第16話 どれだけダサくたって
左腕の肘先から仮想欠損。
残された右手だけで、どうすれば勝利できるか。
活路は見えた。
相棒を握りしめた右手を突き出し、切っ先を強敵へ突きつける。
前方に魔法陣が出現、そこから桜色の嵐が吹き荒れる。
乱舞する桜刃が、巨獣の顎の如くキララへ迫る。
「――《蒼盾》」
対しキララ、前方へ氷の壁を出現させる。セイハやフユヒメには及ばないものの、Bランクであるキララの魔力を注ぎ込んだ盾だ。
ジンヤの《迅雷一閃》や、零堂ヒメナの拳でなければ、そう易易とは壊せない。
通常、その場に出現させて使い捨てるシールド――だがキララはこれに持ち手をつけ、巨大な盾としていた。
左手に持っていた刀を納刀、盾に持ち替えると同時、足元を爆破し前方へ。
盾が桜刃に削られるも、完全に削り取られるよりも、接近を果たす方がずっと早い。
先程と違ってダメージを負うことなく接近出来た。
近接にさえ持ち込めば、後はもうこちらのものだ。
先刻の再演、いいや左手を削っている分、先刻よりも遥かに容易に剣戟を有利に進めれるはずだ。
キララが自身の勝利が近いと感じた瞬間――
――オウカが、笑った。
「――――《斬響一閃》」
刹那――オウカが握る刀が閃き、キララの盾ごと、彼女の左腕を切って捨てた。
□
(――――は?)
キララの思考が、驚愕と疑問で埋め尽くされる。
――なにが、起きたの……?
――あり得ないっしょっ!?
――斬られた? 盾ごと?
――左手、動かない……。
――なんで? ランク的にあり得ない、そんな攻撃、どうして?
――こっちの防御はB、あっちの攻撃はC、盾を突破できるはずないのに……。
そこで、気づいた。
――――「ナメんなGランク! 腐ってもアタシはBランクなんだよ! アンタとは根本的な魔力の量が違うの! この壁は絶対だ! これを砕けるのも、これより上の防御力を持っているのも、うちの学園にはたった一人しかいない! 間違ってもアンタじゃどうにもできないんだよ!」
かつて自分は攻撃のランクがGの騎士に、同じことをされている。
オウカも同じことをしたのだ。
彼女は防御Bのキララの盾を突破できる技を持っていて――それをずっと隠し通していた。
□
これがオウカの切り札。
――《斬響一閃》。
リンネの持つ《音》の概念属性から、《振動》という概念を抽出、刀に纏わせることで可能となる技。
振動剣や高周波ブレードと言えばわかりやすいか。
高速振動による摩擦低減と摩擦熱により、切断力を格段に高めた一閃だ。
キララの盾がどれだけ高い硬度を誇ろうが、あれは氷だ。摩擦熱による溶断は、氷とは相性が良かった。
オウカのステータスは確かに《攻撃・C》となっている。だがそのステータスはこの技を会得する以前のもの。
この技は《攻撃・A》相当の威力を秘めている。
そして、公式戦やステータス更新のための能力測定の際にこの技を使いさえしなければ、ステータスには反映されないままなのだ。
ステータスを偽装することは規定違反だが、新たに技を習得したことを一々喧伝しなければいけないルールなど存在しない。
手の内を隠すのは、戦法としてはあまりにも当たり前のことだ。
射撃戦を得意とするオウカの最大威力の技が、近接技。
オウカはこの伏せ札を最大限の威力で発揮させるために、ずっとこの時を待っていた。
キララに『接近さえすれば勝てる』と思い込ませるために、一回戦から――いいや、それより遥か以前から、ずっと仕込んでいた。
選抜戦の時から射撃戦を中心に試合を組み立てていたのも、『オウカは射撃戦を得意としている』『逆に近接は苦手』だという印象を与えるため。
なにもこの策はキララのためだけに用意したのではない――だが、トーナメントの組み合わせを見た瞬間から、オウカはこの絵図を描いていた。
問題だったのは、普通に剣戟を仕掛けられれば、オウカがこの技を上手く当てることが難しいということ。
確実に勝負を決める使い方ができなければ、伏せ札としての効力が薄まる。
