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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第5章 ■■の■■■
124/164

第17話 この勝利は何よりも





 左手は肩口から先が仮想欠損。二刀は封じられた。

 それでも、片手同士での対決ならば膂力で勝ると思っていたが――しかし相手の《斬響一閃ヴィブラシオン》を前には、剣戟すら許されない。

 魂装者アルムが削られてしまうのでは、打ち合うだけでこちらが一方的にやられてしまう。

 

 ユキカへのダメージが溜まり、武装化すらできなくなれば、今度こそ完全に終わりだ。

 キララに赫世アグニのような離れ業はできない。魂装者アルムがなければ、オウカへダメージを通す手段すらなくなるし、相手の攻撃を防ぐ手段もなくなる。


 射撃戦の条件は変わらない、依然としてこちらは不利。

 

 どの距離にも活路はない。

 完全に詰んだようにも思えるが――――それでも。


(片手で出来るか……いいや、やるしかない……)


 どれだけ難しくても。

 もうこれしかないのなら、これに賭けるしかない。


 キララはオウカが放ってくる桜刃を火炎で防ぎつつ、同時に別の魔法陣を出現させる。

 両手健在なら、左右で別々の魔法陣を出せたが、そうでない以上多少は無茶なことをやり抜くしかない。


 青色の魔法陣が出現する。

 

 だがその際、火炎の操作に綻びが生まれ――桜刃がキララの体を斬り裂いていく。


「がッ、ああッ……、い、ッたい、けど……ッ!!」


 自身へのダメージも顧みず、キララは防御に回していた分の火炎を、青い魔法陣へ叩き込む。

 瞬間。


 シュウウウウ……ッ! という音が響いて、辺りを水蒸気が埋め尽くしていく。

 青い魔法陣からは氷が出現し、それを火炎が即座に蒸発させているのだ。


 零堂ヒメナにも使った視界封じ。

 これで桜刃の狙いは定まらなくなる。

 だが――。




 □




(……悪あがき、でしょうか……? 私にこれは通じません)


 反響定位。

 コウモリのように超音波によって、音で相手を視る・・ことができる以上、有効な策とは思えない。

 ――しかし。


(……ッ! なるほど……)


 音の視界で確認すれば、人影が三つ。

 氷の人形だろう。

 二つの人影は動かないが、一つは動いてる――あれが、龍上キララ。


 考えたようだが、浅い。

 

 その程度ではこちらのは誤魔化せない――!


 オウカが動いている人影に桜刃を叩き込もうとした、その刹那――

 



 □





「――……今かな」

 

 キララは、オウカの周囲を爆破・・した。




 □




 ――――爆音。


 そう、だ。 

 これによって、オウカの聴覚しかいは封じられた。

 

 微細な音から敵の動きを察知するために鋭敏の研ぎ澄まされていた感覚が仇になる。

 一時的に相手を見失い、さらに動きが止まる。


 このままでは一方的にやられるだけだ――だが。



 □




(……ッ! さすが、ここまでやるよね……ッ!)


 キララは熱感知によってオウカの居場所を割り出そうとしたが――彼女がいると思しき方向が、全て均一な温度になっている。

 彼女の体温から、彼女を割り出せない。


 オウカは《振動》によって空気を振動させ、熱して、熱感知を封じたのだ。


 これで互いに相手の姿を見失った――――はずだった。




 □




(互いに視界を封じる術があるのなら……ッ!)


 一回戦、ルピアーネの砂塵により視界を封じられ、さらに彼女は手当たり次第に石柱を出現させてオウカを攻撃した。

 当てずっぽうで攻撃を繰り返し、先にヒットさせた方が勝ち。

 スマートではない。ここにきて全て運任せで決まる奇妙な状況。

 

 それでもいい、なんだっていい、どんな形でも、勝利さえ掴むことができるのなら。


 そう思ってオウカがさらに桜刃を追加し、リング全体へ攻撃を加えようとした瞬間。










 

 ――――――ぱきんっ








 足元から、




 オウカの足元が、凍っていた。

 おかしい。ありえない。

 足元の確認は怠っていない。

 一回戦のキララ対ヒメナにおいても、キララはヒメナに足元を凍らされて、その氷を踏んだ音で位置を割り出されていた。

 

