第12話 二人の決意、二つの眼
金曜日の昼休み。今日は誰も集まることなく、別々で過ごしている。綾乃は食堂で、一人でパスタを食べている。
――あ、鎌野と健心だ。
食べ始めて少しした頃、二人がやって来ることに気づいた。綾乃はその二人に手を振った。
二人もそれに気づいたようで、こちらに向かってくる。
「どうしたんだよ綾乃。ボッチだから誰か来ないかなぁ、とでも思ってたのかい?」
と冗談を言う健心。綾乃は、
「――合ってるよ」
と返した。健心は何も言えなかった。綾乃は続けた。
「眼のことで相談したくてさ、ちょうど来てくれたから良かったぜ。それで、アタシに足りないものというのは――」
「無いな」
秀一の返答が、綾乃の言葉を遮った。二人は思わず、
「は?」
と言ってしまった。秀一は、目を赤く染めながら話を続ける。
「心眼を通して見る限り、お前は自分について悩んでいた。しかしその悩みは入学してからの三週間で解決した」
「ちょっと待てよ。解決したのに、何でアタシには眼が習得できないのさ?」
「思い出してみろ。眼の習得条件は、他人が自分の足りないものを見つけてあげることだ。お前の場合は既に自分で見つけ、自分で解決した。それでは意味がない。そしてそれは鎚本、お前も同じだ」
「ぼ、僕も!?」
唐突に言われ、驚きながらこう返す健心。秀一はそのまま続けた。
「そこでだ。もうひとつの方法を実行しようと思うんだが、どうだ? やってみないか?」
二人は暫く顔を見合わせた。その後揃って頷き、秀一の顔を見た。
「いいぜ、やってやるさ。なぁ綾乃」
健心がやる気を出した。
「おう。どうやるのか知らないけど、剣崎達に見せつけてやろうぜ!」
綾乃もそれに続いた。
「決まりだな。それじゃ午後11時に……」
5月1日火曜日。秀一は、健心と綾乃を除いた4人を呼んだ。4人とも、眠たそうな様子だ。
「何だよ秀一。こんな朝早くから」
と聞く翔陽。秀一はそれに対し、
「見てろ。面白いものを見せてやる」
と返答した。
グラウンド中央には健心と綾乃が向かい合っていた。健心の手にはキューブが。それを地面に置き、ステージを展開した。
ステージは草原。何もない平面のステージである。
試合開始のブザーが鳴り響いた。と同時に、健心は橙色の眼を、綾乃は水色の眼を発動させた。
「おい、杖って攻撃できたか?」
と聞く大輔。秀一は、
――いや気づくところそこかよ。
と突っ込みながらも、返答した。
「魔法の発動に特化した武器だから、普通はできない。だが、彼女の杖は違う」
「いくぜ、健心! そぉーれっと!」
綾乃が先に仕掛けた。青と赤の2色のラインが入った、真っ直ぐな杖。先端の赤い珠から魔法が放たれるのだが、綾乃の杖は、それに加えて他にはない機能があった。それは『ムチ』。伸縮自在で素早い攻撃が可能である。
「速ッ! どうなってんのかさっぱりわかんねぇ」
と目を回す翔陽。秀一はフッと笑い、
「そうだろ。これが彼女の武器の力だ。そして、それを活かすのが、あの眼だ」
綾乃の猛攻を、ハンマーで必死にガードする健心。
――クソッ速い! 隙が見当たらない!
そう思うのもやっとなほどの連続攻撃。反撃が出来ないでいた。
――見つけたよ! お前の隙!
綾乃がここで健心の足元を狙い、赤い玉を当てた。
「うぐっ!」
思わず声をあげた。そのまま綾乃は後ろへ下がった。
「えっ、今なにしたの!?」
と混乱する麗奈。秀一が答えた。
「弦葉、落ち着け。あれが杖光寺の『瞬間眼』。隙を見つけたら皆狙いたくなるもの。この眼は、その瞬間を誰よりも早く見つけることができる。ただし、相手がわざと隙を作っていても反応してしまう。仕組みがバレたら終わりってことだな」
「健心。お前も早く発動させてみろよ。皆待ってんだし」
とせかす綾乃。健心は何も言わない。
――今はその時じゃない。もう少し待つんだ。
大きな動きがないまま時間が過ぎていった。残り3分。健心が再びハンマーを構え、防御態勢をとった。
――ほう、そう来たか。んじゃ、あたしはこういくぜ!
この行動に対して、綾乃は再び連続攻撃を行おうとした。
その第一撃。健心はそれに合わせ、ハンマーを強く押し出した。綾乃は仰け反った。
その後素早く背後へ回り込み、ステージの西側へ綾乃を吹っ飛ばした。
綾乃の動きが止まったのを確認し、地面を思いっきり叩く。
その瞬間、綾乃の足元からマグマ柱が吹き出してきた。上へ跳ばされる。
「う、上手い! あやのんが吹き飛ばされた場所にマグマ柱を上げるなんて!」
今度は鈴菜が驚嘆する。
――あやのん……?
鈴菜以外の4人が少し引いている。秀一がゴホン、と咳払いをした後、解説した。
「あれが大地眼だ。地表の状態を見るだけで、マグマなどの位置を特定できる。自然を利用した眼だな」
「欠点はあるのか?」
と聞く大輔。
「これはそもそも対人用ではない。相手と戦う時にはあまり役に立たないんだ」
と秀一は答えた。
試合は12対0で健心が勝利した。
「どう? 僕達の眼は?」
と自慢げになる健心。だが翔陽は、
「それいつ習得したんだ?」
と聞いてきた。上手く答えられない健心と綾乃。そこを秀一がフォローした。
「俺が話そう。あれは金曜日の夜のことだ」