第129話 第一試合~七神vs久次来~②
ここまでの戦局
00:00……試合開始、両チームとも慎重に動き出す。
00:28……両チームのエースが激突。
まず大輔が翔陽の腹部に一発。作戦を中断し、逃げる翔陽。逃すまいと大輔が『火炎弾』を発動し、追い詰めていく。
01:14……『火炎弾』発射。だが将希の『リフレクター』により跳ね返され、回避した大輔は右足にダメージを負う。
七神 体力合計……946
久次来 体力合計……987
「同じグローブ使いなのに、ここまで差があるなんて……! つかリーダー、聞いてねぇぞこんなの」
「すまん、だがこっちの陣地にまで引きずり出せた。こっからだぜ」
しかし、爆発の衝撃で粉塵が舞う。二人はしばらくの間動くことができなかった。
視界が晴れた時には、相手チームの戦士はもうどこにもいなかった。
『リフレクト』を解除した将希。すぐさま翔陽のもとに詰め寄る。
「なあ、ホントにあれ魔法陣の力か? 明らかにブーストかかってんだろうが」
「……おそらく別の魔法との複合だろう。『デトネーション』あたりが妥当かも」
『デトネーション』とは白魔法の一種で、物体に対して爆発属性を加えるものである。付与した後その物体に何かしらの衝撃を受けた時に発動する。
「魔法に魔法を重ねるって……そんなことができるのか?」
「昔からできるらしいが、俺はやったことない。重ねがけが使用不可時間に影響するからな」
魔法は連続使用ができず、次に使えるようになるまで時間の経過を必要とする。これが使用不可時間である。レベルが上がるほど必要な時間は増える。
当然同時に使えばそれぞれに使用不可時間が発生する。仕留め損ねば一気に不利だ。
「『デトネーション』分を抜いて、火炎弾はたぶんレベル3。もうあれぐらいのは撃ってこないって考えると、ホッとするぜ」
「だな。先を急ぐぞ、拳藤を追い詰める」
「いってー。完全にはめられたなぁ」
足にダメージを負い、物陰に隠れる大輔。黒焦げになった足は、時間が経つにつれ元に戻っていく。
息を正しながら、耳に着けた通信機を起動する。
「悪ぃ。仕留め損ねた」
『無理に突っ込むことないじゃない! アンタねぇ、下手したら一発でやられてたのよ?!』
起動と同時にリーダーである紗耶香の怒声が頭の中で響く。しかめっ面を浮かべながら、
「自分の技だから想定内だっつの。むしろ足へのダメージだけで済んだことを褒めて欲しいくらいだ」
『はいはい、すごいすごい』
「棒読みも読めたなこりゃ」
自身の残り体力をちらりと見る。眼には187という数字。
「またおんなじ作戦を繰り返すかも。釣られないように注意しろ」
『『『『了解』』』』
通信機からは4人のチームメイトの声。先ほどの爆発が偶然にも相手の注意を引いたようで、自分以外誰もダメージを受けていなかった。
『先輩も注意してくださいよ。もしかしたら追われてるってことも……』
「慌てんな千亜希。わかってるから」
通信を切り、先へ進む。
戻れば二人に捕まる、攻撃専門の彼にとってそれは悪手だ。
危険を冒し進んでいく。
ここで人影を発見。大きな路地の真ん中で、低い姿勢を保っていた。
すぐさま小道に入り込み、様子をうかがう。
そして、その光景を理解した。
彼の視線の先には、先陣を切っていた涼馬の姿があった。
対するは、かつて大輔らとともに戦った魔術師、花坂美姫。
「まっくん、こうして戦うのは選抜試験以来だっけ?」
「そうだな、そんな呼び方されたのもそのときだっけ」
双方ともに七神中出身で、選抜試験決勝戦の序盤で戦っている。
「でもあのときとは違う。もう瞬殺されはしないよ」
「おっいいね。じゃあやろっか!」
瞬間、美姫が懐に入り込む。刀は鞘に収めたまま。
――またこれか?!
すかさず『火炎弾』を地面に放ち、美姫の動きを止める。
――結局人相手に殴ることはできないが、それでも勝つことはできる。今ここで示すんだ!
襲いかかる刃を避ける。
時にダメージを負う覚悟で受け止め、彼女と距離を取る。
試合であっても人を殴れない涼馬の唯一の武器が、素早く撃てる火炎弾だった。だから彼は使用不可時間が止まるまでの間受け流しに徹する。攻撃をさばき、カウンターを仕掛けることが、彼の戦い方である。
一方美姫はその華奢な身体からは想像もつかないほどの身のこなしで、涼馬の周囲を駆け回っていた。
刀を振るうスピードタイプ。それが自他ともに認める、彼女の戦い方だ。
互いに体力を削り合う互角の勝負。
だが致命傷には至っていない。
二人は一度距離を置き、息を整える。
「原石先輩!!」
その声を同時に、ズドンという音がわずかに聞こえる。
それを聞き、その場を離れる涼馬。
直後彼女の目の前に現れる黒い弾丸。
避けきれない、そう思い刀を真っ直ぐに振り下ろす。
スパッと切れた弾丸は、彼女の背後に着弾。
直後爆発したかと思えば、美姫は路地の反対側の壁に倒れていた。
「ナイス舞香! 助かったぜ!!」
一軒家の屋根の上、拳銃を下ろし手を振る少女。一年の堀江舞香である。
彼女もまた初めて『戦闘』に参加した一人である。拳銃など当然持ったこともなく、4ヶ月の間特訓を重ね、ようやく撃てるようになったばかりなのだ。
直後、別の壁が崩れ落ちた。その場にいた全員がそちらを向く。
瓦礫から見えるのは紫の手甲型グローブ。それだけで、全員が誰かを理解した。
「マジか剣崎、ここ乱戦みたいだぞ」
「花坂が防戦一方だ。援護しつつ戦う!」
開始から10分経過。ついに多人数が一堂に会した。