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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第10章〜頂点を求めし者達〜
144/146

第138話 第三試合~卯ノ木vs蓮聖~②

ここまでの戦局

 00:00……試合開始、両チームとも慎重に動き出す。

 01:12……卯ノ木の奇襲が成功。

味方を後方へ逃がした秀一は卯ノ木のアタッカー、冬我と航大を相手する。

 03:00……志乃が冬我達と合流。回転銃でけん制する。

秀一は最低限の防御を徹底し、後退。瓦礫に身をひそめる。

 それ以降は両者相対せず。


蓮聖  体力合計……881

卯ノ木 体力合計……931

 魔法を巧みに扱う者、それが魔術師。その言葉には、天界に住まう者「天使」と、魔界に潜む者「悪魔」も含まれる。そして青紫色の『闇魔法』は、その「悪魔」らが使用する魔法である。

 その特性は「魔法および生命力の無力化」。全ての生き物が持つ生きる力、つまり「生命力」に干渉し、それを喰らう、もしくは打ち消すことができる。通常の魔術師にとってその魔法は警戒すべき、忌避すべきものという認識にあり、過去の戦いでは、多くの魔術師が闇魔法に対応できず命を落とした。ゆえに現代では、習得することを危険とみなし、そのように教育しているが、あまり効果はない。むしろ、自立してからこっそりと習得に臨む魔術師は年々増えている。





――飛び出したはいいものの……またどこかに隠れたか。


 その闇魔法を偶然会得してしまった少年、鎌野秀一は、雨の降る街を歩いていた。

 開始からすでに5分が経過。奇襲攻撃によって卯ノ木高校にリードを許し、体力の合計でかなり差を広げられている状況。

 巻き返しを狙おうと一人作戦を練っていた。


――自分の魔法を使うのが一番手っ取り早いが、せっかく集めた魂を消費することになる。それにおそらくだが、仮にこの力を使ったとして対応できる人物が一人もいない。それは勝負じゃなくて蹂躙だ。誰も望まないだろう。


 それまで隠れるだけの存在だった魔術師が、公の場で自らの力を存分に発揮している。

 魔法の大半が紫色の「召喚魔法」のような補助系のため、普通の人相手にも問題なく使うことができる。人を必要以上に傷つけずに魔術師の存在を知らしめる、『戦闘』公式戦は、まさにうってつけの舞台だった。

