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迅雷の逆襲譚〈ヴァンジャンス〉  作者: らーゆ
第4章/下 ■■■■■■/■■■■■■
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 第28話 先史時代の叡智





『始めまして、雷轟ソウジさん。


 私の名前は、不知火アザミ。

 

 まず最初に伝えておきましょう――――赫世レンヤは、生きています』





 ◇


 少女の言葉は、ソウジにとって青天の霹靂であった。

 突然――あまりにも突然、ずっと求め続けていた情報がもたらされた。

 探し続けていた。

 赫世レンヤ。

 ソウジの宿敵にして親友。かつてソウジがいた世界ではいつも一緒だった。ずっと共に戦ってきた。何度も死線を共に潜った。

 彼と共に戦えば、誰にも負けないと――そう思っていたはずなのに。

 そんな考えは、あっさりと崩れ去った。

 

 ――アーダルベルト。

 突如、別世界から襲来した、あまりにも強大な力を持つ男。

 かつて世界を焼き尽くした赫世レンヤよりも、一度はそのレンヤを殺害した空噛トウガよりも、遥かに強いという、常識の埒外に存在する男。

 

 アーダルベルトは告げる。

 

 相対した男――この世界の英雄、《天秤を砕いた男》へ、宣戦を布告する。




オレは貴君の世界を滅ぼす者――だが、甘んじてそれを受け入れるようなことはないだろう? 

 さあ、抗え、剣を執れ。貴君は英雄なのだろう? であれば、滅びゆく世界を守る時にこそ、最高の輝きを放つはずだ。魅せるがいい、死力を尽くし、オレという滅びに立ち向かい、そして、至上の闘争を演じてくれ――――オレは願う、貴君が法則を凌駕する存在であることを』



 かくして幕を開ける、二人の男の闘争。

 やがてそれは、一つの世界と、一人の男の闘争へ。


 そして、一つの世界が、一人の男に敗れ去った。


 誰も彼には勝てなかった。


 最後までアーダルベルトへ抗い続けたのは、レンヤだ。

 滅びゆく世界の中で、レンヤは最後にソウジとシンラを別世界を送り込んで逃し、その後アーダルベルトとの戦いへ向かっていった。


 戦いの結末を、ソウジは知らない。

 

 それでも信じていた。

 彼は必ず生きているはずだと。


 それを心の支えに、今日まで生きてきた。

 

 そして今、求め続けていた答えを持った少女が現れた。




 ◇




 唐突に告げられた言葉によって、ソウジの頭の中は疑問で埋め尽くされた。


 なんなのだこの少女は?

 レンヤが生きている? 

 なぜそんなことを彼女が知っている?

 それならば、どうしてレンヤはずっと姿を現さないのだ?

 いつになれば、レンヤと再会できる?

 自分達の世界はどうなった?

 他の者達は無事なのか?

 

 そもそも――彼女は信用できるのか?


 彼女が何者にせよ、ある程度こちらの事情――そのかなり深い部分を知っている。


 なぜならば、『赫世レンヤ』の名と、彼と自分の関係を知っている者は、この世界においてはかなり限られるからだ。


「まずはこちらを見てください」


 赤髪の少女――アザミは不慣れな手つきで端末を操作し、ホロウィンドウを出現させる。

 映像が流れ始める。

 そこに映し出されていたのは――


『よう、ソウジ……久しぶりだな。

 ……あの時は悪かった。

 それに今も……ずっと連絡できなくてすまねえな。

 こっちにもいろいろ事情があってな。

 まだまだ話せないことも多いが……それでも、今話せる範囲で、お前に真実を伝えるよ』



 赫世レンヤだった。


 ――それだけで、涙が出た。




 ソウジがこちらの世界へ来たのは今から四年前。

 そう長い月日ではないように思えるがしかし、見知らぬ世界へ放り出され、それからずっと親友の安否もわからず、連絡する術もない中での四年だ。

 長かった。

 ずっと、こんな日が来るのを待っていた。


 親友からのビデオメッセージ。

 ビデオを見終えて、ソウジの抱いていた疑問の大半はひとまず解消された。

 だが、わからないことはある。




「……で、結局アンタはオレにどォいう用件だ?」




 ビデオの中で、レンヤは『彼女をよろしく頼む』と言っていた。

 だが、具体的な説明が抜け落ちている。

 それは彼女の口から直接説明してくれるらしいが――




「すみません……その前に飲み物を買ってもいいでしょうか?」


「…………ン? んんん……? あ、ああ……構わねえよ……??」


 突然の申し出に首を傾げるソウジ。

 落ち着いているように見えるが、やはり相応に幼いのだろうか?


