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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第5章 ■■の■■■
127/164

第20話 新型戦闘訓練




(……今日はよく緊張する日だな……)



 そう思いながら、ジンヤは唾を飲み込んだ。

 

 先刻、ジンヤが泊まる部屋に知り合いが大勢集まった際に感じたものより遥かに勝る緊張感であった。

 そこでオロチから語られた事実。

 ユウヒがジンヤの《係数》を奪ってしまっている可能性。

 それ故にジンヤは《主人公》になれず、《開幕》も使えない。

 ――だが、話はジンヤがいかに不利なのかを再確認するのみでは終わらなかった。

 《開幕》の会得。

 可能かどうかは不明だが、それでもやる価値はある。

 そう考え、騎士が訓練を行える施設へやってきたのだが――


「さて……どこから話したものかな」


 室内にはジンヤ、ライカ、ユウヒ、オロチ――そして。

 後ろで括った長めの黒髪。実年齢よりもずっと若々しく、でありながら年齢相応――いいや、それ以上の風格を感じさせる壮年の男性。

 天導セイガ――この国で一番強い騎士。


 ――そんな相手が、ジンヤに話があるという。

 

 □



 大会出場選手達が宿泊するホテルから程近くにある喫茶店。

 そこでトキヤは、ある男と向かい合っていた。

 ――レヒト・ヴェルナー。

 赤の他人であるはずの男。

 トキヤの横には彼の妹であるエコ、そしてその横にはフユヒメが。

 レヒトの横には、彼の部下であるルピアーネが。

 

「……今日は金髪のチビはいねーのか?」

「ライトは連れてきてないわ。こういう場にはそぐわないのよ」

「ふぅーん……まあアイツ馬鹿そうだしな」


 ライトニングが耳にすれば激高しそうなことを口にするトキヤ。

 『こういう場』というのは、要するに戦いの場ではないという意味だろう。確かに好戦的すぎる彼がここにいれば話がこじれそうだ。

 だがトキヤはレヒトのことを完全には信頼していない。

 彼のすぐ横にエコを座らせているのがその証左で、すぐにでも武装化させられる位置に彼女を置いているのだ。

 フユヒメに至ってたは魂装者アルムを武装化させ抱えている。

 とても穏やかな集まりには見えないだろう。


「で、今度はなんだよ?」


 以前もレヒトとここで話したことがあった。その時は《主人公》、《英雄係数》、《並行世界》、《因果》といった概念について説明され、それ以上を知りたければ自分に勝ってみせろなどと言われていた。


「てっきり次にお前に会うならリングの上でだと思ってたけどな……どういうつもりだ?」

「ああ、俺もそのつもりだったんだがな、少々事情が変わった」


 不機嫌そうな声音のトキヤに、静かに返すレヒト。


「少し厄介なことになっていてな――貴様に忠告しておかねばならないことがある」


 レヒトの鋭い視線がトキヤを射抜く。

 わざわざ呼び出したからには、相応の理由がありそうだ。

 彼のただならぬ真剣な面持ちが、自然とトキヤに息を呑ませた。



 

 □



(なんかすげーことになってきたな)



 周囲に集まる面々を見て、ハヤテは一度大きく深呼吸した。

 彼らが訪れた施設では最新鋭の設備で騎士の訓練をサポートすることを謳っている。

 中でも注目されているのが、これから本格的に解禁となる新型の設備。

 VRを利用したもので、これによって今までとは異なる訓練が可能になることが期待されている。

 以前からVRを利用した施設は多く存在していた。それはヘッドマウントディスプレイとモーションセンサーを使い、その場で実際に動きつつまったく別の場所での戦いを想定することができる、というようなものだったが、今回のものはそれらとは一線を画する。

 なにせフルダイブ技術により、実際に動くことなく様々な場所での戦闘を体感できるようになるのだ。

 実際に動く必要がない、というのは一見訓練によって得られる効果としては低下するように思えるが、しかしメリットは計り知れない。

 まず、仮想空間上に膨大なスペースを確保できる。

 これまで施設の大きさが訓練の際に確保できるスペースの限界であったのが、ほとんど無限と言っていいレベルに一気に引き上げられた。

 確保できるスペースが広がれば、同時に訓練できる人数も増える。

 これまでの限界がスペース分だったのだが、機器さえ用意できればそれだけ増やせるのだ。

 


