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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第5章 ■■の■■■
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第07話 二回戦第五試合 ハンター・ストリンガーVS龍上ミヅキ




 二回戦第五試合、ハンター・ストリンガー対龍上ミヅキ。




 ――――「ワタシに勝てたら、めるくちゃんの正体・・を教えてあげマース! ただし……ワタシが勝ったら、アナタはワタシの彼氏になってもらいマス♡」



 対戦相手であるハンターは、ミヅキの好かないふざけた調子の女だ。しかし、彼女が持っている情報はミヅキにとって価値がある。

 彼女の戯言についてはどうでもいい。なぜならミヅキは、己が負けるなどとは微塵も思っていないからだ。

 勝利は確定事項。この戦いが終われば、謎に包まれているめるくの素性について何かがわかる。


「……みづき、きょうもかてる?」


 いつだって繰り返してきた言葉。


 ミヅキが、輝竜ユウヒとの戦いで敗北し、己を見失って、ただ誰かを叩き潰しては過去から逃げ続けていた時代から、めるくはずっとミヅキのことを見守っていた。信じ続けていた。


 めるくには、何もないから。

 出自がわからない。過去がわからない。己という存在のことがわからず不安になる夜だって何度もあった。けれどいつだって、一つだけはっきりしていることがある。


 蛇銀めるくは、龍上ミヅキに救われた――その事実だけで、少女は全てを少年に捧げられる。

 



「当たり前だ」




 少年に起きた変化。

 孤独だと、誰も己を理解などしてくれないと、そう思い込んでいた少年は、自身を誰よりも信じてくれている少女の存在に気づいた。

 ずっと道具扱いしてきた。

 それでいいと思っていた。


 だが――彼ら・・はそうではなかった。

 

 一人で戦っている訳ではないと、そのことに気づけたから。



「わかってんだろ、オレはこんなとこじゃ終わらねェ」


「……うん、めるくたちは、だれにもまけない」




 歓声を浴びながら悠然と、二人はリングの中央へ歩んでいく。





 □




「ハーイ、ミヅキクン。ついにこの日が来てくれて嬉しいデス。今日はミヅキクンがワタシのダーリンになってくれる記念日デスカラ♡」

「よまいごとを……」


 がるるっ……と吠えつつハンターを睨むめるく。

 銀髪銀眼の少女は鋭い視線を突きつけ、金髪碧眼の少女はそれを涼しげに受け流す。


「メルクチャンも心配しなくていいデスヨー? ワタシ、ファミリーは大事にしたい方デス、可愛いシスターが出来るのはとってもハッピーデスカラ!」

「……むう」


 無表情だっためるくが眉根を寄せて、ハンターへの視線をさらに険しいものにする。


「おっと、不満デス? ならドーターでショウカ?」

「???? みづき、どーたーって?」


 首を捻った後にこっそり小さな声でミヅキに聞いた。


 ミヅキは興味なさげに手首のストレッチをしつつ、「娘」とだけ答えを告げた。


「なぁぁぁめやがってぇぇ……」


 どこまでも馬鹿にされていることがよくわかった。

 めるくは自身のことをミヅキの妹だとも娘だとも思っていない。そもそも自分とミヅキの関係がなんなのかすらよくわかっていないが、それでも後から現れた女に好き勝手に言われることだけはどうにも気に入らなかった。


「――ぶっつぶしてやるっ」


 めるくはミヅキの口の悪さが移った口調で吐き捨て、横にいる少年へ手を伸ばす。

 伸ばされた小さな手を少年が掴み取り、武装化。

 長大な間合いを持つ野太刀へと変じ――ミヅキはその切っ先を相手へ突きつけ構えた。


「フフッ、ワタシだってミヅキクンへの想いは譲れませんカラ――望むところデス、叩き潰してあげマショウ!」


 直後――ハンターの武装に変化が起きる。彼女は両手に銀色のガントレットを装着していた。

 あれが彼女の魂装者アルムだと予測できるが――しかし、それだけではなかった。

 彼女の背後から、四本の腕が伸びる。

 追加された鋼腕、四本。シンプルではあるが、厄介だった。


 近接でのやり取りは、純粋な四肢と四肢の足し引きになる。いかに相手の四肢のいずれかを封じ、潰し、弾き、防御をこじ開け、攻撃を当てるか。その攻防において、もしも腕が一本でも多ければ、その優位は計り知れない。