「そういや嬢ちゃん、歳はいくつだ?」

「嬢ちゃん!? し、失礼ですよ!」

「……は? 失礼……? なんで……?」

「私は貴方よりも絶対に歳上です」

「……あン??」


 なにを言い出すのだろうか。

 どう見ても中学生程度にしか見えないのだが、からかわれているのか。

 確かに年齢より落ち着いて見えたが、かと思えば幼いような一面も見せ、今度はわけのわからないことを言い出す。

 この少女のことがわからなくなっていく。


「……じゃあいくつなんだ?」

「それは……言えませんが、絶対に貴方より上です、ソウジさんは?」

「23だが……」


 あの夏味わった地獄のような戦い、あれが17の時だ。

 それから二年後、19の時にこちらの世界へやって来た。

 そして、そこから四年。子供として扱われることはなくなり、気づけば弟子まで持っているようになっていた。


「ふふーん、なんだ、たった20やそこらじゃないですか」

「……ああ?」


 わけがわからない。どうして10やそこらにしか見えない少女にそんなことを言われなければならないのだろうか。


 ソウジが混乱するのも無理はないだろう。

 

 不知火アザミ――彼女の肉体の年齢は13歳。

 だが、彼女は100年以上の時を生きている。

 

 彼女が元いた世界でも、そんな存在は彼女以外あり得なかった。

 そしてこちらの世界に至っては、アザミの肉体が老いない原因である《異形化》も、《魔物》も存在していない。

 そうレンヤから話を聞いている以上、アザミは迂闊に自身の年齢を明かすつもりはなかった。

 

「…………………………あっ、」

「……今度はなんだ?」


 アザミが突然、『しまった』という表情で硬直した。

 

 年齢を明かせない以上は、己の見た目と年齢の乖離について説明ができない。

 それなのに現在のように、『説明はできないが貴方より歳上だ』などと言っては混乱させるだけだ。

 ここはおとなしく、見た目通り13歳程度の振る舞いをしておけば丸く収まったが――しかし、さすがにそれはアザミのプライドが許さない。

 これでも自分の世界では世界を守る最強の騎士《四星剣》として仲間からは敬われていたのだ。

 それなのにここでは子供扱いなど、あまりにも屈辱だった。


「え、えーと……その……ソウジさん……?」

「どうした」

「わ、私は…………、13歳、です……」

「は? さっきの話はなんだったんだ? からかってんのか?」

「え、ええ、すみません、13歳なので、からかいました……すみません……お茶目なところがあるのです、13歳なのですから……」


 アザミは悔しくて、恥ずかしくて、涙が出そうになった。

 どうして自分の五分の一程しか生きていない相手に対して、こんなことを言わなければならないのだろうか。

 アザミからしたら、ソウジなど子供も同然だ。

 だというのに、その相手に子供扱いされる。

 彼女の尊厳に対しあまりにも酷い仕打ちであった。


「……あー、まあいいや。んで? なんか飲み物がどうとか言ってたよな?」


「そうでした! ふふーん、じっはんきー、じっはんきー、自動販売機ーっ!」


「……は?」




 突然上機嫌になり、鼻歌まじりに自動販売機の元へ駆けていくアザミ。




「はわぁぁ……すごい、すごいよお兄ちゃん……《先史時代》の技術の叡智、自動販売機だよ……飲み物が、冷たい飲み物がたくさん入ってる……ねえアマネ、こんなの王都にもあればよかったのにね……うぅ、すてき……♡」




 彼女が元いた世界は、今現在よりもかなり文明レベルが異なっていた。

 具体的にいうと、剣と魔法のファンタジーの世界から、突然文明レベルが違う時代へやって来てしまったのだ。

 彼女が目にする、現代の技術によって成り立つものは全て、彼女の時代に置いて《先史時代》の物――つまり、伝説上のシロモノだったのだ。

 彼女が持っている端末も、自動販売機も、目に映るなにもかもが、彼女にとっては未知。

 


