第11話 死角無き眼
大輔が頬を叩いてから、彼は迷いのない、透き通った目を向けるようになった。お互いに出方を伺う。
残り3分。大輔の残り体力48、健心の残り体力52。
現段階では健心が優勢だ。それでも健心は、迷いのなくなった大輔を警戒していた。
――この紫の眼はどんな能力を持っているんだ……ん? 大輔が頻りに目を動かしているのがすごく気になる。辺りを見回しているのか? 確かめてみよっと。
健心は巨大ハンマーを持ち直した。片面は平面、もう片面は鋭く尖っている。学校にあるハンマーにはなかった形だ。
「来いよ。来ないなら、僕からいくぞ!」
尖った面を向けて、ハンマーを横に振った。大輔はそれを掴み、地面に突き刺した。
「地面に突き刺さるのは嫌だっと!」
「だ」のタイミングで、突き刺さったハンマーを抜いた。その後大きく下がり、高くジャンプした。地面には白の魔法陣が。大輔は身構えた。
「いくぞ! ハンマー使いのレベル2の魔法、『マグマスプラッシュ』!!」
ハンマーの平面で魔法陣の中心を叩きつけた。内側から噴水のようにマグマ柱が吹き出してくる。大輔は少しずつ後ろへ下がっていく。
――後ろからマグマが来るのはさすがに分からないだろう。あの眼がどんな能力か知りたかったけど、勝ちに行かせてもらうよ!
翔陽たちはどんな結果になるのか固唾を飲んで見守る。健心は勝利を確信した。
ところが、ここで紫の眼がその効果を発揮した。
突然、大輔がバック宙をした。元いた所からは、マグマ柱が噴き出した。
――先読みしたのか!? いや、大輔は初見のはず……。
驚く健心。それは見ていた5人も同じだった。翔陽が確信のこもった言葉を発する。
「間違いない。あれは視界眼!」
「視界眼?」
秀一以外の三人が尋ねる。
「そう。その名の通り、視野を広げられる眼だ」
「でもそれって私の領域眼と同じってことよね。あまり意味がないんじゃ……」
「それだけだとな。でも唯一の違いは……」
翔陽はそう言った後、戦っている二人を見た。健心が『マグマスプラッシュ』を再び放っているところだ。一方大輔は、まるで出現する位置が分かっているかのように、ひらりひらりとかわしている。
「ああいうように、自身の背後も見ることができる」
「なるほどね。んで、あるんだろ? 弱点」
綾乃が、まるで分かっていたかのように聞く。
「もちろん。それは……」
「それは『体力消費が激しいこと』だ。眼は本来神が持つべきものだからな。俺達みたいに選ばれた人間が使っても体に大きな負担が生じる。特にこの視界眼はその負担が最も大きいんだ」
秀一が上手く被せてきた。翔陽は少し悔しそうにこう思った。
――コイツ、俺がしゃべろうとしたのに……。
残り1分。お互いに残り体力12。
「そろそろ終わらせないとな。喰らえ!」
健心はそう言うと、ハンマーを回し、投げ飛ばした。
それを避ける大輔。
ハンマーは後ろの滑り台に当たる。
――さぁ、終わりだ!
当たった場所からはホーミング弾が発生。大輔に向かって飛んできた。
大輔は気づいていない。
「なッ、アイツいつの間に! どうなるんだ!?」
綾乃が興奮したような状態で尋ねる。
「これは多分……ホーミングを上手く利用してくるな」
翔陽は未来眼を発動させながら答えた。
翔陽の言った通りだった。大輔は健心に勢いよく近づき、腹を殴って怯ませ、頃合いを見計らい、ホーミング弾が背中に当たる寸前で左に避けた。
ホーミング弾は健心に命中。防具が黒色に変色。視界眼を発動させた大輔の勝利だ。
結果は10対0。接戦と言ってもいいほど緊迫した戦いになった。一対一の試合でこれ以上激しいものは、今後存在することはないだろうと、翔陽は思った。そして、
「お疲れ。今午後5時10分だから、そろそろ寮に戻るぞ」
戦った二人に声をかけた。
午後5時30分までに寮に入らないと校則違反となり、成績に影響が出る。グラウンドから寮までは5分かかるため、丁度いい時間が5時10分なのだ。
「だってさ。僕達も行こう……って! 大丈夫か?!」
「健心、どうした?」
綾乃がそう尋ねる。
「大輔がうつ伏せに倒れたまま動かないんだ!」
「死んでるんじゃね?」
「縁起でもないことを言うなよ綾乃。まだ息はあるから、担いでいく!」
そういって健心は大輔を起こし、肩に担いでステージの消えたグラウンドを後にした。
道中、大輔は目を覚ました。
「う、ううん……」
「お、気がついた。ふと見たらピクリとも動かないんだもん。心配したよ」
「悪い。何かどっと力が抜けた感じがして。んで、俺凄いもの見たんだ」
「あぁ、視界眼だな。どんな感じだった?」
「戦っている最中に、皆が見えたんだ。くっきりとな」
「すげぇ。また翔陽たちに聞かせてやれよ」
そう喋りながら寮に向かった。
既に午後5時30分を越えていたが、翔陽が事務所に事情を説明してくれたおかげで、怒られることなく入ることができた。