 一度その手段は見ているのだ。

 同じミスは、しないはずだったのに。



 

 □





(――これはアンタのミスじゃない)


 キララだって、ただ氷を張れば、音で位置を探られることを恐れて処理されることくらいわかっていた。

 事前に張れば、警戒される。

 今から張ったとすれば、魔力の反応で位置が露見するかもしれない。

 ヒメナにその手を食らったのは自分だ、それを警戒されることくらい痛感している。


 だから警戒されないために、ひと手間加えた。


 仕掛けは先程キララが放った氷杭。

 容易くオウカの桜刃によって防がれ、粉々に砕け散って輝き、まるでオウカが立ち上がった瞬間を華々しく演出するためにあったかのような――一見、無意味にも思われる攻撃。

 

 だが、そうではない。


 氷杭は砕け散って溶けて、オウカの周囲に水溜りとなる。

 直接氷を張らずに、その水溜りを凍らせることで、オウカの足元へ氷を作り出した。


 直接氷を生み出すよりも、水を凍らせる方が魔力消費がずっと少なくて済む。

 魔力消費が少ないということは、それだけ相手にも魔力によって術式を行使したことが感知されにくいということだ。


 この一手間で、既にオウカが警戒している策を再び成功させるに至った。



 ――――オウカの位置は割り出した。



 向こうは未だに爆破によるダメージから復帰していないだろう。

 

 これで、終わりだ。


 勝利を確信して駆け出すキララ。





(――――アタシの、勝ちだ)






 □



 ――やられた。

 こちらの位置が割り出された。



 完全に詰んだ――――そうなっていたかもしれない、爆破によるダメージの復帰が、間に合っていなかったら。


 オウカにはもう、見えている。


 キララの動きは反響定位で確認できている。

 向こうはまだ、こちらが復帰したことに気づいていないはず。


 不用意に斬りかかってくるのなら、それで終わりだ。


 そして――――来た。


 斬りかかってくるキララ。


 対して、オウカは。




「――私の勝ちです」



 ――――《斬響一閃ヴィブラシオン》。


 キララが振り下ろした刀を、切って捨てた。


 魂装者アルムを一刀両断。

 これでキララはもう、魂装者アルムを使えない。


 もう逆転の方法は絶対にない。


 ――――勝った。





















 オウカが勝利を確信して、キララにトドメを刺そうとした瞬間。












「――――いいや、アタシの勝ちだよ」


 

 キララはそう呟いて、鞘に納められた魂装者・・・であるを引き抜いた。


 









 ――――なぜ、とオウカは思う。


 魂装者アルムは破壊した、はずなのに。


 霧が晴れていく――。


 オウカが斬ったのは、魂装者アルムではなく、キララが生み出した氷の剣だった。

 

 読んでいた。


 最後の最後まで。

 


 オウカはそれを理解して、静かに呟く。





「……なるほど。あなたの方が、一枚上手でしたね」


「……でも、アンタも本当に強かったよ」




 わかっていた。

 互いに互いの強さを理解していた。

 どこか似ている二人だ。だからこそ、相手がここまでやってくる、と策に策を重ね続けた。

 

 彼女も自分も、そう才能に恵まれた方ではない。

 それでも、諦めるつもりは少しもない。

 それが戦いを通して深く伝わってきたから。

 爛漫院オウカの価値を刃を通して知ったから。

 龍上キララにとって、この勝利は何よりも尊い。


 結局、勝敗を分けたのはなんだったのだろう。

 ジンヤへの想い? 

 魂装者アルムとの信頼?

 いいや、きっと勝ちたい気持ちに差なんてなかった。

 彼女と魂装者アルムの信頼だって、強固なものだった。

 次やったら負けるかもしれない。


 それでも、今日勝ったのは龍上キララで。


 次だって、負ける気なんて、一切ない。


  




 直後。




 

「――――――《業火一閃アウスブルフ》」





 キララの魂装者アルムが、オウカの意識を刈り取った。


 



 ――――二回戦第六試合 爛漫院オウカ対龍上キララ。





 

 勝者――――龍上キララ。









今回は勝敗の部分に言及する際はふせでおねがいします_(:3」∠)_

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