大前提として、キララに剣戟では勝てない。
ならばいくら切断力があったところで、必殺にはなり得ない。
どのタイミングでこれを使うか。
そこで思いついたのが、キララが高い防御力を誇る氷壁を張ったタイミング。
桜刃でも氷壁を削り取ることはできるが、多少時間がかかる。つまりキララは、氷壁がある程度はこちらへ有効だと考えるはず。
『近接が得意ではいない 近接において高威力の技を持っていない 氷壁が有効になる』――そういう思考の流れになるように仕向けた。
しかし、片腕を削られた時点で、オウカはキララに氷壁を使わせることができなくなったと思ってしまったのだ。
それが先程オウカが諦めかけた理由。
片手のままそれを打開する方法も思いつき、それが彼女の見出した逆転への活路だったのが、その策を使う前にキララが氷壁を使用してくれたのは好都合だった。
確かに一度目に接近を許した際とは異なり、無傷で接近を果たしたが――その代償はあまりにも高くついたはずだ。
(……癪ですけど、アナタの教えの通りですね)
□
「強くなる方法ー?」
オウカが黄閃学園に入ったばかりの頃だ。
実戦形式での訓練を行う授業の後。
オウカはマツリに『どうすれば強くなれるのか』と質問した。
幸い、マツリは自分に気づいた様子はない。気づかれるリスクがあるので、あまり話しかけるつもりはなかったが、これは仕方がなかった。
マツリは現役時代、剣祭でベスト8の成績を残している。アイドルとして活動しながら、だ。これはきっとオウカが誰よりも身をもって実感できることが、本当に凄まじい偉業だと思った。
オウカの復讐――マツリを超えて、その時に自分はマツリと違う、半端な所で投げ出すようなことはしないと突きつけてやるにあたって、まず確実にマツリの成績を超えたいとは思っていた。
だがそんな半端な気持ちで挑むのも性に合わない。やるからには優勝を狙う。
そのためにアドバイスをもらうには、物凄く癪だがマツリが適任だ。
なにせ彼女はBランクでありながら、あの龍上ミヅキに勝利したことすらあるのだから。
龍上ミヅキは中学時代から、並みの教師では敵わない実力を持っていた。
その彼に勝ってしまうのだから、マツリの実力はやはり凄まじい。
自分の正体――かつてマツリのライブに行っていたことに気づかれるリスクや、そもそも彼女などと口も利きたくないという苛立ちを抑え込んで、オウカはマツリに助言を求めた。
表向き、生徒が教師にそういったアドバイスを求めるのは何もおかしいことはない。
平静を装えば、何事もなく済むことだが――。
「うーん、そうだなー。爛漫院ちゃんは遠距離がいい感じだから、近距離で使える技を増やしてみるといいかも? 遠距離主体って言ってもどうしたって近づかれることはあると思うし、そうなった時、近接はできないと思わせて実は! とかってこともできるし……ってあれ? あれれ……? 爛漫院ちゃんすごい睨んでる……どうしたの?」
「い、いえ、別に……」
平静を装わなくては。
どうしても彼女を前にすると感情が制御できなくなる。
本心を隠して振る舞うことなど、得意中の得意であるはずなのに。
今すぐ掴みかかって叫び散らしたいことが山程ある。
「……爛漫院ちゃん、模擬戦の時もなんかすごい気迫だったけど……なんかわたしに恨みでもあったり……?」
「い、いえ……別に……」
ある。
恨みなら、死ぬ程ある。
この後、結局オウカは自分を抑えきれず、マツリとはかなり険悪な仲になっていくのだが――それはさておき、彼女もやはり教師。あの時の助言を受けてからやってきたことが、今まさに、最高のタイミングで結実した。
□
(出来ればこれを使う時はそのまま決着に持ち込みたかったんですけど……よく反応しましたね)
オウカとしてはトドメのつもりだったのだが、キララは直前で身を捩って腕一本で済ませた。
これでお互いに片手。
条件は対等――いいや、片手同士なら、膂力で劣るオウカが依然不利だろうか?