 それが一気に四本。

 あの腕が全て正確に操れるというなら、近距離で戦うのはあまりにも危険だろう。


 ――――だが。


 『Listed the soul!!』の音声が響き渡り、開戦が告げられる。


 ――ミヅキにとって、相手を打撃の間合いに入れずに戦うことなど容易い。

 

相手が腕を伸ばしたリーチより、野太刀のリーチが遥かに勝る。

 懐にさえ入れなければ、腕など何本あろうが同じことだ。






 そして、それ以前に――











「――――《雷竜災牙ハイドラ・アドヴェルサ》」












 彼我の距離を一瞬で消し飛ばす高速の踏み込み、勢いそのままミヅキの中で最速の一刀が振り下ろされる。




 間合いの問題以前に、初撃で決着をつけてしまえばいい。

 水村ユウジとの戦いでは、先の戦いに備えて手の内を隠そうなどと考え、彼を侮って追い詰められた。

 あのような愚は二度と犯さない。

 相手の実力がわからないのなら、始めから全力で挑むのみ。




「――っ!? いきなりデスカ!?」




 直後、ミヅキの一閃は空を切る。

 ハンターが右手を掲げたかと思えば、彼女の体が宙へ浮いたのだ。

 

 宙へ浮くことが可能な能力――風か? 重力か?


 いいや、違うだろう。

 手を掲げる動作。

 そこから導ける答えは――


 再びミヅキは野太刀を振り抜いた。狙いは空中のハンター、そのさらに上。彼女が掲げている手の先だ。

 野太刀の中に仕込まれた連結部が伸び、蛇の如く刃が伸びていく。

 蛇腹剣――ミヅキの野太刀は通常時でも優れたリーチを持つが、近接武器でありながら中距離にも対応することが可能だ。

 

「ワオッ、もう見抜かれちゃいマスカ!?」


 ハンターの上昇が止まり、空中へ投げ出され落下していく。同時、素早く再び手を掲げると、落下が停止。

 まるで空から垂らされた糸によって吊られるかのように――いいや。


 ミヅキは落ちてきた何かを左手で掴んだ。


 吊られるかのような――ではない。

 真実彼女は、糸に吊られ空中へと逃れたのだ。


「糸、か……」


 蜘蛛の糸のように粘着性がある糸だった。

 鬱陶しく纏わりついてくる糸を、電撃を生じさせて消し飛ばす。


「アメイジング! あっさりバレちゃいましたネ。でも、それくらいノープロブレムデス」


 ハンターが掲げた右手、あの先から糸を出しているのだろう。空中には一見、糸を付着させるものなど何もないように見える。

 だが、確かに一つだけある。

 それは、観客の安全を確保するための防護障壁だ。普段は不可視ではあるが、指定された範囲を逸脱しようとすれば、障壁に阻まれる。

 

「それなりに面白ェが、タネが割れた時点で終わりだ」


 糸による移動。

 さながらヒーロー映画だ。

 だが、この場での戦いに向いているとは思えない。


「ここが摩天楼ならまだしも、障害物が少ねェリング上だ」


 次に糸を伸ばす場所の選択肢があまりに限られる。

 そうなれば、どう移動するかも容易く読めてしまうのだから。


あいつ・・・ならそこそこ手こずったかもしれねえが、オレには通じねえよ」

 

 そう、もしも彼ならば。

 遠距離攻撃に乏しい刃堂ジンヤなら、空中の相手への対処は手間取っただろう。

 それでも彼ならば、そんな相手を倒す方法を思いつくだろうが。

 ミヅキは頭を捻らずとも、ただ蛇腹剣のリーチを振るえばそれで終わりだ。


 □


「言われてんぞ」

「……まあ、事実ではあるよね」


 ハヤテの言葉に、ジンヤは苦々しい顔で答える。

 試合中の選手の声は、声量にもよるがマイクで拾える場合もある。ミヅキが漏らした言葉は、観客であるジンヤにも聞こえていた。


 空中に逃れる相手。

 遠距離攻撃と並んで、リーチが短いジンヤにとっての鬼門だ。

 

