世』に影響を与えても不思議ではないのかもしれない。
――ヒギリ・シラヌイは、大切なたった一人のために復讐鬼に成り果て、世界を救済する英雄を殺した。
その世界は、どうしようもなく行き詰まっていたらしい。
人が異形の魔物へと変じ、人々は魔物に怯え、心を擦り減らし、絶望に怯えながら――時に絶望に心を枯らし、自ら命を断つ者や、心を手放し廃人同然になる者が大勢いた。
その行き詰まった世界を救うという点で、とある男が選んだ選択は間違っていなかった。
英雄は、確かに世界を救おうとした。
世界からすれば、英雄の選択は正しかった。
それでも、英雄に否を突きつける者がいた。
復讐鬼、ヒギリ・シラヌイだ。
英雄が世界を救うために必要な代償――それが彼女の妹だった。世界のための犠牲。ヒギリという男は、断じてそれを許容せず、また自身の戦いがどれだけ絶望的だろうが一顧だにしなかった。
英雄を殺す。そう決めて、彼は突き進み続けた。
愛する者を殺した。友を殺した。代償を焚べて、自身を擦り減らし、それでも進み続けて、立ちはだかる全てを殺し続け、やがて彼は、復讐の果てに――。
彼の末路。その部分に差し掛かったところで、アザミが言葉に詰まった。
震えていた。口を開こうとする度、息をすることもままならないように苦しそうにもがいて、言葉を紡げないでいた。
兄だと、そう言っていた。
それ程までに、兄について語ることは、彼女にとって重いものなのだろう。
□
「……無理に話さなくとも構わない。必要があれば別の者から聞いておこう」
アグニなりの、優しさに似た何かだった。彼にも抱えたモノがある。そのことを考えただけで、平静でなどいられない過去がある。
「……すみ、ません……。ですが、もう少し私の話に付き合ってください。ここからなのです……。彼らの物語を聞いた上で、……私には、私達には、謝らなければならないことがあります」
アザミが目元を拭う。
だが、それでも後から涙が溢れ、彼女の瞳を濡らしていく。
「……兄やレンヤさんは、己の成したことを後悔していません。世界と敵対することを、恥じることなく選びました。
……ですが、私は違います。私は、ずっと……ずっとずっと、今も、自分のしたことを後悔し続けています。どれだけ購おうと、絶対に贖えない罪が、私にはあります……」
彼女の罪がなんなのかはわからない。それでも、彼女の想いに偽りがないことはよくわかった。
「……そして、レンヤさんは、己の成したことには後悔がなくとも、それでも……それが原因で、他の世界の赫世を苦しめていることには責任を感じています。
私にも、彼は必死に何度も何度も頭を下げて謝罪の言葉を重ねていました。私は、自身の過ちは全て自身の愚かさが原因だと思っているので、その謝罪をどう受け取っていいのかわかりませんでした……、あなたも同じように、今、私やレンヤさんから謝られたところで、どうしていいのかわからないかもしれません……」
彼女の言う通りだった。
元から《呪い》のせいになどするつもりはなかったのだ。
憎むべきはアーダルベルトだ。
今更《呪い》の原因などと言われたところで、そんなモノにまで恨みを割ける余裕はない。
それでも……と彼女は続けた。
「《呪い》についても、《係数》についても、全てが完全に明らかになっているわけではありませんが……でも、それでも……もしも……、もしもっ!
ほんの少しでも、私のせいであなたを苦しめているというのなら、それは何をしても償えない罪なのです……ッ!」
アザミは言う。
《呪い》に対し、『並行世界の赫世』がどこまで影響を与えているかはわからない。
だが、ほんの少しでも影響があるのなら、それは恐ろしいことだ。
確かに、アグニから大切な者達を奪ったのはアーダルベルトだ。
だが、《係数》がそうであるように、《呪い》は瞭然とした形でしか発現しないわけではないのだ。
アーダルベルトがアグニの父――赫世紅炉を殺した理由。
強者との殺し合いを求め続けるという、あの最果ての異常者は、 紅炉との死闘を求めた。
殺し合いの果て、アーダルベルトは、容赦なく紅炉の命を貫いた。
――もしも、紅炉がアーダルベルトの求める強さに至っていなければ?
――もしも、紅炉以外の獲物が見つかり、見逃されていれば?
――もしも、紅炉が逃げ延びる結末があれば?