 うっとりしながら、小銭を入れ、愛おしそうなに指先でボタンを撫でる。

 がこん、と音がして缶ジュースが吐き出された。

 アザミは手にとった缶に入ったオレンジジュースを見つめる。



「《先史時代》の叡智に……乾杯っ」



 缶ジュースを掲げるアザミ。

 一人でなにやら勝手に舞い上がっている。

 ソウジは目の前の奇妙な少女のことが、ますますわからなくなった。


「…………嬢ちゃん、自販機マニアか?」

「まにあ? よくわかりませんが、自販機は良いものです」

「…………???」


 

 ソウジは首を傾げ、眉根を寄せて難しそうな顔になる。

 自販機のない外国からやってきたのだろうか。

 それとも山奥で育ったのか、可能性はいろいろあるが、触れないでおいたほうが良さそうだ。


「…………すみません、取り乱しました。それで、本題なのですが……」

「ああ……」


 やっとか、とソウジは少々呆れていた。




「ある人物に会いたいのです。……その方の名前は――」




 ソウジはその名を聞いて目を見開く。

 確かにその人物とアザミを引き合わせることが、ソウジにならできる。

 しかしどうして、彼女が――。

 

 いずれにせよ、これから大事な弟子の試合だ。

 彼女の要望を叶えるのは、試合が終わった後になりそうだった。




 ◇





『ついにこの時が来てしまいました。

 昨年行われた、第二十七回大会、その決勝……私達の前で壮絶な死闘を繰り広げた二人の男が、なんということでしょうッ――二回戦にして、早くも再び激突しますッッ! 

 ――ああ、これは不幸なことでしょうか? 彼らは二人とも優勝候補、それがこんなにも早く潰し合うなんて。

 ――それとも幸福なことでしょうか? こんなにも早く、彼らの再戦を見ることができるなんて。

 その答えはこの大会が終わるまではわからないかもしれません。

 しかし今ッッ! 

 わかることが一つだけありますッッ!!

 今から始まる試合を、私達は間違いなく、ずっと見たいと願っていたッッ!!


 二回戦第三試合、真紅園ゼキ対蒼天院セイハ!! 


 昨年の決勝――――その再演が、今ここにッッッ!!!』




 実況の桃瀬は、去年同じ席に座り、同じように選手達の激闘を目にしてきた。

 覚えている、昨年の決勝、あの熱い戦いを。

 だからこそ――これは褒められたことではないが、それでもこの試合には、熱がこもってしまう。

 全ての試合に平等に、全力で熱を込めるべきではあるが――それでも、この試合には、全力以上のものを向けてしまう。


『そして、ここまで解説は雷轟ソウジさんにお願いしていましたが、雷轟さんは真紅園選手の師であることを考慮して、公平を期すために……なんと、蒼天院選手の師である天導セイガさんにもお越し頂いてます!』

『よろしくお願いします。私はソウジに比べてこういった経験が少ないので、聞き苦しかったら申し訳ない』

『いえいえそんな! この国で最強の騎士が近くに座っているだけで、私も緊張してますので! 噛んでしまったら申し訳ないです!』

『……桃瀬さん、オレ相手じゃ緊張しねェの?』

『……ソウジ、いじわるを言うものではないよ?』


 セイガの言葉で、会場は小さな笑いと歓声に包まれる。

 

 天導セイガという大物の登場に、ただでさえ高まっていた会場のボルテージは天井知らずに上昇し続ける。


 

 そして――ついに、これから拳を交える、二人の男がリングへと上がっていく。



 黒を貴重とし、赤いラインが入った学ラン。ボタンは止めずに前を開け着崩している。

 燃え上がるような真紅の髪。獣のような、荒々しい赤い双眸。その視線の先には、宿敵と定めた男が。

 真紅園ゼキの瞳が――彼を、蒼天院セイハを捉えている。



 