 そうなったことで、今まででは不可能だったようなコンセプトの訓練も可能になった。

 今現在、施設に大勢の人間が集まっているのはそのためだ。



(にしてもすげーメンツだな……)



 大会出場者の特典として、ビーチを優先的に使えた時と同じだ。一般解禁日より一足先に試せるということで、大会で見かけた顔ぶれが集まっている。

 だが、事態はそれだけに留まらない。


 この新設備で、同時に多人数が広大な仮想空間で戦うことができる特性を活かした訓練。

 それは、一対一の戦いではなく、複数人で組んだチーム同士による戦い。


 チーム戦は、《ガーディアンズ》においては基本の戦いになる。実際の戦いにおいては、一対一よりも遥かに多いシチュエーションで、常日頃から味方との連携を確認しておくことは重要になるからだ。

 そんな訳で、ハヤテ達はジンヤの訓練のためにここへ来ていたのだが、ジンヤがなにやら呼び出され、しばらく時間が空いてしまったので、その間に模擬戦に参加することになったのだが――

 

 その場に居合わせたメンバーで組んだ風狩隊(仮)。

 リーダーは風狩ハヤテ。残りのメンバーは屍蝋アンナと龍上キララ。

 Aランクが二人にBランク。即席ながら、かなり協力なチームなのではと思ったがしかし――それでもなお、この戦いに勝てると容易に言い切ることはできなかった。

 

 なぜならば――。


 □


「いずれそういう場が欲しいとは思っていたが、まさかこんなに早くやってくるとはな」


 フルダイブのために必要となる大きなゴーグル型の機器を眺めながら、夜天セイバが呟いた。


「お前にしては楽しげだな」


 彼へ微笑みかけるのは翡翠の長髪を持つ男――翠竜寺ナギの兄、翠竜寺ランザだ。


「まあな。あいつがいないのは物足りないと言えばそうだが……それでも、互いに借りを返しておきたい相手がいるだろう?」


 黒宮トキヤは今回不参加だ。

 だが、セイバとランザ、両者借りがある相手がこの戦いの参加者の中にいる。


 ――風狩ハヤテ。

 セイバは戦いを好まないとはいえ、それでも男として借りがあるのをそのままにしておくのは好かない。

 彼と戦えるのはセイバとしても僥倖だった。


「う――――ん……」



「……ルミア、どうした?」


 ルミアが何やら腕組みして考え込んでいる。


「ぶいあーる? 仮想空間? ってので人を斬った時と、現実で人を斬った時ってどれくらい違うのかなーって考えてた」

「……そうか」


 物騒なことを考えていた。 

  

「風狩辺りで試してやればいい」

「うん、そうするね! セイバのリベンジも手伝えるし、一石二鳥!」


 楽しそうに微笑むルミアを見て複雑な気分になるセイバ。だが、誰も傷つくことはないのだから、ひとまずは良しとしようと思った。


 二つ目の参戦チーム。

 夜天隊――リーダー、夜天セイバ、Aランク。翠竜寺ランザ、Aランク。灼堂ルミア、Bランク。


 □


「俺の技は分断に向いている。出来る限り氷で相手を分断して、一対一でお前を当てていく形が基本になるな。一対一でなら、今回の相手で誰にも負けないだろう?」

「…………」


 セイハの問いに、ゼキは黙り込んでしまう。


「……ゼキさん、どうしたんですか?」

「いや、な? どう考えてもセイハが指揮するのが妥当だし、一番向いてるし、作戦もオレ好みなんだけどな?」

「なにが不満なんです?」

「セイハに命令されるのが気に入らねえ」

「…………」

「頼むから足を引っ張ってくれるなよ?」

「うるせえ、テメエこそ足引っ張んじゃねえぞ」


 ヒメナは二人のやり取りを見てため息を吐きつつも、小さく笑みを零してしまう。

 この二人が組めばどうなるか。

 未知数ではあるが、それでも単体での強さなら二人共トップクラスだろう。

 自分が足手まといにならなければ勝てるはず――そんなことを考えつつ、彼女はこれから始まる戦いに胸を高鳴らせていた。


 蒼天院隊――リーダー、蒼天院セイハ、Aランク。真紅園ゼキ、Aランク。零堂ヒメナ、Cランク。


 □


「お前ら二人は基本合流を目指せ。オレは一対一なら負ける気はねえが、連携されると厄介な連中も多い。そういう時は水村がオレの援護だ。お前の射程は強みになる、常にオレの位置は気にしとけ。