「実際どーすんだ?」

 

 ハヤテの問い。そうなるとはあまり思っていないが、ハンターがミヅキを倒して決勝に上がってくる可能性がない訳ではない。

 その場合、ジンヤはどう対処するのか。


「棒手裏剣か……それで威力が足りなかったら、アンナちゃんや黒宮さんみたいにリングをくり抜いて投げつけるかな。《肉体負荷超過フィジカル・オーバーロード》を使えば有効な攻撃は出来ると思うけど」

「なーる。……でもま、そう考えるとやっぱあの野郎の万能さはすげえな……」


 ハヤテとしても、一度勝ったとはいえやはり龍上ミヅキのことは高く評価している。

 二人が戦いの推移に注目する中、ミヅキが動いた。


 □


 ミヅキが伸ばした蛇腹剣の刃がハンターへ迫る。

 ――だが。


「甘いデスヨ?」


 刹那、ハンターは何もない空間へ手をかざして糸を伸ばし――、否。突然、ミヅキの周囲にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な岩柱がせり上がった。


「確かにここはニューヨークじゃありまセン。でも、だったらリングの方を作り変えちゃばいいだけデス」

「……ハッ、対策済みか」


 恐らくは騎士であるハンターの方が糸を出す能力、魂装者アルムが土属性なのだろう。

 これで状況は変わった。

 大量に出現した岩柱の間を、糸によって軽やかに飛び移っていくハンター。移動できる範囲が一気に広がる。これを捉えるのは至難の業だろう。


 障害物のないリング上では強みを発揮しづらい能力という点では、屍蝋アンナに近いか。

 彼女もまた、影ができないリングを抉り取って岩塊を生み出し、リングを作り変えていた。

 それよりもずっと手っ取り早い方法だ。

 かなり大規模な術式。

 ジンヤやユウジとは違う。最低でもBランクはあるはずだ。それなりに保有魔力量にも自信があるのだろう。

 

「さて、そろそろ攻めさせてもらいマスッ!」


 十メートルはある岩柱の上を飛び移りながら移動していくハンター。

 蛇腹剣を届かせることが出来るが、ここまで距離が開くと狙いの正確性が欠ける上に、伸ばした剣を手元へ戻すまでのタイムラグも大きくなる。

 その隙を狙われれば厄介だ。近接となればあの多腕がくる――そちらへの対処も思い浮かぶものの、より確実性があるのはやはり間合いに入れないことだ。


(さてどォするか……、思った以上に厄介だな)

 

 ミヅキが攻めあぐねる中、今度はハンターが攻める番だった。


「多腕のメリットが近接戦だけだと思ってるなら、それも甘いデスッ!」


 ハンターがミヅキへ手をかざした――それも、六つ同時に。

 六つの手からはそれぞれ魔法陣が浮かび上がる。

 

 ――手は人体において通常の神経と同様に《魔力神経》が集中する部位だ。


 魔力を扱う修練をする際、初歩的なものとして手に魔力を纏わせるというものがある。

 これは魔力神経が集中しているので、魔力を練りやすいということ。

 それに魔力を自身へ纏わせるという基本技術は、これが出来なければあらゆる魔力攻撃に対し丸裸も同然となってしまう以上、必須となるものだ。まず手を魔力で覆う訓練をし、そこから全身へ広げていく、というのが一番やり易い方法とされている。

 

 である以上、手というのは多くの術式の始点であり、射出点となる。


 ――その手が六つあれば?

 答えは簡単。通常よりも多くの攻撃を同時に放つことが出来る。


 あの追加された手には、擬似的な魔力神経が通してあるのだろう。そこも含めて、魂装者アルムとしての完成度は高いと言える。

 

 水村ユウジなら、射出点を増やさずとも同時展開数に物を言わせて同じことができるが――逆に言えば、ハンターはユウジ程の技量がないにも関わらず、手数を一気に増やすことができてしまうのだ。

 