――もしも、もしも、もしも、もしも……。
そんな無数の仮定を、可能性を、《呪い》が奪ったかもしれないのだ。
それだけで、アザミがアグニに頭を下げる理由は十分だった。
事実、赫世レンヤはアーダルベルトと戦って生き残っている。
あの最果ての男は、戦いの末に相手の命を奪うことに拘りがあるが、それでも戦った相手全てを殺している訳ではない。
その『例外』になれる可能性があったかもしれないというのに。
《呪い》がその可能性を奪い去り、赫世アグニという、《赫世らしい赫世》を生み出した。
今のこの状況は、そういう推測が成り立つのだ。
いつかアグニは、大切な者を奪われた悲しみで世界を焼き尽くす。
いつかアグニは、大切な者を焼き殺す。
今のまま進めば、きっとそのような、赫世らしい末路を迎えるだろう。
「……それでも、俺が恨むのは貴方じゃない」
冷たい声の、はずだった。
全てを諦めた冷え切った声。そのはずなのに、どこか温かさが滲むような――遠い日の彼は、その温かさを憎悪で覆い隠してはいなかったことを思わせる。
きっと彼は、優しい人間だったのだろう。
誰よりも優しいから、誰よりも深い絶望に落ちて、強い憎悪を燃やしてしまう。
――アザミの兄が、そうだったように。
アザミは理解してしまった。
アグニはきっと、止まらない。
兄が止まらなかったように、彼は復讐のために進み続ける。
だからこそ、どうしようもなく苦しかった。
「……私達には、あなたに協力する用意があります。アーダルベルトと戦うこと自体は否定しませんが……、それでも、復讐というやり方ではなく、あなたの奪われた者を取り戻すための……、守るための戦いを――そういう道を、共に選んではくれないでしょうか?」
――これが本題。
謝罪と、提案。
情報の提供は、そのためのただの前提の共有。
赫世レンヤ――かつて《神樹世界》という一つの世界を焼き滅ぼし者であり、しかし同時に、その世界を救った男。
不知火アザミ――かつて《想星世界》という一つの世界を揺るがす戦いの原因となった少女であり、その戦いの後に、世界を守り続けた少女。
《神樹世界》は、アーダルベルトによって滅ぼされた
《想星世界》は未だ存続しているが、いずれ標的にされるだろう。
そして、レヒト・ヴェルナー。《幻想世界》という一つの世界の王であった者の意志を受け継ぎ、レンヤと共にアーダルベルトを討つと誓う者。
今現在彼は《終末赫世騎士団》に所属しているが、それは仮初めの姿。この大会が終われば、レンヤと合流し、本当の戦いを始めるだろう。
《終末赫世騎士団》でも《ガーディアンズ》でもない、別の勢力。
アグニはそこに所属する者から勧誘を受けているのだ。
「――魅力的な提案だが、断らせてもらおう」
「……理由を、聞かせてもらってもいいでしょうか……?」
「――アーダルベルトを殺すのは俺だ、それは誰にも譲らない」
必ず殺すと誓っている。
他の誰かの手など借りるつもりはない。
現在、アグニはユウヒと共闘関係を結んではいるが、彼にアーダルベルトを譲るつもりなど毛頭なかった。
「俺は必ず、この復讐を成し遂げる」
復讐なんてやめろ、人殺しなど正しくない、亡くなった者はそんなことを望んでいない……もしもアザミが、そんな通り一遍のセリフを吐いていれば、殺していたかもしれない。
だが、違う。彼女はただ復讐を否定するつもりはないのだ。
復讐者がなぜそうなるのか。なぜ止まることができないのか。その本質を理解した上で、最愛の者を復讐で失い、実感の伴う本気の言葉で、アグニを止めようとしてくれた。
その真摯な姿勢には、敬意を表したい。
――が、今更なにもかも遅い。彼女がどれだけ真摯だろうか、そんなことはアグニが止まる理由にはならない。
殺すと決めた。他にはなにもない。
「……場合によっては、互いに利害が一致することくらいはあるかもしれないな」
彼女に報いたい気持ちも、多少はある。
それ故に、妥協点のようなものを示した。
「……では、その時にいずれ」
「……ああ」
ユウヒと同じだ。
彼女も、その後ろにいる者も、利用するに値する。
アーダルベルトを討つ前に、まず《終末赫世騎士団》を削る必要がある。
その段階で、彼女達の勢力は、《ガーディアンズ》同様に役に立ってくれるだろう。
アーダルベルトはその狂った性質のせいであまりにも敵が多い。
アグニとしては、当人を手ずから殺すことさえできればいい。邪魔者を消すのは、他者に任せても構わない。
アザミへの僅かな親愛の情もあったが、それすら復讐へ焚べ、彼女の気持ちすら利用し、計画に組み込む。
この身の全ては、あの男を殺すために。
既に赫世アグニは、復讐のための装置として――赫世として、完成している。
《呪い》の通り、この復讐譚の末路が悲劇だろうと構わない。
それであの男を殺せるのならば。