 しかし、秀一の場合は話が変わる。生命力に干渉する闇魔法の特性上、不用意な発動はできない。必然的に、自分自身に制限をかけることになる。

 熟考の末、秀一は瓦礫と化した一軒の民家にたどり着いた。先ほどまで彼らがいた場所だ。


――よし。

「三摩、天井。ちょっといいか?」


 トランシーバーを取り出し、連絡を取る。しかし、二人から応答がない。

 彼らは秀一から、迎撃を担当するよう指示を受けている。まだ応戦中だろうか。

 秀一は待った。数秒後、


『……お待たせ。今()いたとこよ』


『しんどかったぁ』


 二人から応答があった。息切れも聞こえているが、目立ったダメージはなさそうだ。


「代わりの作戦を思いついたから、それを話そうと思う」


『花坂達にもつなげるか?』


「藍華には別件で動いてもらってる。那木にはそれの護衛に回っているが……一応つなげるか」


『全部聞こえてますよ~』


 秀一はしまったと思った。失念していた。

 トランシーバーはチーム内共有で、個別につなげることはできない。つまり、誰かが話している間、チームメイトはそれを聞くことができる。


「OK、なら話は早い。今から作戦を伝える」


 秀一は自らの言葉で考えを話す。

 これまでも念入りに準備を重ね、ミスを想定してのリカバーをも頭に入れていた秀一だが、彼自身今の状況と作戦内容に違和感を抱いていた。

 今までの自分ではないような感覚。それが彼の心を支配していた。


『……珍しいね。ほぼ賭けじゃん』


 少しの間続いた沈黙を破ったのは澄佳だった。


「俺も初めてだ、こんなことをするのは。だから成功確率は極めて低い」


『決まるかどうかは相手次第って感じですね。滝川先輩は……不意打ちでない限りちょっと』


 藍華はかつて秀一たちとともに、冬我率いるチームと戦ったことがある。当時実力は互角で、どちらが勝ってもおかしくないほどだといわれている。


「作戦は以上。異論があるなら聞くぞ」


『……僕は乗ります。一泡吹かせるチャンスなら盛大にしたいじゃないですか』


『あいにく成功確率が低いほど燃えるんだよな、俺も賛成だ』


『あ~男子どもの心に火をつけちゃった』


 初めての『戦闘』参加者とはいえ、学園内で開催された選抜にて、悪魔と渡り合った彼らだ。秀一は嬉しく思い、


「……作戦を始める。一撃で仕留めるぞ」


 その四人の可能性に賭けた。





 開始から7分。依然として風は吹き荒れ、雨は痛みを感じるほどに鋭く降っていた。

 東西をつなぐ橋の前に陣取る卯ノ木高校。前線に近距離武器をつかう航大と志乃、冬我が立ち、後ろに弓矢使いの恭介と(ロッド)使いの夏季が構える。


「どこ行ったんだ彼らは?」


「一応恭介に見張りを任せているけど、今のところ見つけられていないみたい」


 彼らのいる西側はすでに捜索が済まされており、安全であることが分かっている。


「このまま時間が過ぎるのを待つ……のは、あまりなぁ」


「峯岸、僕達は待って、迎え撃つだけでいいよ」


 冬我がハンマーを担ぎ、隣に立つ。


「鎌野君達は必ずやって来る。それを完膚なきまでに叩き潰すだけだ」


「……滝川、そこまで取り乱す理由って何?」


「……恨みとかじゃないよ。ただ抗いたいってだけ」


「抗う?」


「そう。あの時のチームって、ほとんど魔術師で構成されているようなものだった。鎌野君や花坂三姉妹、七神高校の剣崎君に至っては魔術師を統べる黒魔術師だときた」


 立てかけているハンマーの柄を強く握る冬我。


「魔術師は強くて当たり前。常日頃から、迫害の対処に追われているからね。戦闘慣れしすぎている。だから、たかが4か月の練習しかしてない僕らは勝てるわけがない」


「……あなたが、そこまで悲観的だとは思わなかったわ」


「悲観じゃないよ。むしろ羨ましいとさえ思うね。だからこそ抗いたくなるじゃない。普通の人間でも、対等に戦えるんだぜってとこを見せたいんだ」


『人影が見えた。敵がそろそろくる。話してる暇があるならさっさと準備しろ』


「了解。じゃやりますか」


 口の悪くなった恭介をいつものように軽くいなし、三人は武器を手に橋を見据える。




 一人、こちらに向かう姿を確認した。


「来たぞ。真正面から来てくれて助かっ……」


 おかしい。本当に一人しか見当たらない。

 左腕をせわしなく振りながら走る姿だけが、彼らの視界にはあった。

 おそらくそれは、細剣使いの那木脩人。ならば、あとの四人はどこへ行ったのか。

 思考したために、彼らは次の異変に気付かなかった。

 唐突に、三人は宙を舞った。


――地面から……!

「マズい!」


 そう叫ぶと同時に、航大は悠平に蹴飛ばされていた。

 恭介と夏季の監視をかいくぐってここまで来た。つまり相手チームは川底を掘ってきたことになる。

 コンクリートを掘るなんて普通じゃできないはず。

 しかし、それを悠長に考える時間はない。

 すぐに抵抗しなければここで待ってた意味がない。


「まだまだ!」


 すぐに復帰し、斬りかかる。

 弾丸が飛び交い、剣劇音が交差する。

 観客は求めていたものが現れた途端に歓声を上げた。





――時間だ。

「『アルワクト』……」


 だがそれも、終わりの時が近づく。

 右手首を中心に魔法陣を展開。青紫色に輝くそれは、まさに闇魔法のそれだ。


――頼む、最低限に治まってくれ……!

「『アルダイヤ』」


 タイミングを見計らい、指を鳴らす。

 そこからは一瞬だった。

 戦場までまっすぐ駆け抜けた秀一。

 『シールド』の間をすり抜けるように差し込まれる凶刃。

 志乃は訳も分からぬまま身体を引き裂かれた。

 流れるように航大のもとへ。

 左肩から心臓にかけて抉り取る。

 他の三人も同様に斬り伏せられた。それも、切り傷が心臓を必ず通るように。


 開始から10分足らずで、卯ノ木高等学校は全滅。蓮聖学園の勝利に終わった。

最終スコア

蓮聖  生存者:5人 体力総計:701

卯ノ木 生存者:0人 体力総計:0


蓮聖学園高等学校の勝利

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