 六つの射出点から、一気に鋭い岩の槍が放たれた。


 飛来する六つの岩槍がミヅキへ接近した瞬間――、全て雷撃によって粉々に砕け散った。


「……それは一回戦で見てマスよ?」


 さらに六つ同時――否、今度は前後で岩槍を重ねて、二連岩槍を六つ、計十二の攻撃を放ってきた。

 するとどうなるか。


「……チッ」


 堪らず舌打ちが漏れる。

 自動作動で領域内に侵入したモノを迎撃するこの術式は、一度作動した箇所には、次の作動まで僅かにラグがある。

 なので同地点に間断なく連続で攻撃を加えることで、この防御は突破することができるのだ。


 この程度、驚くべきことでもない。

 彼女の言葉通り、ユウジやレイガも初見で破っていた。一回戦でのユウジとの試合を見ている以上は簡単に対処できるだろう。


 厄介なのはやはり数。

 ――しかし。


「水村程じゃねェ」

 

 六本の手による六つの射出点。

 それでも、ユウジの方が同時に操作できる弾数は遥かに上だった。

 

 めるくの能力である金属操作を発動。

 刀を六つに分かれさせ、一閃で同時に全ての岩槍を斬り裂く。


 あっさりと攻撃を防がれた。

 だというのに――ハンターの口元には薄い笑みが。


「ワタシはクモ――チョットばかり狡猾かもしれないデスヨ?」

「……あァ?」


 攻撃を防がれた直後だというのに、少しも動揺を見せていない――どころかむしろ、狙い通りといった様子。

 

 なぜ? 何か来るのか? だとしたら何が?

 



 ――いいや。

 それは、既に成された・・・・・後だった・・・・




 ミヅキが形状を変化させた刀を手元へ伸ばした時だった。

 

 刀が思うように操作できない。

 六つに分かれた刀は、正しく一つの状態に戻らず、中途半端に分かれたままの状態だった。

 なぜか。原因は、刀に付着した粘度の高い蜘蛛糸のせいだった。蜘蛛糸が絡まり、刀の形状が戻るのを妨害している。


 ――いつ付けられたか?

 

「……飛ばしてきた岩に仕込んだか」

「気づくのが遅すぎましたネ」

「……チッ」


 あの岩槍は、刀ではなく雷撃で防ぐべきだった。今更気づいたところで後の祭りだ。


「そのネバネバの白いのがついたもので、同じことができマスカー?」


 再び岩槍の乱れ撃ち。元の形状に戻すこともできなければ、再び分離させることもまた糸による阻害で上手くいかない。


「……ッ、クソ……ッ!」


 吐き気がする程に、己の愚かさが憎い。が、苛立っている暇はない。

 ミヅキは刀から雷撃を放ってある一点の岩槍を破壊、強引に作った安全地帯へ駆け込む。

 ――しかし。

 その動きは全てハンターに読まれている。

 狡猾な狩人は、獲物をどう動かすか全て計算していた。


 先程のように同時に全てを破壊することはできない。一点を破壊し、そこへ逃げ込む――それがわかっていれば、さらにその地点へ追撃を仕掛けることは可能だ。


 ミヅキが踏み込んだ場所へ、巨大な岩塊が振り下ろされた。

 ハンターの手から伸びる糸により、外れた岩槍の軌道は捻じ曲げられ、ミヅキへ振り下ろされる槌となっていた。

 



「ぐッ……」

 