――それも否だ。
《斬響一閃》の恐ろしさは、これで終わった訳ではない。
□
ステータス上の優位なんてなんの意味もない。
わかっていたはずなのに。
刃堂ジンヤに思い知らされ、一回戦のオウカ対ルピアーネで改めて確認していたはずなのに。
それでも、やられた。
(……いいや、違う。こればっかりは相手が上手すぎた)
《蒼盾》を構えての爆破加速による接近――桜刃への応手としてだけ見るなら悪くはなかった。
だが、爆破加速は直線での動きは速いが、一度使ってしまえばその後の動きは読まれやすい。
今は終わったことを反省している場合ではない、これからどうするかだ。
左の肩口からの仮想欠損。
これがもし、手首から先程度で済んでいれば、一回戦の時のように強引に氷で固めて剣を持てたかもしれないが、そもそも左腕全体が動かないのではそれもできない。
二刀は失われた。
それでもまだ、負けてない。
右手のみで斬りかかるキララ。同じく右手のみでオウカが応じる。
斬り結んだ――――その刹那。
《……ぐッ、ああァァッ……!》
「……ユッキー!?」
異変。
魂装者であるユキカの叫びを聞いて、キララは即座に後退。
「……なに、なんで……ッ!?」
刀を見ると、刃が僅かに削られていた。
「ウッソでしょ……」
《斬響一閃》、などと《迅雷一閃》に合わせたネーミングだが、その恐ろしさは一撃の威力に留まらない。
高速振動する刃は、斬り結べば高密度魔力の塊である魂装者でさえ削ってしまう。
ほんの僅かではあるが、刃毀れを起こした刀。
それにより、ユキカ自身がダメージを受けた。
「ユッキー、平気……!?」
《馬鹿ララ……あたしのことなんか気にしなくていいよ。ララに比べたらこんなのノーダメだし》
「でも……っ!」
魂装者の破壊は容易に起きることではない。それ故に、騎士とは異なり、魂装者がダメージに慣れていないことがほとんどだ。
多少刃毀れしたところでまだ戦えるが、ユキカがどこまで持つのかはわからない。
(アタシが、弱いから……っ)
――そもそも相手があんな技を持っているのを見抜けていれば。
――あの技を使う前に倒せていれば。
――射撃戦の練習をもっとしていれば、遠距離で戦うという選択肢もあったのに。
弱いから、大切な親友を傷つけた。
キララの動揺を、オウカは見逃さなかった。
桜刃が迫る。
キララは火炎で対応するが――それは囮。
本命は足元。
魔法陣が出現しており、そこから樹鞭が伸びて、キララの腹部を痛打した。
「がぁッ……、はぁ……ッッ!」
体が吹き飛んで、リングへ叩きつけられる。
(……痛ぅ……、いったぁ……痛い、痛い……。強い、……強い……マジで強いな、爛漫院オウカ……ッ!)
立たなければ。
立たなければと、そう思っているのに。
打たれた腹部が痛む。桜刃に切り刻まれた細かな傷が、今になって痛む。激しい動きによって傷は開いて、キララの体は血まみれになっていた。
(あーあ……ホントに、マジで、アタシってとことんダサいな……)
情けなさで涙が出そうになる。
一回戦。
試合前に泣いた、試合中にも泣いて、あんな無様はもう嫌だと思ったのに、結局また繰り返しだ。
□
「――待て、ジンヤ」
倒れたキララを見て立ち上がったジンヤを、ヤクモが短く制した。
「でも、クモ姉……!」
応援に行こう、と思ったのだろう。理屈ではない。ただ考えるよりも早く、足が動いていたのだろう。
――だが。
「……ジンヤ。キララにも、プライドはある」
一回戦では、ヤクモもジンヤと一緒にキララへ声援を送った。
ヤクモだって今すぐにキララへ声をかけてやりたい。
しかし――果たしてキララは本当にそれを望むだろうか?
