表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平成の騎士団  作者: 青原 樹
第1章〜7人の隠された力〜
14/146

第8話 頭で描く弾道

 4月25日、水曜日。一組の教室に、


――やっぱりヤツが動く前に仕留めるべきね。そのためには素早く狙撃できる位置に着かなきゃいけない。でもヤツには眼がある。あれはもう恐怖でしかない……いやいやいや、何弱気になってるの! とにかく、いつ戦ってもいいように準備しなくちゃ。ゼッタイにヤツをギャフンと言わせてやるんだから!


 憎き相手を打ち負かす方法を考えている少女がいた。そこへ、


「何をしているんだ、銃礎(オマエ)は」


 その憎き相手、秀一が話しかけてきた。


「別に。考えごとをしてただけだし」


 そう強い口調で答えたが、


「そうか」


 と流された。しかも、


「てっきり、憎き相手である俺をどう打ち負かすのか、考えているのかと思った」


 ものの見事に当てられた。

 秀一は続ける。


「お前の克服すべき点は自信過剰なところだ。それと、今みたいに物事を深く考えてしまうことだ」


「どういう意味?」


「戦闘では、深く考えるほどの余裕はない。狙撃手(スナイパー)にとっては不要な部分でもある」


 鈴菜は半信半疑だった。


「そこで、良い案を思いついたのだが、これをやるには条件がある」


 秀一は少し間を置き、


「自分自身に一番影響を与えた人物と戦うこと。つまり、俺とやる、ということだ」


「はああ!? 何でアンタとやんなきゃいけない……いやちょっと待って」

――そうなると先週の恨みをここで晴らせるってことよね? 絶好の機会じゃない!

「いいわ、やってあげる」


――切り替えが早いな。

「ならば放課後、グラウンドで」





 授業中。鈴菜はまた考え事をしていた。


――全く、何を考えているのよアイツは。そんなことより、この機会を逃さないためにも、どうすれば良いか考えないと。さすがに前回のような手は使ってこない。ステージはランダムだし、これは賭けるしかないわね。あとはこの狙撃銃(ライフル)で頑張るしかな……。


「おい、銃礎! 聞いてるか!?」


「へっ!? あ、すいません」


 声を縮める鈴菜。秀一はこの様子を見て、何かを感じた。


 銃。拳銃(ハンドガン)機関銃(マシンガン)散弾銃(ショットガン)、そして狙撃銃(ライフル)の四つ。狙撃銃(ライフル)においては扱いが難しく、所持しているのは鈴菜だけである。

 また狙撃銃(ライフル)にはスコープが装備されており、覗くと見える十字の交点に向かって銃弾が発射される。望遠鏡の機能も搭載されているため銃自体が複雑になり、扱いが難しいのだ。




 放課後。防具をつけた二人は、運動場の真ん中で向かい合っていた。キューブは秀一が持っている。


「知ってるか? キューブで展開できるステージは、四桁の数字を入力すれば手動で設定できるんだ。今はどこもランダムに設定されているから誰も知らないけどな。4085っと。これでよし」


 キューブを置き、ステージを展開させた。


「え、まさかここって……!?」


 ステージは、なんと団地。鈴菜が秀一に負けたときのステージだった。


――どういうつもり? 何故わざわざこんなことを?


 と考える鈴菜。


一撃必殺(サドンデス)モードでいくぞ。いいな?」


 鈴菜は頷いた。


「じゃあ、始めようか」


 試合開始。鈴菜はまず、家と家の間に隠れ、様子を見た。

 秀一は一歩も動いてない。目を閉じているだけだ。それを見た鈴菜は、できるだけ彼に近づいた。


――近づくのも大変かなって思ってたけど、何もしてこないじゃない。こんなに近いなら外すこともないし、決めちゃうよ。


 銃を構え、スコープを覗いた時、鈴菜は、


――えっ、ちょどういうこと!?


 と混乱した。秀一がどこにもいないのである。鈴菜は音を立てずに近づいたため、気づかれていないはずだ。

 鈴菜は辺りを見回した。とそこに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「惜しかったな。もう少しで()れただろ」


「鎌野秀一! どこにいるのよ!?」


「さぁな。お前がこのステージのてっぺんに向かえばわかるだろ」


「ステージのてっぺんって……あそこ!?」


 あそことは、鈴菜が避けてきた青い屋根の家である。


「行くしかないわね。『スピードアップ』!」


 足元に魔法陣が現れ、そのまま走り出した。

 2分後。目的地についた鈴菜は銃を構え、スコープを覗いた。秀一の姿がない。


――出てきなさい、その心臓を撃ち抜いてやるわ!


 そう思った直後。


「お前、初陣戦といい午後の授業といい、俺を倒すことしか頭にねぇだろ。当初の目的を忘れるな」


 また秀一の声だ。どこかで見ているのではないかと鈴菜は考えた。


――何をたくらんでいるのアイツは!?


「そんなお前に1つアドバイスをしてやろう。狙撃銃(ライフル)にだけ集中しろ。後は何も考えるな」


 声はここで途絶えた。鈴菜はハッとして、少し考えた。


――危ない危ない、今のままじゃ勝てないってことを忘れてちゃダメ。すごくムカつくけど、頭を動かして、ここで決める!!


 その時、景色がすべて線で結ばれた立体的な等角図が見えるようになった。この状態なら、秀一の姿もすぐ見つけられそうだ。


――ヤツは……いた! 中心の橙色の屋根の家の裏ね! ってこの線は……! 銃口から出ているってことは弾道!? それなら……いけ!!


 弾は水平に飛んでいった。鈴菜はすかさず、


「『リフレクター』!」


 と唱えた。五枚の透明な板が背後に現れ、鈴菜はタイミングよく板を設置した。それに弾が当たり、反射して上へと向かった。さらに板を置き、水平になるよう反射させた。

 彼女が頭で考えた通りに、弾は動いてくれた。その度に鈴菜は嬉しくなった。

 五枚目。秀一のいる場所の真上に設置した。弾はそれに当たって急降下。速さを増して落ちた。

 轟音が響き渡った。


「ッし!」


 ガッツポーズを決め、落ちた場所にやって来た。


「どうよ、私の実力は!」


「いや凄いな。油断してたら、当たってたな」


――あれを避けたの!?


「さて、君は眼の発動に成功した。次元眼(イエローアイ)だ。見えるものがすべて等角図になり、全体をぐるりと見渡せるようになる。と同時に、頭に浮かんだものが視覚化されて見えるようになるんだ。お前は空間図形が得意なようだから便利になるだろ」


「なるほど。弾道が見えたのはこれが原因なのねって、何で私が空間図形得意ってわかったのよッ!」


「ただし、弱点がある。頭に浮かんだものがそのまま視覚化されるわけだから、余分な思考が混ざると解除される。さっき俺がアドバイスしたのは、これが起こるから注意しろってことだ」


――あの時のはこういうことだったのね。


「さて、そろそろ決着をつけたいところだが、寮に入らないと怒られるからここまでにしよう」


 と言うと、秀一は中断を宣言した。

 ステージがキューブに戻り、彼はそれを拾った。


「ほら、早く行け」


 秀一がキューブを返そうと校舎に向かおうとしたとき、


「待ちなさいよ」


 と呼び止められた。 秀一は振り反った。


「勘違いしないでよね。まだ負けたわけじゃないから。次は必ず倒すから待ってなさいよ!」


 鈴菜はそういって寮へ向かった。秀一はキューブを返し、その後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