 回避も迎撃も間に合わない。

 たまらず不格好な刀で防御――それでも勢いを殺しきれず、後方へ弾き飛ばされ、床から伸びる岩柱に背中を叩きつけられる。


「か、はッ……!」


 痛烈なダメージ。

 苦痛以上に己の不甲斐なさで顔が歪む。

 未だこちらは一撃足りとも届いていないというのに、大きいのをもらってしまった。


「ヘイヘイ、どうしましたカー? もうワタシのダーリンになるって決めて楽になってしまいマスカ? 医務室で添い寝くらいはしてもいいデスヨー?」

「……んじゃ、ねえ……」

「……ハイ?」


「――――ナメてんじゃねェぞッ、クソったれがッ!」


 一閃――直後、林立する岩柱が同時に横へズレて、倒壊していく。

 ミヅキが真横に刀を振り抜いていた。


 凄まじい範囲と威力。これまで見せていた蛇腹剣のリーチよりも遥かに長く、その上威力も高い。

 突如ミヅキが見せた広範囲斬撃により、ハンターが足場にしていた岩柱も崩れ、彼女の体も落下していた。


 □


 ――なぜ。

 今度はハンターが疑問に思う番だった。

 刀の変形は糸の粘着により封じていたはずなのに。

 ――いや、先刻の岩槍を防ぐための雷撃。あれで糸を焼き切ったのだ。あれはただ目の前の岩槍を破壊するためだけでなく、刀から糸を除去する狙いもあったのか。


 しかし広範囲斬撃の方は完全に計算外。

 あんな技はこれまで見せていたなかった。

 だが、それも当然。確かにミヅキはユウジに追い詰められたが、それで全てを見せた訳ではない。

 彼にはまだ伏せている手札がいくつかある。


 驚かされた――しかし依然こちらが優位のはず、ダメージを与えているのはこちらだ。

 対して、あちらはまだ一撃も入れていない。

 岩柱が破壊される以上、一方的に攻撃し続けることが出来るという地形のアドバンテージは崩れた。

 

 ならば今度は岩柱の配置を工夫しよう。一度の斬撃で破壊しきれないよう、場所を散らせばいい。


「ワタシは負けない……なんとしてでも、ワタシは、勝たないといけないんデス……ワタシは、アナタを……ッ、」

「ごちゃごちゃうるせェよ」

「――――ッ!」

 

 岩柱を出現させている途中、ミヅキが一瞬で目の前へ詰めてきた。

 おかしい、速すぎる。彼はほとんどの項目がAランク、である以上はあらゆる要素が優れている。それにしてもこの速度は異常だ、これまでからの変化が急激すぎる。


(回避――、間に合わない……ここは防御デス……ッ)


 四本の腕を交差させ、振り下ろされる野太刀を防ぐことに集中する。


 そして。

 銀光閃く。ミヅキが野太刀を振り下ろした直後、一本の鋼腕が宙を舞っていた。


 □


「……ありえねえッ、魂装者アルムを斬り飛ばしたってのか!?」

 

 驚愕するハヤテ。

 魂装者アルムとは高密度魔力の塊だ、そう簡単に破壊できるものではない。


「今の一瞬で魔力が薄いところを見極めていたんだろうね……それにあの力、恐らくは……」

「まだなんか秘密があんのか?」

「うん……もし僕の推測が当たってるとするなら……」


 ジンヤは自身の脳裏に浮かぶ可能性に震えた。

 これが確かならば、龍上ミヅキは――

 

 □


「アンビリーバブル……ここまでやりマスカ……」


 ハンターは戦慄させられていた。

 ただ力で魂装者アルムを破壊するのならば、赫世アグニ程の魔力が必要だろう。

 今現在、ミヅキがその領域にいるかは不明だが、それでも大会内でもトップクラスのパワーを持っていることは間違いない。

 そして、アグニ程の力がなくとも、魔力が薄い場所を見極められるのだとすれば、やはり魂装者アルムの破壊は可能だ。

 あの一瞬でそれを見極め、そこへ正確に刃を通す。恐るべき洞察力、判断力、太刀筋のコントロールだ。

 

 距離を取らなければ。こうして腕を一本ずつ斬り飛ばされていけば、ハンターに勝ち目はなくなる。


 ――しかし。

 逃さない。

 

 ミヅキは既に次の一刀を振るわんと野太刀を構えている。


 

 横薙ぎに振るわれる一閃。


 ただ防御しても、腕を斬り飛ばされてしまう。

 ハンターは何重もの糸で覆った鋼腕を突き出す。弾力ある糸を重ねた防御で、衝撃を吸収。

 腕を斬り飛ばされることは防いだが――それでも。


 そのまま強引に振り抜かれる。

 腕を斬られるのを防いだところで、今の龍上ミヅキの膂力はどうにもならない。


 蹴飛ばされた小石のように、激烈な勢いで吹っ飛ばされ、床に叩きつけられる。

 

 こちらも大きい一撃をもらってしまった。

 これでダメージの面での優位すら消えた。

 絶体絶命。


 いいや、そもそもまず、ここで立ち上がることが出来るのか――。


 立ち上がらなければいけない、絶対に。


 ハンターは思い出していた。

 ――なぜ彼女が龍上ミヅキへ執着するのか。



 彼女には、ミヅキを倒さなければならない、譲れぬ理由があるのだから。




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