これから先、彼女は挫けそうになる度にジンヤの声を欲するだろうか?
ああ見えて――いいや、彼女はジンヤに出会った頃から、プライドの塊のような性格をしていた。
プライドが高すぎるからこそ、努力ができなかった。
その考えは捨てたとはいえ、彼女の性格まで全て変わった訳ではない。
一回戦で無様なところを見られて。
二回戦でも、またその繰り返し。
そしてまたジンヤに応援されてしまった時――彼女はどう思うだろうか。
そんな甘えを、彼女は自身に許すだろうか?
キララはジンヤに応援されたくて戦っている訳ではない。
無論、嬉しいに決まってはいるだろう――だが、彼女はジンヤと戦いたいのだ。
ライバルに応援などされてしまえば、それはもうライバルとは言えない。敵ではない。
頑張れと、そう言われなくては勝てないのだと思われている――そんな風に、下に見られている。そういう格付けが済んでしまう。
「……今は、あいつを信じてやってくれ」
誰よりも駆け出して彼女を激励したい気持ちを堪えて――ヤクモはそう言った。
□
《……ララ、自分が今すっごいダサいって思ってる?》
《……なに、ユッキー、どしたの。……そりゃ、当たり前じゃん》
騎士と魂装者の間で可能となる念話で、ユキカの言葉に応じるキララ。
同調率を高めて相手の心を読むまでもない。そんなことは手に取るようにわかるだろう。
《だとしたらさ――きっと、それでいいんだよ》
□
氷谷ユキカは、自分の人生をどうでもいいものだと思っていた。
そう思うようになったのには、きっかけがある。
彼女には弟がいた。
馬鹿で生意気で、よく喧嘩もしたが、それでも弟のことは大好きだった。
だが、家族で海外旅行に行った時のことだ。
現地で起きた騎士同士の戦闘に巻き込まれ、両親と自分は助かったが、弟はあれから行方不明だ。
死体は見つかっていない。
戦闘の痕は、酷いものだった。
助かっているという望みは薄い。
その時の経験から――ユキカは人生への興味が失せた。
どう生きたところで、それらは全て、ある時理不尽に、あっけなく奪われるかもしれない。
だとすれば、一体幸せになるために努力することに、なんの意味があるのだろうか。
どうせ、奪われるかもしれないのに。
奪われるくらいなら、最初から欲さなければいい。
別に、弟が死んだからといって自分を後追って自殺しようなどとは思わなかった。
正確には生死は不明だが、助かっている見込みはないだろうと考えている。
ただ、もうなにもかも、どうでもよくなってしまった。
だからそれから、ユキカはいい加減に生きてきた。
テキトーな友達、テキトーに勉強して、たまたま魂装者の才能があったので、テキトーに誰かのパートナーになって。
流されて、何も望まず、何も欲さず、何も考えずに生きていればいいと思っていた。
それなのに。
ユキカがキララのことを気に入っていたのは、キララもまたなるようになればいいといい加減で考えで生きていることを見抜いていたからだ。
――だが、キララは変わった。
最初は、少し嫌だった。
口ではどうでもいいと言いつつも、熱苦しくなったキララが憎かった。
どうせ、頑張ったって意味なんかないのに。
ユキカは自分の人生は、とうに終わったものだと思っていた。
――――しかし、本当にそうだろうか?
必死になって努力するキララを見て。
変わってしまったキララを見て。
憎いと同時に――こうも思った。
自分は、これでいいのだろうか。
弟が生きているにせよ死んでいるにせよ、今の自分に対してどう思うだろうか。
どちらにせよ、今の自分は、弟に顔向けできない。
自分のせいで姉が人生に対して投げやりになっていると知って、彼は喜ぶだろうか?