 汚れなき純白の制服を完璧に、手本のように着込んで、悠然と立つ青髪の男。

 短く逆立つゼキとは対照的な、流麗に伸びた長めの髪。海の如き深い青色の瞳は、どこまでも冷たい視線を相対する男へ向けている。

 蒼天院セイハの瞳もまた――真紅園ゼキを捉えている。 



『ゼキィィ――ッッ、ぶっとばせ――ッッ!!』

『ぶちかませェ――ッ!』



『セイハ様――ッ!』

『二連覇、期待してます――ッ!!』



 両者へ向けられる歓声も一際大きい。ゼキの方は粗野な声が目立つが、それは彼の所属する炎赫館学園の校風上仕方がないだろう。

 セイハは男女から共に人気だった。一度は頂点に立った男だ。そして同時、彼はこの街を守り続けた《ガーディアンズ》の長。

 彼に救われた者が、一体どれだけいるだろうか。少なくとも、間違いなくこの街で最も多くの人間を救ったのが、蒼天院セイハという男だ。

 英雄――そんな存在を、この街から一人選ぶなら、それは間違いなくセイハだろう。


《ついにこの時が来たのですね……準備はよろしいですか、お兄様》

「当然。ずっとこの時を待ってたんだ……ブッ飛ばしてやろうぜ」

《まあ野蛮。……ですがええ、そうですね、ブッ飛ばして差し上げましょうッ!》


 普段は常に丁寧な調子で、ゼキの粗野な態度を嗜めるクレナも、珍しく高揚している。

 昨年の決勝。

 敗北した後――クレナは泣いた。普段の淑やかさなど全てかなぐり捨て、子供のように泣いた。

 

 ――クレナには秘めた想いがある。

 彼女は、兄を愛している。その想いが、どういった種類のものなのか。それすらもまだ自分では上手く説明ができないが、それでも兄をこの世界で最高の男だと確信している。

 その男を、勝たせることができなかった。そんな己の未熟が悔しくて、悔しくて、涙が止まらなくて。それから毎晩ずっと泣き続けて――誓った。

 次は勝つと。

 そして当然、ゼキもまた誓っている。


 ――最強。真紅園ゼキが望むのは、ただそれだけ。

 そのために、絶対に超えねばならない壁がある。

 この街の頂点。高く高く聳える巨大な壁――だが、そんなことは関係がない。

 なぜならゼキが目指すのは、この街の頂点などではないからだ。

 この世界で最強の男になる――ならば、こんなところで立ち止まる訳にはいかない。


「さあ、行こうか」

《ええ……何時もの通りに、対象を処理し、セイハ様の正義を成しましょう》

「ああ、何時もの通りに、な……」


 戒めるように、静かに呟く。

 セイハは自身の高揚を抑えつける。

 それは許されないことだ。

 彼はこの街を守る者。そして、正義を成す者。

 確かに真紅園ゼキとの再戦を楽しみだと想ってしまう気持ちはある。

 が、戦いとは楽しむものではなく忌むべきもの。

 どこまでも冷たく、機械的に処理していくものだ。

 夜天星刃ヤテンセイバを見習うべきかもしれない。彼はどこまでも正しい在り方を貫いていた。

 魂装者アルムであるツバキの、何時も通りの冷たい声に、改めて気が引き締まる。


 真紅園ゼキは強敵だ。

 真紅園ゼキとの戦いが楽しむだという気持ちは、確かにあった。




 だが――関係ない。ただ、正義のための勝利を。


 ――――この街には・・・・・蒼天院セイハがいる・・・・・・・・・


 全ての悪へ、そのことを思い知らせる。



 

 セイハという、最強を。

 セイハという、正義を。




 それがこの街の平和に繋がる。

 理不尽な悪により流れる全ての涙を凍てつかせる。

 絶対零度の正義――それを成すために、蒼天院セイハは、今日も冷たく機械的な勝利を積み重ねなければならない。




 始まる。

 どこまでも熱い信念で拳を握る男――どこまでも冷たい正義で拳を握る男、互いに絶対に譲れぬ想いを握りしめ、その拳を、ぶつけ合う戦いが。


 『Listed the soul!!』――開戦の声が響いた瞬間、二人は同時に駆け出した。


 互いに同時に拳を放ち――二人の拳と拳が激烈な勢いで衝突する。

 真紅のガントレットに覆われた右手。

 蒼銀のガントレットに覆われた右手。

 金属音が轟いた直後――吹き荒ぶ烈風、魔力の奔流が暴れ狂い、衝撃によってリングへ巨大な亀裂が走る。

 二人の激突した地点より放射状にリングが罅割れ、砕けていく。

 

 一撃。

 たった一撃で、会場にいる全ての人間が確信した。

 これから自分達は、途轍もない戦いの目撃者となることを。






「相変わらずいい拳してやがる」



「――貴様もな」




 リングを破壊した強烈な一撃とは対照的に、静かに言葉を交わして、二人は笑った。



 







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