第10話 異変と克服
「いくぞ。試合開始」
翔陽の合図で、試合が始まった。
直後、大輔は火炎弾を放った。健心は巨大ハンマーを横に振り、火炎弾を打ち返した。
「先手必勝。大輔の好きな四字熟語であり、流儀だそうだ。どう攻めるか楽しみだ」
翔陽が解説する。
「ねぇ。火炎弾って誰でも撃てるものなの? あの鮫島ってヤツも使ってたけど」
鈴菜の質問に、秀一がこう返した。
「あれはグローブ使いが最初に覚える魔法。魔法陣無しですぐに撃てるから、この学校では必須だそうだ」
「ふーん」
残り6分。お互い一歩も譲らず、健心残り58、大輔残り64。
大輔は、滑り台の陰に隠れている。
――健心の野郎、いつの間に上達しやがったんだ。とにかく、深呼吸してと。さ、そろそろ決着を着けないと……ってあれ? おい、何でだよ!?
「ねぇ、映像をずっと見てたんだけど、拳藤君の様子がおかしいよ!」
試合開始からずっと映像を見ていた麗奈が、突然叫んだ。
五人がカメラの映像を見ると、大輔がその場から動けなくなっていた。よく見ると、足が細かく震えている。
「ホントだ、何やってんのよあいつ」
鈴菜がこう呟く。
「拳藤の近くへ行ってみる。俺なら何か分かるかもしれない」
秀一は走り出した。と同時に、こんなことを考えていた。
――とはいったものの、心眼じゃ原因を解明できないのは明らかだ。
後ろを振り返り、
――誰も来てないな。やるか。
と決断した。
秀一は立ち止まり、目を閉じてこう言った。
「クロウ、いくぞ」
『目的は?』
途端に、ドスの利いた太い声が聞こえてきた。しかしその声は、秀一以外誰も聞いていない。秀一はその声に続けて、
「拳藤大輔が硬直した原因の、解明!!」
秀一は目をカッと見開いた。この瞬間、それまで赤く輝いていた秀一の目は、一瞬にして元の目の色と同じ、青紫に輝き始めた。大輔に関する、ありとあらゆる情報が秀一の眼に飛び込んでくる。
数十秒後、翔陽たちのもとへ走っていった。
「あ、帰ってきた。秀一。どうだった?」
自分達のもとへ走る秀一に、いち早く気づいた翔陽。早速尋ねる。
「お前ら、よく聞いてくれ。拳藤は過去にとんでもないことをしていた。それは……人を殺めたことだ」
「えっ!?」
驚きを隠せない四人。
「そう。それもちょっとしたことで、だ。そのトラウマをここでも引きずっている」
「いやいやいや、訳わかんねぇよ」
「そうよ。もっと詳しく聞かせなさいよ」
綾乃と鈴菜が問い詰めるも、秀一は、
「そんなことを話している時間はない。今は何とかして、そのトラウマを克服させなければならない」
と返した。
「そして、克服するきっかけを作ることができるのは、剣崎。小学校が同じだったお前だけだ」
「俺!? んなこと言われても、小6のときに大輔の出身地の仙台へ転校しただけだから……」
翔陽はしばらく考えた。
――彼にこの事を気づかせないようにするには、どんな声をかければ良いだろうか。そしてそこから導き出せる答えは……。
「……分かった。やってみるよ」
翔陽は決断した。
大輔の様子を伺う。まだ震えているようだ。
「大輔! どうした!」
大輔はこの声に気づき、こう返した。
「足が動かねぇんだ! 自分でも原因がわかんねぇよ!」
「それなら頬を思いっきり叩け!」
大輔は言われた通りに頬を叩いた。
辺りに響き渡る音。様子見をしていた健心も、これに気づいた。
「翔陽! すげぇよ、足が軽くなったよ!」
「だろ! 迷ったり怖くなったときはそうやって自分に喝を入れるんだ! いつでも明るいお前でいられるようにな!」
大輔は立ち上がった。何を思っているのか、翔陽には分からなかった。ただ言えるのは、大輔から恐怖心が無くなっていることだ。
やがて、健心の前に姿を現した。大輔の目は紫色に輝いていた。
これを見た翔陽。大輔をさらに勇気づけるように、こう声をかけた。
「さぁ、君の全力を見せてくれ!」