そんなはずはない。
そんなこと、簡単に気づけたはずなのに。
――――気づかせてくれたのは、キララだ。
だから。
□
《頑張ったら、惨めなのは当たり前。ダサいのは当たり前……ララは今まで、それが嫌で頑張るのもヤダったんでしょ? だったらさ……惨めだって思ったんなら、それだけ頑張ってたんじゃん》
《……ユッキー……》
一回戦でもそうだったが、いつになく熱を帯びた親友の言葉に、キララの胸も熱くなっていく。
《ダサくて上等じゃん、それが今のララじゃん……どうせ格好良くなんて無理だよ、圧倒的に勝つなんて無理。刃堂くんだって、ララのお兄さんだってそうじゃん……、アタシ達はあの輝竜ユウヒとかレヒト・ヴェルナーとかさ、ああいう人達とは違うよ》
刃堂ジンヤや龍上ミヅキでさえ、必死になって、何度も負けそうになって、それでも勝利を掴んでいるのだ。
龍上キララ如きが、泥にまみれずに勝てる訳がない。
《どれだけダサくたってそれでもって頑張れるララは、絶対にダサくない。そんなこと、誰にも言わせない》
《……うん、……うん、……そうだね……そうだったわ……》
少しやられたくらいで、何を弱気になっていたのだろう。
――――ああ、本当に、彼女にはどれだけ感謝してもしたりない。
《端末》のメッセージアプリ。
大量に並んだチャットの履歴。
そこには膨大な、とりとめない会話の残骸が並んでいた。
だが、大勢の友人――いいや、友人だった者達との会話は、ある時から止まっている。
あの日から――ジンヤとミヅキの戦い。あの日、キララは必死になってジンヤを応援した。
それから、『何熱くなってんの?』と周囲の友人達が離れていった。
当然だ。だって誰よりキララはそういった泥臭いことを嫌っていたのだから。そのキララの周りに集まった者は、キララが変わってしまえば、離れていくだろう。
会話の履歴は、時が止まったように、あの日から――キララが変わった日から、全てが止まっている。
でも、違う。
止まったのではない。
あの日から、キララの時は動き出したのだ。
(リナも、ユカも、アヤカも……みんな、アタシから離れていったのに、ユッキーだけは、そうじゃなかった……)
それはユキカがあらゆることがどうでもいいからこそ、キララに対して執着もなければ嫌悪もないだけだったからかもしれない。
でも、今は違う。
ユキカは誰よりキララを見てくれた親友で、パートナーで、今だって一番必要な言葉をくれる。
彼女があそこまで言ってくれた。
それなのに、いつまでも寝ている訳にはいかない。
キララが立ち上がった、その時だった。
「キララ――――――ッ、頑張れぇええええええええええ――――っっ!」
――声。
観客席に目をやると、そこには……。
「……リナ。ユカと、アヤカも……」
キララと同じく派手な風貌をした黄閃学園の女子生徒達が。
どうして彼女達がいるのかはわからない。
自惚れていいのなら、自分の頑張りを見て、応援しにきてくれたのかもしれない。
もしも、そうだとしたら……。
――「あれ、キララじゃね……?」
――「うわ、なにやってんのあいつ……」
――「叫んじゃって、暑苦しい、アホくっさー」
――「ジンジン……立ってよ! 立って、勝てよ! 刃堂迅也ッ! この私を、龍上キララをめちゃくちゃにして、全部変えちゃった……その責任を取ってよッッ!」
ミヅキに立ち向かうジンヤを見て、あの時叫んでしまった自分ように。
これまでどれだけ自分が、そういったことを――熱くなることを馬鹿にしてようが、それでも、恥知らずに自分もそうなってしまうことがある。
自分も、そうだった。
だから自分は、彼女達の気持ちがよくわかる。
今更手のひら返したって許さない――そんな狭量なこと、少しも思わない。
「……ねえ、ユッキー」
《なに?》
「――――この勝負、絶対負けらんない」
《当たり前じゃん》
キララもまた、残った右手で相棒を握りしめて、刀を構える。
同じく右手のみで刀を構えたオウカと視線がぶつかり合う。
一瞬の静寂――――。
そして、決着に至る、最後の攻防が始まった。




