第133話 第二試合〜楓城vs佐納〜①
開始から10秒。ステージは一変した。あまりの変容ぶりに、競技場にいたすべての人がくぎ付けになった。
横一面にどっしりと構えていた校舎が音を立てて崩れたのである。残されたのは教室のみ。それ以外は全て瓦礫と化した。
「……すご」
「どや! これが杖の力よ!」
「こんなこともできるんだ……」
楓城のメンバーも口をぽかんと開けていた。
「具体的な策はこれから考えるとは聞いてましたが、ここまで大胆とは思いませんでしたよ」
「あら、ならリーダーならどーしてた?」
「……いや、きっと同じ事をしていたでしょうね。その方が効率が良い」
杖をくるくると回す響妃。きれいに回す様はさながらバトントワリングのようだ。
「じゃ、あとは予定どーりにっ」
そして白魔法『ディフェンスライズ』を自らにかける。
身を守ることで次の作戦につなげるのだ。
「行きましょう。作戦開始です」
「どうしよう。これじゃあ弓矢や銃の長所を全部奪われたようなもんじゃん」
一方佐納高校。作戦変更を余儀なくされていた。
「ええ。だからちょっと考えなきゃいけません」
リーダーの朱莉が通信機を耳に当て、コンタクトをとる。
味方との連携も厳しくなり、戦いにくくなったとはいえ、それは相手も同じこと。
朱莉は今できることを模索し続けた。
「他もなんとか生き延びてるみたいです。なら”あれ”でいきましょうか?」
通信機を切り、おもむろに立ち上がる。
「”あれ”?」
「はい。もうこれしかないかと」
朱莉が説明する。それを上級生の真由はうなずきながらきいていた。
そして互いに示し合わせたように笑い、行動を開始した。
外との境から様子を見る。今のところ外に出る人は味方を含めいない。
「少しずつ進みます。幸い移動用の魔法がありますし」
白魔法『バウンド』を発動。出現した白い板を配置し、隣の部屋へ跳び移る。
すでに残りの三人が到着していた。弓矢使いの二年生鍬守千里、拳銃を携える一年生、鉈崎柚子、そして散弾銃を武器に戦う三年生、鋤納晴菜。
「何とか襲撃されずに集まれたね」
「ね。ウチもひやひやしたよ~」
余裕があるのか、各々それまで起こったことを語る。
巨大な火炎弾によって皆少しばかりダメージを受けていたことが分かり、朱莉は全員に『ディフェンスライズ』を付与した。杖でなくとも魔法は使えるが、範囲は身体強化やシールドにとどまる。
「みんな、協力して欲しい。ここを拠点にするよ」
「ここを、拠点に?」
柚子が首をかしげる。
「そ。動いて倒すよりも、待ち構えて倒すの」
「まぁ、それが賢明かもねぇ。朱莉こういう時って慎重だもん」
「鋤納先輩それはやめてください。もう昔とは違うんですから」
晴菜と朱莉は中学のころからの付き合いである。互いのことは良くわかっているはずだ。
「オッケー。リーダーがそういうなら」
「ですね。全員でフルアタック! ロマンありますしねぇ〜」
千里は楽しさのあまりもう矢を持っている。
「よし。じゃあ続き、話すね」
「……魔法陣の気配。そこまで音しないから攻撃系ではなさそうね」
校舎一階西端の会議室。麗奈が反対側を眺めて言う。
「遠くまで見ることはできそうですの?」
「うーん、今日は調子が悪いみたい。領域眼は使えないかも」
領域眼。普段の視界をさらに広げ、遠くまで見ることができる神の力だ。5年前に発動し、幾度となく彼女の支えとなってきた。
しかし最近は、発動することは極めて少ない。何があったのかわからないまま、今日に至るのである。
「そろそろ攻めないと時間が無くなります。先程の火炎弾も大ダメージには至っていませんし、ここで仕掛けないと」
リーダーの武瑠は珍しく焦っていた。
「そーだね。じゃあ行こっか?」
「油断はしないようにしましょう。なんだか、嫌な予感がします……」
崩壊した校舎を改めて見る楓城学園。いくら仮想とはいえ、廊下が消し飛び、骨組みがむき出しになっている様は何とも言えないものがあった。
白魔法『バウンド』を駆使し、一部屋一部屋様子を見ていく。
「一階はいなさそうね。もしかしたら三階のどこかかも」
「高いところからの待ち伏せ、というわけですわね?」
「一応仕掛けて見よっか」
麗奈は弓を引き、三階中央の部屋に向かって放つ。
洗練された所作によってきれいな放物線を描くその矢には、
「『デトネーション』」
魔法による爆薬が仕込まれていた。
着弾と同時につんざくような破裂音。
「やばっ、もうバレた!?」
「行こう、反撃よ!」
東側の部屋から顔をだし、相手チームに向けて一斉放射。
「フルアタック!? 『シールド』!!」
レベル3、つまり強固な『シールド』を展開する武瑠。間一髪被弾を防いだ。
「打ち返せます?」
「何とかっ」
響妃と麗奈が矢をつがえ、迎え撃つ。
葵陽も火炎弾を用意。援護に入る。
撃ち合いの展開を見せる『戦闘』二戦目。次第に持久戦の様相を呈してきた。
「『シールド』がもたない! あと数分で壊れるよ!」
先にピンチに陥ったのは佐納高校。フルアタックのためにシールドのレベルを抑えたのが裏目に出たようだ。
「やっぱりきついかぁ。折笠先輩、何とか持ちこたえてください! ここで一掃します!」
朱莉が武器を取り出し、狙いを定める。
「『デトネーション』を付与、弾も威力重視で」
死角の影響で佐納高校の動きは見えにくい。絶好の機会だ。朱莉はこの一撃に全てをかけるつもりでいた。
「ねぇ、何あれ!?」
「……ラ、狙撃銃……?!」
はっきり見えたときにはもう、金色の弾丸が目の前に飛び込んでいた。