 ストリンガーは水村と上手く合わせられるかを考えとけ。お前らは単体じゃ真紅園だの風狩だのに正面から当たっても勝てねえだろうが、組んで当たれば話は別だ」

 

 淡々と方針を述べていくのは龍上ミヅキ。

 彼の言葉を、水村ユウジとハンター・ストリンガーは黙って聞いている。


「…………、」

「……オイ、水村。テメェ聞いてんのか?」

「え、あ、き、聞いてるよ……!」

「なんか気になることでもあんのか?」

「……いや……その、龍上くんが真面目に作戦を考えたりするのが意外だなって……」

「……」

 

 チッ、と大きな舌打ちが響いた。

 ユウジは『……余計なことを言っちゃった!』と内心で大いに焦る。


「確かにそうデスネ! ダーリンは『作戦とかめんどくせェ、オレが全員ブッ殺すからお前らは邪魔にならねえようにすっこんでろ』とかってイメージデスネ!」


「…………」


 ハンターの言葉に、ミヅキは返答するのも面倒だと言わんばかりの冷めた視線をぶつけ、小馬鹿にするように小さく息を吐いた。


「あほめが」


 めるくがハンターの頭部へチョップを放つ。


「アウチ! なにするんデスカ、めるくチャン……」

「ぼけめ。みづきのはなしをちゃんときいて」

「もちろんデス。ダーリンの声をワタシが聞き漏らすはずないデスヨ?」


 ニコニコした表情のままめるくの怒りを受け流すハンター。


「……テメェらは使える駒・・・・だ。それはテメエらと戦ったことがあるオレがよくわかってる。今回の働き次第じゃ、この先も使ってやってもいい」


 静かに言い放つミヅキ。

 あまりにも不遜な物言いではあるが、しかし――。


「ワオ、それは頑張らないといけないデスネ!」


 軽薄な声音ながらも、その瞳に強い戦意を滾らせるハンター。


(……偉そうな言い方には腹が立つし、悔しいけど…それでも、やっぱり燃えるな)


 ユウジもまた、ミヅキの言葉に焚き付けられる。

 彼はセイハの部下である四天王の一人だ。そして、彼が憧れているのは刃堂ジンヤと雨谷ヤクモ。

 しかし――今後、仮に《ガーディアンズ》に所属して戦っていくとして、誰のチームに入りたいかと言えば。

 それはジンヤでもなく、セイハでもなく、龍上ミヅキだった。

 ずっと彼を追いかけてきたからこそ、ユウジにはわかる。

 ミヅキはきっと、ジンヤやセイハに負けないくらい強い騎士になる。その彼を上手く支えられる自信が、自分にはあった。


 龍上隊――リーダー、龍上ミヅキ、Aランク。ハンター・ストリンガー、Bランク。水村ユウジ、Dランク。




 □




 風狩隊――風狩ハヤテ、屍蝋アンナ、龍上キララ。


 夜天隊――夜天セイバ、灼堂ルミア、翠竜寺ランザ。


 蒼天院隊――蒼天院セイハ、真紅園ゼキ、零堂ヒメナ。


 龍上隊――龍上ミヅキ、水村ユウジ、ハンター・ストリンガー。





 時間の都合や、新システムの調整の意味合いが大きい今回の模擬戦は、実践や、今後のこのシステムによる戦闘の仕様とは少々異なる部分も多い。

 例えば、《開幕ライトアウト》は使用できない。《開幕》のデータはまだシステムに組み込まれていないのだ。

 それに、実際よりも耐久値を引き下げているため、その分短時間で決着がつく。

 


 四チームによる四つ巴の戦い。

 それぞれの想いが胸の内で滾る中、新たな戦い始まろうとしていた。





祝 ワールドトリガー連載再開

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