第132話 幕間
「いやー負けたわ。強いな翔陽は」
試合後、七神高校チームのもとにあいさつに来た大輔。
試合終了直後リタイアによってキューブに入れられた選手は解放され、それぞれがステージから出る。
大輔は、ステージが小さなキューブ状に収納された後にやってきたのである。
「……そうでもないさ。俺の作戦をうまく遂行した彼らのおかげでもあるから」
「謙遜すんなって。そういや中学でも似たようなこといってたっけ」
「行ってない気がする」
「そこはスッパリ言うんだな」
彼らに気付いたのか、ほかのメンバーも集結した。
「大ちゃんだ。やっほ-」
「美姫か。最後のヤツにはやられたよ」
「あの蹴りで火炎弾の炎が少し残ってたからね。遠慮なく使わせてもらったよ」
「完全に忘れてたよ、魔術師だってことも」
美姫はへへっと笑った。
彼女は「魔術師」と呼ばれる特別な才能を持った人間の一人で、四大元素を利用した魔法や、偵察に向いた魔法を得意としている。
「しばらくふせてたからね。うまかったでしょ?」
「マジで上手かった。その前にやられたけど」
自虐を交えつつ、涼馬も感心していた。
両チームとも魔術師の存在は知っており、互いに肯定的である。故に素直に認めあうことができた。
『第二試合を開始します、準備を始めてください』
「そろそろ席につかなきゃ」
「だな、じゃまた後で」
こうして両チームは別れを告げた。
「次は楓城学園高校と佐納高校か」
「これで勝ったチームが次の七神の相手なんだよね?」
次のチームがステージに入っていく様子を、スタジアムの席に座った観客が見つける。
楓城学園は北海道にある学園で、政治家や企業の幹部など、数多くの著名人を輩出したという実績がある。
一方広島に位置する佐納高等学校は、植物、家畜などを育てる農学校である。こちらも学会にて紹介されるほどの実績はある。
それぞれが配置につく時、第二試合が始まる。
――さぁて、どうしたもんかなぁ。
開始五分前。佐納高校のリーダー、二年生の廉谷朱莉は悩んでいた。
楓城は統制の取れたチームといわれており、しかもそのメンバーは全員が三年生、それぞれがトップレベルと聞く。対してこちらは遠距離専門で、決め手に欠ける印象が強い。いかにして相手を崩すことができるか、それが彼女らが勝利する鍵である。
しかし佐納高校は『戦闘』への参加が初。他校との比較が乏しい反面、相手に実力を知られていないというメリットがある。
「気にすることないじゃない。 作戦通りにやるだけよ」
弓矢使いの鍬守千里が励ます。彼女もまた二年生で、『戦闘』を始めて四か月の新人だ。
「そうそう」
こちらも弓使いの折笠真由。高校三年生だ。
「……だね。のびのびやろっか」
「……向こうの情報が一切ない。作戦が立てづらいですね」
同時刻。対する楓城学園のいリーダー、松方武瑠も悩んでいた。そう、相手チームの情報が一切ないのである。
「近距離武器のないチーム、私も見たことがありませんわ。これでは対策しようにも……」
山階紗玖良も考え込む。想定外の事態が苦手のようだ。
「はいはーい! 提案があります!!」
元気よく声を上げたのは、杖使いの朝香響妃。
「ウチが杖の魔法で近づかざるを得ない状況をつくるんです!」
「へえ、そんなことができるのか?」
梨本葵陽が感心する。響妃はつづけた。
「できますとも! んで、それが終わったら皆さんにお任せします!!」
「……ちなみに具体的には?」
「それは今考え中です!」
きっぱり言ったものの、他の四人は想定済みのようで、苦笑した。
「……じゃあ、基本は防御の魔法をかけてもらういつもの作戦で、そのうえでさっきの作戦を実行するってことでいいかな?」
伏宮麗奈がひとまずまとめた。彼女は比較的おとなしく優しい性格だが、自らの取り巻きを振り切るために形相を変えて本気で拒絶する、という大胆さも持ち合わせている。
「そうですね。それがいいですわ」
「時間です。参りましょう」
午前9時50分。第二試合が始まる。名門校の試合とあってか、観客もさらに増えていた。
ステージは「施設①」。ある学校の校舎である。これは一つの建物を舞台としたステージで、他と比べて面積が小さい。そのかわり三階建てや四階建てなど階層が多い傾向にあり、より高度な戦術が求められる。
今回の「施設①」は四階建てで、どこにでもあるごく普通の校舎である。
「死角多いなぁ……。遠距離の射程ほぼないかも」
「ホントだ。朱莉、どっかで張る?」
朱莉と真由がスタート位置を目指して散策する。
形成されたステージに入り、教室を一つ一つ見て回ることにした佐納高校は、遠距離武器の特性を生かしやすい場所をとった。
「廊下は一本道。リスクの方がちょっと大きいかなぁ」
「時間ないし、こっからかんがえよ」
真由の一言と同時に、ブザーが鳴り響く。
午前9時50分。第二試合がスタート。各々が慎重に相手を探しに動く。
はずだった。
西側から赤い何かが見えた。円形で、しかも大きい。
魔法陣、朱莉がそう思った瞬間、熱波が目の前に押し寄せた。
間一髪教室に飛び込み、大ダメージは防げた。
すぐさま戻ろうとしたが、続けてつんざくような轟音。
耳をふさぎ、頭を低くして、衝撃に備える。
「朱莉、見て!」
おさまったかと思えば、真由の声が聞こえた。
ゆっくりと目を開ける。そして、唖然とした。
さっきまであったはずの廊下が、吹き飛んでいた。